福島第1原発のトリチウム水、処分を議論 海洋放出軸に
東京電力福島第1原子力発電所の汚染水問題を検討する政府の有識者会議が13日開かれ、放射性物質トリチウムを含む水の処分に向けた本格的な議論が始まった。会合では事務局が国民からの意見を聞く公聴会を8月末に開くと表明。政府は処分方法として海洋放出が最も現実的とみるが、地元からは風評被害を懸念する声が強い。
公聴会は8月30日に福島県富岡町で、同31日に郡山市と東京で開く。これまで検討してきた海洋放出のほか、地層注入や水蒸気放出などの処分方法を説明し、トリチウム水の処分に理解を求める。処分を急ぐのは、敷地内にためるタンクが増え続け、近く敷地いっぱいになるとみられているためだ。
トリチウムは水素と似た性質を持ち、自然界にも存在する。国の基準で定められた1リットルあたり6万ベクレルの濃度に薄めれば海に流すことができる。日本を含む世界の原発や再処理工場で今も排出されている。例えばフランスの再処理施設では年間1京ベクレル以上のトリチウムを海洋に排出している。
トリチウムは弱い放射線を出すが、原子力規制委員会や科学者らは健康への影響を含め海洋放出に問題はないとの立場だ。有識者会議では13年から2年半を費やし、大気中に蒸発させたり地中に埋めたりするなどのトリチウム水の処理法を議論。技術やコスト面から海洋放出が最も合理的との趣旨の報告書をまとめた。だが風評被害を懸念する地元漁業者を中心に反発は強く、政府は結論を先送りしてきた。
会合では公聴会を開いて議論を加速させる姿勢を示したものの、政府関係者は「方針が固まるのは早くて年内」と明かす。10月には福島県知事選が予定される。知事選前に方針を決めれば、トリチウム水を処分するかどうかが争点になってしまうリスクがあるからだ。
当事者の東京電力ホールディングスは静観している。日立製作所から招いた川村隆会長は就任後にこの問題に言及し、福島県の漁協などから反発を招いた。「責任主体の東電がなぜ判断を国に委ねるのか」。5月末、原子力規制委員会に呼ばれた東電HDの小早川智明社長は規制委の更田豊志委員長などから何度も厳しく追及されたが、「国の判断を待つしかない」(東電幹部)との姿勢だ。
福島第1原発で出る汚染水は、トリチウム以外の放射性物質を取り除ける浄化設備で処理した後、敷地内のタンクにため続けている。処理水は事故後7年間で100万トンを超えた。2020年末には用地が限界に近づくとみられており、「年度内」(原子力規制委員会の更田委員長)に処分方法を決める必要があるとみられている。
敷地の制約から廃炉作業に影響が出るとの指摘もあり、会合では委員から「しっかりと廃炉を進めるためにも、処分の道筋を早く決めるべきだ」との意見も出た。