受験の相談などに乗っているとたまに「独学信者」のような人がいることに気付く。
俺自身が独学で大学受験を終えて、合格体験記にも「独学万歳!」というように書いたので、恐らくそういう人の相談を受けることが多いのだと思うけれど、当然ながら独学にはメリット、デメリットがあるし、向き不向きもある。
個人的には、独学は合う人には非常に合うスタイルで能率的だと思うけれど、合わない人にとってはただ徒に時間を浪費するだけの方法だと思っている。

まず、俺がなんで独学での受験を過去に選択したかについてだけれども、単純に予備校に行かせてもらえなかったからである。

小学校では学校の前の神社の墓地の前に作った秘密基地の近くで落とし穴堀りに精を出して勉強などはしたこともなく、中学校では自分の机に彫刻刀で作品を掘るのに夢中になっていて勉強はせず、高校ではモンスターハンターの世界での狩りに忙殺されていると、遂には留年が決まり退学を選んだわけで、そんな人間が「俺医学部目指して今から大学受験するわ!」と言い放ったところで親が信じるはずもない。
とりあえず家に入れてもらえはしたが(当時は家から出されて仕事をしながら一人暮らしをしていた)、こんな放蕩息子をウン百万円払って予備校に入れるのは金をどぶに捨てるようなものだと、当然ながら思われた。
こういう顛末で独学受験に至ったわけだが、思いのほか自分には独学というスタイルが向いていたらしい。

まず、独学に向いている人というのは、物事を暗記する時に視覚優位の人だと思う。
言うまでもないが、人の説明を聴いたほうがすんなり記憶できるという人にとっては独学は非効率的であると言わざるを得ない。
あと、読書好きであること。
これは非常に大切なポイントだと思うのだけれど、今までろくに本を読んだことがない、というような人は予備校の方がいい。
加えて、理解力、論理的思考力、つまりある程度論理が飛躍した二つの事柄でも自分の中で論理を完成させることのできる力があること。
特に最後の力は重要で、これは勉強を続けていくうちに伸びる力の一つだと思うのだが、勉強開始の時点でこの力がどの程度あるか、というのは合格までの期間と反比例すると思う。
というのも、予備校などの一番のメリットは「理解を助けてくれる」点にあると思うから。
簡単に言えば、予備校では人に自分がよくわからないところを丁寧に教えてもらえるのだから、理解力はあまり必要ない。
この予備校のメリットは同時にデメリットであって、ある意味で予備校では「考える」ことが減ってしまう。

理解力と言ったけれど、この力が受験開始時の俺には全然なくて、最初の頃は本当に悲惨だった。
「書いてあることのつながりがわからない」
例えば、Aという知識があるとして、このAという知識を踏まえればBという知識は導けるでしょ?と本に書いてあっても、この知識Aから知識Bまでの「わかるでしょ?」の部分がわからない。
もう全然わからない。
予備校などではA⇒Bのルートをしっかり説明してくれて難なくたどりつけるのかもしれないが、独学者から見るとAからBへのルートが全く見えない、というか大きな亀裂に遮られた二つの地点のように思える。
そんな中で、自分で試行錯誤して、もしかしたら?という仮説を立ててみて、なんとか二つの知識に橋渡しをしようとする。
こういったことを恐らく受験中に何百、何千と行ったけれど、非効率的、非生産的に思えてこれが独学の一番のメリットであったように今は思う。
大学に入って、医学を学んでいて思うことは専門家が書く本、講師のレジメの多くは間の知識をめちゃくちゃぶっとばしている、ということ。
医学以外でもそうなんだろうと思うけどお偉い人が書く文章というのはわかりにくい。
もはや知識自慢したいだけなんじゃないの?みたいな言葉に溢れてて、言い換えればすごく簡単な事柄をパズル作成者の如く難解に書く。
その上で「専門家として」当然の知識は省く。
これをまだ医学素人である学生が読むと当然大半が理解できない。
周りを見ていて思うのが、いわゆる授業を真面目に聴く人たちはこの溝を自力で埋めるのが苦手な人が多い。
独学でやってきた人たちはこういうのは十八番であるような気がする。
もちろん、これは独学かどうかに関わらず普段から物事をよく考える人はできることなので、考えざるを得なかった独学者にできる割合が多い気がする、というレベルの話。

後、メリットとしては合格した後に「なんかこの人頭よさそう」と思わせられること。
実際、独学と予備校には一長一短あって、独学の方が大変、とかそんなことはないだろうし、俺にとっては予備校に行く方が忍耐力がいって大変なことであるだろうから、どっちが凄いというものではないのだけれど、数が少ないからなのか、「なんか頭よさそう」と思わせることができる。
そう、こんなしょーもないメリットを挙げるしかないほど独学のメリットは少ない。