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(漆原)千さん 大丈夫ですか?(天晴)息 切れてますやん。
終戦から3年 千代ちゃんたち家庭劇は地方を回りながら細々と公演を続けておりました。
じきですよ もう。 見えてますやん もう。
(騒ぐ声)
(千之助)幸太郎…。
時には お芝居をやる場所とは思われへんとこで公演することもありました。
こないに寂しいもんだとは知らなんだ。
幸太郎…。
(一平の泣き声)
ああ?誰じゃ わしの代わりに泣いとんのは。木の後ろやな。 待たんかい。待て どこじゃ… 追い抜いとるわい。
(笑い声)
いや~ ええもん見してもらいました。よかった よかった。
あやこ~!
ばあさん。 龍之助が…。
♪「オレンジのクレヨンで描いた太陽だけじゃ」
♪「まだ何か足りない気がした」
♪「涙色したブルー こぼれて ひろがって」
♪「ほら いつも通りの空」
♪「これは夢じゃない(夢みたい)」
♪「傷つけば痛い(嘘じゃない)」
♪「どんな今日も愛したいのにな」
♪「笑顔をあきらめたくないよ」
♪「転んでも ただでは起きない」
♪「そう 強くなれる」
♪「かさぶたが消えたなら」
♪「聞いてくれるといいな」
♪「泣き笑いのエピソードを」
♪~
(千代)あとちょっとだすで。
(一平)やられた!
五厘屋に 金も芝居道具も全部 持ち逃げされた。
(一同)え~!どないすんねんな!
五厘屋いうのは 今で言う仲介屋芸能ブローカーみたいなもんです。
インチキくさいのも ぎょうさんおってお金をだまし取られることもようあったとか。
(香里)無理やわ。2日も食べてへんのやで。
俺だけが悪いんか?芝居どうすんねん あほ。
何で俺だけ…。いたたたたたっ!
うわ~! 何してんねん お前!
前にやりましたやろ 「狸の嫁入り」だす。
あれはウケんわ あほ。大事おまへん。 絶対 面白おます!
いや ウケん!千さん やるしかない! やりまひょ!
(香里)あんた ちょっと…。
あんたのせいやろ。(徳利)いけ いけ いけ!
よっしゃ ほな 行きまっせ!
よっしゃ! さあ 行こう!さあ 行きましょう 千さん!
行きますよ。 はいはい。行きましょう!
こないにウケへんことあるか。すんまへんだした。
何や お前もポンポコせんと はけたやろ。
気付いたら わし一人やないか。
最後やろ ポンポコって。
それぐらいやれ あほ。
…と まあ こんな具合に千代ちゃんたちは ドサ回りをそれなりに楽しんでおりました。
これの どこが楽しんでんねんな!
ひゃ~!
香里。おなかすいて 目ぇかすんできた…。
もうすぐお迎えが来るわ きっと。
ハッ… こら また熊田さんに よう似たお迎えやこと…。
熊田や。ええっ!
ほんまに熊田さんや。えっ 何で こないなとこに?
あんたらを捜してましたんや。
「みんな 直ちに道頓堀へ戻ってこい」と大山社長のお言葉!大山社長のお言葉でしょ。
せや。
というわけで 千代ちゃんたちは道頓堀に帰ってきました。
空襲 そして終戦。
あの時から3年という年月が流れました。
(徳利)たった3年でよう こないな劇場を…。
(漆原)さすが大山さんやな。
(鶴蔵)ああ 皆 元気そうで何よりやな。
そちらさんは えらい老け込みはってよ。ぼちぼち引退した方がええんとちゃうか。
まあ まあ まあそない つれのうせんといてくれ。
おい。
この3年 道頓堀を芝居の街として復興させるべく大山社長指揮のもとやっと この新えびす座も完成してまた昔みたいに大勢のお客さんを呼び戻す絶好の機会を迎えました。そこで これからの時代を担う新しい劇団を発足させます。その名も…鶴亀新喜劇。
我々は この新しい劇団にあんたらを迎え入れたい思てる。
座長は 2代目 天海天海 お前や。
(熊田)悪い話やあれへんやろ。
また鶴亀に入れてもらえるいうことですか?
(熊田)そうや。(香里)お給料も出してもらえんの?
(熊田)もちろんや。 社長はあんたらのことちゃんと考えてくれてはんのやで。
感謝しいや。それは虫がよすぎますわ。
どないな事情やったにせよ俺らを一方的に切り捨てたのは大山社長 あんたや。
それが今度は 新しい劇団に入れやて?
そないキセルのたばこみたいに入れたり ほかされたりしたらかないませんわ。(熊田)おい 一平!
ん~。ああ~ 半年ぶりや。 しみるなあ。
お出汁が ええあんばいやわ。もう来る度に おいしなってんのと違う?
(宗助)そやろ。 やっと ええお昆布が手に入るようになってきたさかいな。
(みつえ)何言うてんの。お父ちゃん 何もしてへんやんか。
(シズ)旦さん 油売ってんとうどん売っとくなはれ。
こちらさんに お酒。(宗助)はいはい。 また怒られてしもた。
一福 きつね 2つ追加や。(一福)はい!
返事だけは ええな。
ここは 元岡安のあった場所でシズさんと みつえちゃんが始めた岡福いう うどん屋さんです。
岡安の「岡」に福富の「福」で 岡福。
ええ名前やな。
♪~
(漆原)いや しかし大山社長も相変わらずやな。
あの偉そうな物言い 腹立つわ。
けど お給料貰えんねんで。おっきい舞台で芝居できんねんで。悩むことあれへんやないの。
どこよりも大勢の客呼んで道頓堀一 いや日本一の劇団にしてもらわなやる意味などあらへん。一平 お前の夢もそうやったんちゃうんか。もういっぺんあのころの道頓堀を取り戻す。
ほんで 次の時代につなげなあかんのんや。
うちは この道頓堀が もっぺんあのころみたいに戻れんねやったらちょっことでも その力になりたい。
ここで また芝居でけんねやったら鶴亀に利用されようが大山社長に腹立とうが構へん。
(みつえ)はい 親子丼 お待っとおさん。お待っとおさん。
(徳利)えっ 頼んでへんで。
お出汁と卵の分量 いろいろ変えてこしらえてんのやけどいまひとつ決まれへんさかい試食して意見聞かしてもらお思てな。
(徳利)ええんかいな オホホホ。
みつえも頑張ってますな。
せやろ。今は 安うて おいしゅうておなかいっぱいになるもん こしらえな商売になれへんさかいな。
千之助さんは?お年寄りの意見も聞きたかってんけど。
あ~ 多分 万太郎さんとこやな。
(香里)またケンカ吹っかけに行きはったんやわ きっと。
(笑い声)
(千兵衛)誰や あんた。
われこそ誰じゃ おお?
(一二九)千之助さん いつ道頓堀に?
おう 久しぶりやないか。
参ったわい。 大山のじじいに新しい劇団作るさかいにどないしても戻ってきてほしいて泣いて頼まれてのう。
やっぱし 鶴亀にとって必要なんはわしらっちゅうこっちゃのう。
大山のじじいもわしらが おらんようなってやっと気付きよったわい。
何とか言うてみい。
悔しゅうて悔しゅうて 声も出えへんか?
千さん。 万太郎さんは…。
(千之助)何 笑てんじゃ。
何してんじゃ それ。
(千之助)何じゃ。
邪魔くさいのう 何じゃ。
ああ。
まる… 輪か 「わ」や。
(でんでん太鼓の音)
4… 「し」。
(でんでん太鼓の音)
わ… 「わしは」や。(でんでん太鼓の音)
(千之助)何や それ。 竹の子か。赤ん坊 赤ちゃん…。
子… 「こ」。
(でんでん太鼓の音)
何や けったいやな。ん?
いや 大山社長は 新しい劇団作んのに何で万太郎一座やのうてわてらのこと呼びはったんやろ。どない考えても最初に声かけんのは万太郎一座やろ。
それは…何でだすやろ。何やねんな。
あんたら 何も聞いてはれしまへんのか?
「わ」。
7 「な」。(でんでん太鼓の音)
「い」。(でんでん太鼓の音)
わ し は こ え が も う で…。
「わしは 声が もう出ない」か。
♪~
じゃかましわ おら!
邪魔くさいのう。 ほんなもん口で言え。
…って言われへんか 声出えへんかったら。ハハハッ。 しょうもない嘘言うな ボケ。
(万歳)嘘やあれへん。万太郎さんは ほんまに…。
(すすり泣き)
もうええ言うてんねん コラ!
しゃべってみいや ああ?しゃべってみいて!
喉のガンやそうや。
もう芝居続けはんのは 無理やろな。
♪~