東京都立の有名進学校に通っていた元生徒(17)が、設置者の東京都を相手に裁判を起こした。発端となったのは、校内で財布を一つ持ち去ったことだ。訴状では「違法な自主退学勧告を受けるとともに、自主欠席を強要され(中略)学習権を侵害された」としている。4月20日の第1回口頭弁論を前に、30万円の損害賠償を求めるに至った経緯や提訴への思いを聞いた。(ジャーナリスト・富岡悠希)
●「東大合格者二桁」有名進学校に通っていた元生徒の島田光一君(仮名)が通っていたのは、東京都立の有名進学校だ。現役、既卒合わせて東大の合格者を二桁に乗せている。卒業生には各界で活躍する著名人も多い。
島田君は「自由な校風」にあこがれて、2019年4月に入学。1年時はクラス担任の男性教諭との相性も良く、しっかりコミュニケーションが取れていた。彼が担当していた生物のほか、数学の授業もわかりやすかったという。
また、運動部系の部活に所属。上下関係もさほど厳しくなく、中学のときにはかなわなかった試合への出場も果たせた。部活仲間を中心に、気の許せる友人も複数できた。
しかし、ある出来事をきっかけに、すべての歯車が狂ってしまった。
●財布を持ち帰ってしまった訴状や島田君、40代の母親が説明する、一連の出来事は以下のようだ。
昨年8月下旬の夏休み明け、島田君は校内を掃除していた。そのとき、1つの財布を見つけた。
持ち主に渡してあげるべきところだが、持ち去ってしまった。この月、ふざけて机の引き出しに隠していた友人の財布も、ほかの荷物と一緒に持ち帰ってしまった。
整理ができていない自宅の机の引き出しに2つの財布を入れたが、ほどなく、その存在を忘れた。
「なぜ、こんな悪いことをしてしまったのか・・・・。明確な理由はわかりません。財布の持ち主には申し訳ない気持ちでいっぱいです」
島田君は筆者にこう語り、肩を落とした。
●母親が財布に気づいた事態は9月に動いた。
9月6日、部屋の掃除をしていた母親が、2つの財布に気づいた。島田君から話を聞いた後、母親は翌7日にクラス担任に電話した。
担任は「学校が介在すると大ごとになるから、自分たちで解決したほうがいい」と助言した。それに対して、母親は「持ち主の連絡先がわからないこともあり、介入してほしい」と返事をした。
その後、島田くんが校内で見つけて持ち帰った財布は、学校に遺失物届が出ていたことが判明し、学校が全面的に関与することになった。逆に、机の引き出しに隠していて持ち帰った財布は届け出がなかったことから、不問にされた。
9月9日から複数回、島田君は生徒指導部の教師らから聞き取り調査を受けた。また、この日から授業に出られなくなった。
事情聴取の最中、教師たちは「やり直せる」「再スタートしよう」と励ましの声をくれた。そのため島田君は「処分は受けるがしっかり反省して、高校に通い続けよう」と考えていた。
●校長から「学校に置いておけない」と言い渡されたしかし、学校トップの校長は違っていた。
島田君の父母は9月14日、校長室に呼ばれて、校長から「これは万引きと違い学校の信頼を損なう行為」「学校には置いておけない」「再チャレンジしてほしい」と言い渡された。
9月29日、母親は学年主任と面会し、「処分内容」を問うた。答えは「退学勧奨です」。「拒否したら退学処分ですか」と再度確認すると、「その方向です」と返事があった。
同時に、学校が登校を許していない状態にもかかわらず、島田君が「自主欠席扱い」になっていると説明を受けた。
この間、教師たちは明確な理由を明かさないまま、単に自主退学を求め続けた。島田君側は「自主欠席」「自主退学」を強要されることに納得できなかった。
登校を拒否される状況が、1カ月近く続いた。そのため10月7日、「選択肢がないなら自主とは言えないので、退学処分にしてほしい」と自主退学を正式に拒否した。
すると10月10日夜、担任が「教育委員会に相談する」などと電話してきた。それを受け母親は、学校とのやり取りを時系列でまとめた資料を東京都教育庁に送った。
●自主退学勧告は撤回されたが・・・すると10月19日、副校長が島田君を学校に戻す方針を電話で伝えてきた。さらに10月21日、母親と面談した校長は、自主退学勧告を撤回する理由を次のように説明した。
「教育委員会から『戻すように』というような指示が出ましたので、総合的に判断して戻るという結論に至りました」
島田君は11月3日に復学したが、2カ月近く学校を休んでいた影響は大きかった。
欠席期間には授業や中間試験を受けさせてもらえなかった。「(成績をつける)評定には影響させない」と言われたが、授業が進んでいて、ついていけない。また、腫れ物に触るような態度を取る教師に接するのもストレスになった。
適応障害を発症することになり、結局11月30日付で他校に転校した。
●自主退学勧告は妥当だったのか訴状では、1992年に東京高裁が出した判決から、以下の文言を引用している。
「自主退学勧告についての学校当局の判断が社会通念上不合理であり、裁量権の範囲を超えていると認められる場合にはその勧告は違法」と指摘している箇所だ。
この指摘を踏まえ、島田君の行為と自主退学勧告の妥当性を照らし合わせている。
学校側が問題としたのは、届け出があった財布1つ。島田君はその持ち主に謝り、さらに島田君の母親が財布の持ち主の父親に連絡して謝罪している。
島田君はこの財布の件以外に「問題行動と評価されうる行動をとったことはない」と訴えている。
こうした事情を踏まえて、学校側の自主退学勧告は「社会通念上不合理であり、裁量権の範囲を超えている」。そのため「違法性を有する」と主張している。
●「なぞが多いので裁判で明らかになってほしい」島田君は問題行為発覚後、同じことを繰り返さないように精神科への通院やカウンセリングを続けている。提訴について、以下のように話す。
「自主退学勧告や自主欠席扱いとなった理由を直接、先生から聞きたかった。事情聴取の際には通学を続けながら『やり直せる』と言われたが、その後、親だけが呼ばれ退学を迫られた」
「2カ月にわたって応じなかったらまたひっくり返った。なぞが多いので裁判で明らかになってほしい」
学校とのやり取りで前面に立ってきた母親は、次のように考えている。
「学校側には複数回、『教育委員会に言うつもりか』とも確認され、水面下で排除したいとの意図を感じた。学校と教育委員が真逆の判断をしており、自主退学勧告の基準や正当な手続きについて裁判で問いたい」
原告代理人は次のようにコメントしている。
「法的には退学処分が不適切であるのに生徒と保護者に事実と異なる説明をし、自主退学を迫る学校のやり方は不適切で違法である可能性がある。本件は氷山の一角で、水面下で沢山の生徒が苦しんでいるのかもしれない」
東京都は弁護士ドットコムニュースの取材に「回答できない」とした。
●自主退学をめぐる裁判はほかにもある自主退学をめぐる裁判は散見される。
昨年12月には鳥取地裁米子支部で和解が成立している。報じた読売新聞によると、万引きを理由に県立高校を自主退学させられたことを不当と訴えた男性と両親に県が和解金80万円を支払うことになった。
また、当時の校長が「まずは、教育的指導をおこなうべきところを判断を謝った」と文書を読み上げて謝罪したという。

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