筑波植物園
エドヒガン 江戸彼岸
Prunus subhirtella Miq. (1865)
名札 : Prunus pendula f. ascendens Ohwi
科 名 : バラ科 Rosaceae
属 名 : サクラ属 Prunus
別 名 : ヒガンザクラ、アズマヒガン、ウバヒガン
英語名 : Higan cherry , rosebud cherry
原産地 : 本州、四国、九州。 済州島
用 途 : 庭木、建築材、器具材
備 考 : 寿命が長く、天然記念物に指定されている名木や巨木が多い。 
エドヒガンの枝垂れるものが「シダレザクラ」
Prunus pendula f. pendura (別名 イトザクラ)

サクラの学名は 各所、各人でまったく違う。
サクラ属に関しては、米国農務省のデータベース『GRIN
   Germplasm Resources Infor. Network』 の学名で統一する。

① : 樹 形          2013.3.22
一般に15~20m、時に 30mまで大きくなる木ではあるが、この木の場合は周りに木が多いために、特殊な樹形となっている。

樹高 約13 mのうち 11mまでは葉が無い。 日当たりが悪いために枝が落ちてしまったものだ。 小石川には エドヒガン は一本だけで 上部にしか花を付けないため、詳細は 園外で撮った写真となる。

① : 幹の様子
幹の太さは根元の長径で 75cm。 高さ 1. 5 mの所で枝分かれしている。

② : 奥のエドヒガン     2014.4.4
     エドヒガン↑              ↑シダレ桜
これも ひょろ長い樹形で、花は はるか かなた。

                筑波植物園のエドヒガン          2012.4.6
高さ7m。 これが自然な樹形だと思われ、小石川とは大違い。

筑波の幹
根元付近で 30cm。 

             京都植物園はピンクのつぼみ        2000.5.2
木によって 花には 紅色から白色まで、変異があるそうだ。

            小石川のつぼみは 極淡いピンク       2011.4.7

                白い 筑波植物園の花          2012.4.6
花の直径は 約 2cm。
花の特徴
チェックポイントは、ぷっくり脹れた萼筒。 細かな毛が密生している。

                      葉                2000.5.6
葉は細長く、その分「測脈」の数も多い。           目黒 自然教育園

エドヒガンの実             2012.6.2
筑波植物園。 熟すと もっと黒くなる。

 
エドヒガン の 位置
写真①: C6 d 標識35番 震災記念碑の先。 20通りと30番通りの間
写真②: B4 a 標識26番の先 右側


名前の由来 エドヒガン Prunus subhirtella

エドヒガン
 : 彼岸の時期に咲くことから
古くから 野生のものを採って栽培していた。 単にヒガンザクラとも呼ばれたが、「コヒガンザクラ」も ヒガンザクラと呼ばれて紛らわしいために、 「エドヒガン」とされた。 別名 「アズマヒガン」。

朝日百科『植物の世界』によれば、「このサクラが東京周辺で多く栽培されていたことと、他のサクラより開花が早く、彼岸のころには淡紅色の花が咲くことからこの名がある。」となっている。

シダレザクラ :
エドヒガンが枝垂れたものが 特に尊ばれ、「糸枝垂れ・枝垂れ桜」 として 寺院・屋敷に植栽された。
野生種には本来枝垂れる性質はないのだが、植物の中でジベレリンが作れなくなると、上に伸びずに枝垂れてしまう。 自然の中で そのような突然変異が起きたものを、接ぎ木などで人工的に増やしたものが「栽培品種」である。 
               (園芸品種と同義で使われる事もある)

種小名 subhirtella : やや短い剛毛のある 
sub- は ほとんど、やや、弱い。 hirtellus が 短い剛毛が有る という意味で、葉柄・花柄・花筒・花柱下部などに短い毛があることから。
                    花の内部              2012.4.18
結実せずに落ちた花を裂いて見たところ。 木の上で種子はできているのか?

Prunus サクラ属 : スモモ から
ラテン語のスモモ prunum (『植物学名辞典/牧野』によると proumne)に由来する。
リンネ以前に、トゥルヌフォール(1656-1708)が命名していた。

「サクラ」の由来は、別項 サクラ・コレクション を参照の事。

 

 エドヒガン の学名

植物園の名札は ” Prunus pendula Maxim. f. ascendens (Makino) Ohwi ” である。 ほとんどの事典類もこれを使っている。 しかし 「USDA 米国農務省」は、
   Prunus subhirtella Miquel
としている。 命名の経緯を調べてみた。
「USDA 米国農務省」が上記の学名を表明する前提として、サクラ類を、モモ、スモモ、イヌザクラなどとまとめて 「Prunus属」とし、「Cerasus属」などに細分化しない という考え方がある。 以下の命名経緯も 同様である。

これに対して 大場秀章氏などは、果実の形などで サクラ属を さらに6つの属に分けている。 しかし、ゲノム解析と完全には一致しないため、定説とはなっていない。

命名年 学名(P.は Prunus の略) 和 名 命名者 備 考
1735  Prunus 属  サクラ属  リンネ 『植物の属』に記載
1735  Cerasus 属  サクラ属  リンネ  GRINでは異名。 = Purunus属
1827  Cerasus pendula  シダレザクラ  Liegel  ジダレザクラに対する最初の命名
 解説: 有効な出版だが、GRIN は Cerasus を認めていない。
1865  Prunus subhirtella  エドヒガン  ミクエル  USDAの見解による正名
1876  Prunus pendula  シダレザクラ  K. Koch  ①をPrunus属に訂正、有効な出版だが
 ②に先取権があり、シダレザクラはその
 変異品であるため,正名とはならない
1879  Cerasus spachiana  エドヒガン  Lavallee  ② エドヒガンの異名
1884  Prunus pendula  シダレザクラ  シーボルト ex マキシモヴッチ
 解説: 後から ③ と同じ名前を付けたため 「無効名
1891  P. subhirtella var. pendula  シダレザクラ  田中芳男  ②を正名として、シダレを変種とした
 または P. subhirtella ”Pendula   USDAの見解・表記
1893  P. pendula var. ascendens  エドヒガン  牧野富太郎  を母種として ヒガンを変種とした
 解説: エドヒガンはシダレザクラの元となる種だから、④の シダレザクラ
      の名が先に付いていたために、その変種とした。
      ところが が無効名であるため、この命名も無効
 ascendens は pendula の反対語で、「上昇する、斜上する」の意
1965?  P. pendula f. ascendens  エドヒガン  大井次三郎  植物園の名札、多くの事典
 解説: ⑥の変種名に対して、「品種」として扱うべきとして、
      訂正した。 これが今まで一般的に使われているが、
      大元の が無効名であるために、この命名も無効
 P. subhirtella form. pendula  シダレザクラ   大井?  ⑤の変種を 品種に訂正したもの
1971  P. spachiana  エドヒガン  北村四郎  ② の異名
1971  P. spachiana f. ascendens  エドヒガン  北村四郎  ② の異名
結果の推定 :  USDA が、② その他の標本のDNA鑑定を行った結果だろう。
これまで、② は エドヒガンとは別種と見なされてきたものが、ゲノム解析の結果で同一のものとわかったのではないだろうか?

いずれにせよ、エドヒガン と シダレザクラは「親類関係」であり、だからこそ 植物園では、2箇所とも 両者が隣り合わせに植えられている。

左 : シダレザクラ        右 : エドヒガン①

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