▼行間 ▼メニューバー
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
公爵令嬢の嗜み 作者:澪亜
9/265

勝敗

「……ありがとうございました」


そう言って、モネダは書状を恭しく返却してきた。


「で、どうかしら」


「喜んで、承らせていただきます」


「まあ、随分早い決断ね。もう少し、検討するかと思っていたのだけれども」


「決断力も商人にとっては重要な能力ですから」


「私にとってはありがたいわ。それで、今後の話を細かくしたいのだけれども…いつ、私のところに来てくれるのかしら」


「3日お待ち下さい。今の仕事を全て引き継がせますので」


「それは重畳。では、3日後、我が家に来て下さいね」


「畏まりました」


はあ、荷が下りた。モネダを無事引き込むことができたし、3日あればセバスに細かい確認ができるわね。


一仕事終えた私は、皆を引き連れて無事公爵家に戻ることができました。











・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





僕の名前はモネダ。アルメニア領商業ギルドの副会計長を務める。副会計長がどんな役職かと言われれば、それは要するに本部の会計職。


そもそも、商業ギルドとは人材の斡旋・商家同士の仲裁等々、所謂商家の取り纏めを行っている組織。


商家は商業ギルドに必ず加盟しなければならず、その庇護を受ける代わりに商家は税を納める。副会計長職とは、商業ギルドに加盟している商家から上がってくる税金の管理や商業ギルドの運営に対する資金の管理を任せらる。


仕事は忙しいが、中々やりがいがあって楽しい。


そんな最中、ある面談が入った。相手は、アイリス・ラーナ・アルメニア。僕が住むアルメニア領領主のご令嬢で、孤児であった僕を拾ってくれた大恩ある方だ。


けれども正直、最初は面倒だな…そう思っていた。確かに恩はあるけれども、仕事の話は別。公私混同はしない。婚約を破棄されて戻ってきていたことは商家のネットワークで知っていたから、どうせ厄介な事を頼まれるのでは…そう疑っていたのだ。

……なのに。


「そうなの?随分王都の方への交易が減ったように思いますけれども?」


用件を聞こうと思ったら、まさかの爆弾を投下された。


何故そのことを知っているのか…1番に浮かんだのは、そんな疑問だった。確かに分かる人には、分かる事。けれどもそれは、あくまで毎日帳簿と睨めっこをしていればの話だ。


そんなこととは無縁の彼女が…それも王都で貴族の坊ちゃん嬢ちゃんに囲まれていた彼女から出る言葉ではない。


これは、舐めてかかれば喰われる。昔から第一線で働く実力者を前にするのと同じ緊張感が僕の中で走った。けれども、気づくのが遅かった。既に話の主導権は彼女に握られている。


初戦に負けた僕は再び話を切り出すと、ここぞとばかりに彼女は“お願い”を口にしてきた。やはり、攻めるべきタイミングを窺っていたのか。


そのことに驚くと同時に、彼女のお願いにはもっと驚かされた。


領制の改革?中長期的な改革?まさか、そんなことをお嬢様が言い出すとは思わなかった。


面白い、そう思った。昔の彼女が言い出しても、何を絵空ごとをと思っただろうが、彼女は現状を把握した上で言っているのだと、先ほどの会話で嫌っと言うほど思い知らされている。けれども、あくまでそれだけ。繋ぎをつけ、検討させて貰おうと思った。何故なら、彼女に人事権があるとは思えない。つまり、具体的な今後の道筋が見えなかったのだ。


ところが、彼女はそれすらもクリアーしてきた。


まさか、彼女が領主代行なんて!



最後にして最強のカードを切ってきたのだ。もう、検討する要素がない。



……そこからは早かった。すぐに了承し、彼女が帰った後、引き継ぎに移る。


3日後、彼女がどんな計画を口にするのか。それを、楽しみにしながら。






  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。