序章
少年になるよ。
地獄の日常を、1年ほど過ごす。
六歳になる頃には、俺は意識すれば魔力が視えるようになっていた。
俺の場合、色付きの霧みたいな感じである。
人によって色が違い、俺の魔力は淡い青、親父は濃い青、母親が緑、執事のおっさんは紺である。
魔法行使の公式もだいぶん頭に入っていて、最近はライター程度の火や、そよ風ぐらいなら指先から出せるようになった。
最も、先生曰く、俺の魔法の才能は極々平凡で、戦闘や産業に活かせる程にはならないらしい。
日常生活が、ちょっと便利になるくらい。
使えないよりマシだが、ちょっと残念だ。
魔法で無双するとか、いかにもな主人公に俺はなれないらしい。
武芸の方は、相変わらずボコられっ放しだ。
だが、一年もやってりゃ進歩はある。
どれだけボコられても、這いつくばる事はなくなったし、急所を打たれることもなくなった。
痣も随分減ったし、最初の一撃ぐらいは避けられる。
ボコられる事には変わりないんだが。
乗馬の方は、もう習う事はしていない。
気性の荒い馬でなければ、だいたい乗れる。
誕生日に、親父にせがんで仔馬を買ってもらった。
デープインパクトと名付けた。
親父は、たまにしか帰ってこない。
それも、顔を合わせるのは夕食の時ぐらいで、毎日忙しそうにしている。
母親も、親父について回って手が回らないとこの補佐をしているそうな。
政治の話しはよくわからないが、領地の話しなんかをたまに聞かされる。
子供の俺にわかりやすい話しばかりだが、親父も母親も、中々話し上手である。
たまにしか帰ってこないが、俺の数少ない楽しみだ。
この世界は、娯楽が本当に少ない。
街には興業を打ったりする人もいるそうだが、俺は基本的に外に出してもらえない。
祭りなんかは、庶民が楽しむものらしいので俺は参加させてもらえないし、式典なんかにも幼いってのが理由で不参加。
完全に引きこもりである。
ちなみに友達もいない。
生まれてから、同年代と出会った事がないので仕方ないのだが、精神的には30過ぎのおっさんなので、うちにいる使用人達とさほど変わらない。
今更、幼稚園児とママゴトするのもアレなので、特に不満はない。
前世でも友達少なかったのは内緒だ。
そんなこんなで、俺が七歳になるまでは、実に平穏だった。
俺自身、このまま大人になって、親父の後を継いで、なんとなくダラダラ生きていくんだろうと信じて疑ってなかった。
だが、人生ってのはそう甘くない。
前世でも経験した筈だったが、俺はそんなことは忘れ去り、貴族の御曹子と言うぬるま湯に浸かっていた。
【魔眼】
魔力を視認する眼。
魔力感知を為せる部位によって、名称が異なる。
個人によって部位が異なり、この能力を発現しない者もいる。
また、ヒューマン種にしか発現しない。
原理はよくわかっておらず、ヒューマン種の種族特有の能力である説、魔法の一種である説が主であるが、どちらも論拠に欠ける。
種族特有の能力であるならば、全てのヒューマン種に発現して然るべしであるし、魔法であるならば詠唱が必要であるからである。
いずれにせよ、今後の研究が待たれる。