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2020年5月26日(火)
キーマンに迫る 注目のポイント ~緊急事態宣言解除の先は~

キーマンに迫る 注目のポイント ~緊急事態宣言解除の先は~

東京などの緊急事態宣言解除で、ウィズコロナ時代の新しい段階を迎える日本。今後の焦点になっていくのは「ウイルスとどうつきあいながら日常を取り戻していくか」という点だ。中でも、簡単には解決しない重要な課題となっている3つのテーマを深めていく。▽感染抑制やクラスター対策、そして第2波はどうなる?▽ワクチンや治療薬の開発は?▽困窮する生活者の支援は?それぞれについて、3人のリポーターが最新の動向を取材しながら、キーマンに取材を行い、未来を切り開くためのカギを深掘りする。

※関連記事 ゲスト猪股正さんインタビュー
「コロナショック“戦後最大の暮らしの危機”」
https://www.nhk.or.jp/gendai/kiji/187/index.html

出演者

  • 西浦 博さん (北海道大学大学院 教授 ※VTR出演)
  • 舘田一博さん (東邦大学 教授 ※VTR出演)
  • 森島恒雄さん (愛知医科大学 客員教授 ※VTR出演)
  • 猪股正さん (弁護士 ※VTR出演)
  • 武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)、合原明子 (アナウンサー)、小山 径 (アナウンサー)

「まだ1回裏」 「再流行のリスクに気をつけて」

クラスター対策の専門家、北海道大学大学院の西浦博教授です。

クラスター対策専門家 北海道大学大学院 西浦博教授
「(接触)8割減がとても重要である。」

国の対策班に加わり、感染状況のデータ分析を主導。人との接触を大幅に減らすよう訴えてきました。

合原:気になるのが、警戒がいつまで続くのか、見通しを教えてください。

クラスター対策専門家 北海道大学大学院 西浦博教授
「長い旅路になると考えていますが、野球は9回で勝負するじゃないですか。野球が9回のゲームがあるとすると、『1回の表裏』が終わった程度が、今私たちがいる時点。」

合原:まだ、そこなんですか?

クラスター対策専門家 北海道大学大学院 西浦博教授
「1回の攻撃をして、予防して、ハンマーを大きく振りかざしてという状態が今やっと終わった。2回の守備につく状態だと思います。」

合原:第2波が来る可能性について、具体的にはいつごろどういった規模で起こる?

クラスター対策専門家 北海道大学大学院 西浦博教授
「小規模な流行、例えば集団感染がどこかのとても密な接触を必要とするような場で起こるかというのは、いつ起こってもおかしくないと考えています。それは5月6月の段階で起こっても仕方がないと思っています。少なくとも今年いっぱいの間は、再流行のリスクに向かいながら暮らしていかなければいけないと考えています。」


今月、国の専門家会議が示した感染抑え込みの考え方です。
再流行が起きるたびに、クラスター対策などを講じていくとしています。

合原:緊急事態宣言解除のあとは、どの程度 警戒すべき?

クラスター対策専門家 北海道大学大学院 西浦博教授
「感染者数が全体的に減って、感染リスク全体も減ったわけですので、それに関しては皆さんで『自分たちでやれたぞ』という自信の気持ちを持っていただきたいと思いますし、社会全体で8割を減少させる当初の目標、社会全体での接触を削減しようという目標はここまでで、ハイリスクの場での感染管理対策に移行して、段階的に新しい生活様式に適応していこうというフェーズに入っていくことになると思います。」

具体的には、韓国のナイトクラブで制限が緩和される中で起きた集団感染。日本も教訓にすべきだと言います。

クラスター対策専門家 北海道大学大学院 西浦博教授
「人々の生活が元に戻ろうとした瞬間の出来事でした。人と人が向かい合ってお酒を飲む、密に話し合う環境で、これまでもハイリスクであると考えられてきた場なんですね。今後、日本の国も段階的に少しずつ新しい生活をやっていこうという中では、これまで言われていた基本に立ち返って、3密と言われている場所で、人と人が長時間にわたって会話する環境がリスクになると考えています。」

今後も長く続くウイルスへの警戒。西浦さんは、それと並行して進めていかなければならないことがあると指摘します。

クラスター対策専門家 北海道大学大学院 西浦博教授
「今後 長期的なスパンで、この感染症とどのように向かい合わなければいけないかは、治療薬や予防のためのワクチンであったりという開発の状況とともに大きく変化することが予想されますので、ワクチンがとても多くの人口対象に接種できるまでには1年以上の経過を要するものですから、複数年をかけて、どうなるかは 今後その経過を見ていかなければ分からないと思います。」

開発の最前線で何が? 国産が重要なワケ

そのワクチンの開発。
日本感染症学会の理事長で、政府の専門家会議のメンバーを務める舘田一博さんは、いま重要な時期を迎えていると言います。現在の開発状況について聞きました。

小山:ワクチンの開発について、今どういう段階にあるんでしょうか?

専門家会議メンバー 日本感染症学会理事長 舘田一博さん
「(専門家会議でも)ワクチンの開発というふうな、そういうものは出ない。まだ出ていないです。緊急事態宣言が解除になって、少し落ち着きつつある状況の中で、開発に集中して、いま進めなければいけない。そういう時期だと思います。アカデミア(研究機関)と企業、政府が一緒になって開発を進めていくという、その体制が重要だと思います。ただし、そこで絶対に守らなければいけないのは、副作用が出ない。副反応が出ないような検証はしっかりしないと大変なことになってしまいます。」

舘田さんが懸念するのは、SARSやMERSが流行したときのこと。
動物実験で重篤な副作用が起き、ワクチンが完成しませんでした。こうしたことは避けなければならないと考えています。

当時のワクチンは、主に2種類。ウイルスそのものの毒性を弱めた「生ワクチン」と、感染能力を失わせたウイルスの断片を使う「不活化ワクチン」でした。
これに対し、最近開発された技術が、DNAやRNAの一部や変形させたものを使う「遺伝子ワクチン」と呼ばれるもの。ウイルスそのものを使わないため、副作用が少ないと考えられています。

専門家会議メンバー 日本感染症学会理事長 舘田一博さん
「ワクチンによって抗体が作られると、その抗体が逆に悪さをしてしまうような可能性というものも指摘されています。可能性があるということですね。そういうふうなものが起きないかどうかを注意深く検討していかなければいけない。DNAワクチン(遺伝子ワクチン)というのは副作用も少なくできる。」

今、注目されているワクチンの多くが「遺伝子ワクチン」です。
アメリカのバイオベンチャー企業 モデルナ社では、初期の臨床試験で安全性を確認し、秋の実用化を目指しています。

イギリスの大手製薬会社 アストラゼネカ社では、ことし9月に供給を開始する体制が整ったと発表しています。

日本では、大阪大学とバイオベンチャー企業の遺伝子ワクチンが注目されています。7月から臨床試験を行う計画で、来年春までに実用化を目指しています。

舘田さんは、海外に比べ少し後れをとってはいても、国産ワクチンの開発が重要だと言います。

小山:世界のどこかでワクチンが開発されると、日本でも大丈夫とはならないですか?

専門家会議メンバー 日本感染症学会理事長 舘田一博さん
「世界中に広まっているウイルスですよね。何億人という単位で必要とする人がいるわけですから、なかなか日本には回ってこないかもしれないと考えておかなければいけない。」

小山:量産できるのか?

専門家会議メンバー 日本感染症学会理事長 舘田一博さん
「すぐに1億人というのは、なかなか難しいわけですよね。ただ、こういう緊急事態ですよ。インフルエンザワクチンだったら(日本の人口)1億人分作るわけですよね。ですから、それこそさっき言った、チーム、連携して できるだけ多くのワクチンを作るという、そういう体制を作らなければいけない。」

ワクチンの開発について、先週 、国は9件の研究に70億円余りの補助を行うことを決めました。
第2波の懸念もある中、ワクチン開発は間に合うのか。
スタジオで深めます。

ウイルスとの闘い キーマン注目のポイント

武田:緊急事態宣言は全面解除となりましたが、感染が再び拡大するときが来るとすれば、どう備えていくのか。そして、暮らしや経済をどう立て直していくのか。今夜は、キャスター3人が専門家を直撃しました。まず、西浦さんに話を聞いた、合原アナウンサーです。

合原:まず、現在の私たちの立ち位置ですけれども、ちょうど1つ目の山を越えた、このあたりです。これは新規感染者数が減少して、効果的なクラスター対策が可能な水準まで来たことを意味しています。

最終的にはワクチンの開発、治療法の確立によって感染が収束されていくことを目指しています。そこまでに医療提供体制のキャパシティーを上げたり、効果的なクラスター対策が可能な水準を高めていくことを専門家会議では提言をしています。その上で西浦さんがこの先、注意すべきと言うのは、ぶり返してくる状況。第2波なんですね。いつどこで起こるかは分からないということですし、早ければ今月、来月にも来る可能性はあると言います。だからこそ、第2波に備える これからの時期が大切だとしています。その上で、西浦さん次のようにも指摘をしています。これまでのような外出の制限はそれほど必要ないんですが、3密を避けることは常に忘れないでほしいと言います。

きょうは、私たちも互いの間に仕切りを置いてお伝えをしていますけれども、こうした工夫が必要になってくると言います。今回 お話を伺いしまして、長期戦が避けられない中、宣言が解除となっても一人一人の行動が持つ重みは変わらないという意識を持って、新しいフェーズに向かう姿勢が大切だと感じました。

武田:感染拡大を防ぐもう一つの鍵は、ワクチンや治療薬の開発をいかに前倒しできるかということです。そのワクチンについて取材した、小山アナウンサーです。

小山:海外では秋にも完成すると言われているワクチンなんですけれども、WHOによりますと、世界で開発中のワクチンというのは、今124種類あるということなんですね。このうち10種類は人への臨床試験が始まっています。しかし、これらが仮にできたとしても、日本に回ってくるかどうかというのは分かりません。なので、日本国内でワクチンを作っていくことが重要になります。国内では、来年の春にワクチンができるかどうか。でも、十分な量を供給するというのはもっと先になるわけです。これを早くしていくために、いま求められていることは、“競争よりも協力”。

すでに研究者の呼びかけで、今月21日に共同研究グループが発足して、国内でのワクチン開発を急いでいます。ですから、少しでもこのスケジュールを前倒しできるようにしたいというわけなんですね。安全性を重視して進めていくということも大切ですので、ワクチンができて使えるようになるまでに第2波が来てしまうということもあり得ます。そこで急ピッチに今、進められているのが治療薬を見つけていくことです。

開発の最前線で何が? 特効薬がない中で

世界中で開発が進められている新型コロナウイルスの治療薬。
しかし、まだ特効薬は出来ていません。

国の研究班で、薬の研究にも携わる愛知医科大学の森島恒雄客員教授は、第2波が来るまでの今が極めて大事な期間だと指摘します。

小山:さまざまな薬の名前が挙がっていますが、現状、治療薬はどういう状況なんでしょうか?

愛知医科大学 森島恒雄客員教授
「たぶん6月以降、9月とかですね。そういったところまでの間にきちんと評価が出されて、いろんな形の治療体制、治療方法ができあがっていくという形になってきて、願わくは次の第2波の流行前までにきちんと治療法が確立することが望ましい。薬として全て100点満点の薬で、一番が決まればOKという感じではなくてですね、やっぱり一長一短があるということから、その薬の長所に合わせた形の使い方になるだろうと。」

感染してから重症化するまでの間、既存の薬を組み合わせて使うことで、治療効果を高められるのではないかと言います。
感染の初期から、ウイルスの侵入や増殖を抑えると期待されるのが「アビガン」などの抗ウイルス薬です。さらに、炎症が起き始めたころ、有効ではないかと考えられているのがすい炎の治療薬、「フサン」。


東京大学などで、臨床研究が急ピッチで進められています。

重症化の過程で起きる可能性があると指摘されているのが、血管の炎症です。ウイルスが侵入するなどして血管が傷つき、炎症が起きると血栓が出来ると考えられています。

こうなると血液の流れが阻害され、さまざまな臓器にダメージを与えます。フサンは、この血栓を出来にくくする可能性があるのです。

東京大学 井上純一郎特命教授
「血液凝固を抑制する薬として使われているということで、そういう観点からも、抗ウイルス剤に加えて血栓を防御してくれる。そういうことで悪性化を防ぐということに役立つのではないか。」

そして、全身性の炎症への効果が期待されている薬もあります。
全身性の炎症は、体を守るはずの免疫細胞が暴走することで引き起こされると考えられています。

「これがアクテムラという薬です。」

免疫細胞の暴走を抑えるリウマチの治療薬「アクテムラ」です。
大阪にある病院では、13人の重症患者に対し、他の薬と併用して投与。すでに9人が回復して退院しています。

薬を投与された男性
「息苦しさというか、胸のあたりがもやもやした感じでしたね。それが1日、2日でだんだんと薄れてという感じですから。もう3日目くらいには、ほぼなくなって元気になりました。」


愛知医科大学 森島恒雄客員教授
「いろんな手段、いろんな薬があった方が現場の先生も使いやすいところがあって、どういう順番がいいんだろう、どういう組み合わせがいいんだろうということを考えながら、秋の第2波に備えていくことが必要なのではないか。」


小山:治療薬になりそうだという薬の名前はいろいろ挙がるんですけれども、これは必ず効くのかなというふうに思うんですが、新型コロナウイルスの特効薬は今のところないということなんですね。症状の進行に合わせて、さまざまな段階で効きそうな薬があるということでした。

ですから、新しくできたウイルスに、これまで人類が作ってきた薬をさまざまな段階に投入して、力を結集して立ち向かうというイメージなんですね。森島さんによりますと、先ほど出てきた薬以外にも、治療過程のどこかで効いていきそうだという薬の名前はいくつも挙がっているということなんです。そうした薬がたくさんあればあるほど、症状の重さ、あるいは持病のあるなしなどに合わせて薬を選んで、こういった段階に使うことができます。今、その膨大な数の薬の中から、そうした薬を見つけ出す研究が続けられています。

武田:緊急事態宣言の解除で大きく変わるのが、私たちの暮らしです。宣言の期間中、経済活動は停滞し、すでに深いダメージを負っています。専門家は、戦後最悪の暮らしの危機を迎えていると言います。

中間層にも…こぼれ落ちる前に救う

長年、生活困窮者の相談支援を行ってきた弁護士の猪股正さんです。
これまで「自分は大丈夫」と思っていた中間層からの相談が増えていることに危機感を強めています。

生活困窮者の相談支援を行う 猪股正弁護士
「解雇されて、今 所持金っていくらありますか。」

「本当500何十円とか。」

生活困窮者の相談支援を行う 猪股正弁護士
「500円」


栗原:過去のケースとの違い、今回の相談の特徴は?

生活困窮者の相談支援を行う 猪股正弁護士
「リーマンショックの時は、派遣や非正規の方が収入や住居を同時に失うことが多かった。今回は正社員、事業者もたくさん困って、“中間層”にまで危機が広がっている。“戦後最悪の暮らしの危機”が、今 現実に広がっている。数日前に相談を頂いた方ですけれども、この方は70代 夫婦ふたりで生活。イベントの会社を経営されていた。けれど、コロナの危機で仕事が減って、借金もたくさんある。よく聞くと、実は所持金がゼロで、食料もあと数日しかもたない。自分がどこまで追い詰められているか、リアリティ、現実感がない。本当はギリギリまで、もう崖っぷちまで追い込まれている方が相当たくさんいる。支えがない中で一気に困窮に陥る人が増えて、スピードも追いつかない、そういう状況になっている。」


緊急事態宣言が解除されても、先が見えないという人は数多くいます。

こちらの経営者は営業再開を目指し、金融機関から2600万円を借り入れました。

しかし、夜の営業は当面、再開しない方針です。

焼きとり つかさ 長一江社長
「解除になったからといって、『営業時間を戻しました』『お客さんも戻りました』にはならない。自粛があけても外食は控える方とかいらっしゃると思うので。」

ランチやデリバリーを始めていますが、売り上げは以前の半分以下に激減。回復のめどが立たない中、返済は今月から始まりました。

焼きとり つかさ 長一江社長
「返済額が合わせて21万5千円。負担感、不安はあります。売り上げがたつのか、売り上げがないと返済もできないし、お給料も払えない。自分だけの生活ではなくて、従業員の生活もかかっている。」


厳しい経済状況の中、専門家が危惧するのが失業者の急増です。

ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋康次さん
「今年の末までに、新しく失業者が100万人増えると予想。今回 戦後最大の需要減が起きて、さらに、この後も感染の恐怖が消えないことを考えると、V字に戻るというシナリオの可能性は非常に少ない。」


今後 多くの失業者が出ると予想される中、求められる支援とは何か。

生活困窮者の相談支援を行う 猪股正弁護士
「今、一番伝えたいのは“こぼれ落ちる前に救う”、支えること。これだけたくさんの人が困窮に陥ってから、こぼれ落ちてから再建する、支えるのは本人にとっても非常に困難なこと。今、国や自治体に求められるのは、あらゆる層に包括的に支援を、こぼれ落ちる前に、今、届ける。スピーディに、一度だけではなく継続的に届けることが求められる。」

栗原:今この瞬間も、厳しい局面の中で過ごしている方がいると思うが。

生活困窮者の相談支援を行う 猪股正弁護士
「もう自分の力では、どうにもならない事態になっている。自分だけの力では、自己責任で越えていくのは難しい。“助けて”という声をあげて欲しい。声をあげるということは自分のためだけではなくて、同じように苦しい思いをしている人を救う、そういう人たちとつながるというところがあるので、ぜひ“助けて”という声をあげて欲しい。」

いまどんな支援が必要か

武田:新型ウイルスが暮らしにどんな影響をもたらしているのか。取材を続けているのは、栗原アナウンサーです。

栗原:猪股さんは取材の中で、“こぼれ落ちる前に支える”と何度も繰り返し話してくれました。一度家や職を失った人は、そこから支えるというのは当事者の方にかかる精神的な負担が相当なものになるために、とにかく早く支援につなげることが大切なんだと話していました。

武田:困窮の現場は相当厳しいものがあるんだと思いますけれども、具体的にはどうなんでしょうか。

栗原:戦後最悪の暮らしの危機ということばもありましたけれども、猪股さんたちに所持金がないと相談があった99人のうち、所持金が5万円以下の人たちが32人。3人に1人もいたんですね。さらに この中で、所持金が1000円以下の方というのは21人。5人に1人と、これだけ深刻な状況になっているということなんですね。そして、声を上げにくい状況だということだったんです。

なぜ、ここまで急に深刻になってしまったのか。猪股さんは、“自己責任は人々の内面に向かってくる。今、生活が苦しいのは自分の努力が足りないからではないか、頑張りが足りないからではないかと考えてしまう風潮がまん延しているので、とにかく声を上げられない、支援につながらないんだ”と危惧していました。

武田:これから感染拡大の防止、暮らしや経済の立て直しを同時に進めていかなくてはならないわけですけれども、どんな支援が必要なんでしょうか。

栗原:エコノミストの矢嶋さんの挙げたキーワードは「アクセルとブレーキ」なんですね。「アクセル」はといいますと、経済活動の加速なんですが、そのために安心して「アクセル」を踏み込めるように、感染への不安をできるだけ減らす必要があるということなんですね。検査体制の拡充などが求められるということです。そして、「ブレーキ」ですけれども、再び休業に追い込まれるような状況になったときに、休業できる環境を整備していくことが大切だということでした。そのためには、確実で迅速な休業補償を約束することが求められると強調していました。

武田:きょうは3人のリポーターが専門家に話を聞きました。緊急事態宣言が解除されましたけれども、3密を避ける新たな生活様式を いかに実践できるのか。そして、暮らしが行き詰まった人々を いかに早く支えて、取り残されないようにしていくのか。まだウイルスとの闘いは終わっていません。

2020年5月21日(木)
新型コロナ 危機はまだ終わっていない

新型コロナ 危機はまだ終わっていない

先週14日に39県で緊急事態宣言が解除されることが決定。残りの8都道府県でも解除が視界に入っている。今後、問われることになるのが「感染を抑えながらどう日常を取り戻していくのか」という課題だ。一足早く制限の解除を行った中国や韓国では再び集団感染が発生し、韓国では学校再開のスケジュールを1週間遅らせざるを得なくなった。段階的に店舗の再開などを進めている欧州でも、難しい判断を続けている。日本でも、飲食店などをどう再開させていくか現場の模索が続いている一方、保健所や医療現場では第二波に対する課題は解消しきれていない。国内外の実態を取材しながら、今何が問われているのか、どうやって解決していくべきか考える。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから ⇒https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/

出演者

  • 賀来満夫さん (東北医科薬科大学 特任教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 小山 径 (アナウンサー)

感染を防ぐ闘い今も…医療の最前線

都内で新型コロナウイルスを治療する感染症指定医療機関の一つ、武蔵野赤十字病院です。

「お顔の上に置かせてくださいね。」

今週から、これまで延期していた外科系の手術などを再開しました。
上半身を覆う、透明のボックス。万が一、患者が新型ウイルスに感染しているリスクを避けるため、飛まつ感染の恐れがある処置を行う際に活用しています。

手術は、PCR検査で陰性を確認してから行っています。
しかし、検査結果を待てず 緊急を要する場合、このボックスを使っているのです。

「手術終わりましたよ。聞こえたら うなずいてください。今、お口の管を取りますから、心配しないでくださいね。」

武蔵野赤十字病院 泉並木院長
「感染すると非常に重大な問題になってしまう。病院の中でこそ、絶対に院内感染を起こさない体制が重要なので、私どもとしては責任が非常に重いなと思っています。」


「長期戦になるので、面会を制限しておいた方がいいと思う。」

この病院では、今後も新規感染者が続くと考え、迅速に陽性者を見極めることが重要だとしています。

臨床検査技師
「こちらがコロナの抗原検査のキットになります。」

そのために病院が期待しているのが、先週、国が承認した抗原検査です。

検査では、鼻の奥から検体を採取。検体を含む液体をキットに垂らして、線が浮かび上がるかを確認します。

従来のPCR検査はウイルスの遺伝子を増やして調べるのに対し、抗原検査はたんぱく質を調べます。PCR検査は解析装置が必要となり、この病院では専門機関に依頼しているため、結果が出るまでに2日ほどかかってきました。一方、抗原検査は その場で測定が可能。30分ほどで結果が判明します。

ただ、抗原検査はPCR検査に比べ感度が低いとされ、陰性の場合は、さらにPCR検査を行うことにしています。

臨床検査技師
「陽性の方を見つけるのがメインになってくるんですけど、選別がより楽になって、迅速な検査につながるのではと期待しています。」


クルーズ船の感染者受け入れから3か月余り。
新型ウイルスへの対応を続けている、この病院。
新規の感染者が減る中、きょう、感染者用に設けた45床のうち21床を一般向けに戻す作業を行いました。

今後は、通常の業務とどう両立していくか、難しい対応が続きます。

武蔵野赤十字病院 泉並木院長
「病院の中のいろいろなシステムも変わりましたし、医師の心構えも変わった。(患者の)数が減っても、またいつかは増えてくる時期があるんだと。このコロナとの戦いというのはずっと続くんだろうと思っています。」

感染者は減っても警戒続く保健所

感染者の対応に当たる最前線。
保健所でも、気の抜けない状況が続いています。
新規感染者の相談が減少する中、自宅療養者や濃厚接触者、海外からの帰国者の経過観察を今も続けています。

自宅療養者への聞き取り 保健師
「熱っぽいとか、体が痛いとかありませんか?」

「症状が特にひどくならずによかったです。お大事になさってください。」

突然 重症化するリスクに対応するため、区が独自に導入したのが、スマートフォンによる「健康観察システム」です。
専用アプリを使い、朝と夕方、体温やのどの痛み、息苦しさなどの健康状態を入力してもらいます。

「この方は朝入れていただいているので、これを見ていきます。」

異変が現れた場合、アラートが通知され、迅速な対応が可能だといいます。

「電話がつながらないと、倒れていたらどうしようとか、何回もかけ直して時間がかかるので、『この方は今日は体調管理できているな』『チェックできているな』と分かって、すごく便利。」

今は新規感染者が減っていますが、今後、再び感染者が増えた場合にも対応できるように体制を整えています。

この保健所がある、港区の繁華街・六本木。
感染が拡大する前の3月は多くの人出がありましたが、今月初めには大きく減少しました。しかし、ここ10日ほど、再び人出が戻り始めています。

現在、保健所で新型ウイルスの対応に当たっているのは、他部署からの応援も含めて およそ100人。今後も、その体制を継続していくといいます。

港区みなと保健所 松本加代所長
「今後(感染者が)増えるときに集団感染をできるだけ減らすという意味で、健康観察をどう入れていって(感染増加の)立ち上がりを早くキャッチして、広がる前に介入して対応をするというところが今まで以上に大事になってくる。」

再び集団感染が…どこに課題が

感染者が大きく減っても、再び集団感染が起きる。
そのリスクを私たちに教えているのが、隣国・韓国の経験です。

KBSニュース 今月7日
「新型コロナウイルスの感染者が、きのう新たに確認されました。」

ソウルのナイトクラブの客やその家族 206人の感染が確認され、影響は全国に広がっています。

ホテル支配人
「ようやく落ち着くと思ったら、今回の集団感染が起きたので、(この周辺の店に)再び規制がかかり、営業を中断せざるを得なくなりました。」

韓国では、これまで感染者が確認されると、クレジットカードの利用履歴やスマホのGPS情報、さらに防犯カメラの映像を使って行動を徹底的に追跡。

居住地域や立ち寄った店など、個人を特定されかねない情報を分刻みに公開することで、感染拡大を防いできました。

ところが、今回、店を訪れたことを知られたくないとして、スマホの電源を切っていた客もいたと見られています。

大韓予防医学会 新型コロナウイルス対策委員会 キ・モラン(奇牡丹)委員長
「スマホの電源を切っていたり、クレジットカードを使わなかったり、自家用車にも乗っていない場合、行動を追跡できるすべがありません。」

さらに、国が求めたルールも徹底されませんでした。
入店の際に、名前や電話番号の記入を義務づけていましたが、うその情報を書く人が相次いだのです。
その結果、店を訪れていた人を把握しきれず、4次感染にまで拡大する事態となったのです。

大韓予防医学会 新型コロナウイルス対策委員会 キ・モラン(奇牡丹)委員長
「遊興施設で感染が起きることは予想していましたが、1人の感染者からここまで増えるとは思いませんでした。どのようなことに注意すべきか、重要な教訓を得たといえます。」

今回の反省をどう生かすのか。
今、本人確認を素早く的確に行う仕組みの導入が始まっています。

「いらっしゃいませ。まずは消毒と検温をお願いします。このQRコードを読み込んで個人情報の登録をお願いします。」

このシステムでは、カフェやカラオケ店に入る際、客は名前と電話番号、それに住民登録番号の一部を入力しなければなりません。

打ち込んだ情報は、すぐにうそや誤りがないか自動的にチェックされ、正しいと判断されて初めて店内に入れる仕組みです。

カフェの客
「面倒ですが、必要なことなので。」

「自分が訪れる場所に、他に誰が訪れたか正確に分かるので、安心して利用することができます。」


集団感染が起きて以来、営業を自粛していた各地のナイトクラブの中には、このシステムを導入することで、あすからの再開にこぎ着けたところも出ています。

ナイトクラブ オーナー シム・ホソプ(沈好燮)さん
「今回イテウォンのナイトクラブで集団感染が発生して、お客さんの情報を正確に把握する必要があると思いました。このシステムを活用すれば、感染拡大を食い止めることに大きく役立つと思います。」


カンウォン道 文化観光体育局長 チョン・イルソプ(鄭日燮)氏
「営業中止命令によって解決するのは簡単ですが、遊興施設で働く人たちの生活がかかっています。効果的なシステムを使って経済活動を続けながら、感染拡大を防ぐ方向で営業できるようにしました。」

再び集団感染が…韓国の教訓は

きょう、大阪・京都・兵庫の緊急事態宣言が解除される中、韓国の経験から、日本への教訓を引き出すことはできるのか。
専門家会議のメンバーである、キ・モラン医師に詳しく聞きました。

武田:“感染拡大の第2波”を防ぎつつ、経済や日常生活を取り戻していく。非常に難しい課題ですが、どのように進めていくべき?

大韓予防医学会 新型コロナウイルス対策委員会 キ・モラン(奇牡丹)委員長
「まず私たちは、以前の生活に戻れるという考え方は捨てるべきです。以前に戻ろうとし、再び感染が拡大すると、また経済が停滞し、その被害を受けます。それぞれの立場で感染リスクを最大限に減らす方法を見つけ出す。企業も、その方法を探るべきです。政府は企業や個人の努力に対し、補償をすべきだと考えます。」

韓国では、2か月余りにわたって制限されてきた学校への登校も、きのう段階的に再開されました。

大韓予防医学会 新型コロナウイルス対策委員会 キ・モラン(奇牡丹)委員長
「学生には、再開の2週間前から健康状態を管理するアプリを使ってもらい、異変があれば報告してもらいます。感染者がゼロになるのを待っていたら、永遠に学校を再開できない可能性もあります。まずは学校を再開させて、無理だと判断すれば、再び休校にするなど、現状の管理体制で最大限の努力をすべきだと思います。」

キさんは、第2波の経験から、改めて基本的な対策を継続することの重要性を指摘します。

大韓予防医学会 新型コロナウイルス対策委員会 キ・モラン(奇牡丹)委員長
「廊下やトイレで接触しただけで感染したとみられるケース、タクシーの中で一瞬マスクを外しただけで感染したとみられるケース、情報はすべて公表しています。マスクをする、手を洗う、社会的距離を十分に取る、換気をきちんとして空気を入れ替える。こうした予防の原則を守れるように、業種ごとに創意工夫する必要があります。とにかく学びながら、ガイドラインを作成していかざるを得ないと考えています。」


武田:キさんは、元の社会、生活には戻れないと指摘していましたが、どうやって感染を抑えながら経済活動を再開していったらいいのか。すでに経済活動の規制を段階的に緩和している ヨーロッパにヒントを探りました。

観光客受け入れへ…事前に明示 日本へのヒント

先月半ばから、ヨーロッパでも いち早く外出制限の緩和を始めたオーストリア。
感染拡大を封じ込めてきたとして、いま準備を進めているのが、経済活動に欠かせない入国の再開です。

今月4日からは、空港でPCR検査を開始。
190ユーロ、日本円でおよそ2万2000円を自費で負担すれば、結果が陰性だった場合、14日間の隔離をすることなく入国を許可するようになりました。

さらに、観光客に来てもらおうと、感染者数の割合を低く抑えている 隣接する3か国と、来月15日にも国境の完全開放を目指すことで合意。

ドイツやフランスも国境開放の検討を進めているほか、イタリアでは来月3日、EUに加盟するすべての国との間で移動制限を撤廃するとしています。

オーストリアの緩和政策の特徴。
それは、事前にスケジュールを明示し、それぞれの事業者が先行きを見通せるようにしたことです。
先月6日に段階的に制限を緩和する計画を発表。感染者数が期待どおり低く抑えられていれば、2週間ごとに次の段階に進むと明示しました。

先週からは、テーブル1つ当たり大人4人を上限とするなどのルールを設けた上で、レストラン再開にこぎ着けています。

来週にも再開する見通しのホテルなど、事業者への支援策も拡充しています。
このホテルは、もともと客の8割が国外からでした。営業再開後も当分、元には戻らないため、従業員の雇用の維持は簡単ではありません。そこで、国が従業員の賃金の最大9割を最長6か月にわたって補償することで雇用を守ろうとしています。

ホテル支配人 カタリーナ・フライスルさん
「従業員を解雇するか、会社が倒産するか、追い詰められています。(制度のおかげで)多くの従業員の雇用を守れるのはありがたいです。」

感染を防ぎながらどう営業 居酒屋は…

感染の抑制と経済活動の再開。
日本では、どう実現していくのか。

以前は午後5時から11時まで営業していた、千葉県内の焼き鳥店です。

焼きとり つかさ 長一江社長
「(デリバリー)4時で大丈夫ですか?」

現在は、ランチタイムとデリバリーに限定して営業しています。

焼きとり つかさ 長一江社長
「全く新しいビジネスをやっている気分。まず接客がないので、ほとんど。」

今、難しさを感じているのは、感染拡大を防ぐためのガイドラインをどう守るかです。
ガイドラインには、会話を控えめにしてもらったり、客どうしのお酌を避けるなどの注意点が示されています。

焼きとり つかさ 長一江社長
「居酒屋というのは、お酒を飲みながら会話を楽しむ場であるので、なかなか難しいと思います。」

店では急激な収入の落ち込みに対応するため、金融機関から2600万円の借り入れをしました。雇用や経営を守るためにも、通常営業ができる日を待ちたいとしています。

焼きとり つかさ 長一江社長
「万が一にも感染者が出たら どうなるのかとか、いかに安心して安全に商売ができるかということを考えれば、『開けました』『普段通りですよ みなさん入ってください』とは言えないです。お客様の命にかかわることなので。」

日本は、いま何をしなければならないか。
スタジオでさらに掘り下げます。

新型コロナウイルス 警戒はいつまで続く?

武田:今夜は東北医科薬科大学の賀来さんに、仙台局からご出演いただきます。よろしくお願いします。

ゲスト 賀来満夫さん(東北医科薬科大学 特任教授)

賀来さん:よろしくお願いします。

武田:きょう、大阪・京都・兵庫の緊急事態宣言が解除されました。新規に感染する人の数もだいぶ減ってはきているんですが、賀来さんは この第2波は、いずれ来るというふうにお考えですか。

賀来さん:今、まさに通過点だと思うんですね。ウイルスは存在しています。ゼロになってはない。ですから、第2波は確実に来るのではないかと思います。

武田:どんな形で来るというふうに考えていらっしゃいますか。

賀来さん:これは全く予想がつかないですね。例えば、1人、あるいは2人という発生の仕方なのか、韓国のように数十名、数百名単位で感染が一気に広がるのか。全く分からないので、これは長丁場にもなりますので、気を緩めないで対応していくことが必要だと思います。

武田:その地域でこれまで起きていたようなことが、全く違う形で現れるということも考えられるわけですね。

賀来さん:十分に考えられると思います。いろんなシチュエーション、いろんな起こり方を考えていく必要があると思います。

武田:例えば、これまで医療がひっ迫しなかった地域でも、次はそうなるとは限らない。

賀来さん:はい。一気に数十名、数百名という患者さんが発生しますと、もう医療崩壊が来てしまう。そういった意識でいなければならないと思いますね。

武田:この第2波に備えるために、皆さんいつまで警戒していなくてはならないのかというふうに思っていらっしゃる方も多いかと思うんですが、例えば、これから夏になり、暖かくなっていきますが、これによってウイルスの感染力も少し落ちてくるのではないか。このあたりはどうでしょうか。

賀来さん:今、世界でいろんな研究が行われているんですね。中国の大学、あるいはアメリカのプリンストン大学などがいろんな研究、解析を行っています。温度や湿度が高くなれば、ウイルスの活動性や感染力は実験室の中では低下するんですけれども、私たちは免疫を持っていないので、多分このウイルスは季節は関係ない。ですから、夏になっても感染がゼロになることはないと思いますね。

武田:という心構えで過ごさなくてはならないということですね。

小山:警戒が続くということになりますと、心配なことの1つは学校の再開です。先ほど、韓国のキさんが、「まずは再開、必要に応じて再び休校も」というふうに話していたんですけれども、賀来さん、これは日本も同じような対応になるんでしょうか。

賀来さん:同じような対応になると思いますね。リスクのゼロを待っていては1年、2年かかると思うんですね。リスクはゼロにはならない。ですから、リスクをコントロールしながら学校を再開、社会的な活動を再開していく必要があると思います。

武田:賀来さん、リスクをゼロにできないということですが、学校に通わせる親としてはちょっと不安があると思うんですが、どう考えればいいのでしょうか。

賀来さん:例えば、子どもさんにマスクをつけていただく、教室を3密状態から避けるような換気を行う、会話は慎む、学校のトイレなど、いろんなところを細やかにガイドラインを示して対応していく必要があると思います。

小山:賀来さんはJリーグ、プロ野球の再開に向けてのガイドラインの策定にも関わっていらっしゃるということなんですけれども、さまざまな活動が今後 再開されていく中で、ガイドライン、指針というものが、われわれにとって守りやすくて、実効性のあるものにしていくためには、何がポイントになるのでしょうか。

賀来さん:やはり現場が対応できるようなガイドラインやマニュアルまで落とし込むことが必要だと思うんですね。私たちは8名の専門家がいるんですが、毎日のように、例えば、「ボールがリスクにならないのか」、「トレーナーの方が選手をマッサージしたときに濃厚接触者にならないのか」といったことも議論しているんですね。いわゆるガイドラインはガイドライン、しかし、それを現場が守りやすい形、実効性ががあるものに落とし込んでいくということが必要だと思います。

小山:そうした細かいところまで決めていくためには、どういうことが必要だとお考えですか。

賀来さん:例えば、専門的なことについては私たちが支援していく。もう一つは、やはり経済的な支援が絶対に必要だと思いますね。設備やいろんなことでお金がかかりますので、これは政府がしっかりと支援していくことが必要だと思います。

“日常”をどう取り戻す?

武田:これから、感染を防ぎながら日常を取り戻していくということになるわけですけれども、私たちが一番大切にしなければならないことは何でしょうか。

賀来さん:実は、私は長く感染症対策に携わっているんです。院内感染対策、いろんな対策をとってきました。これまで感染症対策は、例えば、どういうふうにうつっていくのか、接触感染、飛まつ感染、空気感染というような考え方だったんですけど、今回は専門家会議が示した「3密」ですね。これはまさに 感染のリスクポイントを示しているわけです。

武田:これまで、さんざん聞かされてきた言葉ではあるんですけれども。

賀来さん:これは非常に大きなポイントだと思います。私も長く感染対策をやってますけれども、これを示してくれたというのは非常に大きいです。どこに行けばリスクがあるのか、それを私たちが理解できる。それを国民の方も理解した。そういうことがしっかり理解され、行動されたので、日本がロックダウンしなくても、ここまで感染が下がってきたのではないか。まさに、これからも「3密」を避け、基本的な感染対策を守っていく。そして、ガイドラインを重視して対応していく。細やかなガイドライン、国民、専門家、行政、そして経済的な支援も含めたネットワークが必要になってくるんだと思います。

武田:ウイルスはなくならない。そして、薬やワクチンもまだ開発に時間がかかる。そういった中で私たちができることは、改めて「3密」を避けて、リスクをコントロールしていくということですね。

賀来さん:そうだと思います。

武田:どうもありがとうございました。