裁判傍聴芸人の阿曽山大噴火です。今回傍聴したのは、3月30日にさいたま地裁で行われた二階堂直樹被告人(41)の強制わいせつ未遂の初公判。埼玉県朝霞市の路上で女性を押し倒して負傷させたとして、強制わいせつ致傷で逮捕と報じられた事件です。
逮捕のニュースが報じられたのは去年9月。各社、元Hysteric Blueのギタリストが逮捕されたと伝えていました。
新聞記事になると必ずと言っていいほど、「1999年に『春〜spring〜』がヒットしてNHK紅白歌合戦にも出場していたバンド」という書き方をされますよね。事実だけど、他にも「なぜ…」「グロウアップ」「ふたりぼっち」「ベイサイドベイビー」とかタイアップも多くて世間に知られている曲も多いのですが。
当時はJUDY AND MARYの真似事みたいなフォローバンドが大挙してデビューしていて、Hysteric Blueも同じ色眼鏡で見られていたので、上記の曲を作っていたドラムのたくやのメロディーメイカーぶりとか、ボーカルTamaの歌唱力とかが正当に評価されてなかった印象のあるバンドです。
ちなみに、デビュー当時のプロデューサーがBOØWYやGLAYやJUDY AND MARYをプロデュースした故・佐久間正英氏で、今までは依頼されてバンドのプロデュースをしていたのがHysteric Blueに関してはデモテープを聴いてすぐに自ら連絡したそうで、デビュー前から何か光るものがあった人達なのでしょう。
そんなHysteric Blueの音源ですが、今現在CDは廃盤。音楽配信サイトでは一曲も配信されていません。というのも、ギターを担当していたナオキが2004年に強制わいせつで逮捕されバンドは解散、CDは回収されて廃盤となったからです。
その後ナオキは懲役12年の刑を言い渡されて服役。出所直前の2016年7月には私も連載している雑誌「月刊創」に獄中手記が掲載されて話題になりました。
そんな過去を持つ被告人が出所から4年経って、またもや性犯罪で逮捕されたためセンセーショナルに報じられたのかなと。
被告人の発言前に法廷内で一波乱
さいたま地裁の敷地内に植えてある桜の花びらが玄関の中にも入ってきていて、いかにも春っぽい雰囲気。さいたま地裁の巨大迷路のようなややこしい庁舎内を歩いてB棟の法廷へ向かうと、開廷30分前の時点で傍聴希望者が6人だけ並んでいました。これくらいの注目度ということなのでしょう。最終的には司法記者が14人、一般傍聴人10人が傍聴席に座っていました。
開廷時間になると、弁護人とともに黒いスーツを着て頭を丸刈りにした被告人が入廷してきて裁判スタートです。
起訴状の内容は、被告人は徒歩で通行中の女性に強制わいせつ行為をしようと考え、2020年7月6日午前2時13分に埼玉県朝霞市の路上で被害女性の背後から左手で口をふさぎ、服の上から右手で胸を触ろうとしたが被害女性に抵抗されたため、その目的を遂げなかった…というもの。
逮捕当時のニュースではケガを負わせたと報じられていましたが、起訴状ではケガを負わせたことにはなっておらず、未遂になっています。
検察官が起訴状の朗読をして、裁判官が黙秘権の説明を終えると弁護人が立ち上がって、
弁護人「検察官に釈明を求めます」
と求釈明。
起訴状の中に分かりにくい部分とか曖昧な記載がある時に「求釈明」といって、釈明を求める場合があります。不明瞭なところがあったかな?と思ったら、
弁護人「強制わいせつ行為をしようと考え…という部分ですけど、具体的には何を指しているんでしょうか?」
と、強制わいせつの意味をハッキリさせて欲しい様子。
裁判官「まぁ、説明の必要はないと思いますけど検察官いかがですか?」
検察官「説明の必要はありませんが、あえて言うなら起訴状の通りと」
被告人がやったかやっていないかを答える前に一波乱。普通は起訴状の中で、わいせつ行為とは〜とか書かないでしょうからね。この時は変な求釈明だなと思っていたのですが。
被告人「強制わいせつ行為をしようと考えていたわけではない」
罪状認否です。
裁判官「検察官が朗読した起訴状に間違っている点はありますか?」
被告人「日時・場所は間違いないです。行為としては左手で口をふさいで胸を触ろうとして抵抗されたのは事実です」
それは全て間違いないと聞こえますけど、何か含みのある言い方です。裁判官も不思議に思ったのか、
裁判官「ん?どの部分を否認するんですか?」
被告人「強制わいせつ行為をしようと考え…のところが違います」
全体的には事実だけど、強制わいせつ行為をしようと考えていたわけではないというのが被告人の言い分。すると弁護人が立ち上がって、
弁護人「だから、説明の必要があると思います!」
さっきの求釈明は罪状認否をするのに重要だと改めて抗議です。
裁判官「裁判所としては必要ないと考えます。強制わいせつ行為がよく分からないのでその部分を否認すると?」
被告人「はい」
裁判官「弁護人のご意見は?」
弁護人「本件は迷惑防止条例違反または暴行が成立すると考えます」
被告人の行為は間違いない事実で、もうちょっと軽い罪名じゃないの?というのが弁護人の主張のようです。
これは法的な解釈というか、被告人の当時の気持ちをどう評価するかの裁判になりそうです。私のような素人の考えだと、真夜中に1人で歩いている女性の口をふさいで胸を触ろうとしているわけだから、わいせつ行為以外の何物でもないと思いますけどね。
刑法176条の強制わいせつ罪は「13歳以上の人に対して、暴行や脅迫を使ってわいせつな行為をすること」とありますが、わいせつな行為の説明についてはなし。そもそもわいせつ行為とは何かという定義を問う裁判になってきました。
サンダルを脱ぎ、足音を消して被害者に近づいた
そして検察官の冒頭陳述です。
被告人は大阪出身で高校を中退し、本格的にバンド活動をしてギタリストとして活躍していたと。しかし2004年にバンドは解散。犯行当時は屋根修理の仕事をして、内妻と同居していたそうです。
前科は1犯で、2006年に強姦などの罪で懲役12年の判決を言い渡されて、2016年に出所。
そして犯行前日である2020年7月5日の夜。被告人は内妻と些細なことでケンカになり、家を出て午後10時に飲食店を1人で訪れ酒を飲んだといいます。
飲食店を出た後にコンビニで酒を購入。コンビニを出ると被告人は被害女性を見かけ、後をつけたとのこと。被告人は追跡の途中で足音がするということでサンダルを脱いで裸足になり、邪魔になるバックも路上に置いて尾行。被害女性の口をふさぎ服の上から胸を触ろうとしたところ、被害女性が叫んだので被告人は逃走したとのことです。
被告人は犯行の3日後である7月9日に内妻に犯行を告白。その2日後に警察署に自首したというのが事件の流れになります。
調べに対し内妻は「3年前から同居しており、7月9日、本人から直接事件を告白された。泣きながら告白していた」と述べているそうです。ケンカして出て行って、戻ってきたら事件を起こしたと聞かされるのは、なかなか辛い話ですね。内妻もケンカした自分を責めてしまいそうです。
取り調べに対し被告人は「内妻との価値観の違い、仕事に対する悩みを抱えていたのが原因で口論になった。口論の後、居心地が悪かったので外へ出て酒を飲んだ。お店ではジョッキ6杯飲んだ。被害女性を見つけて尾行をして、自分の存在を知らしめようと思った。性欲を満たそうという気持ちもあったと思う。被害女性を尾行している時にサンダルを脱いだのは、小走りで被害女性との距離を縮めるのに音でバレることを防ぐため」と述べているそうです。
取り調べでは、「性欲を満たそうという気持ちもあった」と述べていたようですね。いろいろ熟考して、そういう気持ちはなかったという考えに今は落ち着いたのでしょう。
ほとんど認めている気もするけど一応否認事件のため、次回は被害者を法廷に呼んでの証人尋問が行われます。年度末、年度始めを挟むため、検察官の人事異動もあるということで次回は5月20日。随分先になりますね。
さらに弁護人としては被告人の内妻を情状証人として出廷させる予定だそう。わいせつな気持ちがなかったと本人が法廷で語るのはどれくらい先になるのやら…。