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橋本聖子のウソを暴く 「内部告発」5連発

回収要求された小誌だから書ける

「週刊文春」編集部

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橋本会長は会見で「業務妨害」と語ったが……
橋本会長は会見で「業務妨害」と語ったが……

 開会式の演出案などを報じた小誌先週号に対し、橋本会長率いる五輪組織委員会が取った対応は「雑誌の発売中止及び回収」の要求という異常なものだった。だが、「組織委の隠蔽体質はもう看過できない」。憤る職員や関係者から、続々と内部告発が寄せられた――。

「東京大会をやり遂げることは、今後の人生に必ず生かされる」

 門出の春、4月1日。五輪組織委員会・橋本聖子会長(56)は新たに迎えた283名の職員に対し、リモートの画面越しに爽やかな訓示を述べていた。

 その日の夜7時13分。小誌記者に組織委から一通のメールが届いた。添付された書面は橋本氏名義。そこには“昼の顔”と打って変わり、強い文言が並べられていた。

小誌に届いた組織委の抗議書面
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〈週刊文春4月8日号を直ちに回収し、今後の販売を中止すること〉

 小誌はこれまで、東京五輪開会式を巡る問題について報じてきた。先週号(4月8日号)では、開会式の責任者だった演出振付家・MIKIKO氏(43)チームの“葬り去られた演出案”を報道。これに対し、組織委は開会式演出の価値が大きく毀損されたこと、代替案を考案するのに多大な時間や費用がかかること、著作権侵害にあたることなどを理由に、当該誌の回収と販売中止を求めたのだ。

 知的財産権が専門の玉井克哉・東京大教授の指摘。

「演出案の報道は、著作権法第41条『時事の事件の報道のための利用』の典型的な例。著作権侵害とは言えず、雑誌の回収は不当極まりない要求です」

 だが翌2日、橋本氏は会見で「守秘義務違反など徹底的な内部調査に着手した」と強調。組織委の意向を受け、業務委託先の電通社内ではメールの履歴などの調査が始まったという。

「しかし、情報が表に出てくるのは、組織委が“不都合な事実”に蓋をしようとするから。アスリートや現場スタッフを軽視し、電通やスポンサーなど一部の利益を優先する組織委の姿勢はもう看過できません」

 こう訴えるのは、組織委関係者だ。そして小誌には新たな「内部告発」が次々と寄せられたのである――。

 第一の「内部告発」は、橋本氏会見のウソだ。小誌は、MIKIKO氏が昨年5月に責任者を外されて以降、今後の方針やスタッフらの処遇に関する十分な連絡がなかったことを報じてきたが、会見でこの点について問われた橋本氏は堂々とこう言い放った。

「MIKIKO氏と組織委員会とでは、しっかりした情報の共有の話し合いはされてきた、という風に伺っております」

「雑誌回収」をスルーした新聞

 しかし、これは事実と全く異なる。前出の組織委関係者が明かす。

「昨年5月、当時の森喜朗会長(83)らに挨拶をして以降、組織委からMIKIKO氏への連絡は滞っていました。普段からやり取りしていたのは、電通の五輪担当者でしたが、彼らからも連絡がなかった。それで昨年10月、意を決したMIKIKO氏は電通に連絡を取ったのです。彼女自身が3月26日に発表したコメントでも、同様のことが記されています」

辞任した森前会長

 組織委側も、自分たちに問題があったことは自覚していたはずだという。

「昨年12月にMIKIKO氏や野村萬斎氏らの演出チームが解散する際、組織委幹部の中村英正ゲームズ・デリバリー・オフィサーは連絡が行き届かなかった不義理を詫びていた。組織委も水面下で責任を認めていたのです」(同前)

 こうした経緯があったにもかかわらず、4月2日の会見で「MIKIKO氏とは情報共有してきた」と口にした橋本氏。その一方で「雑誌回収」の正当性を主張したわけだが、不可解なことにその“事件”をスルーした報道機関があった。

 翌3日朝刊で報じたのは朝日新聞と産経新聞。読売新聞はなぜか1日遅れで掲載したが、毎日新聞と日経新聞、そしてNHKは一切報じなかったのだ。

「大手紙5紙の中で、産経を除く4紙は、五輪の『オフィシャルパートナー』に名を連ねています。新聞社が五輪のスポンサーになったのは過去に例がないそうで、4社が分担して支払った契約料は60億円以上とされている。NHKも民放各局とのコンソーシアムで五輪の放映権を獲得しています」(運動部デスク)

 なぜ報じなかったか。各社に見解を尋ねたところ、

「取材や編集の過程についてのご質問にはお答えしておりません」(毎日新聞社長室)。「編集判断はお答えしておりません。東京五輪のスポンサーであることで報道が妨げられることはありません」(日本経済新聞社広報室)。「自主的な編集判断に基づいて、取材・報道しています」(NHK広報局)。

 組織委は小誌に抗議した翌日、毎日新聞にも抗議をしている。矛先が向けられたのは、4月1日朝刊で報じたこの記事だ。

〈五輪「人件費単価」30万円 肥大化止まらず〉

 五輪の会場運営を担う企業への委託費の積算にあたり、人件費単価が1日当たり最高30万円と設定されていたことを、内部資料を基に報じたのだ。これに対し、組織委は翌2日、公式サイトに反論を掲載。〈人件費単価の設定は行っていません〉などと報道を真っ向から否定した。

人件費単価を記した内部資料(上)と、会場運営委託に関する仕様書

 しかし――。この言い分に憤りを隠さないのは、組織委に勤める現役職員だ。

「毎日新聞の報道は事実です。組織委内でも皆、『正しいのに、組織委がおかしな反論をしている』と言い合っている。ただ、毎日新聞は大会スポンサーなので、今後黙ってしまう可能性があります。でも、税金の使い方としておかしい。だから文春さんにお話しします」

 第二の「内部告発」である。小誌はこの職員から、昨年7月分の会場運営委託費の見込額が記載された内部資料の提供を受けた。毎日報道は昨年3月の五輪延期決定前の資料に基づいていたが、これは、延期決定以降に作成されたものだ。

 資料によれば、五輪競技が開催される全42会場の運営が電通や博報堂、ADKといった広告代理店計9社に委託されている。

 例えば、サッカーやラグビーが開催される東京スタジアムは「東急エージェンシー」が担当。人件費は〈運営統括〉と〈チーフ〉に分けられ、〈単価〉の欄にはそれぞれに〈250千円〉と記載がある。管理費が15%、諸経費が5%と記され、消費税を加算すると約33万2000円だ。

通常の3倍もの人件費単価

〈単価〉が最も高いのは博報堂系の「大広」で〈253千円〉。管理費、諸経費、消費税を加算すると、一人あたり1日33万6000円が見積もられている。

 前出の現役職員が言う。

「この資料からも、委託費を見積りする際に人件費単価から総額を算出していることは明らか。しかし、組織委は『人件費単価の設定は行っていません』とウソをついているのです」

 実際に労働者に支払われる「日当」は人件費単価の半額程度とされるが、それを踏まえても、一人あたり1日30万円超という金額は高すぎるのではないか。

「一般的に大規模イベントの『運営統括』に対する人件費単価の相場は、10万円程度ですから、通常の3倍もの高さです。五輪では当初、会場で活動する医師や看護師などは原則無報酬とされていました。昨年末、派遣元の医療機関などに手当を支給する方針に転換しましたが、電通や博報堂などの広告代理店にこれだけの報酬が支払われているのは、バランスを欠いていると言わざるを得ません」(電通関係者)

 毎日新聞の取材には「金額は非公表」とした組織委だが、会計検査院元局長の有川博・日本大学客員教授はこう指摘する。

「組織委は公益財団法人として、税制面の優遇も受けています。さらに国や都の税金も投じられており、高い透明性が求められる組織。人件費についても、疑念が持たれないようにきちんと情報公開すべきです」

 さらに――。

 現在、日本列島を巡っている聖火リレー。小誌記者は4月4日、岐阜県を通過した聖火リレーに同行した。聖火ランナーを誘導するのは、3台の宣伝車。コカ・コーラ、NTT、日本生命のものだ。周囲では、揃いのユニフォームを着たスタッフが、ドリンクやタオルを配布。それぞれのクルマが大音量の音楽を流し、乗車するDJが観覧客に呼びかける。

聖火リレーのスポンサー宣伝車

「ウィー・アー・N・T・T!」

 懸念された“密”状態も各所で発生。大垣市でお笑いコンビ・ANZEN漫才のみやぞんが走者を務めた際には、一目見ようと多くの人たちがひしめき合い、「みやぞ〜ん」と大きな声援が飛び交っていた。

「“密”状態が発生するのは予測できたことなのに、聖火リレーを実施するのは、巨額のスポンサー料を払っている企業側への配慮もある。聖火リレーの現場は貴重な宣伝機会ですから」(電通幹部)

 だが、華やかな舞台の裏側では、深刻な問題が起きているという。現場スタッフが小誌に訴える。

「実は3月25日の聖火リレー出発から3日間で、3件もの車両事故が発生したのです」

 聖火リレーの運営は、組織委から委託を受けた電通が担う。現場の運営は、その電通から発注を受けた企業のスタッフが行っているが、

「五輪延期に伴う簡素化で人員が削減されてしまい、運営スタッフは3〜5人の4班編成という少人数で聖火リレーに同行しています。班によっては日の出前に出発し、業務終了が夜の10時過ぎになることも。休憩時間は組み込まれておらず、食事時間もほとんど無い。事務局からは『各班交替で休みを取るように』と言われていますが、休んだら業務が回りません」(同前)

 県をまたいだ移動の場合は、2〜3時間に及ぶ長距離運転を強いられる。

「運転するスタッフは寝不足だし、慣れない道を運転するのも怖がっている。この先大きな事故が起こらないか、不安です」(同前)

 電通本社では働き方改革が進められている一方、こうした現場では、危険も伴う過酷な勤務が求められているのだ。ところが、組織委はこの3件の事故を公表していない。なぜなのか。

〈五輪はIOCの独占的財産〉

 組織委は小誌への抗議前の3月29日、以下のように回答していた。

「車両の軽微な接触事故が起きていることは事実です。警察への届出などを含め、事故処理を適切に行っています。今回の事案については、受託会社(電通)に厳重に注意を行いました。引き続き、安全で安心な聖火リレーが実施できるよう、努めてまいります」

 過酷なのは、運営側の現場スタッフだけではない。

 3月28日夜8時、栃木県那須烏山市を、104歳の聖火ランナーが駆け抜けた。箱石シツイさん。現役理容師としてハサミを持ち続ける女性だ。晴れがましいはずの舞台。しかし、伴走者を務めた息子の英政さん(77)は声を落とす。

雨天の中を走る104歳の箱石シツイさん

「組織委にはランナーに対する配慮が欠けていた。とにかく不親切でした」

 当日はあいにくの雨模様で、気温も上がらず肌寒い気候。シツイさんは防寒対策で、支給されたユニフォームの下に、縞模様のセーターを着込んでいた。ところが、運営側から脱ぐよう指示されたという。

「『ユニフォームの襟からセーターの柄が見えるからダメだ』と。幸い、厚めの下着を何枚か用意しており、どうにかなりました。母は走ることに集中していたので、嫌がる素振りを見せませんでしたが……」(同前)

 組織委の公式サイトには「聖火ランナーユニフォーム着用規定」が掲載されている。〈全体のデザインが隠れてしまったり、形を崩すような方法での着用はできません〉と記され、NG事例として、シャツの袖やズボンの裾をまくることなどが挙げられている。襟元から見えるものもNGとされ、シツイさんはこれに触れてしまったようだ。現場からは「容認すべき」という意見も上がったが、運営本部は頑なだったという。

 なぜ組織委や電通は、これほどまでに杓子定規な対応に終始するのか。

「IOCの影響です。都とJOCがIOCと結ぶ開催都市契約は『不平等条約』と言われますが、立候補した都はあくまで自らの意思で開催場所をIOCに提供した存在に過ぎず、組織委はIOCの手足になる“イベント屋”との位置づけです」(別の組織委関係者)

 事実、契約の序文に〈IOCは、オリンピック・ムーブメントの最高の権威で、五輪はIOCの独占的財産だ〉と明記されている。

「聖火ランナーのユニフォームにはIOCの知的財産権の象徴、五輪マークがあしらわれている。襟元から見える服でそのデザインを侵害してはいけないと、“イベント屋”の組織委が判断したのでしょう」(同前)

 契約によれば、IOCの知的財産権には、放送や記録、表現、流布など、あらゆる形態や手法、メカニズムが含まれている。それゆえ、報道に関しても、通常では考えられないような制約が生まれているのだ。

「IOCの独自ルールで報道関係者が聖火リレーの動画を撮影した場合、公開して良いのは撮影から72時間と定めています。実際、東京新聞の記者が南相馬市内での聖火リレーの様子をツイッターに投稿。宣伝車のお祭り騒ぎぶりを問題提起する趣旨でしたが、3日後に削除しました。記者は『ルール違反を理由に、会社全体の取材に影響が出ることを懸念した』としています」(前出・デスク)

 IOCが72時間ルールを設けたのは、最大のスポンサーであるテレビ局に配慮した結果だという。

「IOCの収入源は、7割を占める放映権料です。中でも、米放送大手NBCユニバーサルとは、32年の夏季五輪まで計約1兆3000億円の大型契約を結んでいる。さらに、五輪の映像を制作して各国の放送局に配信する五輪放送機構の総放送時間は、前回大会の7100時間から、東京大会では過去最大の9500時間に増えます。こうした事情から、IOCはNBCなどに最大限の配慮をしなければならない。72時間ルールには、動画の配信はTV局を優先させたい思惑がうかがえます」(同前)

 しかし、そもそもIOCに、こうした報道を制限する権利はあるのか。前出の玉井教授が指摘する。

「そもそも公道を使った聖火リレーに、著作権などの知的財産権は認められない。IOCの“ルール”は、取材したければ理不尽な規制に応じることを押しつけるもので、優越的地位の濫用に当たる可能性もある。公金が投入されたイベントの報道対応として、不適切と言わざるを得ません」

渡辺直美もMIKIKO氏(右)の案を絶賛していた

 冒頭で触れたように、MIKIKO氏チームの演出案を報じたことで、組織委は小誌に「雑誌回収」要求を行ったが、そこにも、五輪に関係するあらゆるものに知的財産権を主張するIOCの影がちらつく。

 実は、MIKIKO氏らがその演出案を制作する過程でも、IOCからは様々な横やりが入っていたという。

「日本国内では今回の五輪を“復興五輪”と位置づけていますが、このワードはIOCには受け入れられていませんでした。MIKIKO氏体制の頃、開会式に黙祷のシーンを入れようとしたら『こんな暗い場面は要らない』と注文をつけられたこともあったそうです。IOCの要求は『とにかく派手にしろ』。昨年3月の延期決定後には、組織委側が簡素化のためにセレモニーの時間短縮を求めましたが、IOCに断固拒否された。その理由はやはり、セレモニーを放送するTV局との契約問題でした。開会式は、全世界で9億人以上が視聴するキラーコンテンツ。TV局の利益を考えれば、時間を短縮するわけにはいかなかったのです」(演出チーム関係者)

山下会長率いるJOCでも……

 組織委に対しても、強権を振るってきたIOC。バッハ会長を筆頭に、その贅沢ぶりから“五輪貴族”と揶揄されてきた。

IOCバッハ会長に逆らえない橋本氏

「五輪のたびに開催都市の超高級ホテルに宿泊し、送迎は運転手付きのクルマ。全ての競技会場には役員向けのラウンジが用意され、タダで飲食もできたほどです」(五輪担当記者)

 問題が噴出し、「内部告発」の声が上がっても“封印”しようとする組織委。橋本会長に次ぐナンバー2は山下泰裕副会長だ。

JOCを率いる山下会長

 その山下氏が会長として率いるJOCは、国内の競技団体を統括する存在でもある。だがJOCでも同じように、コーチやアスリートといった現場からの訴えが“なかったこと”にされようとしている。一体、どういうことか。

「日本レスリング協会では、公金の“不正流用”が問題になっています。国が3分の2を補助していたコーチへの報酬の一部を協会に寄付させ、海外遠征での会食代などに充てていたというもの。この流用を発案したのは、モントリオール五輪金メダリストで、専務理事だった高田裕司氏です。10年からの3年間で、16人から総額1400万円弱を“ピンハネ”し、協会に寄付させていました」(運動部記者)

レスリング協会の高田前専務理事

 問題が発覚したのは、昨年4月。元コーチがJOCに訴え出たのがきっかけだった。元コーチが明かす。

「私も高田さんに言われてお金を振り込みました。当時、報酬額は年間で120万円だったのですが、うち20万円を協会に寄付するように言われたのです。高田氏からは『嫌ならコーチ辞めて、報酬ゼロでいいのか』と恫喝もされました」

 レスリング協会は調査の末、今年1月の臨時理事会で高田氏の処分を決定した。しかし、

「専務理事からヒラ理事への降格に留まりました。過去には、文科省所管の日本スポーツ振興センターからの助成金の不正徴収が発覚した全日本柔道連盟で、上村春樹会長以下、理事23人が辞職した。『柔道は厳正に処分したのに、レスリングは甘すぎる』という声が他競技から上がっています」(前出・運動部記者)

 そして、ここからが最後の「内部告発」だ。JOCの加盟団体審査委員会でも調査が行われ、処分が行われるはずなのだが、それが一向に進んでいないという。

 前出の元コーチが訴える。

「加盟団体審査委員会の山口香委員長に『どうなっていますか』と聞いても、弁護士を通して『厳正に処分します』とメールが来るだけで、進展がありません」

 レスリング協会関係者も声を潜めて続ける。

「JOCは本来、交付金を止めるなどの処分を下せるはずです。しかし、JOCの山下会長と、レスリング協会の富山英明副会長は、同い年でロス五輪の金メダリスト同士という盟友。その富山氏は、組織委では選手村の副村長という立場にあります。レスリング協会の福田富昭会長も組織委の評議員を兼任するなど、橋本氏とは一蓮托生の関係。レスリングは金メダルラッシュが期待される“お家芸”です。彼らが『五輪が終わるまで事を荒立てないでおこう』と考えても不思議ではありません」

福田会長

米教授も組織委の抗議を問題視

 では、当事者たちはどう答えるか。富山氏の携帯を鳴らすと、

「私は常に平等に見ていますから(山下氏に)お願いしたことは無い。周りがどう思おうと、いいですが」

 調査を主導しているJOCの山口氏からは、メールで回答があった。

「時間がかかっているのは事実ですが、厳正に対処しているつもりです」

 JOCもこう回答した。

「本会加盟団体審査委員会からは、競技団体側への確認が必要な点が複数発生しているため、整理の上で4月の本会理事会で報告予定と伺っており、ご指摘の事実はありません」

 元コーチが嘆息する。

「五輪まで処分を表に出したくない。少しでも長引かせたいのが狙いでしょう」

 各所から「内部告発」の声が上がった東京五輪。大会の準備及び運営を舵取りする組織委は、これらの問題をどう説明するのか。

 小誌は4月1日、組織委に質問状を送付したが、期日までに回答はなかった。4月3日、武藤敏郎事務総長の自宅を訪ねたが、家族が「家では受けません。広報を通して下さい」。そこで4月5日、改めて質問状を送付したが、「担当者から連絡する」と繰り返すばかりで、期日までに回答を得ることはできなかった。

 言うまでもなく、これまで東京五輪には、巨額の税金が投じられてきた。東京大会の予算は、1年延期に伴って総額で1兆6000億円超にまで膨らんでいる。組織委の収入が足りず、すでに都が150億円を肩代わりすることになった。だが、今後、その負担は更に増える可能性が高い。開催都市契約では、組織委が赤字になった場合、まずは都がその赤字分を補填することになっているからだ。

 税金も投入され、高い公共性と透明性が求められる組織委の一連の姿勢は、海外にはどう映るのか。

 NBC電子版にも論考を寄稿してきた、元サッカー米国代表でパシフィック大学政治学教授のジュールズ・ボイコフ氏が指摘する。

「週刊文春が報じた内容は、明らかに公共の利益に資する内容だろう。日本国民は税金を払っているし、それが開会式を含め五輪に使われているのだから。組織委の執拗な抗議は、言論の自由を蔑ろにしている。東京五輪を巡っては、これまで森前会長の女性蔑視発言をはじめ、組織委の体質的な問題が次々と明るみに出ている。ここで膿を出し切ることこそが、東京五輪のレガシーになるだろう」

 新型コロナの感染拡大も予断を許さない中、国民が祝福するアスリートのための五輪ではなく、一部のステークホルダーのための五輪になってはいまいか。

 橋本氏は会長就任会見で「アスリートファーストの視点」と「丁寧な説明」を誓った。この言葉を実行することこそが、東京五輪開催への国民の支持を高める一番の近道だ。

source : 週刊文春 2021年4月15日号

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