芝居ができないことで、自分が客を喜ばすためよりも自分のためにやっていたことに気づいた千代の揺れる思いを一平が受け止めて、帰宅すると、みつえと一福(歳内王太)の様子がおかしい。
「怒ってんの?」と千代がすこしふざけて聞くと、「怒ってへんよ」と返すみつえ。いつもならここで丁々発止のやりとりが繰り広げられるが、そうならない。みつえも一福もあまりに様子がへんなことに千代は気づけない。
一平がちゃぶ台の上の福助の戦死の知らせを見つけ、ようやく状況を理解する千代。なんて間が悪いのか。こんなすれ違いは現実にはありそうだけれど、これをわざわざドラマで描くのは人が悪いというか、リアリスティックというか。おかげで千代がとても無神経な人物という印象になるが、彼女のこの無神経な感じが、あとあと彼女を苦しめることになる。
みつえはショックで寝込んでしまい、シズ(篠原涼子)と宗助(名倉潤)が訪ねてきても起きようとはしない。
「あんたにうちの気持ちなんかわからへん!」とみつえから拒絶されてしまう千代。86回で、居候と家主の立ち場が逆転して、
87回で、寛治(前田旺太郎)が満州に行って、大切な人を送り出す気持ちをみつえと分かち合ったと思ったにもかかわらず、哀しみの大きさは果てしなく開いていた。
その後、千代は農家に食べ物をもらいに行くが、ここでも否定される。「あんたらがちやほやされてええ気になっていた間も、うちらは泥まみれで畑耕してたんや」「あんたらもちっとは世の中の役に立つことしてみいな」と農家の嫁(岡部尚子)に突きつけられる。
このとき、この女性の言い方はきつすぎないところに、配慮を感じる。以前なら、意地悪な人として描かれがちだったが、彼女には彼女の言い分があることがわかるような、感情的になりすぎない話し方になっていた。でも役名が「農家の嫁」というのが微妙ではあるが……。