学習と健康・成長

「服育」を通して学ぶ社会とのつながり 国際意識を学ぶきっかけにも

2021.04.06

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阿部 花恵
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生活の土台となる衣食住の一つでありながら、おしゃれの観点以外では語られる機会が少ない「衣服」。しかし、衣服が果たす役割はそれだけではありません。健康や安全を守ることはもちろん、社会性、環境意識、さらには国際意識を学ぶきっかけにもなります。今回は、そんな衣服の学びについて、服育net研究所の有吉直美さんにお話を聞きました。

Naomi_Ariyoshi

話を聞いた人

有吉 直美さん

服育net研究所

(ありよし・なおみ)大阪教育大学において美術教育を専攻。イギリスへの留学後、繊維専門商社「株式会社チクマ」に入社。学校制服を扱う同社キャンパス事業部で2004年に「服育」の立ち上げに携わる。2015年から服育のさらなる発展を目指す「服育net研究所」に所属し、学びツールの開発やイベント企画など、大学や緒団体と連携した服育の研究と普及に力を注いでいる。

着ているだけで服は「発信」している

――そもそも「服育(ふくいく)」とはなんでしょうか。

「毎日身につける『衣服』をさまざまな角度から知ることで、子ども自身の豊かなこころ、生きる力を育てていこう」。このような目的のもとに、株式会社チクマが2004年に提唱した学びが「服育」です。

服育の必要性は、私がチクマのキャンパス事業部、つまり、学校制服を扱う部署で仕事をしていた20年前から、少しずつ感じるようになっていました。というのも、学校側から制服に関する相談を受ける機会が年々増えてきたからです。

例えば、わざと制服を着崩している中高生に対して、学校の先生方は「ちゃんと着なさい」と指導します。でも、なぜネクタイを緩めてはいけないのか、なぜスカートを短くするとだめなのか……などの生徒からの疑問に「実はきちんと答えられない」という悩みが多く寄せられていたのです。

本来、学校はみんなで共に学ぶための場であり、好き勝手に過ごす場ではありません。ですから、「なぜ制服を着崩してはだめか」の問いには、TPOの観点から答えられます。

――あえて着崩すようなスタイルも、プライベートであれば個人の自由。でも、それを学校でやると不適切になってしまう、と。

はい。衣服には、非言語(ノンバーバル)コミュニケーションの役割があります。人間は言葉で他人とコミュニケーションを取りますが、それ以上に表情や態度、そして服装からもお互いを見ているんです。つまり、どんな服装で相手と向き合うかはコミュニケーションの一つであり、社会性にも繋がっているのです。

このことを自覚している方は少ないのではないか? そうした疑問から服育net研究所では、学校でのイベントなどを通して衣服が持つ力を伝える活動に力を入れています。

――子どもも大人も、「衣服は他者や社会へのメッセージになっている」と自覚する必要性があるんですね。

おっしゃるとおりです。教育現場で生徒たちに話す際には、「服は黙れない」と伝えています。服って、基本的には人間だけが着るものです。だからこそ、共同体として生活する中で、その服にどんな意味があるのかを考えるべき。そう伝えると、服が持つメッセージ性に、生徒は気付いてくれます。

例えば、冠婚葬祭はとくにわかりやすい場面です。主催者や集まった人へ、祝福やお悔やみの思いを伝えるために、どんな服装を着用すべきか。TPOをわきまえるということは、服装を選ぶことで、相手への思いやりを込める意味にも通じています。

こうしたマナーを成長過程では身に付けなければなりません。自分をよく見せるツールとしてだけ服を捉えるのではなく、TPOに合った着こなし、他者への思いやりを根底に持つように促しています。

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