営業・マーケティング

出版業界は「オワコン」か?出版というビジネスモデルの歪み

『ベストセラーの値段』より一部抜粋
ベストセラー
水野 俊哉(みずの・としや)
1973年生まれ。本業はビジネス書作家。会社経営を経て2008年「成功本50冊『勝ち抜け』案内」(光文社)でデビューし、同シリーズは累計10万部を突破するヒットとなる。以後も「法則のトリセツ」(徳間書店)、「幸福の商社 不幸のデパート」(大和書房)など話題作を続々と発表し、2017年時点で著書20冊(内電子書籍1冊)。1冊を書きあげるまでの入念な準備と完成度の高い内容に、執筆依頼、取材依頼は後を絶たない。また、商業出版を目指す後進たちを支援するために開講中の、「水野俊哉主催 出版セミナー理論編」は、全国700名以上が受講。採算度外視で業界では破格と言われている少人数制セミナーは、開講から8年で約250名が受講し、受講生の5割以上が大手出版社から商業出版決定という驚異的な実績を誇っている。また理想の出版を目指し2015年にカシオペア出版、2016年にはサンライズパブリッシングを設立し、数多くのベストセラー作品を世に送り出している。趣味はサッカー、ドライブ、お酒を飲むことと読書、旅行。

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出版業界はオワコンか?

内側から見た「出版不況」

出版不況という言葉が叫ばれはじめて久しいですが、出版業界に身を置く私から見ても、その状況は悪くなる一方です。厳しい言葉を使うのであれば「出版業界はオワコンである」と感じています。

出版業界、と一口に言ってもそこには多くの仕事があります。まずは大本となる本を作る出版社、そしてそれを流通させる取次業者、さらに実際に販売する書店。それぞれの企業の下には編集者、ライター、営業、書店員などなど、1つの本が出版される過程には多くの人々が関わっています。

誰もが貧しい業界

出版業界が不況になるということは、そこに携わるすべての人々が貧しくなるということです。例えば、出版社から依頼されて、本の企画や編集を代行する仕事のことを「編集プロダクション(略して編プロ)」と言いますが、40代の編プロ勤務で手取りが15万円、なんて言う人もいます。

2019年10月、ホリエモンこと堀江貴文氏が「手取り14万円のお前が終わってんだよ」というツイートをして話題になりました。

とあるネット掲示板上で、必死に働いても手取りが14万円しかないことを「日本終わってる」と嘆いた投稿に対し、先述の返信をした堀江氏は、その後動画にてこのコメントの意図を「これだけお金を稼ぐ手段やそのための情報がインターネット上に溢れている時代に、わざわざそんな仕事をしているのがおかしい」と解説しています。

このような物言いに対する賛否はともかくとして、堀江氏に言わせれば先ほど紹介した編プロのような仕事も「終わってる」ということになってしまうのでしょう。

そして編プロだけでなく、フリーライターや取次業者の社員など、出版業界に携わる職業のほとんどが、このような状況にあるのが現実です。

まさに「オワコン」なのです。

出版というビジネスモデルの歪み

大手出版社も経営に不安を抱えている

なぜ彼らへのギャランティが低いのか。答えは単純で、それを支払っている側が儲けていないからです。先ほど出版というビジネスはおおまかに言って出版社→取次業者→書店という流れになっていると書きました。

一番上流に位置する出版社がそもそも儲けていないのですから、下流にお金が流れるわけがありません。

皆さんが名前を知っているような大手の出版社も皆、経営に不安を抱えているのが現状で、結果として取次業者も書店も非常に苦しい状況にあります。

売上額は全盛期の半分なのに出版点数は増加

出版不況が深刻化している1つの証左として、大手取次業者である日販の2018年度業績が、19年ぶりに赤字となったことが発表されました。日販の発表によると、書店での出版販売金額はピーク時の半分ほどになっているとのことです。

販売金額が半分ということは、そこで働く人々の分配される金額も半分、と思ってしまいますが、実際はそれよりさらに良くない状況が訪れています。

普通、会社というのは商品が売れなくなれば、生産数を絞りコストカットを図ります。しかし多くの出版社では、逆に出版点数(出版する本や雑誌の種類)は増大しているのです。

売れない本を作らなければならないワケ

これを説明するにはまず、出版における売上の考え方を説明する必要があります。先ほど出版社が作った本が、取次業者により物流に乗り、最終的に書店を通して読者に届く、という話をしました。

①出版社
②取次業者
③書店
④読者

出版物が最終消費者である④読者に届くまでにはこうしたステップがあるわけですが、これを②取次業者の目線で考えると、①出版社から買った(仕入れた)本を、③書店に売ることでマージンを得ている、という仕組みです。

ここで重要なのは、出版社からすれば、最終的にその本が読者に買われない「不人気」な本であったとしても、ひとまず取次業者にさえ渡してしまえば売上が発生するということです。

当然ですが出版社も、社員への給料や著者への印税など毎月のように多額の支払いがあり、それを回すためには売上が必要です。したがって最終的に読者から購入されるかされないかにかかわらず、一定数を取次業者に納品する必要があります。

一方で取次業者やその下流の書店からすれば、最終的に読者から買われない、すなわち「売れ残り」が想定されるような本は仕入れたくありません。この出版不況の世の中ではほとんどの本が「売れ残り」になってしまう可能性のほうが高いと言えるわけで、そう考えるならば出来る限り少ない部数に仕入を抑えることで、売れ残りのリスクを抑えようとします。

究極の自転車操業

さて、こうなると出版社は困ります。一定数の売上がないと経営が立ちいかないのに、書籍1点あたりの売上(部数)は下がる一方なのです。そこでどうするか、と言うと出版する本の種類、すなわち出版点数を増やすわけです。

新刊となれば取次業者も引き受けざるを得ないので、出版点数(書籍の種類)を増やすことでなんとか売上を確保できるわけです。

ひとつひとつの書籍はあまり売れないが、月々の支払いをこなすためにたくさんの種類を作ることでなんとか埋め合わせているのです。もし出版するものがなくなったり、取次からのお金が払われなくなったらその瞬間に経営が立ち行かなくなる、大手出版社でさえそんな究極の「自転車操業」が行われているのが出版業界です。

さらにはその出版社が頼りにしているはずの取次業者側も、先ほどの日販の例のように赤字を抱えているのですから、業界全体がオワコンだという他ありません。

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