対面鑑定で、相談者は客観的に自分を眺め、占い師はプロ意識を高める
――千田先生は、普段バーを経営されながら占い師兼バーテンダーとしてお客様に向き合っているわけですが、対面の鑑定の良さはどんなことにあるのでしょうか?
千田歌秋先生(以下敬称略): 対面鑑定では、相談者と占い師が同じ空間にいることになります。物理的にも心理的にも距離が近くなりますから、その人の外見、声、挙動、さらには息づかいや匂い、身体や心理的な状況など、ありとあらゆる「微細な情報」を共有することができるんです。さらに、その場所の影響も受けることになります。広さや開放感、照明、内装、机や椅子、流れている音楽や香り、ムード。他に誰がいるかも重要ですね。集中力、リラックス効果などが、大きく変わってきます。
燦伍の場合は、隠れ家バーという洗練された大人の雰囲気を演出することで、占う側も占われる側も、ほどよく高揚し、ほどよく穏やかな精神状態で鑑定できるように心がけています。
――電話やメール、チャットの鑑定の方が気軽で、対面の鑑定は敷居が高いという相談者もいると聞きます。両者の違いはどんなところにありますか?
千田: 確かに前者は、部屋着のままお気に入りのお酒を楽しむ、気軽で自由な家飲みのイメージです。
一方リアルの鑑定は、きちんとした恰好をして店を訪れ、カウンターで好きなカクテルを注文するイメージで、緊張しますよね。ただ、相談者は、家から出て占い師に会うまでに、気持ちを整理する時間があり、途中、街に出ることで「客観的に自分を眺める」こともできて、主観的でまとまりにくい悩みも、第三者に伝えやすくなっているはずです。
占い師にとっても、外へ出て仕事の場におもむくことは、「プロ意識」への切り替えになります。どちらにも長所はありますが、大きな違いはそんなところではないでしょうか。
――対面で占いをする場合、鑑定する側が注意したほうがいいことはありますか?
千田: 第一印象、見えている部分には気をつける必要がありますね。メイクやファッション、肌や髪、匂いなど、「印象を良く見せる」というより「だらしなく見せない」ことが大切。占いは、お客様を迎え入れた時から既に始まっているのです。相手の緊張を解き、安心感を与えて、何より信頼してもらわなければ、良い鑑定はできません。
真剣な表情、聞き取りやすい声、相手を気遣う話し方、誠実な態度、穏やかな挙動などを心がけ、時間と料金、個人情報の取り扱いについても丁寧に説明すること。このような鑑定の前後のやり取りを大事にすると、リピート率も間違いなく上がりますよ。
対面鑑定とオンライン鑑定を両輪で進めていくのがコロナ時代の占い
――コロナ禍の影響で、対面鑑定を行っている占い師さんには多大な影響がでていると思います。先生はこの状況をどのように見ていますか?
千田: 対面鑑定は基本的に、狭いブースで周囲に音が漏れないよう工夫された屋内で行うので、どうしても「3密」を避けることはできません。「一体感」を持つことができる、占いにとって素晴らしい環境が、今は危険なことの象徴になってしまっており、この状況が変わるには長い時間がかかりそうです。
緊急事態宣言が解除され、対面鑑定を再開された方も多いと思いますが、しばらくはお客様も慎重になり、占い師もまだ警戒態勢で臨む必要があるでしょう。あまり想像したくありませんが、占い館や占いイベントなどでクラスターが発生し、リアル占い全体に大きなダメージが出ることもあり得るのです。また、生活スタイルが変わった今、ウイルスの蔓延が終息したからといって、対面鑑定の需要が完全に元に戻るとは考えにくいですよね。
これからはオンラインの鑑定をメインにしながら、限定的にリアルでの対面鑑定をするという、両方を同時進行で行っていく活動が、主流になっていくかもしれませんね。
――Zoomなどのアプリを使ったオンライン鑑定は対面鑑定に近い方法かと思いますが、それを行う際のメリットはどんなことでしょうか。気をつける点などはありますか?
千田: リアルに近いオンライン鑑定のメリットは、実際に目の前に占い師がいて占っている姿が見えることによる「直接性」と「安心感」ですね。占い師にとっては、人相や手相を見たり、ホロスコープや命式を共有したり、カードを選んでもらったりできるので、占いの幅が広がります。その「自由度」と「即興性」を上手に活用し、鑑定の精度を高めることもできるでしょう。
また、デメリットは、自粛生活のリモートワークでもよく言われるようになったことですが、場所の確保、環境の整備が難しい場合があることです。オンライン鑑定を行う時に注意しなければならないのは、画面に映っても問題ない場所を探し、守秘義務のために家族に聞かれたりするのを避け、子どもやペットなどの邪魔が入るのを防ぐこと。いろいろ制限があるので、取り組む場合にはさまざまなケースを想定して準備することをおすすめします。
不安な時代にだからこそ、占いの価値は高まる
――新型コロナウイルスの感染拡大により、いつ収束するかわからない、これから世の中はどうなってしまうのかという不安をみんなが抱えています。そんな人々の悩みに占い師はどう応えていけば良いでしょうか?
千田: 天災やウイルスなど、人間の力で制御できない事態に直面した時、人は「つながり」を求めます。でも、目の前にいる人を信じて良いのか、誰と一緒にいれば良いのか、どうすれば孤独を感じずにすむのか。そういった「人との絆」についての相談、理性で割り切れない問題は、今後どんどん増えて行くでしょう。この絆というものは、愛情や責任、信頼や触れ合いといったポジティブなものとは限らず、執着や束縛、依存や暴力なども含みます。それらは表裏一体なのです。
これからの占い師は、相談者の表面上の質問に単に答えるだけでは、心に響く占いを届けることはできないでしょうし、相談者の欲しい答えを与えるだけでは、幸せに近づくための占いを提供することはできないでしょう。不安な時代の悩める精神は、それほどまでに複雑で繊細なのです。私たち占い師ができることは、占いの結果から導き出される世界の多様性を「見せる」こと、そこから相談者が向き合うべき本質へと視点を「変える」こと、相談者がそれを拒んだ場合は決して「強要しない」こと、いつかこの占いが役立つように遠くから「祈る」こと。これこそ、コロナ後の世の占い師に求められていくことではないでしょうか。
――これからの時代、成功する占い師とはどのような人でしょうか?
千田: 重要なのは、周囲の人が客観的に見た成功と、本人の感じる主観的な成功が、全く異なるものだということ。年収一千万円を稼ぐ客観的に成功している占い師が、精神的苦痛を理由に突然引退し、占い師人生は失敗だった、と本人が吐露することもありますし、未熟な占いしかできなくても、成功していると言い張る占い師もいます。
本当の意味で成功するために大事なこと。それは、人にも自分にも嘘をつかないこと。そして、「成功」と不可分な要素である「幸福」を追求することでしょう。
目標を定めて「成功」を勝ち取ることで、「幸福」を感じる人もいます。あるいは、自分自身が「幸福」を感じることで、「成功」したと思う人もいます。さて、あなたはどちらでしょうか?「成功することでの幸福」、「幸福であることが成功」、どちらを選ぶにしても、この二つの要素の優先順位とバランスを、自分なりにきちんと見据える必要があります。その形が見えていて、そこへたどりつくまでのスタンスが決まっていれば、あとは地道に歩き続けていくだけ。おのずと成功した自分が、そこにいることに気づくはずですよ。
コロナ禍で疲弊している人の中には、自分たち占い師も含まれているという千田先生。自らもこれまでとは違う時代を生きながら、相談者の悩みに寄り添う占い師は、まず自分たちが多角的に世界を眺めながら、あらゆる可能性を探っていくことが大事なのだそう。それを自分の占いに活かすこと、そして何よりも、「心身の健康を守る」ことを強く意識しなくてはならないという言葉に大きな力をいただきました。まだまだ先行きが不安な中ですが、まずは自分たちの足もとから見つめていきましょう。
千田歌秋(せんだ かあき)
麻布十番にある占いカフェ&バー燦伍(さんご)のオーナー占い師およびバーテンダー。飲食と占いの融合とホリスティックな癒しをテーマに、占い鑑定と開運メニューを提供。店舗経営と占い鑑定のほか、占い師の育成やマネジメント、占いイベントの企画監修も行っている。