冒頭の二つの台詞から分かるように、彼女の職場では、どうやら女性が普通に総合職として働いており、ジェンダー平等が推進されているようである。しかし、日本社会全体の女性たちが置かれた現実がどうであるのか、というコンテクストをこのCMの制作者は失念している(もしくは、まったく見ようとしていない)。
YouTubeにアップされていた30秒バージョンのCMを最初に見た時、もし今が30年前の1990年だったなら、共感できていたかもしれないな……と感じた。端的に言えば「センスが古い」ということだ。
確かに1990年頃の時代の気分としては、「男女平等」というスローガンやフェミニズムなんてもう古いのだ、女性たちはいまやジェンダー平等に向かって自分ひとりの力で邁進できているのだから、という個人主義的な考えが蔓延していたように思う。
このように、「フェミニズムの目標はすでに達成されてしまったのだから、もはや必要のないものだ」という考え方が社会の中に広がり、(じつのところ事態はそこまで改善していないにもかかわらず)女性たち自身でさえそのように考えるようになった時代を、イギリスのフェミニスト・カルチュラル・スタディーズの研究者であるアンジェラ・マクロビーは2000年代の終わりに「ポストフェミニズム」と呼んで批判した。
そして、この「ポストフェミニズム」的な感性は、現在、いたるところで批判されるようになり、まさにポストフェミニズム的に生き、ガラスの天井を突き破るために突き進んできた女性たちでさえ自己批判し始めているものなのである。
ポストフェミニズム的な女性たちは、女性であっても自分自身の力で運命を切り開いて自己実現できると信じてきた。仕事をし、収入を得て消費をし、身ぎれいでありつつ社会問題にもそれなりに関心を持ち、おじさん中心の組織ともうまくやれる柔軟さとしたたかさをもち、おじさんたちに脅威をあたえないていどに「わきまえた」行動を選択することが正しい道であるのだ、と。