狙いは「分断」?自民の労組接近に野党そわそわ

郷 達也、川口 安子、石田 剛、下村 ゆかり

 秋までに行われる次期衆院選を見据え、自民党が民間労働組合に秋波を送っている。2021年運動方針案に労組との関係強化を掲げ、21日に開く党大会で採択する。原発政策などを巡って立憲民主党と距離を置く民間労組を取り込んで野党を分断し、支持拡大を図る狙いがある。

 方針案には「友好的な労組との政策懇談を進める」と明記。賃金引き上げや働き方改革といった労組側の関心が高い政策を列挙して「働く人々の共感と支持を得られるようなわが党の政策を引き続き広くアピールしていく」と掲げた。小野寺五典組織運動本部長は「国にとって重要な政策を知るためには、労組との関係をつくることは大事だ」と強調する。自民は20年方針にも掲げていた。

 自民関係者は「労組間で政党支持の状況が変わりつつある。働き掛けを強め、最終的には憲法改正など保守色の強い政策で立民より政権への距離が近い国民民主党を抱き込みたい」と語った。 (郷達也)

脱原発、共産連携…割れる労組

 自民党が労組側に接近していることを受け、連合傘下の民間産業別労組(産別)には波紋が広がっている。

 自民と労組の連携強化について、立憲民主党の枝野幸男代表は16日、記者団に対し「他党の運動方針に関心ありません」と厳しい表情で一蹴した。連合の神津里季生(こうづりきお)会長も17日の会見で「今回の自民の方針で物事が大きく動くとは全く思っていない」と影響を否定した。

 自民が労組側に秋波を送る背景には、2020年9月の合流時に生じた立民と国民民主党の亀裂がある。新立民が綱領に掲げた「原発ゼロ社会」などに電力総連を含む産別が反発。労組の支援先は割れ、産別の組織内議員が国民や無所属に分かれた。

 同11月には、愛知県を中心に巨大な集票力を持つ、全トヨタ労働組合連合会が与党との政策連携に向けた検討を始めた。同県選出の立民国会議員は「正直、困る動きだ」と表情を曇らせる。

 労組側の与党との連携は今に始まったわけではないが、同労連幹部は「共産と近づく立民や、それに目をつむる連合への不満が顕在化している」と指摘。別の労組関係者は自民政権の長期化や経済情勢の悪化を挙げ「立民を支持しても良いことがない。経営陣だけでなく労組だって、使える方に付きたいということだ」と明かす。

 衆院選が近づけば原発政策や共産との連携といった火種がますます表面化し、民間労組の足並みが乱れる恐れがある。立民中堅は「今、手を打っておかないと取り返しがつかなくなる」と懸念。その上で、最近の枝野氏の原発に関する発言について「現実路線を強めているのは産別の不満を抑える狙いもあるのでは」と見る。

 (川口安子、石田剛、下村ゆかり)

関連記事