基本編

整数に関する基本事項を体系的にまとめます.「はじめに」の『コンセプト』で述べた通り,「整数」は,その特性,基本を学ぶこと自体が,問題が解けることに直結します.気合い入れて行きますよ.

目次へ などの文字を,文脈の中で明らかな場合にはとくに断らずに整数として使用してしまうことがあります.文脈の中で明らかな場合に限ってですが.
整数に関する記号:「 」( は整数全体の集合 に属する),「 」(5は30を割り切る),「 」(37と22は5で割った余りが等しい),「 」(12と8の最大公約数は4)といった記号をビシバシ使う!予め,「はじめに」内の『記号・文字』に目を通しておいた上で,以下の各ITEMで紹介する記号を,理解し,覚え,使って,身に付けていくこと.せっかくこうした素晴らしい記号があるのに,それを覚えて使おうとしない向上心に欠けた人には,本書は適しません.
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[0] 核心 〈基〉ITEM リスト

【基本体系流れ図】
下の図は,これから紹介していく「整数」の基本体系の流れをまとめたものです.これが,「整数」の(ほぼ)全てです.けっこう単純でしょ.正しく学べば,ちゃんと習得可能です!
整数の学習を進めながら,時々,何度もこの図を振り返ってみてください.



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[1] 整数の特性 〈基〉ITEM リスト

(1) 「数」の種類
我々が知る様々な数の集合:「複素数 」,「実数 」,「有理数 」,「整数 」の包含関係は,右図のように,
となっている.これら集合の名称に関してまとめておくと,下の表のとおり.

整数( )を扱う際には,それより一つ広い集合である有理数( )にはない,整数独自の性質に着目することが決め手となる.その「独自の性質」こそが,前記「核心」で述べた核心[A]核心[B]そのものである.

整数の中で正である 自然数といいます.「自然数」と「正の整数」(略して正整数)は同義語です.(大学以降では,「0」も自然数に含める立場もありますが・・・)
(2) 「余り」という概念
[A] 「有理数」とは,整数 の比の形: と表せる実数のことである.このような数の集合 から 2 つの要素,たとえば を取り出し,四則演算を行ってみる.
これと同様に,整数の集合 からも 2 つの要素,たとえば 5,3 を取り出して四則演算を行うと次の通り.
このように,2 つの有理数に対して四則演算を行うと,その結果もまた有理数となる.
これに対して,2 つの整数に対して“割り算”を行うと,その結果は整数ではなくなることがある.つまり,整数の集合 の中では,有理数と同様な“割り算”をすることができない.そこで,「整数」独自の“割り算”(除法)を考える.そこでは,
余り という整数固有の概念を用いる.整数の除法
「虚数」とは, から を除いたもの,つまり複素数のうち実数ではないものである.同様に,「無理数」とは, から を除いたもの,つまり実数のうち有理数ではないものである.
「整数」は,次の 3 種類に分けられる.
自然数(正の整数)全体の集合は で表す.もちろん, (自然数は整数の一部)である.
大学以降では,「0」も自然数とみなすこともあるが,本書では,高校数学に準拠して「自然数」=「正の整数」とする立場をとる.(入試でもそうなっている.)
「有理数」( )については,有理数・無理数で扱う.

(3) 有限区間での個数
[B] 例えば,不等式 ① を満たす について考えると このように, 有限区間に含まれる整数は有限個しかない. したがって,整数を扱う際には,
大きさを限定すれば,有限個の整数のみ考えればよい.
大きさを限定
有限区間にある整数の個数の求め方は,→ 整数の個数
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[2] 整数の除法 〈基〉ITEM リスト

整数の除法
任意の整数 (ただし ) に対し
をみたす整数 がただ1組存在する.このような を,それぞれ で割ったときの余りという.
(例): より,
   27 を 6 で割ったときの商は 4,余りは 3.
「余り」は,「整数」に固有の概念であり,それに注目することによって有益な情報がもたらされることが多い.
「除法」のことを,俗に「割り算」と言ったりするし,「割ったときの」という表現を習慣的に用いはする.しかし,悪しき因習に囚われたこの用語に釣られ,「整数の除法」を論じる際に次のような表現を用いることは極力慎みたい
  • という“小学生的な”表し方.
  • 分数 を作る.
同じ「整」の字を含んでいる「整式」の除法においても,「整数」の除法と同様に「余り」という概念を考える.
なので,「整数」と「整式」が融合した問題もよくある.
①をみたす整数 がただ 1 組存在することの厳密な証明は,ITEM「諸項目の厳密な証明」(1)において行います.
整数の除法
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[3] 約数・倍数 〈基〉ITEM リスト

前ITEM ①: の余り の所が 0 となった式:
②  (例:21=7;3)
をみたす整数 が存在するとき,次のように言い表す.
  • 割り切れる. (例:21 は 7 で割り切れる)
  • 割り切る (整除する). (例:7 は 21 を割り切る)
  • 倍数である. (例:21 は 7 の倍数)
  • 約数である. (例:7 は 21 の約数)
このように,言葉による言い回しは様々であるが,次の「整除記号」を用いると表現は一定する.
  (例: )
で表す.この記法「 」は,「7は割り切るぞ(整除するぞ)21を」と呟きながら,つまり,第3文型(SVO)の英文:「Seven divides twenty one.」をイメージしながら使おう.なお,「7は割り切らないぞ 22 を」は,「 」で表す.
整除 と表せる
この「整除記号」は,上記4つの表現のいずれと比べても格段に簡潔である.これを使いこなせば,考えをまとめたり,それを答案に書く際に断然有利である,というか,この記号を使うことなくして「整数」を究めることなど,不可能である.
②の例: において,もちろん「21 は 3 の倍数」でもあり,「3 は 21 の約数」でもある.
をもとに約数・倍数を考える際には,文字が 0 や負の整数でもかまわない.例えば
であるから, (負)は 3 の倍数である.つまり,3 の倍数を列記すると,次の通り.
また,整数の除法における①式では, が前提であったが,約数・倍数を考えるときの②式では, も考える.例えば,
であるから, は 6 の約数であり
と書く.6の約数を全部書くと,次の通り.
を任意の整数として, と書けるから,
0 は任意の整数 の倍数
任意の整数 0 の約数

また,任意の整数 と書けるから,
1 は任意の整数 の約数
任意の整数 1 の倍数
を任意の整数として, と書けるから,
0 の倍数
0 の約数
まあ,こんなことを考えなきゃならないことなんぞ滅多にないですが.
2の倍数のことを「偶数」という.また,2 の倍数でない,つまり,2 で割った余りが 1 である整数を「奇数」という.2 つの整数において,2 で割った余りが等しいことを「偶奇が一致する」と言い表す.
ある自然数が 2 , 3 , 4 , 5 , 6 , 7 , 9 を約数にもつか否かを判定する方法を,ITEM「 進法」 で述べます.
約数・倍数 倍数の個数
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[4] 合同式 〈基〉ITEM リスト

自然数 と整数
を満たす,すなわち
で割った余りが等しい
ことを,
として合同である」
といい,

(「エーごうどうビーモッドエヌ」などと読む)
と表す.このような式を合同式という.
合同式
一方, ,つまり で割った余りが等しくないことは, と表す.

という訳で,たとえば「17 を 5 で割った余りは 2 である」ことをサラッと言いたいときには,単に「 」と書いて済ませてしまうことがよくあります.(本書でもそのようにいたします.)
①:「余りが等しい」と②:「差が割り切れる」が同値であることは,下の例を見れば納得がいくでしょう.

①⇔②のちゃんとした証明は,ITEM「諸項目の厳密な証明」(2)において行います.
教科書に「公式」のように載っている
などを,その証明過程をスッ飛ばし,公式として 丸暗記して「頭脳」の負担を減らそうとすると,確実に整数が苦手になる.合同式の記号は,「余りが等しい」という日本語を書かずに済まして「手」の負担を軽くするためだけに使うべし!
合同であることの表現としては③ないし④が正式なのもですが,合同式を使う度に毎度毎度
を法として」とか「
と書くのも面倒です.そこで本書では,合同式を用いる部分の冒頭で
「以下, を法として考える」とか,
あるいはもっと粗く「 で考える」
と宣言してしまい,それ以降では⑤を書かずに済ましてしまうスタイルを用います.(入試解答でも,考え方が正しく採点官に伝わればOKでしょう.)
合同式
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[5] 剰余類 〈基〉ITEM リスト

(1) 剰余類
任意の整数を,たとえば「3」で割ったときの商と余りのうち,商は無視して余りだけに注目し,余りが等しい整数からなる集合,つまり「3」を法として互いに合同である整数の集合を作ることにより,整数全体を次のような「3つ」の集合に分類することができる.
上記 3 つの集合の各々を,法 3 の剰余類という.
と表す方が扱いやすいこともある.
整数全体は「2」を法として
という「2つ」の剰余類に分けられます.
剰余類 整数全体は,2 以上の整数 を法として
という の剰余類に分けられる.

整数 を 5 で割った余りが 1,つまり が剰余類
に属するとき,ある整数 を用いて のように文字式で表すことにより, の様々な式を 5 で割った余りを求めることができます.
剰余類
(2) 剰余系
法 3 の 3 つの剰余類: から要素を 1 つずつ取り出して得られた集合 などを,法 3 の剰余系という.下に,例を 4 つ挙げておく.
1 つの剰余系の各要素においては,余りの全種類が網羅されている. 3 以外の法に関しても同様である.例えば,10 を法とする剰余系の 1 つとして, がある.
「剰余類」と「剰余系」 ( における例をあげる.)
剰余類: 余りが等しい整数からなる集合.(例):
剰余系: 余りの全種類を網羅した集合. (例):

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[6] 素数 〈基〉ITEM リスト

(1) 素数とは
1と自分自身以外に正の約数をもたない正整数から「1」を除いたものを,素数という.素数を小さい方から順に並べると

1 でも素数でもない正整数を合成数といい,2 個以上の素数どうしの積として表せる.(例: )
全ての自然数は,右のように分類される. これからわかるように,
素数とはちょうど2つの正の約数をもつ自然数
           (1 と自分自身)
素数とは,1 と自分自身以外に約数をもたない自然数(「1」は除く)である.否定表現を含んでいるので,「~が素数であることを示せ」という問題では,「背理法」を用いることがある.
素数のうち偶数であるものは 2 のみである.2 以外の素数を奇素数という.このように,「2」と「奇素数」を区別して扱うことで糸口が見いだせることが,ときどきある.

素数とは? 素数となる条件
(2) 素因数分解
1 を除く任意の正整数 は,異なる素数 と正整数 を用いて
の形に表される. この右辺を 素因数分解という.
(例):
素因数とは,素数である約数のことである.(例:3 は 81 の素因数である.)
「素因数分解の一意性」
素因数分解による表し方は(現れる素数の順序を除いて)ただ1通りに定まる. (「一意」とは,「ただ一つ」の意.)

2 以上の整数に対して素因数分解が可能であること,および「素因数分解の一意性」は,大学入試においては,“原理”,“常識”として使ってよいでしょう(本書も,その立場をとっています).念のため,大学以降の整数論でなされる証明を,ITEM「諸項目の厳密な証明」(3)において行います.
ある整数を 2 乗して得られる整数:0 , 1 , 4 , 9 , 16 , のことを平方数という.例えば のとき,平方数 の素因数分解は
となる.これからわかるように,4 以上の平方数の素因数分解について,次のことが言える.
平方数の素因数分解において,全ての素因数の個数は偶数である.「0 個」も偶数個

同様に,「立方数」(ある整数を 3 乗して得られる整数)の素因数分解において,全ての素因数について,その個数は 3 の倍数である.
素因数分解
(3) 素数の活用法
が素数であることのよくある活用法として,次の2つがある.(「 」が「5」だと思って理解せよ.)
「素数」の活用法


の 2 行目は,1 行目から次のように導かれる.
素数 を合成数 に変えると上記のようにはならない.つまり, でも, or とは限らない!( のときを考えてみよ.)
素数の活用法
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[7] 公約数・公倍数 〈基〉ITEM リスト

(1) 公約数・公倍数とは
2 つ(以上)の整数 に共通な約数,倍数を,それぞれ 公約数公倍数という.最大なる公約数を最大公約数(G.C.D.:greatest common divisor) といい,記号
で表すことがある.また,正なる最小の公倍数を最小公倍数(L.C.M. : least common multiple) という.
自然数 の最大公約数を ,最小公倍数を とすると,
と表せて,このとき
よって, となるから
「互いに素」という表現については次ITEMで扱う.
および次の①,②の証明は,ITEM「諸項目の厳密な証明」(4)において行う.
(2) 公約数・公倍数の性質
一般に,次のことが知られている.(証明はけっこう高度・・・)
① 公約数は最大公約数の約数
② 公倍数は最小公倍数の倍数

公約数・公倍数1 公約数・公倍数2
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[8] 互いに素 〈基〉ITEM リスト

(1) 互いに素とは
2つの整数 が共通な素因数をもたないとき, 互いに素であるという.また,このとき は 1 以外に正の公約数をもたない.つまり最大公約数は 1 である.次の3つは同じことを言い表している.
互いに素
① 「互いに素である」
② 「共通素因数をもたない
③ 「最大公約数が 1」
②の中に「ない」という否定表現を含んでいるので,「互いに素」であることの証明では,「背理法」を用いることが多い.
互いに素とは?
(2) 互いに素の活用法
が「互いに素」であることのよくある活用法は,次の3つ.(は,「 」が「5」,「 」が「6」だと思って理解せよ.)
「互いに素」の活用法 が互いに素のとき・・・

  つまり,
. ( は自明)
が平方数 はいずれも平方数.

は,1 行目,2 行目のいずれの形でもサッと使えるようにしたいです.
これらが成り立つ理由は,下記の『確認問題』で.
互いに素の活用法 素数&互いに素の活用法
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[9] 互除法 〈基〉ITEM リスト

(1)互除法の原理
互除法の原理   (文字は全て整数とする.)
のとき,最大公約数について
〔① ⇒ ②の証明〕
公約数全体の集合 の公約数全体の集合を として,
を示せばよい.
のとき,①において より, の約数でもあるから .すなわち
,つまり の公約数のとき,①を変形した
において より, の約数でもあるから .すなわち
以上より, .□
①は, で割った商,余りがそれぞれ のときに現れる等式ですが,上記証明過程において,「 」が「余り」であるための要件:「 」は一切用いていません!つまり, とか であっても②は成り立ちます.
互除法の原理
(2) 互除法
「互除法の原理」を繰り返し用いて,2つの正整数の最大公約数を求める方法を互除法(ユークリッドの互除法)という.
553 と 133 の最大公約数 を求める.(それぞれを素因数分解するのは少しメンドウ・・・)
互除法
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[10] 進法 〈基〉ITEM リスト

(1) 進法の構造
たとえば4桁の整数「5617」とは
を簡潔に表したものである.このように,0 以上の任意の整数を,「10」を基にして
の形で表し,それを単純化して
と表すのが10進法である.
これと同様に,「10」の代わりに2以上の整数「 」を基にし, 各位を表す数(英語では「digit」): として 0 ~ の整数を用いるのが 進法」である. 進法を用いていることを明示するためには, のように右下に「 」を付ける.(ただし,10進法においてはふつう省略する.)
: 2 進法で表された整数「 」とは,
を意味する.
進法で表された整数を「 進整数」という.
10 進法,2 進法などを用いて数を表す方法を位取り記数法という.
進法を用いる際,「桁数」をはっきりさせたいとき,例えば 7 進法でちょうど4 桁の数を表したいときは
のように最高位(首位)が 0 ではないことを明示する.
逆に,桁数が未知であったりする場合,敢えてこの条件を書かないで,「 」なども含めて4 桁以下を全て表せるようにした方が便利である.
(2) 進法の特性
「大きさ」について
7 進法で表された 5 桁の最大整数は
これと, を 7 進法で比べてみると
つまり
5 桁の最大整数 6 桁の最小整数. (差は 1)
つまり,7 進整数どうしの大小を考えるときには,上の位から順に比べて行けばよいことがわかる.
  〔例〕:
(我々は,普段十進法を使うとき,このことを“あたりまえ”として使っている.)
「余り」について
5 進法で表された整数
において,
より, を 5 で割ったとき,
余りは,一番下の位の数
商は,他の位を 1 個ずつ下の位にズラした
(同様に,下 2 桁: は, で割った余りである.)
上記をまとめて, 進法と,整数の核心との関係は,次のようになっています.
進法の特性
上の位に注目 → 大きさ 核心[B]
下の位に注目 → 余り 核心[A]

0 以上 以下の任意の整数が, 桁以下の 7 進整数として一意的に表せることを,ITEM「諸項目の厳密な証明」(5)において示します(もちろんこのことは,一般の 進法でも同様です).その証明で,上記 2 つの考えが活躍します.
進法の書き換え

(3) 約数に持つか否かの判定法
10 進法で表された自然数 を約数に持つか否かは,次のようにして判定すると簡便である.
① 2,5,4,8 について.

② 3,9 について.

を約数に持つか否かは, が 2,3 をどちらも約数に持つかどうかで判定できる.

約数に持つか否かの判定法
一桁の自然数のうち,「 7 」だけ抜けています.これについても無い訳ではないのですが・・・,やや面倒なんです. 3桁区切り
(4) 進小数
例えば小数「709.53」とは
を簡潔に表したものである.このように,十進整数と同様な仕組みで表された小数を「十進小数」と呼ぶ.
十進小数については,実戦問題で掘り下げる問題を扱います.
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[11] 諸項目の厳密な証明 〈基〉ITEM リスト

(1)商,余りについて
整数の除法における商 について考える.
の存在証明
実数全体を,区間
に分割すると,実数 はこのうちいずれか1つだけに属する.すなわち
をみたす がただ1つ存在する.そこで, とおけば であるから
をみたす整数 の存在が示された.□
の一意性の証明
とすると,辺々引いて
よって の倍数で, であるから
したがって, だから .□
(2) 「余りが等しい」⇔「差が割り切れる」 ITEM「合同式」
で割った余りが等しい
の2つが同値であることを示す.
とすると,辺々引いて
①つまり ならば,③より
よって②も成り立つ.
逆に②のとき,③を変形した
より, .これと より
すわなち,①も成り立つ. □
(3) 素因数分解の一意性
(「初等整数論講義」(高木貞治著)より引用.)
素因数分解が可能であることについては,合成数をその約数どうしの積に次々分解していくことにより自明.以下,数学的帰納法を用いて素因数分解の一意性を示す.
については素因数分解の一意性が成り立つと仮定し, についてもそれが言えることを示す.
背理法を用いる.仮に が,素数 を用いて
と2通りに素因数分解されたとする.もしも とすると
となり, より小さい正整数が 2 通りに素因数分解されたことになって仮定に反す.よって, .同様にして,次が示される.
として①の両辺から を引くと
②より であるし, とすると となるが,これは が異なる素数であることより不可能.よって, より小さな正整数 が2通りに素因数分解されたことになって不合理.よって についても素因数分解は一意的.
正整数 2 の素因数分解は一意的であるから,2 以上の任意の整数について素因数分解の一意性が示された.□
大学以降の整数論では,「素因数分解の一意性」を証明する際,先に「互いに素の活用法」を証明してそれを利用する(☆)のが一般的です.しかし,高校生,大学受験生の立場としては,「素因数分解の一意性」を「原理」として認め,それを元に素数に関する様々な法則を理解する方が“現実的”です.そこで本書では,「素因数分解の一意性」が「互いに素の活用法」を使わずに直接証明できる(★)ことをここで示したのです.
この証明法の出典である古典的名著である「初等整数論講義」においても,著者である高木貞治先生は,本編では伝統にのっとって(☆)を採用しながらも,わざわざ「補遺」として(★)を載せられています.
どのみち,生徒さんがそうした事情を心配する必要性はまったくありませんのでご安心を.
(4) 公約数・公倍数の性質 ①② 文字は全て整数とする.
と表されていることを前提に述べる.
,②について.
の公倍数
と2通りに表せる.このとき
ここで, は互いに素だから,ITEM「互いに素」(2)より
よって,ある整数 を用いて と表せて
すなわち,公倍数 の整数倍であり,このうち正で最小であるものを考えて,最小公倍数について
が示せた.
また, (イ), より だから,公倍数 は最小公倍数 の倍数である.これで②も示せた.
①について.
の任意の公約数を とする.また,
最小公倍数を とする.・・・(ウ)
このとき, を示せばよい.
より, の公倍数.よって②より
は, の最小公倍数 の倍数.
に関しても同様だから
つまり, の公約数だから,
一方,(ウ)より, .よって, . すなわち, の最小公倍数は 自身であるから, .これで①も示せた.□

(5) 進法による表現 ITEM「 進法」
0 以上 以下の任意の整数が,7 進法を用いて一意的に表せることを示す.(7進法以外の 進法についても全く同様である.)
1° 「一意的に」の証明
桁以下の 7 進整数
において, のとき
となることを示す.(以下の 2 通りの方法で示す.)
〔解1〕:「大きさ」に注目し,上の位から順に・・・
仮に だとしたら
よって, となってしまうから, とはなり得ない. 同様に もあり得ないから,
以下同様な作業を繰り返して,①が示される.□
〔解2〕:「余り」に注目し,下の位から順に
,すなわち
において両辺を 7 で割った余りに注目して
よって
だから,同様にして
以下同様な作業を繰り返して,①が示される.□
2° 「任意の」の証明
桁以下の 7 進整数
において,組 の作り方は 通りあり,1° により,これらに対応する はすべて相異なる.よって, は異なる 個の整数値をとる.
一方,
までの整数の個数は である.
したがって, は, から までの全ての整数値をとり得る.□
もちろん,ここで示したことは,7進法以外の一般の 進法についても同様に成り立ちます.
また,桁数 はいくらでも大きくとれますから,0 以上の任意の整数は,どんなに大きくても 進法を用いて一意的に 表せます.なかなかスゴイでしょ!

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