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事例

アカマターと浜下り(はまおり)

アカマターと浜下り(はまおり)

 昔、アカマター(※1)がきれいな男に化けて、ある家の娘のところに忍んできたらしいですよ。ちょうどそのとき、物知りのお爺さんが、「見なれない男だな。」と思って、節穴から家の中をのぞいてみたら、その男がアカマターだと分かったから、次の日その娘に、「お前のところに毎晩来る男は人間ではないよ。あれはアカマターだから、今晩あの男が来たら苧籠(※2)にいっぱい芭蕉の苧をためておいて、その苧を針にとおしてあの男の頭に刺しなさいよ。」と言ったそうだ。
その晩いつものように男が来ると、この娘はお爺さんが言うとおりに、苧を通 した針を頭に刺したそうですよ。そうすると、その男は芭蕉の苧を引きずって、ずっと遠いグスク山まで行ったらしい。その娘がグスク山(※3)まで後を追って行ったらね、このアカマターは蓬の葉っぱの下に血だらけになってとぐろを巻いていたそうだ。

 もうこの娘はアカマターの子を孕んでいたものだからね、困っていると、またそのお爺さんが、「あんたは妊娠しているからね、三月に浜下りをしなさい。浜下り(※4)をして潮だまりを跳んだらアカマターの子は流産するよ。」と教えてくれたので、三月三日に浜下りをするとアカマターの子はみんな流産したらしい。
 だから、渡嘉敷島では、三月の節句には、女の子には浜下りと言って、必ずご馳走を持って潮干狩りに行ったら、持ってきたご馳走の中の蓬餅(※5)だけは、女の子が先に食べて、それからあっちこっちの潮だまりを跳ぶことになっているんですよ。

字渡嘉敷 新城ナヲル(明治45年2月1日生) 昭和54年8月26日聴取
※1.アカマター
赤まだらの中型の蛇で、島によっては毒蛇のハブをたべるとも伝えている。
※2.苧籠
苧は紡いだ糸、ここでは芭蕉の繊維を細く裂いて紡いだ糸のこと。苧籠はその紡いだ糸を入れる竹で編んだ籠のこと。
※3.グスク山
渡嘉敷港の入口にある岩山。この山は、渡嘉敷の火の神が祀られており、日照りが続くと雨乞いを行う山でもあった。
※4.浜下り
サングァチ-とも言われ、1年で最も潮の干満の大きい旧暦の三月三日にご馳走を持参して、一日中浜辺で遊ぶ。
※5.蓬餅
蓬の葉を入れて作った餅のこと。蓬は災いを防ぐ力があると信じされている。

解説

この話は、日本最古の文献である『古事記』崇神天皇記に、三輪山の大物主大神が活玉依毘の許に通ってきたが、どこの誰とも分からなかったため、男が来たときに針に糸をつけて着物の袖に刺しておくと、翌朝男が去った後、その糸が家の鍵穴を通 って三輪山神社まだ続き、そこには三輪山の神である蛇がいたと言い、三輪山の神の子が 御方命で、後に崇神天皇記に頼まれて、御諸山(三輪山)を祀る神主となる意富多多泥古の先祖に当たるという。

古朝鮮では、百済武王と後百済武王について、同様な話を伝えている。さらに、この「三輪山神話」と同じ話型の話はアイヌにも伝えられているので、東アジアに古くから伝えられていた話であることを知ることができる。なお、沖縄では、この話のように結末が浜下りをして、蛇の子を堕す話が北は国頭村から南は八重山諸島まで広く伝えられているが、三輪山神社と同じく生まれた子が一族の始祖となる話が、宮古島では「水御」の話として伝えられ、宮古島最北端の狩俣でも、始祖の誕生の話として伝えている。

出典:「とかしきの民話」/発行:国立沖縄青年の家

 
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