売れない役者くずれが総理大臣に。国家の一大事を影武者が救えるか。「理想の政治」を問う社会派エンタメ小説

インタビュー「書いたのは私です」中山七里
『総理にされた男』著者の中山七里さん

源流はチャップリンの「独裁者」

―多彩なテーマの作品を発表して人気の中山さんですが、今回は政治が題材の社会派サスペンスです。国政を舞台としたのはどうしてですか。

今ほど、日本で政治が興味を持たれている時代はなかなかないと思います。連載がNHK出版のWEBマガジンだったこともあって政治もの、それも主人公を総理にすることにしたんです。

それに最近は政治小説が意外に出ていないんですよね。こんな政治エンタメ小説があってもよいかと考えたわけです。

―主人公の加納慎策は、もとは売れない役者で、そっくりな顔を活かした総理のものまね芸が得意。ある日、病に倒れた総理の替え玉にされてしまう。いわゆる「入れ替わりもの」ですね。

入れ替わりものにしたのは、まったくの政治の素人が突然権力の座に就くことによって巻き起こる滑稽さを描きたかったからです。また、慎策のような名もなき市井の人が主人公であれば、国民の願いや怒りを代弁することができます。

同様のアイデアの作品は、ドラマが放送中の池井戸潤さんの『民王』などたくさんありますが、本作は、チャップリンの『独裁者』を意識しています。入れ替わりもので、政治風刺もの。その源流はあの映画にあると思っているんです。

―総理となった慎策を支えるキャラクターたちも魅力的ですね。

官房長官の樽見政純は、慎策を替え玉に仕立てたやり手の政治家。私立大学の准教授で内閣参与になる風間歴彦は、外見は風采の上がらない男ですが、知識とプランのある理論派です。

やり手の樽見、理論派の風間、そこに素人の慎策が入って3人でトロイカ体制を組む。その体制があって慎策は総理としての自覚にだんだんと目覚めていく。

魑魅魍魎が跋扈する政治の世界を舞台にすると、どうしても登場人物が増え、ストーリーも複雑になりがちなので、主要な登場人物を少なくして話がブレないようにしています。また、慎策の恋人・安峰珠緒は、一般人としての慎策の心の拠り所として登場させました。

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