【特集】小指の先が無い…元ヤクザの異色牧師 12年前に更生させた若者が再犯…罪びとに祈りは届くのか?

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放送日2021.02.20

日本における刑法犯の検挙者数は年々下がっているものの、再犯者率は上昇の一途を辿っている。2019年は48.8%と全体の半数を占めているのが現実だ。政府は2016年に「再犯防止推進法」を施行。2018年度以降地方公共団体などと連携を強化し、出所後の就労や住宅(帰住先)の確保などの重点課題を定めている。

前科を持つ者たちの更生に取り組む一人の男性を追った。

牧師の進藤龍也
牧師の進藤龍也

「人は変わることができます。でも、変わると決心しなければ変わりません」

熱く人生を説くのは、牧師の進藤龍也。牧師といっても、普通の牧師ではない。左手を見ると、小指の先がない。かつては暴力団の組長代行を務めた人物だ。前科7犯。しかし、あるキッカケから、神学校を出て牧師となった。いまは、自らの体験を生かし、前科を持つ者たちの更生に取り組んでいる。12年前、「ウェークアップ!ぷらす」は進藤が一人の若者を立ち直らせる姿に密着した。ところが、彼は2年前、再び罪を犯して服役。また人生をやり直したいと、進藤の元に身を寄せることとなった。彼は本当に「更生」することができるのか?

神様に愛される秘訣は“感謝を忘れないこと”

埼玉県川口市「罪人の友」で行われる礼拝の会
埼玉県川口市「罪人の友」で行われる礼拝の会

埼玉県川口市にある進藤の教会「罪人の友」(つみびとのとも)。ここでは毎週、教会員たちが集まり礼拝の会を行っている。進藤は、人生に悩みを抱え、救いを求める彼らに“感謝を忘れないこと”が神様に愛される、人に愛される秘訣だと説く。覚せい剤所持の罪で逮捕され、保釈中に進藤の教会に通うようになった男性がいる。進藤は彼の携帯電話を変えさせ、付き合う人を選ぶよう説いた。更生の道にほころびが出るのは交際関係からだという。後日、その男性の裁判には、情状証人として証言台に立つ進藤の姿があった。こうした活動は進藤の生活の一部で、これまで30人以上の更生に向き合ってきたという。

元組長代行がなぜ牧師に?

若き頃の進藤龍也
若き頃の進藤龍也

中学の時から、札付きのワルだった進藤。17歳で暴力団に誘われ、28歳で組長代行になった。覚せい剤の売人をしていた30歳の時に3度目の逮捕。この時、拘置所で思わぬ人生の転機が待っていた。知人から差し入れられた聖書だった。

「わたしは、悪人が死ぬのを喜ばない。むしろ、悪人がその道から立ち帰って、生きることを喜ぶ」(エゼキエル書 第33章11節)

言葉は人を変える。進藤はこの一節に衝撃を受けたという。自分は生きていて良いし、生きる価値が自分にもある。根拠はないが、やり直せると思った。出所後は教会に住み込み、弁当の配達などをして働きながら神学校を卒業した。

「変われる気がする」そう話した男性が再犯

12年前にも番組が密着
12年前にも番組が密着

12年前、進藤はある男性を自分の教会に住まわせた。窃盗罪で逮捕された鈴木さん(当時22)。親兄弟とも疎遠で他に頼れる人がいなかった。執行猶予中の彼に収入はなく、進藤は食事の世話も含めて彼に寄り添い、4か月間にわたって「人生を変えるには人を愛しなさい」と説き続けた。当時密着取材をしていた「ウェークアップ!ぷらす」のカメラに「変われる気がする」と話していた鈴木さん。しかし再び窃盗を犯し、2年前に服役。

鈴木さんが再び罪を犯したきっかけは、職場の同僚への怒りだった。度々のトラブルに我慢できなくなったと言う。殺意を勢いづけるために覚せい剤に手を出し、やがて覚せい剤を購入する金欲しさに窃盗を働いてしまう。進藤から「人への愛」を学んだはずが、怒りに囚われ、再び罪に走ってしまったのだ。

去年5月、鈴木さんが出所する日、進藤は自ら迎えに出かけた。再犯者を立ち直らせるのは難しいと考える進藤だが、もう一度鈴木さんを信じ、教会に住まわせることにした。

罪の始まりは「怒り」 更生のためには「感謝」

ノートに書かれた感謝の言葉
ノートに書かれた感謝の言葉

更生のための生活は、朝7時から始まる。まずは教会の掃除。8時からは、進藤と共に聖書の勉強。午後は自由時間だ。ここで進藤は“ノートに感謝の言葉を書く”という課題を与えた。罪の始まりは、人に対する「怒り」。怒りを抑えるためには周りに感謝の気持ちを持つことが大事だと進藤は考えた。3日後、ノートを見てみると、感謝の言葉は500個以上に及んでいた。中にはこんな感謝も。

「チーズに、ハムに、ケチャップに感謝」

食べられることが当たり前になっているから、普段思わないことも自分から見つけに行く気持ちで取り組んだ…と鈴木さんは言う。そんな姿を見た進藤は、小さな手応えを感じていた。

「教会を出ていく」 鈴木さんの感情が爆発

格闘技の指導を受ける鈴木さん
格闘技の指導を受ける鈴木さん

去年6月、鈴木さんは地元の建設会社に就職が決まった。進藤は受刑者とのやりとりなどで多忙になり、出かけることが多くなる。鈴木さんに変化があらわれたのは、そんな時期だった。教会では週に一度、外部からも希望者を集めて格闘技の教室が開かれている。鈴木さんも指導員にパンチのガードを教わる。しかし上手くできない。指導員は「言ったことを守らない、やっていないからだ」と指摘するが、鈴木さんは「やっているだろ」と言葉を荒らげてしまう。鈴木さんは、みんなの前で嫌がらせを受けていると感じてしまったのだ。実はかねてから、他の教会員たちの自分に対する態度が変わってきていると感じていた。以前は友好的だった人たちが、2度目の罪を犯してからよそよそしくなったのではないか。

7月末、進藤は北海道へ行っており不在。ここで鈴木さんの感情が爆発した。

「なんだよてめえ!いちいち俺に言ってきやがってよ!てめえ、うるせえんだよ! あ? おい!」

教会員たちを怒鳴り散らす鈴木さんは「教会を出て行く」とまで言い出した。北海道から戻った進藤は鈴木さんを説得。人を許す心を持たないと何も変わらないと懸命に説いた。「許せない人を許す、怒りが来ても許します」と毎日祈り続けるしかないと進藤は言う。罪を生み出す“怒り”との決別。進藤はさらに「ここに来た日の気持ちを忘れないでほしい」と説き続けた。

次へのスタート これから毎日が試練

友人と聖書の勉強会をする鈴木さん
友人と聖書の勉強会をする鈴木さん

ある日鈴木さんは、教会仲間の女性から水筒をプレゼントされた。女性は、鈴木さんが工事現場で使えるようにと思い、水筒を選んだのだった。鈴木さんからは、自然と感謝の言葉が出ていた。9月、鈴木さんは教会を出て一人暮らしを始めた。新しくできた友人たちと聖書の勉強会をすることもある。おだやかに過ぎていくように見える鈴木さんの日々。しかし一人暮らしを始めてから再犯を犯す者は少なくない。鈴木さんにとっても、これからが正念場となる。元ヤクザの異色牧師、進藤龍也。一人でも多くの「罪びと」を救うため、これからも祈りの道は続く。