「FANTASIAN」インプレッション。ジオラマ上で展開される冒険らしい冒険と,作り手の情熱が心地よい本格RPG
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ファイナルファンタジーシリーズの生みの親である坂口博信氏がクリエイティブ・プロデューサーを務める本作は,手作りのジオラマを元に制作された3Dフィールドを冒険できる,丁寧に作り込まれたビジュアルを特徴とするRPGだ。全楽曲を担当するのは,同じく「FINAL FANTASY」の作曲家として知られる植松伸夫氏だ。
本作は,前編と後編の二部で構成されているのだが,後編は2021年後半に配信予定となっている。今回は,そんな同作(前編)のインプレッションをお届けしていこう。なお,今回の試遊にはiPhone 12 Pro Maxを使用しており,プレイフィールも同機種に準拠しているのでその点はご了承を。
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手作りのジオラマで表現された温かみのある世界
物語は,主人公のレオアが機械世界で目覚めるシーンから始まる。自らが引き起こした魔法爆発によって記憶を失ってしまったレオアは,頭に浮かんだ光景と少女の姿を頼りに,辺境の街エンに移動し,キーナという少女と再会する。自身の記憶を取り戻すべく,レオアはキーナと共に旅に出る……というのが大まかなストーリーラインだ。
「FANTASIAN」といえば,冒頭でもお伝えしたように,フィールドがジオラマをベースに表現されているのが特徴。ジオラマの数は約150個で,撮影枚数は200~300枚にも及ぶという。
筆者もそれらの情報は事前に知っていたが,いざプレイしてみると,ジオラマ独特の質感や温かみが,これまでにないプレイフィールをもたらしてくれることを実感。スクリーンショットで見た印象と,実際にプレイした印象とでは,世界の実在感や没入感が大きく異ると感じた。普段RPGをプレイしているときに,建物や家の中の家具など,細かいところまで注視することは少ないのだが,「FANTASIAN」には,そんな細かいところまでじっくりと鑑賞したくなる魅力があるのだ。
例えば,街のバーにあるビンや調理器具,タルなどを見て「これらが全部,ジオラマとして実在しているのか」と思うと,なんだか不思議な気持ちになる。これは,「FANTASIAN」でしか味わえない特別な体験と言ってもいいかもしれない。
また,物語を進めるとウズラ号という豪華客船が登場するのだが,このウズラ号が非常に細かく作られており,ジオラマを手掛けた職人たちの実力と熱量を感じずにはいられない。ジオラマの中を,擬似的にとはいえ自由に探索できるのも,本作ならではのゲーム体験。フィールドの造形物をここまで意識してゲームをプレイしたのは,筆者は初めてだ。
ちなみにフィールドの移動は,行きたい場所をタップするとピンが現れ,自動的にその位置まで移動してくれるシステムが採用されている。タップのみで移動できるので,誤操作により間違った方向に進むことが少なく,移動のストレスも感じない。キャンプメニューにはミニマップが用意されており,遠く離れたところにもワンタップで移動できるのも嬉しい配慮だ。
敵を異次元に飛ばしてエンカウントを調整できる「ディメンジョン」
バトルシステムにも触れておきたい。本作はランダムエンカウントのターン制バトルが採用されているのだが,このあたりは,初期~中期のファイナルファンタジーシリーズや,ミストウォーカーが開発に関わった「ロストオデッセイ」にも近い手触りだと感じた。いわゆる王道的なスタイルで,RPGに慣れ親しんでいるゲーマーならば,すんなりと馴染むことができるだろう。なおバトル中の時間経過はないので,自分のペースでじっくりと戦略を立てられる。
もちろん,本作独自のシステムも用意されている。その一つが「エイミング」だ。これは,直線的だったり弧を描いていたりする攻撃範囲を考慮しつつ,タップしながら敵を狙うというシステム。公式サイトには「弓をひくように」との文言があるが,まさにそのとおりだと感じた。エイミングを指で微調整することで,範囲内に収まる敵の数も変わってくる。一気に多数の敵に攻撃できるため,さまざまな角度からエイミングを試してみたくなるのだ。上手く調整して,多数の敵を巻き込めたときの爽快感はなかなかのもの。バトルの枠組みは王道RPGのそれだが,エイミングの存在が,本作のバトルをより奥深いものにしている印象だ。
そしてもう一つ,「FANTASIAN」を象徴するシステムが「ディメンジョン」だ。これは,ランダムエンカウントした敵を異次元に飛ばして,異次元空間に溜められるというもの。溜めた敵とは,街中も含めていつでもどこでもバトル可能。ただ,敵は30体までしか溜められず,30を超えると,ディメンジョンでエンカウントを回避できなくなる。初めてエンカウントする敵も回避できないので,その点には注意が必要だ。
ちなみにディメンジョンバトルでは,攻撃力がアップしたり,再行動が可能になったりするギミックが登場するので,通常のバトルよりも有利な状況で戦える点にも注目したい。
「FANTASIAN」にはさまざまな敵が登場するが,ボス戦に関しては,戦い方を工夫しないと思わぬ苦戦を強いられることになる。複数の部位が存在したり,強力な全体攻撃をしてきたりするボスも少なくないので,属性やバフ・デバフを意識するなど,戦略の立て方も重要になってくる。
ちなみにゲームオーバーになったら,バトルをやり直すか,チェックポイントに戻るかを選択できる。強敵と出会った際にも,失敗を恐れずあれこれと戦い方を模索しよう。
デジタル小説を用いて描かれる人間ドラマ
「FANTASIAN」をプレイしていて印象的だったものの一つに,ストーリーやキャラクターの温かみがある。本作ではキーイベントがデジタル小説形式で表現されている。「ロストオデッセイ」でもそのような演出が採用されていたが,文字がアニメーションする演出なども同作に近いものがある。
小説で語られるストーリーはいくつかあるのだが,中でも筆者は,キーナとオーウェン,レオアとシャルルのエピソードがお気に入り。オーウェンはキーナの育ての親とも言える人物で,キーナに生まれ育った森以外の世界を伝えたり,人間の本質について説いたりする。そういったキャラクターのバックボーンを丁寧に描いているからこそ,キーナのオーウェンへの想いもしっかりと伝わってくるのだ。
レオアとシャルルの出会いを描いたイベントも同様で,レオアへの想いを,次代の王女という立場が邪魔して素直に表現できないシャルルがなんともかわいらしい。フィールドがジオラマで作られていることも本作の特徴だが,キャラクターの心情や人間ドラマにおいて,坂口節を確かに感じられる点も見逃せない。
そして,それらのストーリーをよりドラマチックなものにしているのが,植松伸夫氏の音楽だろう。「FINAL FANTASY」「ブルードラゴン」「ロストオデッセイ」「ラストストーリー」「テラバトル」など,坂口氏の作品には常に植松氏の音楽があった。
ミストウォーカー公式YouTubeチャンネルのインタビュー動画でも語られているが,植松氏は,「FANTASIAN」の楽曲制作について,全身全霊で取り組んだとコメントしている。坂口氏の本作への入れ込み具合,本気度を感じて,植松氏も同じ想いを抱いたそうだ。そんな両者の想いを知ってから本作をプレイしてみると,また違った魅力が見えてくるはずだ。
『FANTASIAN』作曲家・植松伸夫氏ショートインタビュー
「FANTASIAN」にはバリエーション豊かな音楽が用意されているが,そのどれもがシーンにマッチしており,聴き込むほどに味が出てくる。現在,ミストウォーカー公式YouTubeチャンネルにて,キーナのテーマ曲が公開されているので,ぜひそちらも視聴してみてほしい。
『FANTASIAN』楽曲収録舞台裏 - キーナのテーマ
物語の根底にあるものは,温かみを感じさせる人間ドラマ
「FANTASIAN」をプレイして筆者が感じたのは,王道RPGでありながらも,ところどころに坂口氏やスタッフの挑戦が散りばめられた作品であるということ。ジオラマを用いた背景もそうだし,エイミングやディメンジョンなども,バトルに新鮮さを付与している。
その一方で,変わらないものも存在する。それが先にも述べた,キャラクターやストーリーなどから感じられる,ドラマや人間の温かみの部分だ。記憶を失ったレオアがさまざまな人たちと出会い,過去を思い出しながら自分を取り戻していく。その過程で起こる嬉しい出来事や悲しい出来事,それらを包み隠さずに描いているのが「FANTASIAN」のストーリーだと筆者は思う。
システム,ジオラマの背景,ストーリー,キャラクター,そして音楽。すべてが絶妙に噛み合って「FANTASIAN」という作品が作られたのだと思うと,1人のRPGファンとしてプレイしないわけにはいかない。そんな気にさせてくれるタイトルだ。
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