ネット上には毎月積み立てより毎営業日積み立ての方が有利だとする記事も散見されますが、それは条件次第です。毎営業日積み立ての方が有利(リターンが高い)とするのは、読み手をミスリードする危険性があります。まあ1%未満、おそらく0.1から0.5%程度の差でしかありませんが、それでも正しく理解して「選択」すべきです。
毎月積み立てを「毎月初積み立て」とした場合、毎営業日積み立てが有利になるのは弱気相場かボックス相場に限られます。インデックス投資では右肩上がりで基準価額が上昇する投資対象を選択するので、長期で見ると毎営業日積み立ては毎月初積み立てに勝てません。反論歓迎です。
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シンプルな理屈
無分配を貫いているインデックスファンドの場合、利益率は平均取得価額と現在の基準価額だけで決まります。どのようにして資金を投入したかは関係ありません。
基準価額は制御できません。資金投入の方法、この記事では積み立て方で変わるのは平均取得価額です。つまり、毎営業日積み立てと毎月初積み立てのどちらが平均取得価額を低くできるかで、利益率が変わり、どちらが有利かが決まります。
次はスリム先進国株式の2020年年初から3月末までのリターンの推移です。月ごとに色分けしています。
毎月初積み立ては矢印の位置で買い付けます。(正確には月初の営業日で注文、翌営業日に約定となります。)毎営業日積み立ては文字通り毎営業日買い付けます。
- 黄色に塗った1月は、明らかに月初に買い付けた方が平均取得価額は低いです。
- 赤色に塗った2月は、下旬に株価暴落が始まったので微妙です。ほぼ同じでしょうか。
- 緑色に塗った3月は、明らかに毎営業日買い付けた方が平均取得価額は低いです。
これを投資期間1年間なら12ヶ月で、10年間なら120ヶ月で見るわけです。
比較方法
毎営業日積み立ての効果を検証したかったので、毎営業日積み立てた場合と、毎営業日あたりの積立額×各月の営業日日数分を月初に積み立てた場合をシミュレーションすることにしました。実際には毎月積み立ては毎月同額積み立てるものであり、各月の営業日日数で変わりませんが、それだと投資総額が異なってしまうためあえて毎営業日積み立てと毎月積み立てで毎月の投資額が同じになるようにしました。
なお、評価額の差を無視し、リターン差だけを見るのであれば、月初の積立額を固定にしても問題ありません。
期待リターン年率5%の場合
現実にはありえませんが、投資対象の基準価額が期待リターン年率5%で直線的に増える場合です。
この場合、ある月で見た時に基準価額が最安なのは月初なので、毎営業日積み立ては絶対に毎月初積み立てに勝てません。
次はその積み立てシミュレーション結果です。
緑のラインが毎月初積み立ての評価額の推移です。毎月初に買い付けるので階段状になります。赤のラインが毎営業日積み立てです。この場合は右肩上がりの直線です。
青のラインはリターン差で、毎月初積み立てー毎営業日積み立てです。毎月末に算出していますので、左端(初月)は空白です。
この場合、リターン差は約0.19%で一定です。リターン差は投資対象の基準価額の変化の仕方できまるのですが、それが直線的だからです。
期待リターン年率-5%の場合
今度は逆に期待リターン年率マイナス5%で直線的に減る場合です。
この場合、ある月で見た時に基準価額が最安なのは月末なので、毎月初積み立ては絶対に毎営業日積み立てに勝てません。
次はその積み立てシミュレーション結果です。
当然ですが、逆の結果になりました。でも長期で見ても期待リターンがマイナスなら、そもそもそんなものに投資する気になりませんよね。
毎月積み立ては毎月初積み立てでいいのか?
現在、人気の高いインデックスファンドは毎月初の資金流入が多いことが分かっています。次は直近200日間における、毎営業日ごとの資金流出入の推移です。最も目立つトゲは月初の買い付けによるものです。上から順に、スリム米国株式(S&P500)、スリム全世界株式(オール・カントリー)、スリム先進国株式、楽天全米株式、楽天全世界株式です。
2番目に目立つトゲはiDeCoでの買い付けによるものです。どうして月初の買い付けが多いのかは想像の域を出ませんが、楽天カード決済による積み立てが1日固定なのが影響しているのかも知れません。
この記事に出てくる結論は、毎営業日積み立てと毎月末積み立ての比較だったら逆になります。
なお、月初でなくて別の日を積立日にしたい場合は、毎営業日積み立ての選択も含めて好きなのを選ぶのがいいです。
現実のインデックスファンドで比較
- 毎営業日ごとの積立額は1,000円とします。毎月初の積立額は1,000円×その月の営業日数です。
- 毎月末のリターン差を見ます。青のラインがプラス圏内なら毎月初積み立てが有利です。
- 比較期間は2013年年初から2020年9月末です。それ以降に設定されたものは個別に明記します。
- グラフは基準価額の推移、積み立てシミュレーション結果の2つがペアです。基準価額が下落傾向の弱気相場では青のラインはマイナス圏に偏る様子を確認してください。
積み立て投資の結果のリターン差の数値は、赤枠で囲ったところにあります。
eMAXIS先進国株式
7年間で見ると右肩上がりですが、途中弱気相場も株価下落も経験しています。
青のラインはプラス圏を推移しています。
eMAXIS新興国株式
強気相場と弱気相場が交互に現れています。
弱気相場でマイナス圏に落ち込んでいます。
eMAXIS TOPIX
強気相場、軽い弱気相場、強気相場、軽い弱気相場、暴落でした。
弱気相場でマイナス圏に引っぱられる様子が認識できます。
eMAXIS日経225
せっかくなので日経平均も。
TOPIXと変わらない結果です。
eMAXIS先進国リート
最初の2年間は強気相場でしたが、その後ボックス相場が長く続きました。
青のラインはボックス相場でダラダラ下がっています。でもプラス圏にとどまりました。
eMAXIS国内リート
強気相場、ボックス相場、強気相場、暴落と変化に富んでいます。
青のラインは理屈通りの動きをしています。
eMAXISバランス(8資産均等型)
基準価額の推移を見ればおおむね予想が付きますね。
毎月初積み立てが有利です。
楽天全世界株式
2017年10月からの比較です。良いサンプルに見えますね。
青のラインは基準価額と同様に乱高下しています。でも毎月初積み立てが有利です。
三井住友DC外国株式インデックスL
2003年2月からです。リーマンショックを含む17年間です。
リーマンショックではマイナス圏に落ち込みました。その後の強気相場ではプラス圏を推移しています。
SPYトータルリターン
S&P500種指数に連動する、長い歴史を誇るSPY(米国籍ETF)のトータルリターンです。1993年2月からです。27年間の比較です。結果を想像してみて下さい。
暴落時はマイナス圏に引っ張られますが、強気相場での上昇力が強いので差を広げられます。
結論:毎月初積み立てがおすすめです
理屈が理解できれば、数学的に次のことが期待できます。
- 強気相場なら毎月初積み立てが有利。
- 弱気相場なら毎営業日積み立てが有利。
どちらか一方のみ選ぶとしたら、強気相場の方が多いと期待されるものにしか投資しないでしょうから、毎月初積み立てが有利になります。
毎月初積み立てと毎営業日積み立てではそれなりの差があります。信託報酬の0.1%の違いを大きいと思う人には十分大きな差です。長期投資でも0%に収束したりしません。逆に下降局面、停滞期は毎営業日積み立てが有利です。
ネットで調べると「どちらでも大差はないが、毎営業日積み立ての方がわずかながら良い」という理解をしている人は少なくないと思われますが、これは間違っています。何も考えずに毎営業日積み立てを選択した場合、損する可能性が高いです。(なぜなら右肩上がりで成長する投資対象を選んでいるはずだから。)
毎営業日積み立てが選択できる場合、まず毎月積み立てを選んでおいて、リーマンショックのような景気後退時で基準価額が上がらない期間は、毎営業日積み立てに切り替えるのも良いと思います。