榊原良子「押井さんについては分かりたくないし、分からなくていい」『機動警察パトレイバー2 the Movie4DX』 公開記念トークショーで押井守に物申す

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2021.4.1
左から喜屋武ちあき、伊藤和典、榊原良子、高田明美

左から喜屋武ちあき、伊藤和典、榊原良子、高田明美

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1988年からアニメ、マンガ、小説など様々な分野で展開されているメディアミックス作品『機動警察パトレイバー』。そのアニメシリーズの30周年突破を記念して全国を巡回してきた『機動警察パトレイバー』30周年記念展。2020年夏に約4万人を動員したという前作『機動警察パトレイバー the Movie4DX』に続き、2月11日(木・祝)からは『機動警察パトレイバー2 the Movie』が体感型シアター4DXで公開。

今回、3月19日(金)に今年2月の劇場公開を記念してオンラインイベントで開催された、サブタイトル『あの…押井さん、ちょっと』と題されたトークショーでは、パトレイバー広報室担当のタレント喜屋武ちあきのMCのもと、脚本家の伊藤和典、キャラクターデザイナーの高田明美、南雲しのぶ役を演じた声優の榊原良子が登壇。作品の制作当時を振り返ってもらい、押井守監督に翻弄された三人が、ついに声をあげる異色のトークショーをレポートする。


いつも後藤隊長がプリントされているハンドミラーを持っているほど後藤隊長が好きな声優の榊原良子をはじめ、『機動警察パトレイバー2 the Movie』のサウンドリニューアル版パンフレットのイラストを手掛けている高田明美、本イベントでは黒一点となるヘッドギアの脚本家伊藤和典が挨拶を交わしてスタート。

榊原自身が演じた南雲しのぶというキャラクターを通じ、それまでテレビシリーズで積み上げてきた人格が異なるように描かれてしまった『機動警察パトレイバー2 the Movie』(以下劇パト2)。そのことから本作品の押井守監督について触れた榊原の熱の籠ったオフィシャルブログ、また伊藤も、高田も、同じように劇パト2に対して違和感を感じていたことから、このトークショーのイベント企画が持ち上がったという。

第一部:トークテーマその①押井守監督が NEW OVA 第12話『二人の軽井沢』を担当していたら?

台風直下の軽井沢で、天候が大荒れのなか、今夜のうちに東京に戻れなくなってしまった後藤隊長と南雲しのぶ。ラブホテルでの二人きりの男女の様子や微妙な窺知など、繊細に描かれている『二人の軽井沢』について触れると伊藤は

「押井さんが監督していたら、一番の違いが出るのが『二人の軽井沢』。なぜなら押井さんが考えるしのぶのキャラクターは劇パト2であり、 NEW OVAに押井さんが入る頃には、シナリオが6本上がっていたし、彼が手が出せる状態ではなかった。劇場版では自分自身が疲弊していたこともあり、終わらせるために「押井さん好きにやっていいよ」となったら、あのようになってしまった……そういう意味では僕も共犯なんですよ。」という言葉に。そこで高田が「さっき楽屋で謝ってたのはそれか」と突っ込まれる。

続けて伊藤は「もし、押井さんが『二人の軽井沢』の演出するならラストの描き方が違うと思う。本来なら、お互い寝たふりをしていて、しのぶが後藤に床に落ちたバスタオルをかけてあげて、翌日といった具合になっているけれど。押井さんバージョンだとそのシーンはない。後藤がしのぶの寝姿を横でじっと立って見ていて、次のシーンでいきなり後藤としのぶが結婚する場面へと飛び、後藤にそっくりの赤ん坊を特車二課のメンバーがあやしてて、出産して結婚しているていで幸せそうな風景で、南雲さんが「ぎゃー」と言って目覚めて、“夢オチ”という具合になるだろう」と語る。

さらに伊藤は「過去に12話を観た押井さんは「(この2人に対して)やっちゃえばいいのに」とこぼしていたけれど、職場も、立場も、一緒だし、戻れない関係になるし、恋愛関係より先にきちゃったら、この先どうするの?ってなる……押井さんそれはなくない?思った」と当時を振り返った。

榊原は「私が考えたのは……くっつくのか、くっつかないのか、特車二課のメンバー含めて周囲からの興味も失い、2人がリタイアした頃にくっついてるという感覚だったんです…茶飲み友達が「そのまま共に老いて、共に歩いていきましょう」と自然にくっつくといいのにな……」と結婚観を交えながら、2人の行く末をイメージ。

伊藤は「この作品(『二人の軽井沢』)の演出は吉永さんが担当。吉永さんは嘘寝しているシーンとか、情緒的なシーンが得意でね……一方押井さんは多分興味がないのかな?」とこぼす。

高田は「きっと、あの2人は寝られなかった感が満載だったのでは?2人とも「よく寝た」とは台詞で言っていたけれど…絶対寝られていないと思うんですよね。お互いの心情を考えると面白いし、時々南雲さんのちょっと上ずる(裏声)声がかわいい……」とにこやかに話すと榊原は「南雲さんってきっと慣れていないと思うんですよ、いつかそんなシーンがきたら、ひゅるひゅると喉を(地声・裏声)切替て、やってやるんだ!って思っていました」と熱く語る。

MCの喜屋武は「あの晩って熱いですね、2人の関係性を考えると無限大にある。劇場版ほどのロングで見たかった……」と話すと伊藤は「話がもたないね(笑)実際、2人が寝られたのかは分からないけれど、あのラブホのファンシーな壁紙の部屋で正解だし、しのぶさんに客室を選ばせるために左ハンドルにしていたり、しのぶさんがとても緊張した態度だったから後藤が救われたんだよね。」と細かな演出についてのエピソードが飛び出した。

そして、高田は「あの熱い夜を過ごしたとは思えないのが劇パト2なんだから!」と切り出し、これまでのテレビシリーズで積み上げてきた南雲しのぶの人格が一変した劇パト2に触れると榊原は「押井さんから「しのぶはファーザーコンプレックスで権威主義だから」と告げられ、いつもなら目を合わせるはずが合わせなかったし、押井さんはストーリーを完成させる上で、しのぶをそういう女性として描きたかったのかな?」という言葉に対して高田は「本来キャラクターは人格を持って動いているが、劇パト2についてはキャラクターに奉仕させたんだと思うんですよね」と引き取る。

伊藤は「あのパト2に限っては後藤と南雲の関係についてはモデルがいるんですよね、実際にそのモデルを題材にしているから、余計に違和感があるんだと思う」と語る。

また榊原は「(これまで積み上げてきた人格が変わってしまい)役作りできなくて、全然違う作品だと割り切るしかなかった。だからこそ声の表現に情熱を注ぎ、押井さんの哲学や表現を際立たせることに徹した」と南雲しのぶという役に懸命に向き合った葛藤と声優としてのプロフェッショナルな姿勢が伺えた。

ここで、MCの喜屋武から南雲さんの過去の恋愛話が交差する劇パト2について「かつて柘植の教え子だった南雲さん。子どもでは理解できなくて、大人になって理解できたが…」という言葉をうけ、榊原から「過去において柘植と南雲は愛し合っていたのでしょうか?」という質問が投げかけられた。

伊藤が「それを僕に聞きますか、難しいな……僕が考えている南雲さんはそうじゃないから」と前置きしつつ「ただ、一般論からすると南雲さんみたいなタイプは、押しの強い男に騙されやすいところがあると思うんですよ。だから高田も「柘植は悪い」と言ってた」と発言を引き取るかたちで、高田が「本当に悪い男」と続く。

続けて高田は「もともと対等な関係じゃなくて、持っている感情は支配欲に近いと思うんですよ。日本に帰ってきたときに、柘植は一回だけ謎かけみたいな手紙を送るし、しかも南雲さんがその文面を暗記するほど読み込んだ姿をみて、それを柘植は大喜びで、最後にんまりして終わった時に、なんて嫌な奴だなと思って!」と語気を強めた。

その一方で、榊原は「私は柘植さんは南雲さんの強さに頼ってる、南雲さんは柘植さんを愛していると勘違いしていただけ」と考察を展開する。

伊藤が「頼っているというのは優しい言い方で、ぶっちゃけちゃうと共依存という関係だね。それは絶対上手くいかないんですよ」と2人の関係性を一言で現した。

柘植行人 (C)1993 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA/Production I.G

柘植行人 (C)1993 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA/Production I.G

高田は「当時、この作品を鑑賞した時に、本当に辛くて嫌な思いをしたんですよ。今回の4DXの試写会で改めて鑑賞したが、(柘植が)やっぱり嫌な奴だったんですよね。ちあきさんはかっこいいって言ってたけど」と発言すると、MCの喜屋武は「イケおじといいますか、悪い男というのは、一方で魅力的であり」というコメント。それを食い気味で伊藤と高田からは「騙されちゃダメだ!」と被せられた。

高田は「高い知性と、幼稚なエゴの男だから!気をつけてね、指導的立場にあるずるい親父に騙されないように!みんなイケオジに騙されちゃダメだよ!若い女性は柘植に騙されないように!」それに同調した伊藤が「自己顕示欲強い人に騙されないように!」といい、榊原も「南雲さんみたいにならないように!」と笑いを誘った。

榊原は「柘植さんに騙されるようなことがなければ、もっとしなやかな女性になれたはずなのに、あのパト2の経験から想像するに、その後頑なになっていく女性になるのが哀しい」とこぼした。

伊藤は「父親への依存、母親との確執から、南雲さんの人格が出来上がってしまったから。父親なり、母親なり、もっと違う人だったら柘植に騙されるようなことはなかったのではないかな?と思う」と持論を展開。

高田は「本当にしのぶの精神世界が殺伐してる」と言葉から、その後押井さんの他作品から伺えるセンシティブな内容のエピソードが飛び出した。

また、劇パト2の【サウンドリニューアル版パンフレット】のデザインについて触れると高田は「今回、表紙は後藤隊長と南雲隊長を描きました。このストーリーの主人公はこの2人だし、手前にはその生き方も美しい本作の真のヒロインであるしのぶさん。その背景には辛い思いをした女性に向けて前を向こう!という思いを込めています。そして、奥にはしのぶさんに目線を送っている後藤隊長。いつもはしのぶさんが後藤隊長をバックアップしているけど、この話は後藤隊長がしのぶさんを見守っている。デザイナーに後藤の目線について相談をしました」と隠れたエピソードを教えてくれた。

『機動警察パトレイバー2 the Movie4DX』 メインビジュアル (C)1993 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA/Production I.G

『機動警察パトレイバー2 the Movie4DX』 メインビジュアル (C)1993 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA/Production I.G

「劇パト2の好きなシーンは?」については?

伊藤は「劇パト2を書いている時、ちゃんとシナリオとして成立しているのか?という思いがずっとあった。押井さん曰く「スプライシングテープがあれば繋がらないカットはない」という名言があり、つまりテープがあれば繋がらない話はないということなんだけど。書き終わってもスカッとしなかったのも珍しいかな……。その中でも幻の空爆の部分はノリノリで書けた。それからクスッと笑えるのは、進士が整備班に連れて行かれるときに、奥さんから「二人目がいるの?」と告げられるも、連行されるシーンかな。」と語る。

高田は「しのぶがレイバーを操縦するシーンと、街が侵食されていくような感じが好き。特に4DXの細やかな動きがついてて、静かなシーンがふわっと画面が身体に入ってきて、2の深さがわかってよかったです。なので、映画としては素晴らしいと思っているんですよ!押井さん!」と付け足した。

(C)1993 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA/Production I.G

(C)1993 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA/Production I.G

榊原は「劇パト2は映画作品としては革新的で面白かった。さまざまな人たちに冒険してもいいと勇気を与えたし、個人的には演じていたから葛藤があったけれど、ひとつの映画作品として鑑賞するならいいと思います。演出云々で押井さんの考えがわからなかったけれど、とても嫌だなって想いがありました」と、南雲しのぶというキャラクターと真摯に向き合ってきたからこそ、溢れる葛藤と戦っていたことがよくわかる。

また、それぞれに好きなエピソードを問われると、伊藤は「テレビシリーズの「CLATよ永遠に」と「VS」が好き。「VS」はヨコテと共著になってる回だね。」と一番弟子の横手美智子のことを振り返る。

高田は「テレビシリーズの「CLATよ永遠に」「太田惑いの午後」、そしてOVAの「二課の一番長い日(前編)」かな。「CLATよ永遠に」はキャラ描くのが楽しかったし、「太田惑いの午後」は太田の弱い・柔いところが見ていて楽しいし、「二課の一番長い日(前編)」は遊馬の「野明東京にいくぞ!」という台詞が好き。」とこぼし、「私は遊馬のお育ちが良いけど詰めの甘い坊ちゃんっぽさが好きなんだよね、男は未完成キットがいいのよ、一緒に人生を組み立てて行けるような!」と笑いを誘う。

榊原は「やっぱりテレビシリーズの「二人の軽井沢」ですかね。プレスコ(先にセリフを収録して、それに合わせて映像を作っていく制作方法)だったんですが、後藤喜一隊長役の大林隆介さんと膝を付け合わせながら収録しました。プレスコでのセリフ収録時に大林さんの呼吸を感じ取りながら演じたのが印象的だった。大林さんが演じる後藤隊長の「なんだかな〜」という台詞が好きなんですよね。自分でも気分を切り替えたい時に自然と口に出してる」と言うと、その言葉を引き取りながら伊藤が「その手のセリフで言うと「頭かいーわ」が好き」という言葉に同調し、高田も「自然と台詞回しが浮かんでくる…海見てると「ピッと行け!ピッと!」って台詞が浮かぶ」と語り。三者三様それぞれ質問に答え、視聴者からの質問コーナーの幕が閉じた。

トークテーマその②それぞれの立場から考えるキャラクターの物語について

MCの喜屋武ちあきから「このトークテーマはどういった意図で?」と伊藤に問われると伊藤は「僕は文章、高田はイラスト、榊原さんは声と、それぞれ表現の分野は違うが、キャラクターについて肉付けしてみたり、ある面を見せるときのアプローチの仕方って違うのでは?と思い、自分が聞いてみたかった」という素朴な疑問からこの議題が生まれたことを語った。

高田は「DVDやBlu-rayなどメディアが変わってイラストを描く時には、キャラクターと対話し直して、違う面を出したいという想いで手がけています。外側のジャケットは野明と遊馬だけど、インナージャケットはそれぞれのキャラクターを描いているから、そのキャラクターを掘り下げていくのが面白かったですね。これまでいろんなコスプレをさせていますよ。例えば太田はガンマン、福島課長は子供に翻弄されているおじいちゃん、シゲはマッドサイエンティストなどなど、ファッションなどでちょこっとイメージを拡張させていきました。」

続けて高田は、「その中でも、野明が分からなかった。最初のキャラクターシート描いてスタートして、その後ドラゴンマガジンの連載も集めて富士見書房で画集を出してくれるまでになったけど。いろんなことが言語化できないけど、キャラクターを絵に描いていくと人となりがわかってくる。企画書にはキャラクターの年齢やタイプなど4行ぐらいの情報しかないけれど、ストーリーを重ねていくにつれて像が重なって結んで、自分の心の中にキャラクターとして住んでる場所ができていく。しばらく離れていると、すぐには戻ってこないんですけど、描いているうちに「ただいま」ってなるんですよね。ストーリーが進行して、理解度が深まってくると、その度に顔が違っていくし、そうなっているのもわかっている、個人的にはレーザーディスクのボックスのインナージャケットの遊馬が好き」と喋りながら伊藤に話題を振る。

伊藤は「手を動かしているうちにキャラクターのことがわかってくるっていうのはわかる。俺の場合は「ただいま」とは言ってくれないけど……」と笑いながらこぼした。

篠原遊馬&泉 野明 (C)1993 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA/Production I.G

篠原遊馬&泉 野明 (C)1993 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA/Production I.G

榊原は「自分が演じるキャラクターは能力のある女性が多く、スタッフから「この人もそういう女性ですよ」と言われたけれど、しのぶさんを表現するなかで同一にしたくないという反発心が起きました。その当時は男女雇用機会均等法ができ、男女がギクシャクしている社会情勢に対して、自分自身も成長していくために、そんな社会の現実を取り込んで、強いところ、弱いところを入れて、人間らしいところを入れました。」と、当時の女性の生きづらさを演技で表現していることがわかった。

榊原良子演じる南雲しのぶ (C)1993 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA/Production I.G

榊原良子演じる南雲しのぶ (C)1993 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA/Production I.G

また、喜屋武ちあきのMCから榊原に対して「南雲さんと自身と差異を感じていましたか?」と問われると榊原は「昔、劇団のオーディションを受けたんですけど落ちたんです。その時に凡人だと思い知りました。その(凡人だという)ことを否定しないで受け入れる。凡人だけど演じるのが好きで、才能溢れる人たちのなかで、どういうふうに生きていけばいいのか?そのためにできることは……?と考えたら、才能溢れる人と同じことをしてはいけない、凡人なりの訓練していくんだと決めてきました」という。

続けて榊原は「人間、強い人はいないと思っているから。強い人になろうと思ったことないもん。全然弱くていいと思っているから。何で弱くちゃいけないの?だって、この世の中で人一人で何かやっていける人っています?個人的には弱いことを認める時とか、誰かがいるから頑張れると思っています。自分に無理強いしなくて、弱くていいんだよって、弱さを誰かで補うでいいんですよ。ただ、それを誰も何も言ってくれない、言ってあげる人がいないし、私は弱さを持っていていいいと思っています。多分、これから先も新しい経験を前にギクシャクするし、どうしようと不安で焦ってしまうと思うの。でも、それでいいと思っていて、そのまま歳を重ねていきたい」と素敵な言葉を投げかけた。

「自分が演じるキャラクターは能力のある女性が多いということから、愛ある叱責を受けたいと思っている男性が多いのでは? 」という言葉から、一時期チャットでは「叱ってほしい!」というコメントに溢れ、榊原はサービス精神旺盛で応えていき、その場が興奮で盛り上がった。

トークテーマその③それでも憎めない押井守、人として、監督として

伊藤は「今回、押井さんに物申す企画だけど、なんだかんだ言って“押井さんが好き”ということを自覚してしまった。それからパトの公式ファンサイトでの樋口真嗣へのインタビューが良くって、「押井さんが大好き」というところに着地している。最終的に「かわいいおじいちゃんなんだよ」というエピソードを紹介できればな」語った。

MCの喜屋武から「押井監督のかわいいエピソードとは?」と聞かれると伊藤は「熱海に10年ぐらい隣同士で住んでたことがあったんだけど、最寄りのコンビニが23時で閉まって、多分行けなくなってしまったんだけど、自宅のドアチャイムを鳴らして「タバコ売ってちょうだい」と来たことかな?」と続けて「でも、犬との付き合い方が分からず、室内から屋外で飼うようになり、犬の虐待になると言われ「犬の飼い方がなっていない!」と絶交されたんだよ」というエピソードが飛び出した。

高田は「とある私鉄沿線でファンから「押井さんですか?」と聞かれ、押井さんが「違います!」と飛び去って全力で逃げた話とか、そんなの逆に本人だって言っているようなものだよね。その他は、「僕は美少年だったんだよ!」というふうに自分で言っちゃうところが可愛い(笑)」それに合わせて、伊藤が「27、28歳ぐらいの時はお稚児さんみたいだったんだ」と語る。

続けて、高田は「それから、押井さんはタツノコの演出部に入ってきた時から知っているんだけど、キャラクター室でキャラクターを描いて、それを演出ルームにいる押井さんに渡して、タタタって逃げて出入口で振り返ると、リテイクの合図(※手でおいでの仕草)とされたこととか、どこか愛嬌があるよね。それとぴえろ時代の伊藤さんと押井さんのペアがマッチ棒とサイコロだったんだよね(笑)」と言いながら当時を振り返り、演出家は大人気ないことをしたとしても、憎めない愛嬌があることが大事だと告げた。

一方、榊原は「押井さんについては“こういうふうな人間”みたいなものは決めてない。押井さんを知ろうとしないし、アプローチしないし、俯瞰で見ていたい。分かりたくないし、分からなくていい。何が出てくるのかを見ていたいと思っています。だって、哲学的なことを語られても、きっと理解できないし、その向こう側の端的な一言、その一言を待ち望んでいるんです。」と自身の考えを展開。伊藤は榊原の言葉から「その一言は「わん。」です(笑)」と引き取った。

南雲と柘植 (C)1993 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA/Production I.G

南雲と柘植 (C)1993 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA/Production I.G

そして、MCの喜屋武から「押井さんの実写からEZY(2018年に発表されたパトレイバーの新プロジェクト)に取り掛かろうとした理由は?」と聞かれると高田は「泉野 明(いずみのあきら、実写版『THE NEXT GENERATION -PATLABOR-』で真野恵里菜が演じた主人公、パトレイバー主人公泉 野明とは別人)はないだろ?と思った。全然違うのにしたほうがいいのでは?(笑)」と率直な感想が出た。

伊藤は「押井さんの実写版はどうなの?それ?となり、そのこともあって自分たちも新作を作ろうとなったんだよね。何人かで監督してて、田口清隆がやった赤いレイバーは面白かった、でも白いワニはやりすぎだった。でも、どっちにしろ観たことあるよね?という想いが拭いきれなくて、それだったら新しいパトレイバーやったほうがいいんじゃない?と話が立ち上がったのが、今制作進行中のEZYのきっかけになったんだよ。」引き継いで高田は「ヘッドギアのみんな思ったよね」と苦笑いを浮かべ、仕事をしている押井さんについても伊藤は「押井さんが手掛けた実写作品はできるだけ観るようにしているけど……実写やめたら? と思う」と語った。

オリジナルスタッフが関わっている、現在制作中の新作『パトレイバー EZY』これまでのいろんな経緯はありながらも、それぞれのパトレイバーの解釈で世界が拡張され、新しいパトレイバーが観れるという期待を胸に、それがファンのもとへと届けられる日を待ち望んでいる。

最後に榊原は「私自身、有意義で楽しい時間でした。今度は後藤隊長をテーマにし、素敵な年の取り方をしている大林さんといろいろとお話しがしたいです。そういう会を楽しみにしていてください」と話す。

続いて高田は「今回のトークイベントを通して「高田さんってこんな人なの?やだ!こわい!」って思われたら嫌だな……どうしようと不安だった。でも、キャラクターを愛しているからこそ反発が生まれるので、そこのところ皆さん宜しくお願いします!(笑)」と語る。

最後に伊藤は「女子校に紛れ込んだ、男子高校生の気持ちでした。ちょっと居心地悪かったです、楽しんでいただけたら幸いです」と笑いを誘い、イベントは終了した。

取材・文:新 麻記子