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玉葱とクラリオン 作者:水月一人

序章

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夜中に唐突に叫びだしたくなるようなアレ

 幼い頃、テレビの超能力特集に触発され、寝食を忘れて念力の開発に夢中になった記憶がある。左の手首にこっそりとルーン文字を書き入れ、滝行と号し冬だと言うのにシャワーで冷水をかぶり、ブルブル震えながら自室のドアに手を翳して、動け動けと念じるのである。


 無論、ドアは1ミリたりとも動くわけが無かった。それでも諦めきれないので、ちょっとだけドアを半開きにした。それでも動かないので、窓を開けて風通しも良くした。蝶番に油も差した。その内業を煮やし、顔を真っ赤にしながら、キエーッとか、ホイーッとか叫び始めた。


 すると、スーッと音も無くドアが開いたのである。


 その瞬間の全身を突き抜けるようなゾクゾクとした高揚感と、ドアの向こうからバスタオルを持って入ってきたお婆ちゃんの、それはそれは残念そうな顔を今でも夢に見ることがある。


 あの時の感じと似ている。


 丘の上で呆然と立ち尽くす騎士たちが、幽鬼のような真っ白い顔で、じっとこちらを凝視していた。ブリジットの奇異なものを見るような目が突き刺さる。


 詠唱なんてただのスイッチみたいなものなのだから、別に大声を張り上げる必要なんか無かったはずだ。え~? 詠唱なんてたりぃしぃ~、詠唱が許されるのなんて小学生までだよね~、ってな感じにもっとマイルドでよかったはずなのだ。なのにその場のノリと勢いで、つい叫んでしまった。きっと彼らにも聞かれている。あの冷たい視線がそう言っている。


 ああああああ……死にたい死にたいよう。さっきまで死にたくなかったけど、今は金を払っても死んでしまいたい。


 ノリノリだった! 駆け抜けろミカボシ! 言った! 言ったよ! 超叫んでた! ああああああああ……ちょっと待ってちょっと待って! そう言う奴って思われたらどうしよう? つーか絶対思われてるよどうしよう……


 そんな風に但馬が、抗い難い胸の痛みと動悸と眩暈(めまい)と息切れに悶絶していたら、


 ふっ……


 っと、突然、耳に息を吹きかけられて、彼は別の意味でまた悶絶した。


「うひゃああああああ~~~うぅ!!!」


 ゾクゾクとした悪寒が背筋を駆け上って、身震いしながら但馬は背後を振り返る。


 すると、いかにも渋谷とかで遊んでそうな小学生くらいの少女が、ニヤニヤしながら立っていた。


 青いチュニックをワンピースのように着こなし、腰を光沢のある上品なリボンで絞り、ダボッとしたカーディガンを羽織り、ポケットに手を突っ込んでいる。腰には彼女に似つかわしくない、細身の剣を引きずるように下げていたが、白のサイハイソックスと、重ね着のスカートの裾から覗く絶対領域の方はなんとも魅力的であった。しかし、その肌は病的に青白い。


「騒がしいので来てみれば、お主の仕業か? ほほう、これは中々壮観じゃのう……あれだけの力でねじ伏せておきながら、誰も死んでおらんとは……敵にまで情けをかけるとは益荒男(ますらお)よの。天晴れである」

「……え?」

「なんじゃ、気づいておらなんだか。天は二物を与えんと言うが、魔力のわりに、頭の方は空っぽか。よっぽどの間抜けのようじゃのう」


 少女はおかしな言葉を使い、呆れた素振りでそう言った。


 無礼なその台詞に一瞬むかっ腹が立ったが、すぐさま気を取り直すと、但馬はレーダーマップで確認してみた。彼女の言うとおり、生体反応は殆んど消えていない。あの隕石の襲来で、全ての敵がなぎ倒されていたが、どうやら致命傷は外れていたようである。


 但馬はホッとした。と同時に、少し戸惑った。


 正直、隕石が飛来するのも奇跡なら、誰も死ななかったのも奇跡に等しい。こんなこと自然には、絶対に有り得っこない。まあ、敵だろうが味方だろうが、自分のせいで命が無駄に奪われるよりは、断然マシな結果であるから、これで良かったのだろうが……やはりこの世界は、まるでゲームみたいだ……


 そんな時、幾人かの騎士が暴走して、無力化している敵に止めを刺し、それをリーダー格の騎士が押しとどめていた。


 あっ……と思う間もなく、いくつかの光点が、その一瞬で消えていた。但馬は唸った。これって……やっぱ、死んだわけか? もの凄い簡単に殺っちゃってたけど……ゲームだとしても酷すぎる。捕虜の扱いとかはどうなってるのだろう。彼は複雑な心境で、顔を(しか)めてそれを見守っていた。


「おや、そこの者は怪我をしておるのか。ほれ、こちらへ参られい」


 そんな但馬を遠巻きに見ながら、エリオスが星球棍(モーニングスター)を片手に棒立ちしていた。少女は彼の怪我に気づくと、屈託ない口調でそう言った。


 彼は突然どこからともなく現れたその少女に驚き、初めは警戒心を露にしていたが、


「はよう。何を怯えておるのじゃ」


 対称的に全く無警戒な少女に催促されると、暫く逡巡した後、毒気を抜かれたように肩を竦め、彼女の言うことに従った。


 何しろ、警戒するのが本当に馬鹿馬鹿しいのだ。


 少女は小柄なブリジットと比べても、輪をかけて小柄で華奢であり、特にウエストなんかは、風が吹いたらぽっきりと折れてしまいそうなくらいに細かった。おまけに、その双眸はエリオスに声をかけておきながら、あらぬ方向を向いており、光を映していないのであろうか、暗く濁っているのだった。


 動作もどこかぎこちない。多分、彼女は目が見えないのだろう。あれ? それじゃ、どうしてエリオスの怪我に気づいたのだろうか……なんだか不思議な感じである。


「君は一体どこの子供か。街から一人で来たのなら、危ないからもう帰りなさい」


 戸惑いながらエリオスが言う。彼女はそれには何も答えず、彼に手のひらを翳して、まるで傷を探しているかのように動かしていた。


「主よ 我は来たれと御声を聞けり ゴルゴダに流るる血にて清め給え 主よ我は来たれり 汝の下へ今来たれり 十字架の血にて清め給え 十字架の血にて清め給え」


 そしてブツブツと、念仏のように何かを唱え出すと、ポゥッと彼女の手が光りだし、ホタルのような淡い光がクルクルと渦を巻いてエリオスの傷口へと向かっていき、それを優しく包み込むのだった……


 但馬はポカーンと、バカみたいに口を開いて固まった。


 彼女の青みがかったアッシュブロンドが艶やかな光沢を放ち、風も無いのに靡いて揺れた。光はやがて彼女の全身をも包み込み、ホタルのような儚い光が、じわじわと染み出すように、周囲に広がっていくのだった。


 但馬は仰天した。信じられないことに、その光の中で傷口がみるみる塞がっていく。さらに、あろうことか、切り落とされたはずのエリオスの指が、ムクムクと新たに生えてくるのである。


 本当に、まるでビデオを逆再生したようだった。


「すげえな……ただのヒーラーじゃねえぞ」


 いつの間にか隣に並んでいたシモンが冷や汗をかきつつ、感嘆を呟く。


 但馬はその時、生まれて初めて魔法を使っている者を見た。それは正真正銘の奇跡で、現代科学の理解の及ばない現象であった。


 やがて、彼女が治療を終えると同時に、奇妙な発光現象も終わり、辺りはなんとも言えない微妙な雰囲気に包まれた。エリオスは礼を言おうとしてるようだが、相手があまりにも小さすぎて、どう接していいか分からない感じである。頭を下げようとしたら、もう土下座するしかないくらいの身長差なのだ。


 そうこうしていると、


「リリィ様っ!!」


 悲鳴のような声が響いて、但馬たちが見知らぬ少女と立ち話をしていることに気づいたブリジットが、遠くから一目散に駆け寄ってきた。その必死な顔と勢いが尋常では無かったので、但馬は度肝を抜かれて道を譲った。


 ブリジットは現場に到達すると、まるで抱きつくかのように、少女の腕を救い上げて膝をつき、見上げるようにして言った。


「リリィ様っ! 居なくなられたと聞き及び、心配しておりました。お怪我はございませんか? あの者共に、何もされませんでしたか?」


 まるで過保護な母親みたいなその行き過ぎな姿は、端で見ている但馬の眼には奇異に映った。ブリジットにとってその少女はとても大事な人のようだ。その台詞や様子から分かったが、どうやら、この少女こそが、騎士たちが探していたと言う姫様らしかった。


 ……言われて見れば、高貴な顔立ちをしていなくもない。心なしか、その渋谷の小学生みたいな服装も、今は神々しくさえ思える。そんな風に感心していると、


 パシッ!


 と、容赦なく平手が飛んで、少女はブリジットを突き放した。


「わきまえよ。余は天子であるぞ」


 その台詞は、さっきまで但馬たちにかけていた声とは打って変わって、冷たく、重々しいものだった。


 まるで人が違ってしまったかのような豹変振りに、但馬は虚を突かれ唖然となった。


「軍曹おおおぉぉっっっっ!!!」


 今にも人を殺しそうな、もの凄い怒声が辺りに響き渡る。


 間もなく、他の騎士が続々と駆けつけて、少女を取り囲むように整列すると、一斉に膝をついて頭を垂れた。


「エトルリア皇女殿下におかれましてはご機嫌麗しく存じます。我が名はウルフ。リディア領主ハンスの孫にして、リディア近衛軍団副長であります。まずは、我が部下の非礼をお詫び申し上げたい」


 ウルフと名乗る騎士のリーダーが臣下の礼を取ると、姫に拒絶され、呆然と尻餅をついていたブリジットが我に返り、


「大変、失礼致しました。お許しを……」


 すぐさま、騎士達の輪の末尾に加わり、同じように膝をついて頭を垂れた。


 まるで予期していなかったのだろう。エリオスとシモンが慌てふためき、バタバタと彼女の後ろに回って、同じように頭を下げた。よっぽど恐縮してるのか、あの巨漢が今はまるで子供のように小さく見えた。


 鎧をまとった騎士たちが、一斉に臣下の礼を取る様は、まるで映画のワンシーンのようだった。セピアの写真にでも切り取ってしまいたくなる光景だ。


 そんな具合に……もの凄いものを見たなあ……と、但馬がポカンと口を半開きにしてアホ面を晒していたら、


 ジロリ……


 と、視線だけで人を殺せそうな眼光をウルフが投げかけてきた。何か知らんが、滅茶苦茶怖い。


 何故、自分がそんな目で見られなきゃならないの……? と初めは戸惑ったが、それもそのはず、気がつけば、その場で突っ立ってるのは但馬一人だけだった。正確には姫様と二人であったが。


 これはあれか、頭が高いと言う奴か。どうすりゃ良いんだろう。真似をすればいいのだろうか……と思ったのだが、一度タイミングを逃してしまうと、何だかやたらとこっ恥ずかしくて、躊躇してしまった。何しろ相手は見た目だけでは渋谷の小学生でしかないのだ。円山町とかにいそうな感じなのだ。頭を下げると言うか、ロールプレイングというか、そう、イメクラみたいで何ともきついものを感じる。


 ちらりちらりと、他の騎士たちからも、空気を読めよといった視線を浴びせかけられる。


 それでも自分に膝を屈しろと言うのか……


 なんか釈然としない。そもそも、但馬は別にこの国の住人と言うわけでもないんだし、大体、出会ったばかりの小学生女児相手に頭を下げ、スカートの中身を覗く趣味も無い。そもそも、こいつらはさっきのあれを見ておきながら、よくもそんな態度を取っていられるものだなあ、と但馬は思った。自分がその気になって魔法ぶっぱしたら、どうするつもりだ。立場ってものを弁えろ。もう魔法はコリゴリだとも思ったが、いいぜ、やってやるぜ。諦めろ、おまえらが火を着けたんだ……但馬は右のコメカミを叩くとメニュー画面を開き……


 しかしMPは0である。


 這いつくばって土下座した。


「はっはあ~~~!!! お姫様におかれましては本日はお日柄も良くぅ~~!!」

「よいよい。(おもて)を上げよ」


 利発そうなお姫様の天使の声に促され、但馬は感極まるように頭を上げた。


 姫は騎士達のリーダー、ウルフの方へ向き直ると、


「して、この騒ぎは一体なんなのじゃ?」


 あんたがそれを言うのかよ……と言った空気がプンプン漂う中、リーダーは表情をぴくりとも変えず、流れるように報告するのであった。


(おそ)れながら申し上げます。つい先刻、貴国侍女長より殿下の捜索を下知(げち)(たまわ)御身(おんみ)をお探ししておりましたところ、かの丘にて敵国人らしき不審な集団を発見、交戦となり、たった今撃退したところであります」


 丘では残りの騎士が敵の負傷兵をふんじばっていた。詳しいことはまだ分からないが、恐らくこいつらが彼女を拉致しようと目論んでいたことは間違いないだろう。


 だというのに、姫様はまるで危機感のない口調で、気もそぞろに言った。


「左様か。それは大儀であったな」

「畏れながら、二点質問がございます」

「申してみよ」

「はっ! 先ほど我々が交戦した勢力、亜人の斥候部隊のようでしたが、我々はかの者たちが殿下を(かどわ)かしたのではと考えていたのでありますが、間違いでしたでしょうか」

「ふむ……なるほど。お主らは、儂がかの者たちに捕まったと思っておったのか。馬鹿じゃのう……儂があのような者に遅れを取るわけがあるまいに」

「なにぶん、侍女長殿は殿下の失踪がいつもとは違い、大変動揺していたご様子。もう一点、共も連れず、書置きもせず、こうして街の外へ一人でいらしていたのは何故でしょうか。失礼ながら、些か無用心が過ぎるのではと愚考する次第であります」

「うぅ……リズの形相が目に浮かぶのう……しかし、一人では無いのじゃ」

「と、申しますと?」

「今朝方、街へ出て港に行くと、なにやら謎の発光現象の話題で持ちきりでの」


 但馬はギクリとした。


「どれ、物見遊山に出かけようかと思ったところに、たまたま出入りの仕立て屋がやってきて、丁度いいとばかりに共に連れて街を出たのじゃが……ふむ、今にして思えば、この男の様子はずっとおかしかった。疲れたので暫し休憩しようと言うのじゃが、聞き訳が悪く、やたらと先を急くのでのう。あまりに五月蝿いので……ほれ、そこに転がしておいた」


 姫が海岸のほうを指差すと、居ても立ってもいられないと言った感じの騎士の一人が、いきり立って腰を上げた。


「まあ待て、何か事情があるやも知れん。殺すでないぞ」

「御意」


 騎士の一人が駆けていく。


 ウルフは、はぁ~っと溜め息を吐くと言った。


「どうやら、誘拐未遂……と言ったところですか」

「そのようじゃの。なにはともあれ、お主らには迷惑をかけた、礼を言おう」

「もったいなきお言葉」


 定型句に文句を言うのもなんであるが、特にもったいないお言葉はかけられていない。


 しかし、騎士たちは安堵したらしく、方々で緊張感から解放されたと言った感じのため息が漏れた。


 まあ、それはそれで結構だが、こっちはいつまで土下座してればいいのかと、そろそろイライラしてきた頃合で、


「ところで、その方……なかなか面妖な術を使う。名はなんと申すのじゃ?」


 姫様が但馬を指差し言った。


 と言うか、この少女は本当にどうやって他人の位置を把握してるのだ。本当は目が見えてるんじゃ無いのか……? 面妖なのは、そっちの方だと思いつつ、


「俺っすか? 俺の名前は……」


 その場に居た騎士達の目が、一斉に但馬に集中した。


 姫様が現れると言うイベントで、ドサクサに紛れてしまっていたが、ぶっちゃけ彼らからしてみれば、姫よりも何よりも、本当はずっと但馬のことが気になっていたに違いない。何しろ、一般庶民かと思っていたら魔法使いで、更に一瞬で敵を無力化した謎の人物だ。


 ウルフのように、警戒心を露にしていた者もいたし、ブリジットのように胡散臭いものを見るような目つきの者もいた。だが大半はシモンのように目をキラキラさせていた。


 しかし、当の本人はそんなこと露とも思わず、そう言えば自己紹介がまだだったなあ……と軽い気持ちで続けた。


「俺の名前は但馬波留。タージマハールじゃないよ? インドとか言うんじゃねえ! ……って、誰も突っ込んでくれないか、とほほ。ああー、いや、こっちの話です。どうもどうも。どうぞよろしく」


 と言って、彼は土下座のまま彼にしては精一杯社交的なつもりの、馬鹿みたいな愛想笑いを浮かべて、首だけでペコリとお辞儀した。


 それは但馬にとってみれば、初対面の相手に必ずやる極寒(ごっさむ)テンプレネタでしかなかったのであるが……


 何故か、どよめきが起こると、場の空気が急変した。


 なんだなんだ? 一体どうしたと言うのだろうか。滑るのは慣れているけれども、こんな反応は初めてだった。


 ウルフを含めた数人は、眉根を寄せて、怒りを隠そうともせずに但馬を睨みつけた。まるで侮辱するなと言わんばかりの形相である。


 ブリジットを含めた数人は、だめだこりゃと言った感じに肩を竦めて、深い深い溜め息を吐いた。あれは身に覚えがある。可哀相な者を見る人たちの目だ。


「く……くはははは」


 何だこの雰囲気は? と首を捻っていると、突然、姫様が笑い出した。


 その笑いにつられたのか、シモンも腹を抱えて笑いだす。姫様の前でその様は、とんでもなく不敬であったろう。しかし誰も彼を見咎めることもなく、呆れたように首を振るだけでスルーした。


 なんだか、もの凄く馬鹿にされてる気がする。


 理由の分からない状況に、但馬が憮然としていると……


「お、おまえ……そこまで勇者様になりきらなくて……くっくっく」


 シモンが但馬の肩にぽんと手を回し、息も絶え絶えそう言うのである。


「勇者……様?」


 どういうことだろう……と戸惑っていると、一頻り笑い終えた姫様が、目尻の涙を拭いながら解散を宣言した。


「そうかそうか……では勇者よ。機会があればまた会おう。騎士たちよ、儂は街に帰るぞ、ついてまいれ」


 但馬に対して(いきどお)っていた者たちが、彼女の後につき従い、彼に対して呆れていた者たちが後に残った。しかし、残った者はそれ以上、別段但馬に関心を払わず、その場を後にした。恐らく、丘の上の捕虜を相手する者の応援に行ったのだろう。はっきりと軽蔑の視線を向けてくる者も少なくなかった。


 どうして急に怒り出したのだ? さっぱり分からない。


 しかし、この扱いはちょっと……あんまりなんじゃないの?


 未だに理由が分からないでいた但馬は、ムスッとした顔をしながら、その切っ掛けを作った姫様のことを恨んだ。もしかしたら、何か彼女に対して無礼を働いてしまったのかも知れないが、さっき助けてやったというのに、騎士達のこの態度はどうなんだ。


 むかっ腹を立てながら、但馬は立ち去る姫様を目で追いかけつつ、左のコメカミを叩いた。せめて何か情報を得て、あとで仕返ししてやろうと思ったのだが……


『Lily_Prospector.Female.Human, 144, 32, Age.13, 74AA, 52, 75, Alv.99, HP.58, MP.813, Blindness.Illness.Sickness.Poison.Fatigue.Status_Abnormal_Caution,,,,, Class.Princess_of_Etruria, Etrurian,,,,,Magic.lv99, Fastcast.lv99, Imagination.lv99, Unique.Artifact.Proprietary.lv99, Cortana.Equipment.lv99,,,,,』


「……へ?」


 名前とか、身体的特徴とか、ほんのちょっとしたことが分かればいい……その程度のつもりだった。


 但馬は困惑した。その状態異常の多さもさることながら、彼女の所持するスキルなどのレベルが、軒並み99であることにも驚いた。まるで測ったかのように、すべてが99で止まってると言うことは、つまりそこでカンストということだろうか。それにしたって、この数字は一体……


 気のせいだろうか。その時、姫が首だけ振り返って、ニヤリと口元をゆがめた気がした。


 屈強な騎士たちを従えて、颯爽と風を切って歩き、とても盲目とは思えない、しっかりとした力強い足取りで彼女はその場を去っていく。但馬はその後姿を呆然と見送った。


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