誰かが「上洛しましょう」と言ってくれるのをひたすら待っている。片田舎から世の中の情勢を見ながら、のんびりとひとり静かに待っている。なので、十兵衛が訪ねてきたときには、「何かが動くかもしれない、この男となら穏やかな世をつくれるかもしれない」という思いが一瞬チラついたかもしれない・・・一瞬ね。
そしてそのあと、十兵衛と話したことを思い返していると、「いや待てよ、あいつとなら本当に麒麟がくる世をつくれるんじゃないか」と思うようになって、駒に文を書いたんじゃないかな。
「ここで鯛を釣っていれば、殺されることはないからな」と冗談っぽく十兵衛に言いましたが、あれは本心だと思う。特に戦国の世は生き残った者の勝ち。パッと命を散らしたほうがかっこよく見えるかもしれないけれど、やっぱり生きないと。どんな時代でも生きてさえいれば、いつかいいこともあるでしょう、そう信じたいです。(滝藤賢一)