帰蝶の故郷である美濃を手に入れた信長は、かつて「稲葉山城」といわれていた斎藤道三の居城を取り壊し、新たな城を造営、名称も「岐阜城」と改めた。ここを拠点に、信長は天下取りへ向けて大きく動き出す。その岐阜城の大広間と庭は、どのようなコンセプトでデザインされたのだろうか?
「武骨で重厚感のあった稲葉山城を超えるデザインにしなくてはいけない、と。そこで、道三の時代にあった重厚感は残しつつ、圧倒的なスケール感で信長らしさを表現しました。
大河ドラマの撮影が行われているスタジオ全体を使って、これ以上広い空間は造れないというほどの大広間にしました。おそらく大河ドラマ史上、最大級の大広間だと思います」(枝茂川)
また、信長のテーマカラーである黒と黄色は生かしながらも、道三の面影がかいま見られるデザインとなっている。
「大広間自体が、稲葉山城の広間の形状を継承しているだけでなく、信長が座る上座の領域にも道三の時代と同じ御簾(みす)を使うなど、道三へのリスペクトが感じられるデザインにしました」(枝茂川)
『誰も手出しできないような大きな国をつくれ』。道三の遺言ともいうべき言葉を、光秀から聞いて感動した信長らしい広大な空間がここにある。その圧倒的な規模感は、信長のさらなる躍進を想像させる。
「織田家の主(あるじ)が座る上座の背後には、必ず“龍”が描かれています。そこで、信長が築城した岐阜城の龍は、『雲海から舞い上がっていく“昇り龍”』を表現。大名の中でも、ひとつ抜きん出た存在であること、新たな時代に向かって、天下統一に向かって飛翔していくさまをイメージしました」(枝茂川)
「また、見る人によっては雲海が“波”に見えるかもしれません。それでもいいと思っています。斎藤道三の家紋は『二頭立波』で、稲葉山城の道三の背後には荒れ狂う“波”が描かれていました。
くしくも信長の“龍”と道三の“波”が融合する形となり、信長が亡き道三の遺志をものみ込んだのかもしれない。見る人によって、さまざまな想像がどんどんふくらんでいく。そこが、デザインのおもしろさであり、奥深さだと思います」(山内)
庭も信長らしい力強いものにしたい。上座で信長が背負っている『龍』を、枯れ山水の庭で立体的に表現できないだろうか?そんな美術チームの思いを造園チームが見事にカタチにした。
「幹や枝が地をはうように伸び、まるで龍がはい上がっているように見える“臥竜梅(がりょうばい)”という梅の木をイメージして庭をプランニングしました。白砂を雲海に見立て、そこを突き抜けて舞い上がってくる龍。造園チームの木村達也さんが、私たちのイメージ通りに梅の木を仕立ててくれました。
また、庭の地面を高くすることで、どの部屋からも雲から出てくる龍が見えるようにしました。
廊下奥にある杉戸には、獅子、牡丹(ぼたん)、松を描き、その中央に龍をイメージした庭があるという設計としました」(枝茂川)