しりあがり寿のシュールでカオス、おまけにビミョーにサイケな傑作漫画『真夜中の弥次さん喜多さん』が再び舞台化! おん・すてーじ「真夜中の弥次さん喜多さん」双(ふたつ)が6月21日から25日まで全労済ホール/スペース・ゼロにて上演中だ。
本作は、2016年1月に上演された、おん・すてーじ「真夜中の弥次さん喜多さん」の続編にあたる。演出は、放送作家として知られ、劇団SUGARBOYの他、エレキコミックの舞台作家、ラーメンズ小林賢太郎とも活動する川尻恵太。
出演者はW主演として、男らしくて超ポジティブの弥次郎兵衛役を唐橋充、ドラッグ中毒で弥次さんをこよなく愛する喜多八役を藤原祐規が務める。さらに、元宝塚歌劇団雪組トップ娘役の愛原実花や、「SHOW BY ROCK!! MUSICAL」や「私のホストちゃん REBORN」にも出演した米原幸佑ら豪華な俳優陣11人が脇を固める。13人が織りなすロックでアナーキーな世界がここに幕を開ける。
SEのリズミカルでファンキーなナンバーで幕が上がれば、いつもの“ふりだしマット”に戻って来たと弥次さんが長屋の畳間でふと呟く。前作の続きのようにも感じさせるし、別のストーリーの途中のようでもある。いや、違う。「いざ、伊勢の地へ参らん」と弥次さんが言うように彼らは喜多さんのドラッグ中毒を治すためにお伊勢参りを目指しているのだ。
しかし、見上げれば、学生のヒサオとアケミがなにやらゲームをしている。彼らは弥次さん喜多さんとどんな関わりがあるのか…? 荒唐無稽でカオスな世界が広がっていく。
彼らの旅路で待っているのは霧で覆われた摩訶不思議な町。そこに現れるのは、自称ボンドガールのバーバラ・ブルック、リー・ファン、パメラ・マローン、ローズ・ジャクソン、ジョディー・マクガバンといった異国の女性たち。ジョディー・マクガバン役の加藤良輔が公演後の挨拶で「弥次喜多の世界観はぶっ飛んでいますが、その世界をみなさんに存分に楽しんでいただけるように丁寧に演じたいと思います」と語ったように、彼らはロックなナンバーとダンスで舞台の隅々までシャウトする。
そこにジェームス・ボンド役の愛原実花が現れてカオスがマックスになるとスパッと暗転。愛原をセンターにレヴューのような歌とダンスが繰り広げられた。愛原も「自由にやらせていただいて楽しい。男役には初挑戦させていただくので、頑張りたいと思います」と公演後の挨拶で語ったのだが、黒のタキシードスーツで歌う姿は宝塚の男役のようにキマっていた。
そして、次のステージもまた霧の町。始まりと終わり。あるいは出口と入口。まるで現実と非現実がゲームのように繰り返される。でもよくよく見ればそこは骸骨が転がる町だった。そこから浮かび上がるのは「生と死」の境界だ。彼らは常に「生と死」の境をさまよっている。
かといって、一見重そうなテーマを提示しているかと思えば、どこからともなく松本寛也演じる万ジョン次郎が現れ、ハイテンションに客いじりをし、クイズを始める。役者も観客も答えを簡単に見つけられないカオスの中で生きることによって成立する舞台なのだろう。
ようやくたどり着いた「糊の里」では夫婦の背中が糊のせいでくっついているシュールな光景が広がる。彼らは顔を合わせることなく夫婦生活を営むのだが、彼らはどちらかが朽ち果てるまで死んでも背負い続ける。まさに生と死がくっついている。そこでも一悶着があったかと思えば、世界はますますアナーキーな展開に……。
そして弥次さんは、弥次さんの童貞に出会うことでなにかに気づく。“弥次さんの童貞”を演じた米原幸佑は「31年間童貞を守ってきてよかった。アテ書きかと思うほどしっくりハマってる」と冗談たっぷりで語った。
これはゲームなのか? 生きているのか? 死んでいるのか? 結末があるのか? ないのか? 喜多八役の藤原祐規は「弥次喜多はカオスなキャラクターをいかに普通の人間に見せるのがテーマです」と笑っていたが、死んでしまったボンドガールたちや背中合わせの男女の存在が普通で、こちらが普通でない存在のように見える。まるで合わせ鏡のような普通と異常。生と死。弥次さんの唐橋充も「初日を迎えるまで宣伝の機会をいただいたのですが、役名やシーンを何も発表できずに、ようやく発表できる喜びを感じています」と、舞台から様々な答えを感じて欲しいようだ。
現代の様々なカオスの台風の中でどうやって生き延びていくのか、そんな疑問を投げかけられた時、舞台は唐突に終わる。結局答えを得られずフラフラしていると、舞台挨拶のサプライズで松本寛也に誕生日ケーキが届けられる光景を目にした。その時、答えがパッと見つかる。当たり前の日々を生き、新しい誕生日を迎える、あるいはひとつ歳を失う、些細なことが本当の生であり、死ではないか。そんな小さな生と死を繰り返すからこそ人は生き続けるのではないか。そんなポジティブなメッセージを受け取れる傑作舞台なのだ。
取材・文・撮影 / 竹下力
おん・すてーじ「真夜中の弥次さん喜多さん」双(ふたつ)
2017年6月21日(水)~25日(日)
全労済ホール/スペース・ゼロ
【原作】しりあがり寿
【作・演出】川尻恵太
【キャスト】
弥次郎兵衛役 唐橋充/喜多八役 藤原祐規/弥次さんの童貞役ほか 米原幸佑/ジョディー・マクガバン役ほか 加藤良輔/ジェームスボンド役ほか 愛原実花/バーバラ・ブルック役ほか 松本寛也/添乗員役ほか 田代哲哉/ローズ・ジャクソン役ほか 足立英昭/リー・ファン役ほか 松本祐一/オミツ役ほか 岡田あがさ/パメラ・マローン役ほか 古谷大和/神様役ほか 石田隼/添乗員役ほか 福井将太
オフィシャルサイトhttp://www.clie.asia/on_yajikita/
DVD発売決定!
2017年12月27日(水)頃
本編 6,900円(税抜)
メイキング 3,100円(税抜)
関連書籍
弥次喜多 in DEEP・1
著者:しりあがり寿
月刊コミックビーム
お伊勢さん……そこにいけば、ふたりは幸せになれる……。ドラッグ中毒に苦しむ喜多さんと、その優しき恋人・弥次さんは「お伊勢参り」の旅に出た。光と陰、生と死、妄想と現実が入り交じり、道ならぬ仲のふたりの前に、道はつづく。ご存じ弥次喜多、愛と命の道中記がはじまる!
©︎しりあがり寿/2017 おんすて弥次喜多