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それは “正義”か“悪”か? 立石俊樹&小西詠斗の新タッグで魅せるミュージカル「黒執事」~寄宿学校の秘密~ 開幕レポート

それは “正義”か“悪”か? 立石俊樹&小西詠斗の新タッグで魅せるミュージカル「黒執事」~寄宿学校の秘密~ 開幕レポート

ミュージカル「黒執事」~寄宿学校の秘密~が、3月5日(金)に東京・天王洲銀河劇場にて開幕した。
枢やなが手がける同名人気コミックを原作に、2009年の初演から注目を集めているミュージカル。第8作目となる本作ではキャスト・スタッフを一新して上演。主演・立石俊樹が執事のセバスチャン・ミカエリスを務め、セバスチャンと主従関係を結ぶシエル・ファントムハイヴ 役には小西詠斗が、さらに物語の鍵を握る「P4」(プリーフェクト4)メンバーに佐奈宏紀、田鶴翔吾、里中将道、後藤 大が名を連ねる。
通称“生執事”の最新作。そのゲネプロの様子をお届けする。

取材・文 / 高城つかさ


“正義”と“悪”は表裏一体。彼らは彼らなりの“正義”をまっとうしている

“正義”と“悪”は表裏一体である──。
ミュージカル「黒執事」~寄宿学校の秘密~ は、様々な人の想い、そのなかで交錯する“正義”への価値観をしっかりと描いた作品だった。

本作は、シエル・ファントムハイヴ(小西詠斗)が自身の復讐のために悪魔のセバスチャン・ミカエリス(立石俊樹)と契約するシーンから始まる。
セバスチャンを表向きは執事として従えたシエルは「裏社会の人間を暴くのは裏の人間だ」という歌詞どおり、大英帝国女王の“番犬”としてあらゆる闇を暴いてゆくことになる。

また冒頭では、これまでに上演されてきた「切り裂きジャック編」、「ノアの方舟サーカス編」、「豪華客船編」などの名シーンをダイジェスト版として甦らせ、シリーズを重ねる“生執事”の歴史、リスペクトを感じさせる演出も見せた。

数々の闇を暴いてきたセバスチャンとシエルが大英帝国女王から次に下された指令は、英国屈指の名門寄宿学校「ウェストン校」の秘密を暴いてほしいというものだった。女王からの手紙にあった、去年の夏から帰省しない「いとこの息子・デリック・アーデン(山口晃生)」の様子を探るため、セバスチャンとシエルのふたりは、デリックの通う寄宿学校で潜入調査をすることになる。

先生と生徒になりすました彼らが潜り込んだウェストン校は、普段は表に顔を出さない“校長”の支配下に置かれていた。厳しい制約のなかでその“校長”と会えるのは、学園に君臨する4人の監督生(プリーフェクト)、通称「P4」だけ。

美しい者が集まる「深紅の狐(スカーレット・フォックス)寮」はエドガー・レドモンド(佐奈宏紀)が、武道が得意な者が集まる「翡翠の獅子(グリーン・ライオン)寮」はハーマン・グリーンヒル(田鶴翔吾)が、勉学に長けた者が集まる「紺碧の梟(サファイア・オウル)寮」はロレンス・ブルーアー(里中将道)が、芸術面で秀でた者が集まる「紫黒の狼(ヴァイオレット・ウルフ)寮」はグレゴリー・バイオレット(後藤 大)が率いている。

寮長のみが着られる色違いのウェストンコートを身に纏ったP4(プリーフェクト4)と、彼らと兄弟関係を結んでいる生徒たちが歌い、踊る登場シーンは印象的だった。

エドガー(佐奈)は4人の中で最も華があり、紅茶を飲む手つきも気品に溢れている。ハーマン(田鶴)は力強さとその奥にある優しさを姿勢で表す。また、シエルが入ることになった「紺碧の梟(サファイア・オウル)寮」の寮長・ロレンス(里中)は冷静沈着にも関わらずアイデアを積極的に取り入れる柔軟さを見せ、普段はスケッチをしてばかりのグレゴリー(後藤)は無気力に見えるが、ある場面では本領を発揮する。個性が際立つP4(プリーフェクト4)を、それぞれのキャストたちが見事に演じてみせる。

調査を進めるなかで、セバスチャンとシエルは、デリックのほかにも複数の生徒が帰省をしていないことを知る。しかし、誰に何を聞いても「校長が決めたことは絶対」と口を閉ざす生徒らを見て、謎多き“校長”に近づくため、まずはP4(プリーフェクト4)に取り入ろうとする。

校内の憧れの的であり、アイドルのような存在であるP4(プリーフェクト4)は、一見輝かしい存在のように見えるが、実はある秘密を抱えていた……。
果たして、“校長”の正体は誰なのか? デリックらはどこに消えたのか?
華やかな寄宿学校の秘密を、セバスチャンとシエルが暴く──。

今作で目を引くのは、やはり、セバスチャンを演じる主演・立石俊樹だ。物腰の柔らかさを守りながらも機敏な動きを見せ、安定した歌声も披露。戦いながらの歌唱シーンも多くあったが、その力強い歌声には、舞台キャリアを重ねながらダンス&ヴォーカルグループ「IVVY」としても活動している立石の実力が伺えた。
また、セバスチャンの軽やかさが立ち居振る舞いから表れていたのも印象的だった。“執事”である以前に“悪魔”であるということ、シエルのような“人間”との差があることを、軽やかさで明確に示していた。ウェストン校の教師に扮する場面にも、どこか異質な雰囲気を漂わせる芝居で、セバスチャンのいびつさがしっかりと出ていた。

葬儀屋(上田堪大)は冒頭ではほとんど台詞がないにも関わらず、ただ立っているだけで目を奪われる存在感を放っていた。武器である“死神の鎌”を振り回し、シエルを揺さぶる場面では、思わず観ているこちらも死の世界へと足を踏み入れたかのような気持ちになった。セバスチャンと対峙する場面での「終わりが“ない”からこそ面白い」という葬儀屋の価値観と、セバスチャンの「終わりが“ある”からこそ面白い」という価値観がどのようにぶつかるのかも見どころだ。

特筆すべきは、これまでは子役が演じることの多かったシエルを、21歳にして演じた小西詠斗だろう。P4(プリーフェクト4)に取り入るために “かわいい後輩キャラ”を演じるシエルと、セバスチャンとふたりきりになった際に見せるわがままっぷりと、小西はうまく演じ分けて見せた。
わがままだけれど憎めない。それは歴代のシエルにも通ずる部分であるが、小西が演じたシエルには、それに加えて切なさが増していたように思う。インタビューで立石が「深みがあるシエルになるのではないか」と語っていたが、まさにそのとおりで、弱さや不安が見える場面ではシエルの心音までもが透けて見えてくるようで胸が締めつけられた。

舞台セットそのものは極めてシンプルだが、パーツを組み合わせ、音響や照明、映像を用いながらまったく違うもののように見せる演出も特徴的だった。クリケット大会ではボールを光で表現するほか、クリケットのルール説明もうまく取り込んで、観客を置いていかない設計も見事だった。

物語では、「校長は絶対」という台詞がよく飛び交う。その言葉には、校長に対する強い信仰心が表れている。ゆえに、P4(プリーフェクト4)はP4なりの“正義”の道を歩んでしまうわけだが、彼らの感情の揺れ動きもしっかりと見えてくる。同時に、果たして、“正義”とは、“悪”とは何なのか、という問いかけにも感じられた。

それはシエルにも言えることだ。シエルは復讐心を抱えてはいるものの、正義感や優しさも同時に持っている。ある人から見たら、潜入調査をしたうえに闇を暴くことは“悪”かもしれない。しかし、そこにはシエルなりの“正義”も含まれている。
まさに、“正義”と“悪”が表裏一体であることを教えてくれた作品だった。

本作は、歴代の作品の中でも特に“正義”や“悪”への問いを強く打ち出していたように思う。「女王の番犬」として悪を暴くことへの罪悪感を抱きながら、彼らは彼らなりの“正義”をまっとうしている。立石と小西のふたり、舞台では初共演と思えないほど息のあった芝居に、強い絆も垣間見えた。彼らの進む道は、“悪”かもしれない。けれど、彼らは彼らなりの“正義”を貫いてほしい。そう思った。

下記は、セバスチャン・ミカエリス 役:立石俊樹とシエル・ファントムハイヴ 役:小西詠斗から届いた開幕コメントを紹介する。

●セバスチャン・ミカエリス 役:立石俊樹
まずは無事に初日を迎えられることに幸せを感じています。
このような状況下で、公演ができるように尽力くださるスタッフさんやご鑑賞くださるお客様に感謝しています。
私たちはこのミュージカル「黒執事」を届けることに意味、責任があると思っています。
原作「黒執事」の世界観と、ミュージカルならではの“生”でしか感じられない魅力を存分に届けられるよう大千秋楽まで大切に表現したいと思います。
皆様、ご来場する際には体調にお気を付けてお越しください。
よろしくお願いします。

●シエル・ファントムハイヴ 役:小西詠斗
ついに、この日を迎え、無事に開幕できるということを本当に嬉しく思います。
大変な状況の中、みんなで力を合わせて集中して頑張ってきたので、是非皆さんと楽しい時間を過ごせたらと思います。
セバスチャンとの主従関係を大切にしながら公演を楽しもうと思います!
こんな状況ですが、お芝居をさせて頂けることに感謝し、僕自身、全公演を全力で頑張ります。
劇場やライブ配信の向こう側でお待ちしています!

ミュージカル「黒執事」~寄宿学校の秘密~ は3月21日(日)まで天王洲銀河劇場にて東京公演を上演。その後、大阪公演を3月25日(木)〜28日(日)にメルパルクホール大阪、4月1日(木)〜4日(日)に梅田芸術劇場にて。千秋楽のライブ配信のほか、Blu-ray &DVDの発売も決定している。詳細は公式ホームページをチェックしていただきたい。

ミュージカル「黒執事」~寄宿学校の秘密~

東京公演:2021年3月5日(金)~3月21日(日)天王洲 銀河劇場
大阪公演:2021年3月25日(木)~3月28日(日)メルパルクホール大阪
     2021年4月1日(木)~4月4日(日)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ


<大千秋楽公演配信>
[配信日時]千秋楽ライブ配信:2021年4月4日(日)17:00~23:59
      千秋楽見逃し配信:2021年4月5日(月)0:00~4月10日(土)23:59
[配信サービス]Streaming+
        シアターコンプレックス
[販売価格]3,800 円(税込)
※詳細は各配信サービスでご確認ください。

<Blu-ray&DVD 発売>
[発売日]2021年9月29日(水)
[価格・仕様]
完全生産限定版 Blu-ray(本編映像BD+特典映像DVD):9,800円(税別)
完全生産限定版 DVD(本編映像DVD+特典映像DVD):8,800円(税別)
アニメイト限定セット Blu-ray(完全生産限定版「BD」+アニメイト特典DVD)10,300円(税別)
アニメイト限定セット DVD(完全生産限定版「DVD」+アニメイト特典DVD)9,300円(税別)
[収録内容]
本編映像:2021年4月4日(日)大阪千秋楽公演の模様を収録
特典映像:メイキング・バックステージ映像・歌唱シーン全景映像を収録予定


〈INTRODUCTION〉
19世紀の英国。ヴィクトリア女王のの仕事を請け負うファントムハイヴ家の万能執事、セバスチャン。その正体は悪魔。呪われし運命に立ち向かう孤高の若き当主シエルとの契約のもと、シエルの影となり、裏社会の事件を闇で片付けている。ある日、女王のいとこであるクレメンス侯爵の息子デリックが去年の夏休みから帰省しておらず、その原因を調査してほしいと女王より依頼の手紙が届く。セバスチャンとシエルはデリックが通っている名門寄宿学校の先生と生徒になりすまし潜入調査を始める。そこは伝統と規律が支配する閉鎖空間で絶対君主である“校長“がいた。“校長“は一切姿を現さず、唯一面会が許されているのは学園に君臨する監督生(プリーフェクト)4人(通称P4)のみ。事件の真相を探る為、P4にあらゆる手段で近づきだんだんと認められていくシエル。そんな中、活躍した人が“校長“の開催する「真夜中のお茶会」へ招待されるという、年に一度のクリケット大会が開催される。 シエルは面会の絶好のチャンスだと策を練るのだが──。

原作:枢やな(掲載 月刊「Gファンタジー」スクウェア・エニックス刊)
脚本:Two hats Ltd.
演出:松崎史也

出演:
セバスチャン・ミカエリス役:立石俊樹
シエル・ファントムハイヴ役:小西詠斗

エドガー・レドモンド役:佐奈宏紀
ハーマン・グリーンヒル役:田鶴翔吾
ロレンス・ブルーアー役:里中将道
グレゴリー・バイオレット役:後藤 大

クレイトン役:古谷大和
エドワード・ミッドフォード役:中島拓人
モーリス・コール役:田口 司
チェスロック役:福澤 侑
ジョアン・ハーコート役:内野楓斗
マクミラン役:早川維織
デリック・アーデン役:山口晃生
ヨハン・アガレス役:高橋駿一

西岡寛修 杉山諒二 花見卓也 高橋陸人

ソーマ・アスマン・カダール役:岡田亮輔

葬儀屋 役:上田堪大

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@namashitsujijp)

©2021 枢やな/ミュージカル黒執事プロジェクト