LIVEミュージカル演劇『チャージマン研!』が、10月31日(木)から新宿FACEにて上演される。
原作は、1970年代に放送されたテレビアニメ『チャージマン研!』。2074年の未来の都市を舞台に、地球に侵略してくるジュラル星人を、少年・泉研がチャージマンに変身して彼らと戦うというストーリー。一見、ジュブナイルSFと思われるかもしれないが、セオリーを無視した摩訶不思議な物語の展開や、ツッコミどころ満載の演出が“ニコニコ動画”や“2ちゃんねる”などで取り上げられ、再注目を浴びたことで知られている。
演出をキムラ真、音楽を超有名ロックバンドのメンバー の手島いさむ、脚本を伊勢直弘が手がける。主人公のチャージマン研(泉研)役には古谷大和、安達勇人、髙﨑俊吾、中村誠治郎の4人が名を連ねる。泉研の妹の泉キャロン 役は星元裕月、泉家に住んでいるロボットのバリカン 役は阿部快征、ジュラル星人 役は浜ロン、ジュラル星人を束ねる魔王 役は村上幸平と豪華キャストが揃う。舞台でも驚天動地なストーリーが展開されそうだが、エンタメステーション取材班は、古谷大和と安達勇人にインタビューをし、その全容に迫った。
取材・文 / 竹下力 撮影 / 増田慶
今まで一度も食べたことのない、チョコレートのような舞台
まず、“LIVE ミュージカル演劇”とはどういった意味を持つのでしょうか。
古谷大和
古谷大和 今まで一度も食べたことのないチョコレートのように、実際に食べなければわからない……というほど、僕もすべてがわかっていないです。
一同 爆笑。
安達勇人
安達勇人 たしかに(笑)。食べたことのない方に味とか食感を伝えるような難しい言葉かも。
古谷 口頭ではわからないので、舞台を観に来てください、としか言えないのですが(笑)、ダンスがあり、歌もあり、いわゆるミュージカルではあるけれど、普通のミュージカルにしたくない想いもあるので、いろいろと試行錯誤している段階です。
稽古をすると初めて理解できることでもあるんですね。
古谷 そうですね。
安達 とにかく、みんな楽しそうだよね?
古谷 お芝居を始めようとすると、毛穴からいろいろなものが発散して気合の入る役者が揃っています(笑)。でも、稽古が終われば騒ぐことがないのは、遊びで稽古場に来ていないからですね。みんな『チャージマン研!』を作りに来ているプロだし、そんな稽古場の雰囲気が好きです。『チャージマン研!』に対して、まっすぐお芝居のことを考えているから、僕にとっても刺激が多いです。なにより、お芝居をしているときは、笑いが絶えないです。
安達 そう! みんな笑っているよね。
古谷 特に演出のキムラ(真)さんがいつも笑顔ですね。「そのお芝居が好きです」と笑いながら演出を当ててくれます。
安達 本番が始まっても仲が良くなっていく座組みだと思います。ジュラル星人を演じる役者も個性的でキャラクターが立っているので、みなさんが想像するようなチャー研(チャージマン研!)らしい舞台になると思います。
主題歌の汗臭さや昭和のレトロ感がたまらない
実際にキムラさんの演出はいかがですか。
古谷 キムラさんはとても素敵な人です。
安達 優しいです!(笑)
古谷 役者を大切に想ってくれるし、演劇が好きな方なので、キムラさんらしい『チャージマン研!』が出来上がると思います。
安達 僕らが歌を歌っているときのキムラさんの楽しいそうな顔を見るのが嬉しいですね。それから、主題歌の汗臭さや昭和のレトロ感がたまらないよね?
古谷 ええ。本番では、アニメをご覧になった方なら聴いたことのある主題歌が何回か流れます。
安達 それ言っていいの!?(笑)
古谷 今作は作品の性質上、ネタバレはありですから大丈夫です(笑)。本来、演劇には1回しか使われないはずの主題歌が、いろいろなシーンで使われますから、どこで使われるのか耳をそば立ててください。
安達 ネタバレがOKであれば……曲ごとに踊りが違うのですが、どのシーンで使われている曲かわからない状態で(笑)、これから詰めていくと思います。
(笑)。新宿FACEという囲み舞台ならではの仕掛けも楽しみですね。
古谷 囲み舞台には面白さと難しさがありますけど、安達さんは初めてですよね?
安達 そう。当日、劇場に入ると東西南北が分からなくなるかも。そう考えると、囲み舞台だからこそできることがあると思うし、楽しみですね。
古谷 背中を観られているから、顔の調子を整えることもできない。けれど、今作は、本来ならネガティブに捉えられるところをあえて逆手にとった演出にしています。ステージの角に衝立を立てて、その裏で着替えているシーンがありますが、衝立の後ろに位置しているお客様にはそのシーンが見えているという……(笑)。
安達 そうだね(笑)。失敗を成功に変える演出をしています。
脚本を拝見させていただいて、笑ってしまいました。
安達 とにかく、チャージマン研 役が4人いる設定が楽しいです。
4人のチャージマン研が一緒に登場するんですよね?
古谷 そうです。ワンシーンに4人が登場することもあります。ただ、まだ、4人で会話をすることがないですね。
安達 アイコンタクトしかしてないよね。
古谷 4人の名前が並んでいるのに、まったく絡まないのは寂しいので(笑)、稽古の途中に役者や演出家からアイデアが生まれているので、チャージマン研という役を大切にしながら、4人それぞれがコンタクトできるシーンが新たに加われば嬉しいですし、どうなっていくのか、本番を楽しみにしてください。
安達 しかも、みんないい壊れ方しているよね(笑)。
古谷 僕はこの稽古で安達さんを壊したいですね(笑)。安達さんのファンに観たことのない衝撃的な絵をお見せしたいです。
安達 なんか怖いよ(笑)。古谷くんには自由にやって欲しいですね。芝居に対してとても真面目だから、コミカルな芝居も面白いし、古谷くんにしかできないアプローチの仕方は観ていて面白いです。後半に古谷くんのチャージマン研の一言がありますが、あの言葉で、ご飯3杯いける衝撃度だからね(笑)。
古谷 そうですね。この演劇は、そのセリフのための前振りとさえ言っておきます(笑)。
誰が観てもチャージマン研にしか見えないようにしたい
(笑)。具体的にどのように演じていきますか。
古谷 まだ、稽古の段階なので、これからキムラさんたちと話しあって決めていきたいのですが、普通に考えれば、4人が同じ役を演じるのなら、それぞれに個性が出る演じ方が良いと思います。たとえば、4人で熊のものまねをすれば、まったく同じにならずに、それぞれの個性が自然と滲み出ますよね。4人が『チャージマン研!』に全力で挑んで、勝手に役の個性が出始めて、結果は違うけれど、誰が観てもチャージマン研にしか見えないようにしたいです。
安達 僕は素になると方言が出るので、それをうまく使えば『チャージマン研!』へのリスペクトになるかな?
古谷 それはいいと思いますね。今作は笑いだけではなくて、グッと引き締まるシーンもあるし、アニメも5分の中で、20秒ぐらいは良い話で、その後はお話の意味がわからないのが『チャージマン研!』らしさだと思うので、原作を大切にしながら舞台にしていきたいと思います。
舞台だからできる工夫をしている
原作に触れてみていかがですか。
安達 最初はどうやって舞台にするのか不安がありましたが、舞台の稽古をしていると、チャー研のファンの方にもどんどん劇場にいらしてほしいと思える自信がついてきて。原作に敬意を表した台詞もあるし、原作の良さを活かしつつ、舞台ならではのチャー研になっていると思います。
古谷 僕はアニメの『チャージマン研!』を観て、多くの方が抱く感情を、舞台でも感じてほしいです。僕個人としては、原作はほぼ何にも解決しないままエンディングを迎えて、複雑な感情を抱かせる不思議なアニメだと思っていて。ただ、舞台では、そんな気持ちも散りばめつつ、舞台のオリジナル要素を入れています。舞台だからできる工夫をしているので、役者としては見せどころですね。アニメも舞台も、“このお話はどういう意味だろう?”という気持ちになりつつ、アニメではなくて、あくまで“舞台を観た”と感じていただければ嬉しいです。
原作も見方によっては残虐ですが、そこが無邪気な子供っぽさというか。
安達 おっしゃっていただいたように、子供らしさが表現されていますね。無慈悲なところがあるからこそ、お子さんも共感して楽しめる舞台だと思いますし、お芝居のことがわからなくても感動してもらえると思います。
古谷 ケラケラ笑ってもらえると思いますよ。アニメを製作した方が、無垢で屈託の無い方だからだと思います。子供を喜ばせるために、チャージマン研が星人を倒すことのみを考えた、まっすぐなアニメだと思います。そこから、原作を何度も観たり、稽古をしていると、チャー研の世界が僕には世の中の縮図に感じることがあって。敵のジュラル星人が、コテンパンにやられてかわいそうに見える瞬間は、何が正義かを問いかけているように思えます。ジュラル星人にはジュラル星人の想いがあるはずだし、突き詰めれば正義と悪がわかりにくい世の中だからこそ、誰にでも感情移入できるようになっているので、よく考えていくと深い物語だと思います。
安達 ジュラル星人ということでいえば、ジュラル星人の歌の歌詞も癖になって、その詞を活かした手島いさむさんの曲が大好きになりました。今回の歌詞で知ったこともあります。
古谷 たとえば、魚のシラスの語源はご存知ですか?
知らないです。
古谷 僕らはそれを歌でお客様にお伝えしますよ。
(笑)。
安達 (笑)。メロディが素晴らしいですね。しかも、チャー研らしく聴こえるから感動しますし、全部の曲のメロディやアレンジが違うから、飽きないと思います。
古谷 手島いさむさんにジュラル星人や泉家の歌、それぞれの曲のイメージに合わせて、メロディを新しく作っていただいて、音楽のレベルは凄まじく高くて、聴いていたら身体が震えました。音楽だけ聴きにいらしてもいいかもしれないです。同時にシラスの意味もわかる(笑)。
安達 (笑)。シラスの意味がわかって、立ち見席は他の劇場にないぐらいお得なので、損はさせないと思います。
お芝居は一生懸命に演じていることが大切
お話を伺っているとコメディのお芝居も必要な気がします。
安達 おっしゃる通りなのですが、僕から笑いを取りに行くお芝居をするよりも、あえて真剣に挑戦して笑いにしたいと思っています。
古谷 お芝居は一生懸命に演じていることが大切で、お客様に抱かせたい感情がどんなものであれ、“脚本に書いてある役をどうやって生きるか”が大事だと思います。僕らが懸命に演じることで、たとえば笑いを狙っていたはずなのに、泣いていらっしゃるお客様がいてもそれはそれで良いんだと思います。お客様の分だけ、笑いがあって泣きがある。だから、無理やり笑わせるお芝居は作り手側のエゴだと思ってしまうんです。お芝居はお客様によって如何様にも取れるので、今作もシリアスに感じるかもしれないし、号泣するかもしれない。だから、目の前で起こった出来事をひたすら生きることを心がけています。
安達 歌もそうだよね。感動させたい曲を歌ってとにかく喜んでもらおうとすると、絶対に感動させられない。僕らはある程度感情のスペースを提出して、お客様がその空白を埋めていくことで感動が生まれると思っています。歌もお芝居も、お客様に委ねる部分が必要だと思います。
今作はネタバレがあっていい
それでは、見どころをお願いいたします。
安達 見どころはたくさんあります(笑)。遊園地に遊びに来て、フラッとアトラクションに乗っていただくように、何も考えなくて大丈夫です。原作を知らなくても、一度足を運んでいただければ、得られるものがあると思っているので、ぜひ劇場にいらしてください。