スピッツが結成30周年を迎え、シングルコレクションアルバム『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』を届けてくれた。
世代を超えて愛され続けている音楽を作ることを成し得たアーティストが到達できる30周年。聴く人の喜怒哀楽、それぞれの想いにもそっと寄り添い、潤いを与え続けているスピッツが僕たちに見せてくれた世界をオリジナルアルバム単位で1枚ずつ振り返っていきたい。
『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』に収録されているシングルの味わいもグッと増し、もっとスピッツを知りたくなってくれることを願って。
#5 4th Album「Crispy!」(1993年9月26日発売)
「輝くほどに不細工な モグラのままでいたいけど クリスピーはもらった クリスピーはもらった ちょっとチョコレートのクリスピー」
という、1曲目を飾るタイトル・チューンの歌詞にも、先行シングル「裸のままで」に施された華やかでぶ厚いホーン・アレンジにも、ネイティヴ・アメリカンの扮装をしたマサムネのアップの写真を加工したジャケットにも、全アルバムで唯一タイトルが英語であることにも表れているように、スピッツが初めて「外に打って出た」アルバムが本作である、と言っていいと思う。
熱心なファンはついたものの、メジャー・シーンで活動していくロック・バンドとしての及第点には及ばない動員とセールスが続いていたのが当時のスピッツだったわけであって、本人たち的にも、レーベルとマネージメント的にも、「そろそろ結果を出さないと」という命題にぶち当たっていたことは想像に難くない。
というわけで。プリンセス プリンセスやユニコーンなど多数のバンドをヒットに導いてきた笹路正徳をプロデューサーに迎え、ギター&ベース&ドラム以外のさまざまな楽器を導入し、外へ拓かれた方向を目指して書き上げた楽曲を収録し、この『Crispy!』が完成した。
リリースに先駆けて『スピッツの春夏夜会』と銘打ち、毎回企画を変えて半年間のマンスリー・イベントを渋谷ON AIR(現在のO-EASTやDUOの場所にあったライブハウス)で行うなど、作品以外の活動自体も、スピッツをもう一度ちゃんと世に問おうとする精力的なものだった。
で。そのムードに水を差すのがはばかられて当時は口にしなかったが、最初にこのアルバムを聴いた時は、正直、違和感があった。
こういうふうに正面からポップに華やかにするのでいいのかなあ、スピッツにその方法は違う気がするなあ、でも代替案があるかっつったら俺も浮かばないしなあ、うまくいくといいなあ……みたいな思いを、当時抱いたのを憶えている。
あとになって振り返ると、笹路正徳もスピッツも、まだ互いのやり方を探っていた時期だったのかもしれない。というのは、二者はこれ以降もサウンドを軌道修正しつつタッグを組み、次の『空の飛び方』で音楽的にもセールス的にも結果を出し、その次の『ハチミツ』ではメガヒットを達成することになるからだ──。
という印象を、このアルバムに対しては持っていたのだが、本稿を書くにあたって1曲1曲をじっくり聴き直して、びっくりした。
「なんでこれに、当時そんなに違和感を持ったんだ? 俺は」と。
これくらいのカラフルさ、バリエーションの豊富さ、ホーンとか鍵盤とかストリングスの華やかさ、全然ありじゃん。楽曲そのものの「軸はただのスピッツ」感を、全然損ねてないじゃん。「裸のままで」や「ドルフィン・ラヴ」みたいな派手な曲も、とても肯定的な意味で「ただのスピッツ」じゃん、と。
6th Single「裸のままで」(1993年7月25日発売)
なんで今聴くと全然ありなのかの理由、たぶんふたつある。
まず、こっちの問題。時代的にこのあと、ロックのクロスオーバー化やダンス・ミュージックの一般化によって日常的に聴く音楽のジャンルが大きく広がった、そのようにいろいろ聴く生活を長く続けてから本作を聴き直したので違和感がなくなった、ということ。
で、もうひとつはスピッツの問題。『空の飛び方』と『ハチミツ』で名実ともに日本のトップ・バンドのひとつになって以降のスピッツは、軸は変わらないなりに、ちょこちょこといろんな音楽性に手を伸ばしていくようになった。そのスピッツに慣れた耳で触れると、この『Crispy!』など全然許容範囲、ということなのだと思う。
何か、ちょっと申し訳ない気持ちになりました。当時あんなに戸惑ってすまん、と。
でも、たとえば「君だけを」の「君だけを必ず 君だけを 描いてる ずっと」というラインや、「夢じゃない」の「守りたい どこまでも」というラインには、いわゆるスピッツ・ワールドの外の人にも届くラブソングを書こうと、がんばってあえて言葉を平坦にした感じが、うかがえたりもします。
とは言っても、「守りたい どこまでも」の前には「いびつな力で」というフレーズがくっついているわけで、ああ、やっぱりマサムネだなあ、とも思います。
文 / 兵庫慎司
楽曲/DISCOGRAPHY
4th Album
Crispy!
発売日:1993年09月26日
品番:UPCH-1185
【収録曲】
01.クリスピー
02.夏が終わる
03.裸のままで
04.君が思い出になる前に
05.ドルフィン・ラヴ
06.夢じゃない
07.君だけを
08.タイムトラベラー
09.多摩川
10.黒い翼
関連記事
リリース情報
スピッツ
CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-
2017年7月5日発売
(3CD)UPCH-7329/31
¥3,900+税
1991年のデビューシングルから昨年2016年4月に発売されたシングル曲「みなと」までの全シングル曲、そして「愛のことば-2014mix-」「雪風」といったドラマ主題歌としても話題となった配信限定シングル曲、さらには、新たにレコーディングをした新曲3曲を加えた全45曲収録のCD3枚組アルバム。
【収録曲】01.ヒバリのこころ
02. 夏の魔物
03.魔女旅に出る
04.惑星のかけら
05.日なたの窓に憧れて
06.裸のままで
07.君が思い出になる前に
08.空も飛べるはず
09.青い車
10.スパイダー
11.ロビンソン
12.涙がキラリ☆
13.チェリー
14.渚
15.スカーレット
【DISC 2】CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection
01.夢じゃない
02.運命の人
03.冷たい頬
04.楓
05.流れ星
06.ホタル
07.メモリーズ
08.遥か
09.夢追い虫
10.さわって・変わって
11.ハネモノ
12.水色の街
13.スターゲイザー
14.正夢
15.春の歌
【DISC 3】CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection
01.魔法のコトバ
02.ルキンフォー
03.群青
04.若葉
05.君は太陽
06.つぐみ
07.シロクマ
08.タイム・トラベル
09.さらさら
10.愛のことば-2014mix-
11.雪風
12.みなと
13.ヘビーメロウ
14.歌ウサギ
15.1987→
2006年に発売された2枚の『CYCLE HIT』も2017年最新のマスタリングをして再発売!
CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection
(CD)UPCH-2129 ¥2,500+税
CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection
(CD)UPCH-2130 ¥2,500+税
CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection
(CD)UPCH-2131 ¥2,500+税
『CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection』、そして『CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection』も、今回の新たなアイテムに合わせ、2017年の最新スピッツサウンドを表現する為に、世界最高峰の「Marcussen Mastering」にてリマスタリングを遂行。7月5日に再発売。
アナログ盤も“重量盤”で7月5日同時発売!
ファーストアルバム『スピッツ』から昨年7月に発売された最新アルバム『醒めない』までのオリジナルアルバム15作品に、ミニアルバム『オーロラになれなかった人のために』を加えた全16作品をアナログ盤で発売。
ライブ情報
『SPITZ 30th ANNIVERSARY TOUR “THIRTY30FIFTY50”』
7月01日(土):静岡県・静岡エコパアリーナ
7月04日(火):大阪府・大阪城ホール
7月05日(水):大阪府・大阪城ホール
7月12日(水):愛知県・日本ガイシホール
7月13日(木):愛知県・日本ガイシホール
7月22日(土):広島県・広島グリーンアリーナ
7月23日(日):広島県・広島グリーンアリーナ
8月06日(日):長野県・長野ビッグハット
8月11日(金・祝):香川県・さぬき市野外音楽広場テアトロン
8月12日(土):香川県・さぬき市野外音楽広場テアトロン
8月16日(水):東京都・日本武道館
8月17日(木):東京都・日本武道館
8月19日(土):東京都・日本武道館
8月23日(水):神奈川県・横浜アリーナ
8月24日(木):神奈川県・横浜アリーナ
9月02日(土):福岡県・マリンメッセ福岡
9月03日(日):福岡県・マリンメッセ福岡
9月16日(土):北海道・北海道総合体育センター北海きたえーる
9月17日(日):北海道・北海道総合体育センター北海きたえーる
9月30日(土):宮城県・宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ(グランディ・21)
10月1日(日):宮城県・宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ(グランディ・21)
SPITZ
草野マサムネ :1967年12月21日 福岡県 O型 ヴォーカル&ギター
三輪テツヤ :1967年5月17日 静岡県 B型 ギター
田村明浩 :1967年5月31日 静岡県 A型 ベースギター
﨑山龍男 :1967年10月25日 栃木県 B型 ドラムス
草野マサムネ(Vo/Gt)、三輪テツヤ(Gt)、 田村明浩(B)、﨑山龍男(Dr)の4人 組ロックバンド。
1987年結成。1991年3月シングル「ヒバリのこころ」、アルバム「スピッツ」でメジャーデビュー後、1995年リリースの11thシングル「ロビンソン」、6thアルバム『ハチミツ』のヒットを機に、多くのファンを獲得。
以後、楽曲制作はもちろん、日本国内をくまなく廻る全国ツアーや自らオーガナイズするイベント開催など、マイペースな活動を継続している。 そして今夏、15thアルバム『醒めない』を発売、全国ツアーも大成功。
2017年結成30周年を迎え、7月5日は「CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-」を発売、『SPITZ 30th ANNIVERSARY TOUR “THIRTY30FIFTY50”』も敢行中と精力的に活動を展開している。
オフィシャルサイトhttp://spitz.r-s.co.jp/