スピッツが僕たちに見せてくれた世界  vol. 1

Review

初めてのフル・アルバムの時点で、今のスピッツの礎は完成していたということ。

初めてのフル・アルバムの時点で、今のスピッツの礎は完成していたということ。

スピッツが結成30周年を迎え、シングルコレクションアルバム『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』を届けてくれた。
世代を超えて愛され続けている音楽を作ることを成し得たアーティストが到達できる30周年。聴く人の喜怒哀楽、それぞれの想いにもそっと寄り添い、潤いを与え続けているスピッツが僕たちに見せてくれた世界をオリジナルアルバム単位で1枚ずつ振り返っていきたい。
『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』に収録されているシングルの味わいもグッと増し、もっとスピッツを知りたくなってくれることを願って。

#1 1st Album「スピッツ」(1991年3月25日発売)

アコースティック・ギターやアルペジオを多用した、歪んだギターや性急なリズムで音の空間を埋めることをしない、隙間だらけのアレンジメント。「妄想と現実の間に境がない」「ハナから社会の常識やマニュアルの外で生きている」タイプのヤバい奴であることが一聴すればわかる、危険でインモラルでどうしようもなく美しく魅惑的な、終末感や性や死の匂いがプンプンする歌詞の世界。J-POP(当時はまだそんな言葉なかったが)の範疇にしっかりと両足を下ろしつつも、コードへの乗り方や譜割りのしかたに、いかんともしがたくクセや色やこだわりが(つまり、個性が)にじみ出るメロディ。

そんな曲ばかりが12曲揃った当作でメジャー・デビューしたスピッツは、バンド・ブームもバブル景気も後期ではあったが、まだ終焉を迎えてはいなかった1991年において、あきらかに異端であり、カウンターであったのだなあ、ということが、今聴き直すとよくわかる。 ただ、バンド・ブームの次を期待される存在として、バンドではないしロックではない電気グルーヴやスチャダラパーが、ほぼ同時期にデビューするような時代だったこともあって、ロック・バンドであるスピッツが、そのように捉えられることはなかった。むしろ、東京ライヴハウス・シーンから出てきて、新宿ロフトを満員にしてインディー盤を出して、各社争奪戦の末にデビューした、バンド・ブームの中の新しいスター候補生的、な見られ方だったかもしれない。僕も、実際に音を聴くまでそういう印象を持っていた。だから、聴いてびっくりした。「まったく新しい才能の誕生じゃないか、これ」と。

「ピンクのまんまる」「小さな玉砂利」等の、ロックの歌詞の範疇になかった言葉を積み重ねてアシッドな心象風景を描いていく「海とピンク」。当時草野マサムネが「お馬さんリズム」と形容していたゆったりとしたシャッフルのリズムに乗って、「おまえの最期を見てやる」というギョッとさせる歌い出しで始まる「ビー玉」。インディー盤の時はAメロのバックのギター・カッティングがエレキだったのをアコースティックに変えたことによって、いっそうスピッツならではの色が強くなった、今でもライヴで演奏されるメジャー・デビュー・シングル「ヒバリのこころ」──。

1st Single「ヒバリのこころ」(1991年3月25日発売)

基本的にやっていることは変わらないバンド、変化がないバンド、なのに何作聴き続けても飽きない不思議なバンド。スピッツをそう捉えている人は多いが、その変わらないスピッツの基本が、すでに、すべて、このアルバムにはある。つまり、最初から……いや、もうちょっとバンド・ブーム的な音だったインディー盤のミニ・アルバム『ヒバリのこころ』の頃はまだだったが、この初めてのフル・アルバムの時点で、今のスピッツの礎は完成していたということだ。 なお、僕が最初にスピッツを知ったのは、このアルバムの少し前、宝島の『ROCK FILE』という、国内バンドカタログみたいな増刊号だった。確か表紙はZIGGYだった。スピッツを紹介する小さな枠の最後には、連絡先として「草野」の自宅の電話番号が載っていた。

文 / 兵庫慎司

今回紹介した作品

1st Album
スピッツ
発売日:1991年3月25日
品番:UPCH-1181
【収録曲】
01.ニノウデの世界
02.海とピンク
03.ビー玉
04.五千光年の夢
05.月に帰る
06.テレビ
07.タンポポ
08.死神の岬へ
09.トンビ飛べなかった
10.夏の魔物
11.うめぼし
12.ヒバリのこころ

リリース情報

スピッツ

CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-

2017年7月5日発売
(3CD)UPCH-7329/31
¥3,900+税

1991年のデビューシングルから昨年2016年4月に発売されたシングル曲「みなと」までの全シングル曲、そして「愛のことば-2014mix-」「雪風」といったドラマ主題歌としても話題となった配信限定シングル曲、さらには、新たにレコーディングをした新曲3曲を加えた全45曲収録のCD3枚組アルバム。

【収録曲】
【DISC 1】CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection
01.ヒバリのこころ
02. 夏の魔物
03.魔女旅に出る
04.惑星のかけら
05.日なたの窓に憧れて
06.裸のままで
07.君が思い出になる前に
08.空も飛べるはず
09.青い車
10.スパイダー
11.ロビンソン
12.涙がキラリ☆
13.チェリー
14.渚
15.スカーレット

【DISC 2】CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection
01.夢じゃない
02.運命の人
03.冷たい頬
04.楓
05.流れ星
06.ホタル
07.メモリーズ
08.遥か
09.夢追い虫
10.さわって・変わって
11.ハネモノ
12.水色の街
13.スターゲイザー
14.正夢
15.春の歌

【DISC 3】CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection
01.魔法のコトバ
02.ルキンフォー
03.群青
04.若葉
05.君は太陽
06.つぐみ
07.シロクマ
08.タイム・トラベル
09.さらさら
10.愛のことば-2014mix-
11.雪風
12.みなと
13.ヘビーメロウ
14.歌ウサギ
15.1987→ 
2006年に発売された2枚の『CYCLE HIT』も2017年最新のマスタリングをして再発売!

CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection

(CD)UPCH-2129 ¥2,500+税

CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection

(CD)UPCH-2130 ¥2,500+税

CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection

(CD)UPCH-2131 ¥2,500+税

『CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection』、そして『CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection』も、今回の新たなアイテムに合わせ、2017年の最新スピッツサウンドを表現する為に、世界最高峰の「Marcussen Mastering」にてリマスタリングを遂行。7月5日に再発売。

アナログ盤も“重量盤”で7月5日同時発売!

ファーストアルバム『スピッツ』から昨年7月に発売された最新アルバム『醒めない』までのオリジナルアルバム15作品に、ミニアルバム『オーロラになれなかった人のために』を加えた全16作品をアナログ盤で発売。

ライヴ情報

『SPITZ 30th ANNIVERSARY TOUR “THIRTY30FIFTY50”』

7月01日(土):静岡県・静岡エコパアリーナ
7月04日(火):大阪府・大阪城ホール
7月05日(水):大阪府・大阪城ホール
7月12日(水):愛知県・日本ガイシホール
7月13日(木):愛知県・日本ガイシホール
7月22日(土):広島県・広島グリーンアリーナ
7月23日(日):広島県・広島グリーンアリーナ

8月05日(土):長野県・長野・ビッグハット
8月06日(日):長野県・長野ビッグハット
8月11日(金・祝):香川県・さぬき市野外音楽広場テアトロン
8月12日(土):香川県・さぬき市野外音楽広場テアトロン
8月16日(水):東京都・日本武道館
8月17日(木):東京都・日本武道館
8月19日(土):東京都・日本武道館
8月23日(水):神奈川県・横浜アリーナ
8月24日(木):神奈川県・横浜アリーナ
9月02日(土):福岡県・マリンメッセ福岡
9月03日(日):福岡県・マリンメッセ福岡
9月16日(土):北海道・北海道総合体育センター北海きたえーる
9月17日(日):北海道・北海道総合体育センター北海きたえーる
9月30日(土):宮城県・宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ(グランディ・21)
10月1日(日):宮城県・宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ(グランディ・21)

SPITZ

草野マサムネ :1967年12月21日 福岡県 O型 ヴォーカル&ギター
三輪テツヤ :1967年5月17日 静岡県 B型 ギター
田村明浩 :1967年5月31日 静岡県 A型 ベースギター
﨑山龍男 :1967年10月25日 栃木県 B型 ドラムス
草野マサムネ(Vo/Gt)、三輪テツヤ(Gt)、 田村明浩(B)、﨑山龍男(Dr)の4人 組ロックバンド。
1987年結成。1991年3月シングル「ヒバリのこころ」、アルバム「スピッツ」でメジャーデビュー後、1995年リリースの11thシングル「ロビンソン」、6thアルバム『ハチミツ』のヒットを機に、多くのファンを獲得。
以後、楽曲制作はもちろん、日本国内をくまなく廻る全国ツアーや自らオーガナイズするイベント開催など、マイペースな活動を継続している。 そして今夏、15thアルバム『醒めない』を発売、全国ツアーも大成功。
2017年結成30周年を迎え、7月5日は「CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-」を発売、『SPITZ 30th ANNIVERSARY TOUR “THIRTY30FIFTY50”』も敢行中と精力的に活動を展開している。
オフィシャルサイトhttp://spitz.r-s.co.jp/

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