- はじめに
- DTM環境構築<モニター環境編>
- DTM環境構築<録音環境編>
- DTM環境構築<ソフト音源・プラグイン編>
- で、結局何を買うべきなの?
- ミックス実践編
- マスタリング
- あとがき
- 参考書籍/Webサイト/動画チャンネル
はじめに
ここだけの話というお題でお誘い頂きました。個人的な話より、読んで頂いた方にとって少しでも利益がある読み物であるような内容を考えました。SPECIAL EDITIONに縁がある方は、作曲やバンドをしている方、熱心な音楽リスナーの方が多いと思いますので、初心者向けのDTM環境構築/ミックスとマスタリングについて書かせて頂きます。といっても9割方、自分のためのの備考として書いていますし、別に僕は、趣味でダラダラやっていてそんなにミックスが上手い訳ではないのを承知の上で読んで頂ければと思います。情報を共有して、少しでも皆さんのお役に立てたら幸いです。
まずは僕が最近作った音源を聞いて頂いた方が早いと思います。
曲の良し悪しはさておき、この曲のミックス/マスタリングに着目して頂いて、こいつから教わることはないよって方はスルーして下さい。僕も別にミックスが上手い訳ではないので。またミックス/マスタリングの考え方はジャンルによって違いますが、本記事はオルタナティブロックやインディーロック/ポップのバンドサウンド向けを簡単にそれなりの形にする趣旨で書いていきます。
また簡単にそれなりにと言っても、本気で音楽を楽しむぞ!(続けていくぞ!)という方向けの製品を紹介します。全て揃えると予算が最低でも20万円程度です。(ただ一例ですので色々ググって自分に合ったものを探して下さい)
DTMは課金ゲームなのでこれらを揃えれば、最低限のミックスは出来るはずですし、本気でやっていくなら、安いかなあと思います。ぶっちゃけ、エフェクターを買ったり、よくわからないライブに出演するよりずっといい曲が作れるようになると思います。
DTM環境と書きましたがバンドをやっている方も最低限環境を整え、ミックスに関する知識を身につけたほうが良い音源を作れますし、エンジニアとのやりとりがスムーズになります。もっと言ってしまえば、自分の曲を1番理解しているのは自分自身なので、自分で楽しむ範囲内で作曲をするのであれば、依頼料を払うより、セルフミックスが出来る方が良いとさえ思っています。リスナーの方もミックスがわかるとより音楽を楽しめると思うので、良かったら読み進めて下さい。ただし、詳しい用語の解説や、ググって出てくるような導入や事例は省かせて頂きます。またミックスは6割はセオリーがありますが、残り4割はソースやジャンル、好みによるところが大きいと僕は考えていますので、丸のみにしないのが吉だと思います。(これは教則本やネットの記事も同様です)
またここだけの話として僕が、エンジニアに依頼してミックスして頂いた音源とセルフミックスした音源を聞き比べてみて下さい。
AとBのミックスを聞いて違いがわかりましたか?Aがエンジニアによるミックス、Bが僕のセルフミックスになります。正直、エンジニアのAのミックスを聞いて僕はミックスは自分でやろうと決めました。確かに好みの問題もありますし、僕の録音状態が良くなかったのも確かです。しかしエンジニアの仕事としては致命的な点があると僕は思いました。Aのミックスの問題点はなんでしょうか?僕は以下の点が気になりました。
・ボーカルが遠く聞こえ、オートメーションが十分に書かれていない。また歯擦音の処理が甘い。
・個別のトラックとマスターともにコンプレッサーの圧縮感が強い。
・全体的にハイが強く出過ぎている。
・リバーブが深くかかり過ぎているため、低域が埋もれベースが聞き取りにくい。etc.
依頼したエンジニアの方は数多くの作品を手掛けており、もちろん素晴らしい作品もありますが、ネームバリューがあるので皆さん騙されていませんか?と感じてしまうミックスも見受けられます。これは依頼側がミックスを判断する耳が養われていないからではないでしょうか?僕もそのうちのひとりでした。(今でもまだまだ未熟ですが)
ミックスの良し悪しを判断する耳というのは音感とはまた違ったところにあり、これは鍛えていかなければ身に付きません。エンジニアに依頼する場合も正しく意見を言えるように再生環境を整え、知識を得て、耳を鍛えていきましょう。僕は今のレベルに達するまで何回も失敗して5年かかりました。
DTM環境構築<モニター環境編>
良いミックスをするには何より、良い耳と正しいモニタリング環境が必要です。僕はこれを疎かにしていたため、何年も本当に酷いミックスをしていました。客観的に音楽を聞ける環境がないと、ミックスの問題点に気づけません。そのためにはモニターヘッドホン、モニタースピーカー、オーディオインターフェイスを揃えることは必須になります。ここはケチらずに投資しましょう。また住宅環境によってはモニタースピーカーで大きな音量を鳴らせない方もいると思いますが、小さな音でもいいので、モニタースピーカーでミックスする習慣をつけたほうが良いと思います。ヘッドホンだけでもミックスはできないことはないですが、音の奥行きや広がり、低域の被りはスピーカーではないと感じとりにくいです。
モニターヘッドホン
このヘッドホンは本当におすすめです。僕のヘッドホン遍歴はCLASSIC PROの安いやつ→AKG K240 MKⅡからこのヘッドホンなんですが、最初の2製品は音がこもっていたので、凄いドンシャリなミックスをしていました。YAMAHA HPH-MT8はとてもクリアですし、長時間作業していても疲れにくい点も良いです。
また定番と言われているSONY MDR-CD900STは"レコーディング"には向いていると思いますが、モニターヘッドホンとしては適していないと思います。ドンシャリなクセの強い音だと思います。予算に余裕がある方がサブで持つのがいいかと。
モニタースピーカー
モニタースピーカーは大音量を出せる環境があるかないかにもよりますが、ペアで2万円以上のものを買えば間違いないかなと思います。逆にそれ以下の値段のものは買わない方が良いレベルかと。
幸いにも僕は夜中でも大音量を出せる環境があるのでHS5を使用していますが、あまり大きな音を出せない場合はMPS3がいいと思います。以前はFostexの PM0.4nを使用していましたがあまりおすすめしません。スタンドも合わせて購入しましょう。
オーディオインターフェイス
オーディオインターフェイスはモニター時にも録音時にも音の解像度に直結します。なので高ければよい音で再生できたり、録音できるわけではないですが、最低限1万円以上のものを使用したほうがいいと思います。後術するコンデンサーマイクを使用するためにファンタム電源対応のもの、また外部電源使用の方が安定性が高まります。
上から順に僕が買い替えていったものです。REMのFireface UCXを買ったとき、世界が変わりました。個人的には総合的に考えるとSteinbergのUR-RT2がおすすめです。
1番最初に買ったものは5,000円くらいのものだったんですが、かなり音が悪かったです。
モニター環境を整える
ここまで揃えたらスピーカーを正しく設置しましょう。詳しくは以下のサイトが参考になります。
さらに予算に余裕がある方は、音場補正ソフトのSonerWorksのReference 4を導入しましょう。Reference 4は、ヘッドホンやスピーカーの鳴りと部屋の残響を計測してフラットな環境になるように補正EQを掛けてくれるプラグインです。
下の画像はReference 4でヘッドホンに補正をかけた画像です。青色の線が補正前、紫の線が補正後になります。補正前は高域が持ち上がっていて、低域が足りていないのが分かります。Reference 4を使用することで、なるべく味付けのないフラットな音でミックスすることができます。
※現在アップデートされSoundID Referenceが発売されています。
ここまでモニタリング環境を整えたら、まずは自分の好きな曲をDAWで読み込み、聞き比べたり分析しましょう。個人的なおすすめはRadioheadの『In Rainbows』です。
プロのミックスを聞き込むことでミックスする耳が鍛えられていきます。各パートの音量バランス、定位、またコンプやリバーブのかかり具合に注目すると良いと思います。ただ最初は耳だけを頼りにするのは難しいのでスペクトラムアナライザー等を使って、視覚的に分析するのが良いと思います。
後述するPro-Q3で選択した帯域のみを聞くことができるAuto Lisstenモードで帯域別に聞こえる音を分析したり
ADPTR AUDIO Metric ABで帯域別の音の広がりや、ダイナミックス、音圧を分析しましょう。
ミックス上達の第一歩は、正しいモニター環境で色んなことを意識しながら様々な曲を分析することだと思います。またリスニング環境も、モニターヘッドホン、モニタースピーカー、普段使いのイヤホン、スマホのスピーカー等、何種類かで聞くことをおすすめします。
DTM環境構築<録音環境編>
ミックスは録り音が全て。と言われることもあるように。元の音が良くなかったら、いくらミックスを頑張っても音が良くなることはないと思います。録り音が70点だったら最終ミックスで音が70点以上になることはありません。なので如何に綺麗に音を録音するかが問題になります。全てソフト音源を使って作曲する場合は良いのですが、生歌もの(特にロック系)の宅録作品がスタジオ録音に劣る1番の原因はここではないでしょうか。
流石にレコーディングスタジオ並みのマイクや防音設備を揃えるのは難しいですが、様々な工夫やマイキングで音を良くすることは可能です。以下のサイトが参考になります。
マイク録音環境を整える
マイクはコンデンサーマイクがおすすめです。ダイナミックマイクだとどうしても録音出来ない帯域があるので。素人が手の届く値段のものではこれがおすすめです。ボーカルやアコギ、パーカッションがクセなく録音できます。
僕の1番はじめのコンデンサーマイクはMXLの1万円代の製品でしたが高域にクセが強かったので2万円以下の製品はおすすめしません。
またポップノイズを防ぐためにポップガードも必須です。素材はメタル素材がおすすめです。
そして宅録におけるマイク録音で必須なのがiZotopeのRX8です。自動で不要なノイズ、反響音、リップノイズを除去してくれます。
また予算あれば、マイクプリの導入をおすすめします。ギター等のライン録音でも活躍します。
ライン録音環境を整える
バンドサウンドを作る場合、ギターやベースは生演奏をすると思いますが、宅録ではライン録音が現実的です。ライン録音の場合、アンプシミュレーターを通さないと使い物にならず、DAW付属のものでは物足りないので必要になると思います。僕はIK MultimediaのAmplitube 4を使用しています。(現在5にアップデートされています)
また後述するNative InstrumentsのKompleteやWavesのHorizonにもアンプシミュレーターが付属しています。
またソフトだけではなくハードでも自分の肌に合うものを探して、使用すればいいと思います。下記のサイト等を参考にして下さい。
DTM環境構築<ソフト音源・プラグイン編>
ソフト音源
DTMでバンドサウンドを作る場合、ソフト音源でマストなものはドラム音源です。ドラムの音が最重要です。どうしてもDAW付属のドラム音源では打ち込みっぽさが出てしまいます。前述の通り、ミックスは録り音が全て=ソフト音源を使用する場合、クオリティはソフト音源の音に依存します。僕はBFD3を使用しています。が扱いが難しく、まだ使いこなせていません。
手軽さでいうならAddictive Drums 2かなあと思います。ただ僕は好みではなかったです。
こちらも自分の肌に合うものを探して、使用すればいいと思います。下記のサイト等を参考にして下さい。
あとは必要に応じて拡張音源を購入すればいいと思います。とりあえずはDAW標準の音源を使用するか、物足りなさを感じてきた場合、総合音源やエフェクトバンドルのNative InstrumentsのKompleteかIK MultimediaのTotal Studio 3がおすすめです。
プラグイン
ミックスする上で欠かせないのがエフェクトプラグインです。これがあればある程度のミックスとマスタリングができるものを種類別に紹介します。WavesのHorizonバンドル、FabFilterのPro-Q3とPro-L2、Plugin AllianceのADPTR AUDIO Metric ABを購入すれば揃うものをチョイスしています。
Wavesはオワコン、個性がないと言われますが、個人的にWavesのHorizonバンドルは操作が簡単で、ネットに多く情報が転がっています。今はかなり安く買えますし(セールを狙えば3万円程度です)標準の音を知るという意味で、まず最初に購入するバンドルでOKだと思います。ただWavesのHorizonより下の価格帯のバンドルはアナログモデリングのプラグインが少ないため、あまり旨みを感じないと思います。
ただEQとリミッターに関しては、FabFilter製品をおすすめします。高額ですが、世界が変わります。
EQ
EQの種類にはざっくり2種類あります。
パラメトリック・EQは、フィルター・タイプや中心周波数、バンド幅、ゲインを変更できるフィルターを組み合わせているEQです。
グラフィック・EQは、中心周波数が固定された多数のピーク/ノッチ・フィルターを組み合わせているイコライザーのことです。
ミックスで主に使用するのは前者のEQで、その中でも主にカット目的で使うのが、デジタルEQで、ブーストや味付けに使うのが、アナログモデリングEQです。アナログモデリングEQは通すだけで、モデリング元に則した独特の変化が加わります。有名なモデリング元には、NEVE、Pultec、API等があります。
・FabFilter/Pro-Q3
スペクトルアナライザー、ダイナミックEQ、リニアフェイス、MS処理、オートリッスン、かぶりを表示する機能があり、カット用途からマスタリング用途までこのEQ1つでカバーできます。
ボーカルなどのメインパートをもう少しだけヌケを良くしたいときはアナログモデリングEQで中~高域をブーストします。Horizonバンドルでは主に以下の製品が含まれています。
・Waves/PuigTec EQs
・Waves/V-EQ3
・Waves/V-EQ4
コンプレッサー
コンプレッサーは主にデジタル式とアナログ式に分けられ、デジタル式は色付けがなく、アナログ式は通すだけで、色がつきます。またアナログ式は主に、FET式、VCA式、真空管式、Opt式に分けられます。
ソースに合わせて、コンプレッサーの種類を選んでいきます。
デジタル式
どんなソースでも対応がききますが、積極的な音作りには向きません。
・Waves Renaissance Compressor
FET式
アタックへの応答性が早く、フレーズに細かく反応できるので、どんなソースにも合います。特にドラムなどの打楽器に使うと積極的な音作りが可能です。
・Waves/CLA-76
真空管式
通すだけで、真空管のあたたかみのある色が付きます。高域がヌケの良いサウンドになります。
・Waves/PuigChild Compressor
Opt式
アタックが遅めで、緩くコンプレッションがかかります。ボーカルやベース、ストリングスなど、ダイナミクスを残しておきたいパートや、アコギや鉄琴などアタック感を自然に残しておきたいソースに向いています。
・Waves/CLA-2A
リミッター
マスタリング時に音圧を上げ、レベルの天井を決めるために使います。透明性を維持したまま音圧を上げることができ、色付けも複数タイプから選べ、メーターもついているPro-L2が現状一択だと思っています。
・FabFilter/Pro-L2
リバーブ
ソースに残響感を与えたり、トラック同士を馴染ませたり、かかり具合によって奥行きを演出することができます。基本的にはどのリバーブにもタイプ別のプリセットが用意されており、用途によってプリセットを選んでいくのが最も一般的な使い方になります。
・ホール系
複数のトラックにかけ、トラック同士の響きを統一して、馴染ませる用途。
・プレート系
金属的な派手な響きの特性を利用して、ボーカルやスネアなど、存在感を出す用途。
・ルーム系
距離感や箱鳴りを演出する用途。
・Waves/Renaissance Reverb
ディレイ
やまびこ効果により、ソースをオケに馴染ませたり、左右反対にディレイ音を送り、ダブリング効果を演出したり、左右両方にディレイ音を広げ、音に広がりを演出できます。またディレイ音を加工し、アナログ感を演出することができます。
・Waves/H-Delay
ディエッサー
ボーカルの歯擦音、主にサ行の不快な耳に痛い響きを抑えることができます。また高域を自然に抑える用途に使うことができます。
・Waves/Renaissance DeEsser
・Waves/Sibilance
サチュレーター
ソースに歪みを加え、倍音を発生させ、EQとは違ったヌケを得ることができたり、アナログ感を得ることができます。主にテープ式と真空管式の2種類に分類されます。
・Waves/Kramer MPX Master Tape
・Softube/Saturation Knob (フリー)
エンハンサー/エキサイター
サチュレーターがソース全体に倍音を付加するのに対し、特定の帯域に倍音を付加することができます。
・Waves/Vitamin Sonic Enhancer
・Waves/Renaissance Bass
・Waves/Submarine
・Fine Cut Bodies/La Petite Excite (フリー)
ステレオイメージャー
ステレオ感を操作して、音を広げたり、狭めたりすることができます。また音をぼやけさせたい用途でも使用します。
・Waves/S1 Stereo Imager
その他
・Plugin Alliance/ADPTR AUDIO Metric AB
ワンクリックで、リファレンス音源を再生できたり、リファレンス音源の帯域別の周波数やダイナミクス、ステレオ感や音圧を分析することができます。
で、結局何を買うべきなの?
個人的なおすすめですが以下の製品を揃えれば個人で楽しむ分には充分に作曲、ミックス、マスタリングまで行えると思います。
・DAW Cubase Pro UR22mkⅡに付属のCubase LEからのアップデートで49,000円
(Cubaseは国内シェアNo 1なので日本語で解説記事が多く読めます)
・オーディオインターフェイス Steinberg UR22mkⅡ 15,947円
・モニターヘッドホン YAMAHA HPH-MT8 24,530円
・モニタースピーカー YAMAHA MSP3 27,964円
・マイク audio technica AT4004 32,780円
・ドラム音源 BFD3 セール価格で最安値19,800円
・エフェクトプラグイン Waves Horizon Bundle セール価格で最安値29,800円
以上で計199,821円です。これで一生音楽で遊べるんで、安いと僕は感じますがいかがでしょう?
余裕があればFabFilter Pro-Q3、Pro-L2、iZotopeのRX8 Standerdを買うのが良いと思います。更に余裕がある方は本記事を参考に必要に応じて、買い足してみて下さい。
ミックス実践編
ミックスの基本的な考え方
ミックスの基本は、音量、定位、音質で成り立っています。音量はフェーダーとダイナミクス系で、定位はパン、リバーブで、音質はEQやサチュレーターで調整していきますが、まずはエフェクトプラグインを通さずに、音量と定位をDAWのフェーダーのみで揃え、足りない要素をエフェクトプラグインで補っていくのが一般的です。
またミックスする際には必ずリファレンス音源を用意して、ミックスの方向性を決め、迷ったらリファレンス音源を聞いて調節したり、耳を一度リセットしましょう。前述のADPTR AUDIO Metric ABを使用すれば、簡単にミックス曲とリファレンス曲の切り替え、分析ができます。
・EQで不要な帯域や被りの多い帯域をカットする。
不要な帯域のカットとして、まずローカットを行います。楽器やフレーズにより変動しますが、80Hz辺りから、鋭いローカットをして周波数を変えて、音質に大きな影響のない帯域を選び、カーブを緩やかにしていきましょう。主に100Hzから300Hzはベースの倍音、他の楽器の基音が被る帯域なので注意深く調節していきましょう。その後、ボーカルの存在感を出すために、他パートの中域を削っていきます。ナチュラルな音質変化を行うための目安は、増減6dbを念頭に置いておきます。6dbのブーストでその帯域の音量が2倍となり、6dbのカットでその帯域の音量が半分になります。
この作業の際、Pro-Q3でアナライザーや他トラックとの被りを確認できるExternal Spectrumを使用するとスムーズに帯域の整理が行えます。
・コンプレッサーで音量を整える
フェーダーの調節だけでは補えない、音量差や存在感を調節するのがコンプレッサーです。基本的に透明性を維持したいソースにはデジタル式を使い、色付けをしたいソースにはアナログ式を用途によって選んでいきます。その際、軽くダイナミクスを整えたい場合は-3.0dbくらいのゲインリダクションを、ダイナミクスの大きなトラックの音量を均一にしたり、積極的な音つくりを狙う場合には-6.0dbくらいのゲインリダクションになるようにスレッショルドやインプットを調節していきます。
・リバーブで奥行きを演出する。
センド方式でリバーブを各トラックを接続、トラック同士を馴染ませ、センド量で奥行きを演出します。センド量を多くすることで、リバーブが深くかかり、音がぼやけていきます。
またエフェクトをインサートして音つくりを終えた後は、アウトプットを調節し、エフェクトをインサートする前と音量が変わらないようにしましょう。
ミックスの失敗談
僕は長年ミックスは失敗続きですが(今現在もおそらく継続中だと思います)特にまずかった点を箇条書きしていきます。何かの参考になれば幸いです。
・ヘッドホンのみのミックス
ヘッドホンのみだと左右の広がりや低音の膨らみに気づきにくいです。また使用していたヘッドホンもこもり気味だったのでかなりドンシャリなミックスをしていました。
・エフェクトプラグインのプリセットをそのまま使う。
ある程度は参考になりますが、ソースの録音状態、フレーズ、曲のキー、BPMによって適切な値は大きく変わります。自分の耳でしっかり判断しましょう。
・音割れに気づかない
エフェクトをかけることによって、レベルがあがり、ピークオーバーして音が割れていたことがありました。必ずエフェクトをかけたことによってレベルが上がったらアウトプットを下げましょう。
・EQのローカットをしない/または必要なローもカットしてしまう
不要なローをカットしないことで、ミックス全体が濁ってしまったり、基音もガッツリカットしてしまったことでフレーズが聞こえづらくなっていました。
・コンプレッサーのゲインリダクションを見ない
ゲインリダクションの値を見ずに、何db程度潰したか分からずに。なんとなく操作していました。
・リバーブの後段にEQを挿さない。
リバーブをセンドでかけるところまでは良かったんですが、リバーブの後段にEQをかけなかったことにより、低域が膨らんだり、高域に不快な残響が生まれていました。
実際のミックス
では冒頭で紹介した「終わる世界の窓際で」を使用し、僕の実際のミックスの様子を紹介します。ミックス環境は以下の通りです。
Cubase Pro 10.0
モニター
YAMAHA/HPH-MT8
YAMAHA/HS5
・FabFilter/Pro-L2
・FabFilter/Pro-MB
・FabFilter/Pro-Q3
・IK Multimedia/Amplitube 4
・iZotope/Music Production Suite 4
・Kush Audio/OMEGA 4-PACK
・Plugin Alliance/ADPTR AUDIO Metric AB
・Plugin Alliance/Vertigo VSC-2
・Signum Audio/BUTE Limiter 2
・Sonarworks/Reference 4
・Softube/Volume 4
・Valhalla DSP/Vintage Verb
・WaveArts/Tube Saturator 2
・Waves/Mercury Bundle
・Waves/Abbey Road Collection
下準備
・ノイズ除去
マイク録音した素材のノイズ除去を行います。今回はボーカルとコーラスにiZotopeのRX8 Standerdを使っていきます。
まずRX8にボーカルファイルを読み込み、Vocal De-noiseツールを使い、環境音を取り除きます。
次にDe-Clickツールでリップノイズを取り除きます。
最後にDe-Reverbで余分な反射音を取り除きます。今回はLearnモードで設定値を決めました。
RX8適用前後の音源を実際に音源で聞いてみて下さい。環境音とリップノイズが綺麗に取り除かれ、余分な残響が少なくなっています。
https://twitter.com/genna_msq/status/1251801829517619200?s=20
https://twitter.com/genna_msq/status/1251801829517619200?s=20
またボーカルトラックの音量差が大きくなっているので、コンプの反応を良くするために予めリミッターで、飛び出た部分を狙ってリミッターを適用しておきます。
適用前
適用後
リミッターは透明性の高いBUTE Limiter2を使用しました。
またボーカルのピッチ補正や各トラックのリズム補正も行っていきます。
・プロジェクトファイルを作る。
各トラックに分かりやすい名称をつけ、色分けをして、楽器ごとにフォルダ分けしておくと作業がやりやすいです。
終わる世界の窓際でのプロジェクトファイルです。
次にリファレンス音源を選び、マスターにインサートしたADPTR AUDIO Metric ABに読み込ませます。リファレンス音源を選ぶ基準は、ジャンル、ボーカルの性別、使用されている楽器、BPMなどに注目すると良いと思います。今回は、はな「空気力学少女と少年の詩」、ZHIEND「Trigger」、スーパーカーの「STORYWRITER」を選びました。
また予め、センドトラックを作っておきます。今回は全体用のホールリバーブ、ボーカル用のプレートリバーブ、スネア用のプレートリバーブ、ボーカル用のディレイ、コーラスを左右反対に返すためのディレイの5つのセンドトラックを作り、リバーブと後段に余計な残響をカットするためのEQをインサートしました。
リバーブが200Hz以下にかかってしまうと、音がこもってしまうためローカット、中域はボーカルとの被りを防ぐために1000Hz付近を、高域は不快な響きを防ぐために6000から8000Hz以上をハイカットを基準に調節しています。
またボーカル用のプレートリバーブのセンドトラックには、リバーブが広がり過ぎてぼやけるのを防ぐために、ステレオイメージャーで音を狭めています。
全体用のホールリバーブのセンドトラック
ボーカル用のプレートリバーブ用のセンドトラック
では実際にミックスをしていきます。まずはリファレンス音源を聞きながら、音量とパンのみを調節します。ここでヘッドルームに余裕を作るため、RFUは-20.0から-15.0になるようにADPTR AUDIO Metric ABを見て調節しておきます。
ここで問題点をまとめ、どのトラックにどんなエフェクトプラグインを挿入するか方針を考えて個別に処理していきます。
主な問題点
・ボーカルトラックが馴染んでいない。
・ボーカルトラックの音量差と存在感。
・ドラムトラックのヌケと迫力。
・シンセパッドの被り。
・低~中域のこもり。
加工前の音源をDry、加工後の音源をWetと表記してあります。
・キック
Pro-Q3で20Hz以下をローカット。低域の芯として60Hzをブースト。スネアとの被りを防ぐため200Hzをカット。アタック感を強めるため4400Hzをブースト。
CLA-76でRATIO4でゲインリダクションは-6.0db程度。アタック遅め、リリース早めで潰す。
Submarineで低域の倍音を生成。
Omega 458Aでサチュレーションを加え、もうひとヌケを加える。
・スネア
Pro-Q3で120Hz以下をローカット。芯の鳴りを増すため200Hzをブースト。中域の被りを防ぐため500Hzをカット。皮鳴りの5000Hzをブースト。ヌケの8000Hzをハイシェルフ。
CLA-76でRATIOは全押しで、-6.0db程度のゲインリダクション。アタック早め、リリース早めで余韻は残しつつガッツリ潰し、パンチを加える。
Omega 458Aでサチュレーションを加え、もうひとヌケを加える。
Abbey Road Platesでセンドトラックを作り、残響を加える。リバーブは高域を削る。
・タム
Pro-Q3で60Hz以下をローカット。ハイタムからロータムの鳴りを豊かにするために180Hzをローシェルフ。中域の500Hzをカット。ヌケの3600Hzをブースト。
Pro-MBで中高域の響きを自然にするために4000HZを潰す。
CLA-76でRATIO4で-6.0db程度のゲインリダクション。アタックは遅め、リリースは早めで潰す。
Omega 458Aでサチュレーションを加え、もうひとヌケを加える。
Abbey Road Platesのセンドトラック(スネアと同じ)に送り、残響を加える。
Pro-Q3で400Hz以下をローカット。ヌケを良くするために6000Hzでハイシェルフ。
PuigChild 660で高音の響きを豊かにしながら、-2.0から6.0db程度のゲインリダクション。TIME CONSTANTは2を選択。
・OH
Pro-Q3で200Hz以下をローカット。中域の500Hzをカット。シンバルを持ち上げるため、6000Hzでハイシェルフ。
PuigChild 670で高音の響きを豊かにしながら、深めの-6.0から10.0db程度のゲインリダクション。TIME CONSTANTは2を選択。
Omega 458Aでサチュレーションを加え、シンバルをもうひと押し持ち上げる。
・Room
Pro-Q3で45Hz以下をローカット。スネアの響きを抑えるため、200Hzをカット。中域を抑えるため、500Hzをカット。金物を持ち上げるため12kHzでハイシェルフ。
PuigChild 670で高音の響きを豊かにしながら、深めの-6.0から10.0db程度のゲインリダクション。TIME CONSTANTは1を選択。
・ドラムバス
ドラムの各トラックをドラムバスにまとめ、エフェクトを加える。
dbx-160でわずかに針が動くゲインリダクションと緩くかかるコンプを加えてGlueを加える。
Vitamin Sonic Enhancerで低域と高域に倍音を加える。
全体用のホールリバーブにわずかに送り、オケに馴染ませる。
・ベース
予め、Amplitube 4を通したものを書き出しておく。
Pro-Q3でキックと被る60Hz以下をローカット。倍音がおいしい100Hzをブースト。中域の被りを防ぐため620Hzでカット。ヌケの2200Hzをブースト。6000Hz以上は不要なのでハイカット。
Pro-MBでキックとの被りを自然に防ぐため、60Hzでコンプレッション。
CLA-3Aで最大-6.0dbのゲインリダクションがかかるようにコンプレッション。
Renaissance Bassで低音の倍音を付加して、重心を下げる。
予め、Amplitube 4を通したものを書き出しておく。
Pro-Q3で100Hzからローカット。コシの300Hzをブースト。中域の被りを防ぐため920Hzでカット。ヌケの4200Hzでブースト。6800Hz以上はノイズが多く、不要なのでハイカット。
CLA-3Aで-3.0db程度の緩いゲインリダクション。
Tapeで奇数倍音を付加。
全体用のホールリバーブに送り、オケに馴染ませる。
予め、Amplitube 4を通したものを書き出しておく。
Pro-Q3で200Hz以下をローカット。リズムギターの壁を破るために920Hzをブースト。丸みを得るために6800Hz以上をハイカット。
CLA-76でRATIO4で-6.0db程度のゲインリダクション。アタック遅め、リリース早めで自然に潰す。
Tapeで奇数倍音を得る。
MonoDelayでオケに馴染ませる。この際、8分音符で、1回返ってきて、ローカットとハイカットのディレイ音が原音に対して少量返ってくるように設定。
全体用のホールリバーブに送り、オケに馴染ませる。
・ボーカル
Pro-Q3で120Hz以下をローカット。
CLA-2Aで-3.0db程度の緩いゲインリダクション。
CLA-76でRATIO4の-6.0db程度のゲインリダクションで前段のコンプで潰しきれなかった音量差を補う。アタック遅め、リリース早めで潰す。
Scheps 73で倍音を加えながらボーカルのおいしい帯域を持ち上げる。あたたかみの220Hzをローシェルフ。ヌケの7200Hzをブースト、空気感の12kHzをハイシェルフ。
Sibilanceで歯擦音だけを自然に抑える。
ボーカルディレイ用のセンドトラックに送り、オケに馴染ませる。この際、音像がぼやけないように、ディレイは8分音符のモノラルを選択。ディレイ音には200Hz以下をローカット。4000Hz以上をハイカット。
ボーカル用のプレートリバーブのセンドトラックに送り響きを豊かにする。
全体用のホールリバーブにわずかに送り、オケに馴染ませる。
・コーラス
Pro-Q3で200Hz以下をローカット。
CLA-2Aで-6.0db程度の深いゲインリダクション。
CLA-76でRATIO8で-10.0db程度の深いゲインリダクション。アタックは遅め、リリースは早めで原音のニュアンスは残す。
Scheps 73でさらに220Hz以下をローカット。12kHz以上もハイカットし、奥から聞こえるようにする。
Renaissance DeEsserで歯擦音を抑えつつ、5000Hz以下の高音も深めに潰し、さらに奥に追いやる。
R40から聞こえるコーラスをディレイ音が50.0ms遅れてL40に聞こえるようにセンドトラックに送り、ダブリング効果と左右に広げる。
また各トラックにボリュームオートメーションを書き、表情をつけ調整していきます。ボーカルはディエッサーだけでは抑えられなかった歯擦音が強く出てしまう部分のボリュームを下げました。
※一部トラック、シンセトラックはsoundcloudのアップロード制限の都合上、省略しています。
2mix
マスタリング
マスタリングの考え方
マスタリングはミックスで書き出した2mixの最終の微調整ですので、ミックスで上手くいっていない部分を誤魔化すことはできませんし、色々こねくり回してもいい結果がでることはないので、ミックスで理想通りの音を作り終えておくべきです。
マスタリングで行う微調整とは主にマスターEQによる音質の微調整。(カットとブーストともに-3.0db程度に抑えましょう)マスターコンプによるGlue効果(まとまり)を得ること。(ゲインリダクションは深くても-3.0dbまで)MS処理による左右の広がり、サチュレーションによる色付け。そして最終段にリミッターを挿し、ピークオーバーをして音が劣化するのを防ぎ、アップロードするフォーマットに適した音圧を上げることです。
ラウドネス(音圧)について
ラウドネスとは聴覚上の音の大きさです。現在はLUFSという単位が用いられています。音圧戦争時は最大-6.0LUFSという爆音の曲もありましたが、現在はCDのLUFSは-9.0(±1)位に抑えられています。
また、ストリーミング配信をすると、規定のLUFSを越えると音が自動的に小さくなるようになっています。またラウドネスとは別にトゥルーピーク値も決まっています。主要配信先のラウドネス規定は以下の通りです。これを見るとストリーミング配信をする際は、ラウドネス値 -14LUF、トゥルーピーク -1dBTPがベターだと考えられます。
・Apple Music
ラウドネス値 -16(±1)LUF
トゥルーピーク -1dBTP
ラウドネス値 -13~15、推奨-14LUF
トゥルーピーク -1dBTP
ラウドネス値 -13~15、推奨-13LUF
トゥルーピーク -1dBTP
・Amazon Music Unlimited
ラウドネス値 -14UF
トゥルーピーク -2dBTP
実際のマスタリング
まずプロジェクトファイルを新しくマスタリング用に作り、2mixを読み込んでいきます。この際もマスターにADPTR AUDIO Metric ABを挿しましょう。
・カット用EQ
まず、不要だったり出過ぎた帯域を削るためのEQで処理をします。
Pro-Q3のNatural Phaseモードで可聴範囲外の20Hzと20kHzをそれぞれカット。また基音やベースの倍音が集中している135Hzを-1.5dbカット。
・マスターコンプ
マスターコンプでGlue効果を得て音を引き締めます。
Vertigo VSC-2でRatioは2でゲインリダクションが-2.0db以内に収まるようにスレッショルドを調節。アタック遅め、リリース早めの自然なコンプレッション。また60Hz以下にコンプレッションがかからないようにフィルターをオン。
・MS処理
M(ミドル)とS(サイド)で別の処理を行い、左右に広がりを出します。今回はEQで行いますが、コンプやサチュレーターで行う場合もあります。
Pro-Q3のNatural PhaseモードでM側を-1.0db下げ、低域を強調するため80Hzから+2.0dbローシェルフ。またボーカルのヌケを良くするために3000Hzを2.0dbブースト。S側は左右に広がってしまいがちな低音を抑えるために80Hzから-2.0dbローシェルフ。空気感を加えるため8000Hzから+2.0dbハイシェルフ。
・サチュレーターで色付け
ここは行わない場合もありますが、今回はもう少しあたたかみが欲しかったので、真空管式のサチュレーターを通して色付けをしました。
Tube Saturatior 2で歪まない程度にDRIVEを動かし、倍音を加える。
・リミッターで音圧を調整する
アップロード先に合わせて、音圧を上げます。今回は主にbandcampによる配信目的だったので-9.0LUF、-0.3dBTPに調節しました。
Pro-L2のModernモードでオーバーサンプリングは最大の32x。トゥルーピークを-0.3dBTPに設定。ゲインを-9.0LUFになるように上げました。またこの時ゲインリダクションが-6.0dbをこえないように注意しました。
反省点
今回のミックスを振り返って個人的な反省点です。まだまだありますが特に気になる点です。
・ドラムの音が固い。
・フィルインの時にタムが不自然に盛り上がってしまう。
・ボーカルのダイナミクスを潰し過ぎた。
・ベースをもっと歪ませても良かった。
あとがき
最後までお読み頂きありがとうございました。少しでも皆様の参考になれば幸いです。なにか不明点がありましたらツイッターアカウント@blueseagull97までお問い合わせ下さい。といっても僕もまだまだ未熟です。これからも良い音源を作ることの出来るように精進したいです。
最後に宣伝です。現在Fragile Flowers名義で1枚ずつシングルとアルバムを配信しています。良かったら聞いて頂けると幸いです。
参考書籍/Webサイト/動画チャンネル