「コロナで自分たちは頑張っている」と主張する医療業界が、ひた隠しにする不都合な真実
プレジデントオンライン / 2021年3月28日 11時15分
※本稿は、鳥集徹『コロナ自粛の大罪』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。
■病床数世界一の日本で医療崩壊が起きる理由
(前編から続く)
【鳥集】ところで、森田先生は第三波が襲い、医療崩壊が騒がれる前から、日本の医療が抱える問題をいち早く指摘されてきました。日本は人口当たりで世界一の病床数です。また、コロナの陽性者数も、欧米各国に比べると数十分の一にすぎません。それなのになぜ、全国の重症者が1000人を超えたくらいで医療が逼迫してしまうのか。
【森田】それは日本の医療が機動性に欠けるからです。一般病床を感染の増減に応じて、柔軟にICU(集中治療室)やHCU(高度治療室)に転換するのが「縦の機動性」。そして、他科や他施設の医師・看護師をコロナ病棟に派遣したり、医療がまだ余裕のある他地域に患者を移送したりするのが「横の機動性」。
欧米の国々では、こうしたことを柔軟にやっているのです。にもかかわらず、なぜ日本ではできないのか。その大きな要因の一つとして、日本の医療機関は民間が8割で、公的医療機関が2割しかないために、政府・厚労省の指揮命令系統が及びにくいことが挙げられます。
また、医療を競争原理に任せて運営してきたために、医療機関同士がライバルになってしまっている。平時では、それが医療の質やサービス向上につながるけれど、有事になると上手に連携がとれない。そうしたことを放置してきたツケが、コロナ禍になって回ってきたのだと思うのです。
■世界中の国が臨機応変に対応した
【鳥集】コロナ感染者や重症者に対応するために、民間病院なども協力して、機動的に医療体制を変えていくべきだという指摘は、森田先生だけでなく、多くの識者が提言しています。ところが日本医師会をはじめとする医療側からは「そんな簡単にはできないのだ」という声が聞こえてきます。
たとえば、「院内感染が起こり、クラスターが発生すると、病院を閉鎖せざるを得ず、経営が立ち行かなくなる」とか、「病院数が世界一といっても日本は小さな病院が多く、人手が足りない」とか、「コロナの重症者を診たことがない病院が引き受けると、かえって悪い結果になる」とか。こういう話を聞いて、森田先生はどうお感じになりますか。
【森田】それには、2つ論点があると思います。まず、「できない」と言うんですが、できている国がたくさんあるわけですから、そこを見習って、どうすればできるのかを考えるのが当たり前ではないでしょうか。コロナに機動的に対応できなくて、世界中が困っているというなら話は別です。しかし、多くの国は臨機応変に対応して、機動的に動けています。
【鳥集】森田先生がよく例に挙げておられるのが、スウェーデンですね。
【森田】はい。どうしてスウェーデンを例にしているかというと、突出して優れているわけではないんですが、一般病棟をコロナ用に転換した数などが、きちんとデータとして出ているからです。たぶんドイツでもアメリカでもイギリスでも、それなりに対応していると思いますよ。
■コロナの重症患者はがん専門医でも対応できる
【森田】スウェーデンで外科医として働き、ツイッターで発信している宮川絢子先生に聞くと、彼女が働くカロリンスカ大学病院では感染のピーク時には外科病棟がすべてコロナ病床に転換され、全体でも半数くらいがコロナ病棟になったそうです。そのため、通常のオペ(手術)はすべて延期となった。
もちろん、外科病棟には感染症の専門家なんていません。じゃあ、どうしているかというと、感染症専門医が毎日1回まわってきて、何をすべきか指示してくれる。コロナの重症患者でも、よほどのことがない限り、それぐらいで対応できるんです。
【鳥集】実は、がん研有明病院でもコロナ患者を十数名受け入れていて、がん専門医がローテーションを組んで担当しているそうです。
最初はどうすればいいかわからなかったけど、毎朝のカンファレンスで感染症や呼吸器の専門医の指示を受けながら対応している。その指示を聞いていると、対応の仕方が徐々にわかってきたと、取材させてもらった副院長の大野真司先生(同院副院長兼乳腺センター長)は話していました。
つまり、コロナの重症患者はがん専門医でも対応できるということです。ただ、がんの患者さんなどは、手術が延期されたら、すごく心配になるでしょう。
■医師会はICU病床数を正しく把握しているのか
【森田】実は、スウェーデンでは、それも統計を取っていて、ネットでグラフを見ることができるんです。それを見ると、待機手術という、急がなくても命に別条がない手術は、コロナの感染拡大とともに急激に減っています。しかし、緊急性を要する手術は延期していないことがわかります。
感染症というのは波があって、ドーッと増えたかと思うと、ピークを迎えた後、サーッと引いていく。スウェーデンでは、それに合わせて一般病床を一気にコロナ用の病床に転換し、波が引いたらすぐに元に戻している。なので、延期していた待機手術もすぐに数が復活するんです。
これはすごく大事なことで、日本ってなぜか、一度つくったものは維持しようとしますよね。コロナ用のICUをつくったら、今度はそのまんまにしている。でも、感染症は波があるんだから、臨機応変に変えて、対応していくことがとても大事です。
それから、もう一つの論点として、上に立つ人たちが、きちんと数字を把握していないことです。たとえば、日本医師会の中川俊男会長は2021年1月14日の定例記者会見で、新型コロナ向けの病床を大幅に増やせない理由として、民間病院は公的病院に比べてICU等の設置数が少なく、専門の医療従事者がいないことなどを挙げています。確かに、人口当たりの医師や看護師は多くないですが、日本は諸外国と比べてもICU病床は少なくないんです。
■病床数の嘘
【鳥集】そうですね。私もOECD(経済開発協力機構)のサイトなどで各国比較のデータを見たことがあります。
【森田】ええ、日本はICUしか統計に入れていません。でも、他国はHCUも救急病床も入れて統計を出している。日本も救急病床とかHCUを入れれば、そんなに少ないわけではない。また、日本は病床数は多いけど、慢性期病床とか精神科病床が多いといわれるんですが、これも嘘です。
急性期病床だけで比較しても日本は多いんです。いずれにせよ、感染者数、死亡者数は何十倍も差があるわけですから、やれないじゃなくて、やらなきゃいけないんですよ、本当は。
■一部の医療従事者に負担が集中する構図
【鳥集】どうして、やれないって言ってしまうんでしょうか。
【森田】医療業界は、「自分たちは頑張っている」と言いたいんです。ツイッターを見ていても、「うちの病棟は満床だ」「コロナ病棟は大変だ」と訴えるツイートを、たくさんの人がリツイートしています。しかし、医療従事者みんながコロナ病床で働いているかというと、まったくそうではありません。
【森田】コロナ病棟の最前線で働き続け、大変な思いをしている看護師さんや医師の方々には敬意を表しますが、そもそもコロナ用として全病床の数パーセントしか使っていないわけですから、一部の医療従事者に負担が集中するのは当たり前なんです。
【鳥集】たとえば、森田先生のいる鹿児島で感染爆発が起こって、地元の開業医の方々で輪番制を組んでコロナ病棟を手伝いに行くことになったら、森田先生も協力しますか。
【森田】もちろんです。そういう取り組みも、あっていいと思います。
【鳥集】人工呼吸器の操作や感染管理に慣れていない医師が多いという話もよく聞きますが、そうなのでしょうか。
【森田】確かにそのとおりなのですが、だからといってまったくできないかというと、それもまたおかしな話です。僕なんかでも、病院勤務時代は何の問題もなく人工呼吸器を操作していました。もう10年くらいそうした現場からは離れていますから、アップデートはしなくてはいけませんが、たぶん2~3日学べばできるようになると思います。
【鳥集】しかし、他科の医師や民間病院、開業医まで総動員して、コロナを診ようという声が、なかなか聞こえてきません。
■日本の医療が「専門分化」しすぎた弊害
【森田】専門分化しすぎている弊害もかなりありますね。2004年に臨床研修制度が改定され、医学部卒業後2年間は、すべての科を回って、ジェネラリストを育てようということになりました。それで少しはよくなったかなと思っていたのですが、2年間の研修が終わったら、98%が専門医コースに進むのが現実です。私のような総合診療医になる専門医の制度もできましたが、選択してくれる研修医は2%くらいしかいません。
【鳥集】総合診療医の人たちは、感染症を診るのは当然という意識はあるんですか。
【森田】もちろんです。だって、受診される患者さんの発熱って、多くが感染症ですからね。感染症を診ないという総合診療医は、あり得ないです。
【鳥集】一方で外科や他科の医師は、自分はコロナを診ることはできない、あるいは自分には関係がないと思ってしまうのでしょうか。
【森田】そうですね。まあ、外科の先生でも、普通の風邪ぐらいは診ている先生のほうが多いとは思いますけど、自信をもってやれているのかというと、ちょっと引き気味な感じにはなってしまうでしょうね。
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医師/南日本ヘルスリサーチラボ代表
1971年、横浜生まれ。南日本ヘルスリサーチラボ代表。日本内科学会認定内科医、プライマリーケア指導医。一橋大学経済学部卒業後、宮崎医科大学医学部入学。宮崎県内で研修を終了し、2009年より北海道夕張市立診療所に勤務。同診療所所長を経て、鹿児島県で研究・執筆・診療を中心に活動。専門は在宅医療・地域医療・医療政策など。2020年、鹿児島県南九州市に、ひらやまのクリニックを開業。医療と介護の新たな連携スタイルを構築している。著書に『破綻からの奇蹟~いま夕張市民から学ぶこと~』(南日本ヘルスリサーチラボ)、『医療経済の嘘』(ポプラ新書)、『日本の医療の不都合な真実─コロナ禍で見えた「世界最高レベルの医療」の裏側』(幻冬舎新書)、『うらやましい孤独死─自分はどう死ぬ? 家族をどう看取る?』(フォレスト出版)などがある。
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ジャーナリスト
1966年、兵庫県生まれ。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒。同大学院文学研究科修士課程修了。会社員・出版社勤務等を経て、2004年から医療問題を中心にジャーナリストとして活動。タミフル寄附金問題やインプラント使い回し疑惑等でスクープを発表してきた。『週刊文春』『文藝春秋』等に記事を寄稿している。15年に著書『新薬の罠 子宮頸がん、認知症…10兆円の闇』(文藝春秋)で、第4回日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞。他の著書に『がん検診を信じるな~「早期発見・早期治療」のウソ』(宝島社新書)、『医学部』(文春新書)、『東大医学部』(和田秀樹氏と共著、ブックマン社)などがある。
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(医師/南日本ヘルスリサーチラボ代表 森田 洋之、ジャーナリスト 鳥集 徹)
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