「IBMが楽天を提訴、ウェブサイトとモバイルアプリで特許侵害」というニュースがありました。「(2021年3月)29日、消費者にキャッシュバックを提供している楽天のウェブサイトとモバイルアプリが自社技術を無断で使用し、特許4件を侵害しているとして提訴した」ということです。
ちょっと意外な組み合わせのように見えますが、IBMは米国特許取得件数で28年連続首位であり特許の世界でも巨人です。アグレッシブな権利行使を行なうことはほとんどないですが、今回のように相手がライセンス交渉に応じない場合には、侵害訴訟を仕掛けることもある「眠れる獅子」のような存在です。
報道からだと特許番号が分からないので、デラウェア地裁のサイトから訴状を入手しました。US7,072,849、US7,631,346、US6,785,676、US7,543,234の4件です(現時点でこの情報を無料で公開しているのは、本記事だけだと思います)。
1件ずつ内容を見ていくことにしましょう。ちょっと長くなるので、本記事では最初の1件とし、残りの3件は別記事とします(クレーム分析部分のみ有料)。
まず、US7,072,849です。発明の名称は” Method for presenting advertising in an interactive service”、出願日は1993年11月26日、実効出願日(優先日)は1988年7月15日とかなり古いです(この時期の米国特許制度では権利存続期間が出願日起算ではなく登録日起算だったので、古い出願でもまだ権利が残っていることがあります)。登録日は2006年7月4日、期限満了は2023年7月4日です。
訴状によれば、IBMがパソコン通信サービスPRODIGY(懐かしい!)開発時に行なった発明とのことです。発明のポイントは、対話型ネットワークで広告をアプリケーションとは画面上の別の場所に表示し、かつ、ネットワーク負荷を低減するために広告データを事前に端末側にキャッシュしておくというものです。いきなり超強力な特許ですが、出願日が1993年、実効出願日が1988年であることを考えればうなずけます。1988年というとNTTが世界初の商用ISDNサービスを開始したというレベルの昔です。そして、世界初のウェブが登場したのは1991年ですので、この時期におけるネット広告に関する先行文献で無効にするのは困難ではと思います。実際、今までも特許の有効性が3回争われています(Priceline、Kayak Software、Groupon)が無効にできなかったと訴状に書かれています。
正直、なぜ楽天はおとなしくライセンス契約に応じなかったのかという気がします(相手はパテントトロールではなくIBMですから法外なロイヤリティを要求することは考えにくいです)。
クレーム1の内容は以下のとおりです。なお、訴状では楽天は少なくともこのクレーム1を侵害しているとIBMは主張しています。