東日本大震災から11日で半年を迎えるのを前に、読売新聞社は3~4日に全国世論調査(面接方式)を実施した。(略)震災に関する仕事ぶりや活動を評価しているものを複数回答で聞くと、「自衛隊」82%が最多で、「ボランティア」73%、「消防」52%、「被災地の自治体」42%、「警察」40%などの順。「政府」は6%、「国会」は3%に過ぎず、国の対策の遅れや、与野党対立が続いた国会の現状に対する批判は厳しい。
災害に関して、最も信頼できない情報源を全国1200人に今年6月に尋ねたアンケートで59・2%の人が「政府・省庁」と答えたとする結果を26日、広瀬弘忠東京女子大名誉教授(災害心理学)が明らかにした。調査は広瀬氏が運営する「安心・安全研究センター」が全国の15~79歳の男女を対象に実施。同大学が昨年、実施した調査では政府・省庁とした人は22・7%で、東日本大震災での国の情報発信への不信感が噴出した形。広瀬氏は「(原発事故などで)必要な情報が後になって出るなど、広報の不誠実さを国民が敏感に察知した」と分析した。
病院検索サイト「キューライフ」は27日、放射能の健康への影響をどう考え、どのように行動しているかを調査し結果を発表した。調査は関東1都6県の医師342人から回答を得た。「人体に与える影響を改めて確認したか」は「はい」が74.6%を占めた。また、「当局の情報開示を信頼できるか」には、「いいえ」が71%だった。
政府が災害情報の扱い(いわゆるリスク・コミュニケーション)で失敗したのは、悪意があったとか怠けていたとか能力が足りなかったというよりは、それによって国民の間にパニックが生じることを恐れたから、というのが主な理由だったといわれている。しかし、実際には国民は上記のように(少なくとも当座は)よほど抑制的で、パニックになっていたのは政府自身の方だった。最近では、社会的な心理パニックというものは、そそっかしい国民が陥るものを賢明な政府が苦労して引き止めるものではなくて、まず政府自身に真っ先に発生して、それが国民に伝染して引きずられるものである、という見方も増えているが、まさにそれを地で行く失態が、残念ながら現実に観察されることになった。
最近震災当時隠されていたデータが次々開示されているが、政府あるいは官僚は当時(意図的かどうかは別として)開示しなかったおかげで社会的パニックは回避されたと思っているように感じる。しかし政府の信用は徹底的に失墜したので次に何か起きた時に情報が信用できずひどいパニックとなるだろう。
結果的にみれば、国民は自分の身を守るために必要な、差し迫った情報を、ほとんどなにも教えてもらえなかった。早い段階から核燃料の破壊が進行しているのではないかと海外の多数の研究機関からの指摘が殺到したが、政府と電力会社はそれをかたくなに否定し続けた。排気のために原子炉が手動で開放されたとき、政府の広報は、排出された放射性物質は「ごく微量」であり「ただちに健康に影響するものではない」と繰り返したが、実際にはそれどころの話ではなく、政府はそれをはじめから知っていた。その後膨大な量の雲状の放射性物質が関東一円を風に乗って漂い、降雨と共に落ちても、対象地域の住民はなんの予報も注意も受けず、あとで飲料水や農作物に影響が現れるまで長期間に渡ってそのまま放置された。万一の事故の際には、周辺自治体と住民は政府と電力会社から速やかに連絡を受けることが法的に保証されており、訓練もしていたが、その約束ははじめから存在しないかのように無視された。
日本原子力学会は4日、東京電力福島第一原発の事故で、国や東電による事故の評価結果や、評価のもとになるデータなどの情報開示が遅れたことについて「強く遺憾で、早急な改善を求める」とする声明を発表した。声明は「開示プロセスが不透明で、国民の抱く不安に拍車をかけた。専門家による解明や提言に支障を生じさせた責任は重い」と強調している。 開示が不適切だった例として、(1)炉心の燃料が溶けて格納容器にまで漏れている可能性があるという重大な評価結果が、事故後3カ月も経ってから、国際原子力機関(IAEA)向けの報告書で初めて明かされた(2)現地対策本部などが対策拠点(オフサイトセンター)に残したデータの中には、事故当初の炉心損傷を疑わせるテルル132の測定値などが含まれていたが、公表まで2カ月以上かかった――などを挙げた。
東京電力福島第一原子力発電所1、2号機の原子炉建屋近くにある主排気筒の配管底部で過去最高の毎時10シーベルト(1万ミリ・シーベルト)を超える高い放射線量が検出された問題で、東京電力は2日、このほかに10シーベルトと5シーベルトを超える場所が新たに見つかったと発表した。毎時10シーベルトの放射線を人間が1時間全身に浴びると、ほぼ確実に死亡する。高線量の場所は、いずれも1号機の原子炉格納容器につながる配管が通っている。東電では、3月の炉心溶融(メルトダウン)に伴い格納容器内の蒸気を放出する「ベント」を実施した際、放射性物質が配管に付着し、現在も放射線を出し続けているとみている。
清水社長の謝罪を初めて受けた3町村の首長は、原発事故の一日も早い収束と、住民の生活を支える十分な補償の実施を強く求めた。二本松市東和支所の災害対策本部で謝罪を受けた浪江町の馬場有町長は「東電からの連絡ではなくテレビ報道で危機的な状況を知り避難を決断した。明らかに連絡協定違反だ」と、1998年に結んだ原発の異常をめぐる通報連絡に関する協定が履行されなかったと主張。「はらわたが煮えくり返る」と怒りをあらわにした。
もしかしたら昨今の厳しい歳出削減の煽りを受けて、政府にはその活動のための充分なリソースが足りなかったのだろうか? だが、経産省の補完システムと合わせて300億近い事業費(2011.5.2 47NEWS)を注ぎ込んで整備し、名前負けの皮肉な名称で有名になった放射性物質の拡散予測システム「SPEEDI」の情報は隠蔽され、国民に一枚の図面すら示すことができなかった。
その頃、東京では、政府当局者らがSPEEDIを使い、放射性物質を含む蒸気を放出して原子炉内の圧力を下げるベント作業などの緊急時対応を行った場合、あるいは事態がさらに悪化して原子炉爆発が起きた場合に、放射性物質がどう拡散するかを予測していた。同日午後12時36分、文部科学省は、1号機が午後1時に爆発した場合のシミュレーション結果を受け取った。そこには、大量の放射性物質が北西方面に流れることが示されていた。(略)
その日の午後に1号機のベントを行った場合、放射能雲に覆われると予測された地域に、2000人もの浪江町の住民が避難していた。住民らがその危険性を知る由などなかった。午後2時30分頃、ベントが開始された。/原発から約24キロ離れた浪江町の津島地区のある避難所では、数十人が駐車場に集まり、山々の背後から立ち上る蒸気を眺めていた。彼らにはそれが何であるか分かっていた。原子炉のベントが始まるというニュースをテレビで聞いていたからだ。(略)
避難所にいた2人の人物によると、それからまもなく、防護服に全身を包み線量計を携えた東京電力の社員1人が社用車でやって来た。線量計は終始鳴りっぱなしだったといい、放射性レベルが高かったことがうかがえる。社員は避難者らに対し、公式に定められた避難区域の外にいるため安全だと告げると、数分後に立ち去ったという。東電の広報担当者もこの出来事を認めている。
「SPEEDI(スピーディ)が公開されていれば、北西方向に避難することもなかったのに…」東京電力福島第1原子力発電所から北へ約32キロ、福島県南相馬市鹿島区に住む主婦、○○さん(35)は、悔やんでも悔やみきれない気持ちでいっぱいだ。(略)3月15日夜には、文部科学省の原子力対策支援本部が、北西20キロのモニタリングを実施。地上1メートルの空間放射線量が車内で毎時195~300マイクロシーベルト、車外で240~330マイクロシーベルト。車内にいても通常時の一般人の放射線量の限度(年間1千マイクロシーベルト)を5時間で超える高い値だった。/なぜ、文科省は北西方向だけを測定したのか。担当者は「放射性物質は風に乗って流れる。気象条件から、北西方向に流れていることは最初から分かっていた」と説明するが、住民は知らされていなかった。
「シングル・ボイス」目指してノー・ボイス
自分のみたところ、今回特に対応がひどかったのが、国民の健康福祉を維持するために自然環境を守る役割を担う環境省と、そのための基礎データの計測を行う気象庁である。温暖化とCO2問題では、100年後に事によったらわずかばかりそうなるかもしれない気温と海面の上昇について、われわれの未来のことをあれほど心配してくれ、多額の計測予算、広報予算をもぎとって湯水のように使い果たしてきたこのふたつの省庁と、それにぶらさがった学者たちは、今日明日の放射線被害についてなにも働かず、完全に沈黙していた。彼らが気を揉んでいたのは、目の前の放射線汚染について子どもたちをどのように守るかではなくて、電気が来ないためスーパーコンピューターが動かせず、CO2の予測計算が計画通りできないということだった。今夏の節電で、科学研究の“頭脳”であるスーパーコンピューターを思うように運用できない研究機関が東日本で相次いでいる。(略)国立環境研のスパコンは主に地球温暖化の将来予測シミュレーションに使われる。環境省所管とあって「率先垂範で20%以上の節電」を掲げた事情もあり、停止を余儀なくされた。温暖化予測は、3年後に予定される国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の第5次評価報告書作成に向けてデータ解析を急ぐ必要がある。運用担当者は「長くは止めたくないが、研究計画をずらして工夫するしかない」。
福島原発事故で世界中が気にしている放射性物質の拡散予測。これまでドイツやノルウェーなど海外の気象関連部局が公表してきたが、慎重だった日本政府も国民からの批判を浴びてやっと5日夜から気象庁ホームページで公表に踏み切った。だが、お目当ての予測ページを探すのは至難の業で、「どこで掲載しているのか」と不満が殺到するトホホぶりとなった。
政府のコミュニケーションが混乱し、機能停止していた一方で、国民が自ら情報をやり取りするのに八面六臂の活躍をみせたのがソーシャルメディアだった。それらの多くは外資系のIT企業によって運営され、また、いわゆる「フリーミアム」の事業形態であって、行政機関とちがってほとんどの利用者は彼らに一円の料金も払っていない。しかし彼らは災害直後から大奮闘して、社内の一級のエンジニアたちが自発的に新たな情報サービスを立ち上げ、日本国民と被災者のために次々に提供して、それらは大いに活用された。これらの企業は、その影響力の巨大さから新しいタイプの「国家」に擬せられることも多いが、震災の中でまさに一種の(松下幸之助が夢見たのとはまったく違う意味での)「無税国家」、代替国家の役割を果たした。
「クライシスレスポンスの本部は米国の本社にありますが、クライシスレスポンスのサイトを作っているのは世界中のウェブマスターチームのメンバーで、24時間更新していく方式をとっています。」「ウェブマスターの仕事は、日本、ヨーロッパ、米国の3交替で、24時間更新してきました。また、クライシスレスポンスの本部も、ほとんど日本時間で寝起きするぐらいの感じで、日本のスタッフにぴったり付いてサポートしてくれました。 中でも、海外にいる日本人や日本滞在経験者が中心になって、献身的に活動してくれました。」
茨城県つくば市議会議員の五十嵐立青さんとつくば市情報システム課が、東北関東大震災を受けて福島県からつくば市に避難してきている250人のため、毛布や座布団をTwitterで募ったところ、2時間ほどで人数分が届いた。
しかし当局は、それらのソーシャルメディアに対しても、「デマを流すよからぬもの」だとして取り締まり、活動を制限しようとした。自分で情報をうまく出せなかっただけでなく、国民がやむなく自ら行った活動まで止めようとしたのである。この動きは自分で適切な情報を開示する動作よりよっぽど迅速・機動的に行われた。持っている情報を自分がきちんと提供しさえすれば、取り締まりなどしなくても国民はデマに惑わされなくて済むのだが、それは行わずに、罰だけ先行して加えようとした。このような対応は自前の配給がうまく機能しないうえに闇市場まで禁止しようとする強権政府とそっくりであり、何の学習もない、反射的で陳腐な現象だ。
東日本大震災に絡むデマや根拠の不確かな情報が広まっているとして、警察庁は1日、インターネットや口コミで出回っている流言飛語の一部を公表した。ネット掲示板などに掲載された悪質なデマ28件については、3月31日までに警察からサイト管理者に削除要請を行った。被災地の県警ではデマで名指しされた地域を重点的にパトロールし、被災者の安心感の確保に努めている。また、故意に誤情報を流した人物を特定すれば名誉毀損(きそん)や業務妨害容疑での立件も視野に捜査するという。
総務省は、本日、電気通信事業者関係団体に対し、東日本大震災に係るインターネット上の流言飛語について、各団体所属の電気通信事業者等が表現の自由に配慮しつつ適切に対応するよう、周知及び必要な措置を講じることを要請しました。本日、「被災地等における安全・安心の確保対策ワーキングチーム」において、「被災地等における安全・安心の確保対策」が決定されました。同対策においては、東日本大震災後、地震等に関する不確かな情報等、国民の不安をいたずらにあおる流言飛語が、電子掲示板への書き込み等により流布している状況に鑑み、インターネット上の流言飛語について関係省庁が連携し、サイト管理者等に対して、法令や公序良俗に反する情報の自主的な削除を含め、適切な対応をとることを要請し、正確な情報が利用者に提供されるよう努めることとされています。
情報ソースを握る政府がそれを秘匿すれば、国民が横渡しでやり取りする情報の中に一定程度のあやふやな推測や誤情報が混じるのは避けがたいだろう。それでも上記にあるように、今回流されたデマの中で飛び抜けて最大級のものは、政府自身が流したものだった。その広報活動の総元締めである官房長官の枝野幸男氏は、自身の家族を海外に避難させたという噂が駆けめぐったときに、発信者を見つけ出して刑事告訴すると息巻いた。しかし悪質なデマを意図して流す行為が訴追の対象になるというのなら、放射線被曝に関して、それこそ煮えくり返るものを抱きながら、枝野氏自身を同じように告訴したいと思っている者の数は、少なく見積もっても万は下らないはずだ。
枝野幸男官房長官が自身のメールマガジンなどで、東日本大震災後に家族を海外に逃したとの情報がインターネット上で流布されている問題で、枝野氏が「全て事実無根の極めて悪質なデマ」として法的措置も含め対応を検討していることが12日、明らかになった。枝野氏は同日の記者会見で「検討しているのは民事ではない。やるなら刑事だ」と述べ、刑事告訴で対応する姿勢を強調した。
自分で情報を出さないうえに、自発的な流通も禁止しようとしたのは気象庁の系列も同じだった。気象学会は、傘下の会員たちに対して、放射線拡散に関する独自の試算情報を流さないように、というお触れを出した。また、国民生活センターも、存在するほとんどすべての放射線測定のリソースを独り占めしている政府からの情報が充分でなく、信用もできないので、自ら計測器を取り揃えて測定を試みようとした住民たちに、それらの機器は外国産の安物で信用できないので使わないほうがいいですよ、と親切にアドバイスしてくれた。
福島第一原発の事故を受け、日本気象学会が会員の研究者らに、大気中に拡散する放射性物質の影響を予測した研究成果の公表を自粛するよう求める通知を出していたことが分かった。自由な研究活動や、重要な防災情報の発信を妨げる恐れがあり、波紋が広がっている。文書は3月18日付で、学会ホームページに掲載した。新野宏理事長(東京大教授)名で「学会の関係者が不確実性を伴う情報を提供することは、徒(いたずら)に国の防災対策に関する情報を混乱させる」「防災対策の基本は、信頼できる単一の情報に基づいて行動すること」などと書かれている。(略)火山防災に携わってきた小山真人静岡大教授は、かつて雲仙岳の噴火で火砕流の危険を伝えることに失敗した経験をふまえ、「通知は『パニック神話』に侵されている。住民は複数の情報を得て、初めて安心したり、避難行動をしたりする。トップが情報統制を命じるのは、学会の自殺宣言に等しい」と話している。
「高精度」をうたいインターネットで販売されている比較的安価な放射線測定器は、測定結果にばらつきが大きい――。国民生活センターは8日、空間の放射線量を測る測定器について、商品テスト結果を公表した。センターは「機器の値をただちに信用するのは避け、国や自治体が公表するデータなどを参考にして判断してほしい」と呼びかけている。テストしたのは、6月下旬の価格が3万6千円~6万2千円の9商品。いずれも海外製か製造国が不明の機種で、通信販売のウェブサイトで人気商品として紹介されていたものという。これに約60万円の日本製測定器を加えて、10機種を同じ条件でテストした。
一方で、自分たちの国民、納税者にはまったくつれなかったそれらの国営機関も、海外の希望者向けには、ずいぶんとサービスがよかった。多くの国民が政府からの情報がないので、海外の研究機関からの情報を、外国語の不便を感じながらネット経由で参照していたが、あとになってそれらの元データは(日本の)気象庁が提供したものだったことが判明した。また、予測情報を隠して多数の近隣住民に充分に放射性物質を浴びせたうえで、国際機関の会合に出席した厚労省の副大臣は、これらの人びとの今後の研究データは、今後の疫学に大きな貢献をすることになるだろうと述べた。
東京電力福島第一原子力発電所の事故で、気象庁が同原発から出た放射性物質の拡散予測を連日行っているにもかかわらず、政府が公開していないことが4日、明らかになった。ドイツやノルウェーなど欧州の一部の国の気象機関は日本の気象庁などの観測データに基づいて独自に予測し、放射性物質が拡散する様子を連日、天気予報サイトで公開している。日本政府が公開しないことについて内外の専門家からは批判が上がっており、政府の原発事故に関する情報開示の在り方が改めて問われている。
世界保健機関(WHO)年次総会に出席している大塚耕平厚生労働副大臣は17日、ジュネーブ市内で記者会見し、福島第1原発の放射能漏れ事故による住民の健康への影響に関し、「長期間の追跡調査が必要だ」と述べた。具体的な方法は政府で準備を進めていると語った。副大臣は、特定日や場所の放射線量データは蓄積されつつあるとした上で、原発周辺地域などの住民の正確な所在時間と場所が把握できれば、「(データとして)将来的な疫学に寄与する」との認識を示した。
今回の原発事故の失敗のひどさは、他の多くの論者からも第二次世界大戦の敗戦に並ぶものとみられているが、当時、軍と政府によって多数行われた、現実の実態から目をそらすための情けない言い換え、言葉遊びは、21世紀になった現在でも完全に健在だった。
東電福島第一原発から約6キロ離れた福島県浪江町で3月12日朝、核燃料が1000度以上の高温になったことを示す放射性物質が検出されていたことが分かった。(略)事故発生から2か月以上たっての公表で、保安院の西山英彦審議官は「隠す意図はなかったが、国民に示すという発想がなかった。反省したい」と釈明した。
1号機で水素爆発が起きた3月12日。原子炉建屋上部が吹き飛ぶ様子を民放テレビが繰り返し放映する中、官邸が事実を把握したのは発生の2時間10分後。当の東電は「通常と異なる過程で原子炉建屋の上方が開放された。言葉として爆発だった」と、要領を得ない説明を繰り返した。
東京電力の松本純一・原子力立地本部長代理は20日、燃料の約70%が損傷しているとみられる福島第一原子力発電所1号機の原子炉について「燃料が溶融している可能性がある」と認め、「圧力容器の中ほどに水あめのような状態で引っかかり、底までは落ちていないだろう」と述べた。
圧力容器の途中に「水あめのような状態で」引っかかっていたのは、核燃料ではなくて、原子力関係者の「未練」だったろう。
「『情報の非対称性』の政府による解決」という神話
以前、一連の検証の中で、経済行動における情報の非対称性とその政府統制による解決という現代の経済学の教科書的な学説に対して、司法、医療、葬祭業や中古車販売業、金融などの諸分野の実状をそれぞれ確認し、それは単に政府権力とその介入を正当化するための口実になっているに過ぎず、現実の問題解決にほとんど貢献していないのではないか、との疑問を呈した。今回の経験で、それはもはや疑念ではなく、まぎれもない現実の直接体験として、誰の目にもはっきりとわかる確固たるものになったのではないか。今回の経緯の中では、国民の間にたしかに大きな情報の非対称性が存在した。しかしそのほとんどは政府自身によってもたらされたものだった。
政府は情報の非対称性を解消、軽減したのではなく、自らそれを作り出し、肥やしをやって怪物大のものにまで育て上げた。そればかりか国民が自ら情報を入手し、確かめようとする能力も奪い取り、その努力を妨害した。知らしめることなく依らしめることだけを求めた。政府がもっと小さく、国民の側にもっと多くのリソース、もっと性能のよいコンピューターと放射線測定機器と、そしてそれらを調達するのにも使える300億円があったならば、国民は妨害も、遮断も被ることなく、自らの行動でもっとはるかに質の良い情報を手に入れられたのではないか。
牛丼チェーンの「すき家」などを展開する外食大手のゼンショーは5日、店舗で使う今年の国産新米について、独自に放射線検査をすると発表した。国の基準に消費者の不信感が強いため、自然状態より少しでも高い放射線が検出されれば店には出さない方針だ。(略)ゼンショーは年間数万トンのコメを使い、外食産業では最大という。既に肉や野菜などの検査をしているが、主食のコメは消費者の関心が特に高いといい、「国の基準は全く信頼されていない。最大の安心を提供したい」と独自の基準を設ける。
日本のような世界にもまれな抑制的で秩序だった国民性で、政権中枢を市民運動出身の革新系の幹部が占め、そのための莫大な予算も自由に使わせ、法律と協定で内容を強固に固めて強制させても、それでも政府は情報を充分に出すことができなかった。ここには個々の心がけや資質の問題というより、なにか構造的なものがあるとみる以外にない。政府とは「そういうもの」であって、指揮官がたまたま飛び抜けて優良だったときだけ例外的に多少うまく機能するものだと理解する以外にない。政府に非対称情報のを差配するハブの役割を委ねることは、本質的、構造的に、できない。
現実の問題として政府にもっとしっかりすることを求め、改善の道を探るのはもっともなことだし、必要なことでもあろう。しかし社会の構成主体の中で、かようにいちばん出来の悪いものを情報の澱みの最後の受け皿に指定するのは到底妥当なこととはいえない。政府は非対称情報の救い主ではなく、むしろその主要な汚染源である。情報の非対称性の解決を政府に期待するのは、それをいちばん期待できない相手に期待することである。それは経済学上の神話、机上のフィクション、もっといえば経済学上の一大汚点、スキャンダルである。原発の安全神話や平和利用という神話、統制経済という神話、外部性という神話、財政出動による景気コントロールという神話、などと同じように(こうして並べると、それらはほとんどが政府の資金によって生み出された政府自身に関するニセの身上書であることが分かる)。それは社会の問題解決に役立っておらず、一部の経済学者の就職口の世話、権力のロイヤルティーへの褒美として役立っているだけだ。政府は、民間企業の独占を気にする前に社会に最大の害をもたらす公的独占を自ら恥じるべきであるのとまったく同様に、ネットのデマを駆除することを気にかける前に、自分自身が流すデマを駆除することをもっと気にし、「立件」が必要というならまず身内についてそうすべきである。
今回の原発事故と情報の経済学、情報の非対称性について、経済学者たちはなにを語っているだろうか。まさかとは思うが、その当の政府自身がなんの機能も発揮できず、金縛りになっていたことをまったく無視して、事故の経緯を通じて典型的な情報の非対称性の現象が観察された、典型的な「レモン市場」で、情報の真正性を高めるために政府の役割が重要だ、などという間の抜けた、ピント外れの論評ばかりを並べる羽目になっていはしないだろうか。
これでもまだ経済学は、非対称情報の政府による解決というありがたいご宣託を、自動口述機のように社会と学生たちに説き続けるのか。これでもまだ、税金の庇護の下に逃げ込んでいるあれやこれやの業界団体は、自分らの職種は情報の非対称性がことのほか強いので、政府による縛りが必要だ、と主張し続けるのか。降り注ぐ放射線の下で自らの法的責任を回避することだけを気にして「ただちに健康に影響はない」とただ連呼し続けた政府、国民の生命にかかわる情報を示すうえで、なんの能力も熱意も持たないことがもはや誰の目にも暴露され、自分自身すらその情報に信頼性がないとアンケートに回答せざるをえない政府を頼りに。
高山智司環境政務官は10日、静岡市内で記者会見し、東日本大震災で発生したがれきの放射線量の測定について「国が測ったのでは信用してもらえない。国も測っているが、その上で自治体にも測ってもらいたい」と発言した。(略)高山政務官は記者会見で「国が測定しないのはなぜか」との質問を受けた。
もっとも、戦時中の「大本営発表」という異様な実例を自国に持ちながら、それになんの顧慮もなく長年素通りしてきた「前科」から言って、今さらそれらの無感覚な人びとに、是正を期待するだけ無理というものなのかもしれないが。