清義明(せい・よしあき) ルポライター
1967年生まれ。株式会社オン・ザ・コーナー代表取締役CEO。著書『サッカーと愛国』(イースト・プレス)でミズノスポーツライター賞優秀賞、サッカー本大賞優秀作品受賞。
匿名掲示板というフランケンシュタインの怪物/上
「言論の自由の社会実験は失敗しました」
筆者のインタビューにフレドリック・ブレンナン氏は8chanについて語った。8chanはそもそもはジム氏が立ち上げたものではない。2013年、当時19歳のフリーのプログラマーだったブレンナン氏が最初に立ち上げた。
ブレンナン氏は1994年生まれの26歳。ニューヨーク州の州都アルバニーに生まれる。先天性骨形成不全症の難病により、幼い時から車いすの生活だったという。
6歳の時から父のパソコンを使い始める。家庭の事情からグループホームへ。そこではネットは禁止だったが、ipadを買って施設のWi-fiのパスワードをクラッキングしてつないだ。プログラムは13歳の時から始めた。
やがて、当時アメリカ最大の匿名掲示板だった「4chan」を知る (4chanについては後述) 。4chanのユーザーが、「ソニックアドベンチャー2」のセガ社公式のフォーラムを荒らしにきたことで4chanの存在を知ったそうだ。その彼が、つくりあげたのが8chanだ。
「8chanは閉鎖されるべきです。それは8chanからQアノンのムーブメントが起きる前から言ってきたし、数々の銃撃事件が起きたときもそう言ってきました。言論の自由の社会実験は失敗しました。言論の自由を進めすぎると良いことにはならない。無制限の言論の自由の結果が、現在起きていることなのです」
ブレンナン氏は、自分自身をフランケンシュタイン博士に例えることがある。彼は言論の自由の名のもとに、匿名掲示板というモンスターを生み出してしまったと。
「当時、私は若かった。もし時間を巻き戻せるならば、決して8chanをつくることはないでしょう」
ブレンナン氏は8chanの創設者として、そしてジム氏の秘密を握る証言者として、Qアノンの正体を突き止めようとするジャーナリストたちがが一目置く存在である。彼は自分自身が生み出したモンスターとの対決をしようとしているのだ。
そして私に逆に質問をしてくる。
「Qアノンがこれだけ世界で騒がれているのに、なぜ日本人はそれが日本と密接に関係していることに触れようとしないのか不思議です。ジムも息子のロンも日本にこれだけ関係しているというのに。またひろゆき(西村博之)についてもそうです。これまで私は何度か日本のメディアにインタビューされましたが、すべて記事にならなかった。ジム・ワトキンスやひろゆきは日本ではタブーなんですか? なにか日本のメディアは圧力をかけられているんでしょうか?」
ブレンナン氏については、また後に登場願うことにするが、ブレンナン氏の質問に先に答えるとすればこうなる。この話が、あまりにもアンダーグラウンドな世界でメインストリームのメディアが扱いづらいうえに、その話があまりにも複雑怪奇であり、日米をまたいだスケールで展開されるため、話を追いづらいのだ。
まさかQアノンの発生の背景に、日本の「2ちゃんねる乗っ取り裁判」の西村氏とジム氏の因縁があるとは誰も思っていないだろう。
このモンスターを生み出した原因は、日本の2ちゃんねるのノウハウを知りつくした新旧のオーナーが、アメリカ最大のアンダーグラウンド匿名掲示板である4chanと8chanを運営していることに強い関係がある。そのアメリカの匿名掲示板カルチャーは、もともと、日本の2ちゃんねるの影響のもとに成長してきたのである。
アメリカの匿名掲示板のカルチャーのことを、「CHANカルチャー」と呼ぶ。またその掲示版のユーザーの別称は「CHANNER」である。
Qアノンは、このCHANカルチャーと切っても切り離せない出自を持っている。
それでは日本の2ちゃんねるの影響が、アメリカにどのように伝わり、社会を揺るがす存在にまでなったのだろうか。またここで西村博之氏が登場する。そして驚くべきことに、アメリカを揺るがした陰謀論Qアノンが、この二人が生み出したといっても過言ではないほど、密接にかかわりあいがあることがわかっていく。
(Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー【4】=3月30日公開予定=に続く・本連載は全6回です)
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