清義明(せい・よしあき) ルポライター
1967年生まれ。株式会社オン・ザ・コーナー代表取締役CEO。著書『サッカーと愛国』(イースト・プレス)でミズノスポーツライター賞優秀賞、サッカー本大賞優秀作品受賞。
匿名掲示板というフランケンシュタインの怪物/上
ワシントン・ポスト紙は、8chanを「もっとも悪意に満ちた差別主義者の憎悪の隠れ家」と呼んでいる。VICE誌は「憎悪があふれかえる不思議の国」、ウォールストリート・ジャーナル紙は「無差別テロとのつながりがある極右主義ののプラットフォーム」、ウェブニュースサイトのスプリンターは「インターネットを不気味な場所にする肥えだめ」という。さらにAP通信は、8chanは「暴力的な差別主義者がアイデアを共有したり、お互いを賞賛しあったりしている場所」とし、さらにそこでは「言論の自由の名のもとに、ユーザーは投稿を検閲されることはない」とも伝えている。
スカイニュースは、最初のニュージーランドでのモスク銃乱射事件の直後に、犯行を自らライブ中継する動画のURLが書き込まれた8chanについて、その存在をまだよくわかっていないニュージーランドやオーストラリアなどの英連邦圏の人たち向けに解説している。
8chanとはインターネットの匿名の画像掲示板であり、露骨で攻撃的なコンテンツが多い。ビデオゲームや日本のアニメなどの話題もあるが、ヘイトスピーチとユダヤ陰謀論やマイノリティ差別や性差別の言葉はおびただしく書き込まれている。ムスリム憎悪や極右的な書きこみもある他、ポルノやスキャンダラスな児童虐待の噂や個人攻撃の嫌がらせの数々などが広がる拠点となっている。今回のテロ銃撃事件でも、ナチスの画像やユダヤ人差別の言葉とともに、その行為はユーザーたちに賞賛されている、と。
ここまで世界を震撼させる事件のハブとなった原因と目されるサイトのオーナーに、フィリピン当局は強く反応した。彼がフィリピン在住であったのにこの時点でアメリカに戻ってきたのは、フィリピンで8chanが犯罪などの温床になっているとの嫌疑がかかり、好まざる人物として警察の捜査が始まったからだ。
しかしジム氏はまったく懲りることはない。むしろ開き直っていた。
8chanのサイトにアクセスすると、トップページには次の言葉が掲げられていた。
「ようこそ8chan、ここがインターネットの最も暗い場所」
そしてこれは無差別殺戮事件が連続すると、次のように書き換えられた。「悪名を抱きしめて」。
下院公聴会に出席するにあたって、ジム氏はあらかじめ国土安全委員会に供述調書を提出していた。
そのなかでジム氏は、8chanとはレトロゲームの攻略法や家庭料理のレシピの情報交換や、時には政府の検閲を逃れるための情報を書き込むような匿名掲示板であり、差別や無知にもとづく投稿をしているのは、ほんの一部にすぎないと言う。そしてさらに、アメリカ合衆国憲法に規定された言論の自由を最大限まで尊重するウェブサイトが8chanであると表明し、言論の自由を制限したからといって過激主義を根絶することはできないと、その考えを述べている。もちろん書き込まれた投稿がアメリカ合衆国憲法に反するときは、警察当局と協力するとも付け加えている。
アメリカ合衆国憲法を最大限尊重し、言論の自由に値しない投稿には対処するということは、簡単にいえば著作権侵害と児童ポルノだけは対応するということである。それ以外は全て言論の自由である。ここから彼は一歩も引かなかった。「白人至上主義者が投稿しても何も問題には感じない」とも言い放つ。
ここまで見ていくと、ジム氏の説明や8chanのポリシーが、日本の2ちゃんねるとそっくりなことがわかるだろう。
2ちゃんねるのコピーが「晩のおかずからハッキングまで」だったことを覚えている人もいるだろう。これが「家庭料理のレシピから政府の検閲を逃れる方法まで」に変わっただけだ。ジム氏は自身のyoutubeチャンネルで、数々のテロ事件の温床となった8chanが社会問題化していることにコメントを出したが、そこでは「8chanは白いノート紙にすぎない」と言っている。そこに書かれたことまでは責任は持てないということである。これも西村氏がかつて言っていたこととほぼ同じである。
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