カイシャ・組織
「一部上場企業なのに全員取締役」って、さすがに無茶じゃないですか? 副社長に疑問をぶつけてみた
2020年12月、サイボウズは「次期取締役の社内公募」を発表しました。その後は入社1年目のメンバーを含む17人が立候補し、最終候補者となる予定です。
そんな方法で取締役を増やして、会社の運営は大丈夫なの──? ツイッターなどで寄せられている疑問について、サイボウズ式編集部が取締役副社長の山田理に聞きました。従来の取締役は「あまり機能していない」のでは?
編集部
今回の「取締役社内公募」について、いろいろと疑問が寄せられています。
山田
まぁ、そうなりますよね(笑)。世界中を探してもこうしたやり方を取る企業はめずらしいでしょうから。
ちゃんと説明できる場が与えられてうれしいですよ。
ちゃんと説明できる場が与えられてうれしいですよ。
編集部
では理さんに、ツイッターなどのSNSでいただいた疑問をぶつけていきたいと思います。
まずは、なぜ取締役を社内公募することにしたんですか?
まずは、なぜ取締役を社内公募することにしたんですか?
山田
会社に必要な存在として、日本の法律では取締役の設置が義務づけられています。
でも、従来の取締役が実際に担ってきた役割を振り返ってみて、一度見直すべきじゃないかと考えたんです。
そもそも、取締役って何のために存在していると思いますか?
でも、従来の取締役が実際に担ってきた役割を振り返ってみて、一度見直すべきじゃないかと考えたんです。
そもそも、取締役って何のために存在していると思いますか?
編集部
会社の舵取りを担うため、でしょうか。
山田
一般的にはそう考えられていますよね。取締役の役割は「意思決定すること」と「管理監督すること」だと。
でも世の中を見ていると、取締役はあまり機能していないような気がしていて。
でも世の中を見ていると、取締役はあまり機能していないような気がしていて。
山田理(やまだ・おさむ @osamu419)。サイボウズ 取締役副社長 兼 サイボウズUS(Kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任。2020年に組織戦略室を新設し、本格的なグローバル展開に向けた組織づくりに取り組んでいる。著書に『最軽量のマネジメント』『カイシャインの心得: 幸せに働くために更新したい大切なこと』
編集部
機能していない?
山田
僕が「アカン」と思う会社の例では、僕よりも年齢がずっと上の人たちが取締役を務め、経験をもとにした凝り固まった感覚で重要な意思決定をしています。
そうした人たちのせいで、若い人のアイデアが次々と潰されていると思うんですよ。これでは時代の変化に対応できません。
むしろ、いろいろな人からアイデアをもらったほうが、意思決定のクオリティを高められるはずですよね。
取締役がいいアイデアを持っていることではなく、いいアイデアが社内から生まれるようにすることが大事なんです。
そうした人たちのせいで、若い人のアイデアが次々と潰されていると思うんですよ。これでは時代の変化に対応できません。
むしろ、いろいろな人からアイデアをもらったほうが、意思決定のクオリティを高められるはずですよね。
取締役がいいアイデアを持っていることではなく、いいアイデアが社内から生まれるようにすることが大事なんです。
取締役の議論もオープン。「一部の人」だけで決めなくてもいい
編集部
もう1つの「管理監督」については? サイボウズは上場企業であり、ガバナンスやコンプライアンス遵守を厳しく求められる立場です。
山田
悪いことが行われたり、事件が起きたりするのは、クローズドな環境で物事が決められていくからだと考えています。
一部の人だけが取締役としての権限を持ち、閉じられた場所で会議を開いて進めていくほうが、内部統制においてはよほどリスクが高いと思いませんか?
一部の人だけが取締役としての権限を持ち、閉じられた場所で会議を開いて進めていくほうが、内部統制においてはよほどリスクが高いと思いませんか?
編集部
その場に気づける人がいないのは、怖い状態だと思います。
山田
サイボウズでは「公明正大であること」を大切にしています。取締役同士のディスカッションも、グループウェア上でオープンに社内共有されているので、悪いことをしようとしてもできません。
もし僕がおかしなことをしていたら、ツイッターなどでオープンに意見が出る可能性もあります。
もし僕がおかしなことをしていたら、ツイッターなどでオープンに意見が出る可能性もあります。
編集部
たしかに、すぐに書かれそうですね。
山田
多くの人からアイデアや助言をもらい、透明性の中で意思決定する。
今のサイボウズではそれができるので、経験や知識をもとにするのではなく、「この文化に理解があり、共感してくれる」人が取締役を務めたほうがいいということになりました。
今のサイボウズではそれができるので、経験や知識をもとにするのではなく、「この文化に理解があり、共感してくれる」人が取締役を務めたほうがいいということになりました。
立候補しなくても「実はあなたも取締役なんです」
編集部
そうした意味では、今後はサイボウズ社員なら全員が取締役になれる可能性があるということですよね。
ツイッターでは「若手の士気を高めるためでは?」「採用面でのアピールでは?」などと推測されていますが。
ツイッターでは「若手の士気を高めるためでは?」「採用面でのアピールでは?」などと推測されていますが。
山田
たしかに、職務経歴書に「東証一部上場企業の取締役を経験し……」と書けたら強いですよね。
山田
でも本質的には違うんです。
サイボウズの新しい取締役は権限を行使する必要がないことが前提です。「責任を持たない取締役」だから、職務経歴書に書いても他社からは評価されないと思います。
サイボウズの新しい取締役は権限を行使する必要がないことが前提です。「責任を持たない取締役」だから、職務経歴書に書いても他社からは評価されないと思います。
編集部
どういうことでしょうか。
山田
サイボウズとしての意思決定は、全員が参加できるオープンな場で議論を行い、最終的に社長の青野さんや本部長・部長のラインで決めます。これは今後も変わりません。
取締役は、問題がないことを確認した上で、手続き的な場面で承認するだけです。
取締役は、問題がないことを確認した上で、手続き的な場面で承認するだけです。
編集部
とはいえ、取締役として選任された時点で、法律上は「権限を持っている人」になってしまうのでは?
山田
その通りです。ここ、ややこしい部分だと思うので詳しく説明しますね。
取締役は、会社に対して善管注意義務を負っています。それに違反して株価が下がったり、何らかの重大事故が起きたりしたときに、株主代表訴訟などの対象となる責任を負っています。
法律上は「権限を持っている人」なので、こればかりは仕方がありません。より正確にいうと、「権限を持たない取締役」は「権限行使の必要がない取締役」ということです。
でも、先ほどお話したように、社内的には取締役だからといって特別な権限があるわけではありません。だから取締役としての報酬もないのです。
取締役は、会社に対して善管注意義務を負っています。それに違反して株価が下がったり、何らかの重大事故が起きたりしたときに、株主代表訴訟などの対象となる責任を負っています。
法律上は「権限を持っている人」なので、こればかりは仕方がありません。より正確にいうと、「権限を持たない取締役」は「権限行使の必要がない取締役」ということです。
でも、先ほどお話したように、社内的には取締役だからといって特別な権限があるわけではありません。だから取締役としての報酬もないのです。
編集部
法律に則った存在でありつつ、実際には「取締役だけど経営はしない」ということですね。でもそうなると、会社としてのメリットはあるんですか?
山田
理想に共感する人なら誰でも取締役になれるということは、いつでも引き継げるということ。まさに「全員取締役」ですよね。
誰もが立候補できる前提には、全員が意思決定のプロセスを主体的に見ていることがあります。
今回、取締役にならなかった人たちにも、「実はあなたも取締役なんです」と伝えていける。これがいちばんのメリットだと思います。
誰もが立候補できる前提には、全員が意思決定のプロセスを主体的に見ていることがあります。
今回、取締役にならなかった人たちにも、「実はあなたも取締役なんです」と伝えていける。これがいちばんのメリットだと思います。
取締役候補16名と山田で行ったZoom会議の模様
編集部
取締役は特別な存在ではないのだというメッセージですね。
山田
はい。世の中の多くの企業では、取締役は「出世競争に勝った人に与えられる地位」であり、ヒエラルキーの頂点にあるという感覚かもしれません。
全員取締役という考え方は、そのカウンターでもあるんです。
全員取締役という考え方は、そのカウンターでもあるんです。
編集部
「こうした思いきった取り組みは、サイボウズだからできるんでしょ?」という声もあります。
山田
僕は、ほかの会社でも不可能ではないと思います。公明正大に取締役会をオープンにできれば、全員が意思決定のプロセスを主体的に見るようになっていくのではないでしょうか。
そうなれば、ほぼ「全員取締役」に近い状態ですよね。
そうなれば、ほぼ「全員取締役」に近い状態ですよね。
「1年間、サイボウズの社外取締役になれますよ」と募集するアイデアも
編集部
今回の最終候補者が株主総会で承認されれば、取締役が17人という体制になります。一方で社外取締役は1人も置いていませんが、問題はないんですか?
山田
社外取締役を置かない理由は明確です。
ガバナンスという意味では、先ほど説明したようにサイボウズの意思決定プロセスは、社員全員が見ています。悪いことをしようと思ってもできない環境です。
また、社外の人の知見がほしいなら、お金を払って教えていただけばいいだけの話です。
ガバナンスという意味では、先ほど説明したようにサイボウズの意思決定プロセスは、社員全員が見ています。悪いことをしようと思ってもできない環境です。
また、社外の人の知見がほしいなら、お金を払って教えていただけばいいだけの話です。
編集部
とはいえ2021年からは、改正会社法によって上場企業は社外取締役の設置が義務化されます。
山田
僕たちは従来の意味での取締役をなくす方向なので、世の中の社外取締役を充実させる流れとは逆なのですが、もちろん法令は遵守しなければいけません。
1つのアイデアとしては「社外取締役インターン」ですね。
1つのアイデアとしては「社外取締役インターン」ですね。
編集部
インターン?
山田
はい。これはあくまでもアイデア段階ですが、「1年間、サイボウズの社外取締役になれますよ」とインターン的に募集し、理想に共感してくれる人を求めていくのはどうでしょうか。
株主総会ではその人に「サイボウズ社外取締役として学んだこと」を発表してもらうのもいいですよね。
株主総会ではその人に「サイボウズ社外取締役として学んだこと」を発表してもらうのもいいですよね。
編集部
株主の方々の理解は得られるでしょうか?
山田
僕たちは目指したい姿があって、そのために全員取締役を実現しようとしている。その会社の株主でいるかどうかは、あくまでも株主が決めることです。
もちろん、株主のみなさんにも理解してほしいし、サイボウズが作ろうとしている世界観に共感してほしいと思っています。
もちろん、株主のみなさんにも理解してほしいし、サイボウズが作ろうとしている世界観に共感してほしいと思っています。
「取締役なのに」「取締役のくせに」と言われない世の中になる
編集部
「全員取締役の会社」が実現すると、サイボウズはどんな組織になるのでしょうか。
山田
いずれは本当に、全員が「取締役経験あり」になるかもしれません。取締役になったことのない人のほうがめずらしくなるかも。
「え、君はまだ取締役になってないの? 私なんて3回目やで」みたいな。
もちろん、形として取締役になるかどうかは自由に決めてもらえばいいと思います。会社との距離感も人それぞれなので。
「え、君はまだ取締役になってないの? 私なんて3回目やで」みたいな。
もちろん、形として取締役になるかどうかは自由に決めてもらえばいいと思います。会社との距離感も人それぞれなので。
編集部
ちなみに、理さん自身が取締役として「つらかったこと」って何ですか?
山田
一番しんどいと思うのは、「上場企業の取締役副社長」としてキラキラしたイメージで見られてしまうことですね。
山田
僕って、社内ではみんなに結構厳しいことばかり言われているじゃないですか。だけど社外から見たイメージは違うみたいです。何かあれば「取締役なのに」「取締役のくせに」と言われてしまう危険性もあります。
編集部
それはたしかにしんどいですね……。
山田
でもこれは、僕自身が従来の取締役としての枠の中にいたからなんですよね。
全員取締役を目指す僕たちの真意が世の中へ伝わっていけば、「取締役なのに」と言われることはなくなると思います。
これからのサイボウズの取締役にはリスクはほとんどないので、「おもしろいやん!」と思って挑戦する人が増えてくれたらうれしいです。
全員取締役を目指す僕たちの真意が世の中へ伝わっていけば、「取締役なのに」と言われることはなくなると思います。
これからのサイボウズの取締役にはリスクはほとんどないので、「おもしろいやん!」と思って挑戦する人が増えてくれたらうれしいです。
編集部
理さん自身は取締役に立候補していませんが、今後はどんな立場になるんですか?
山田
取締役ではない、単なる副社長になる予定です*。
幸福の福をあてて「福社長」を名乗ってもいいかもしれませんね。全部ひらがなで「ふくしゃちょう」でもいいかな。
それくらい、今の立場にこだわりはないです。
みんなが理想に共感し、取締役としての意識を持った組織を作ろうとしているのに、僕が「副社長」や「取締役」にしがみついていてもしょうがないですから。
幸福の福をあてて「福社長」を名乗ってもいいかもしれませんね。全部ひらがなで「ふくしゃちょう」でもいいかな。
それくらい、今の立場にこだわりはないです。
みんなが理想に共感し、取締役としての意識を持った組織を作ろうとしているのに、僕が「副社長」や「取締役」にしがみついていてもしょうがないですから。
企画:サイボウズ式編集部/執筆:多田慎介/アイキャッチ:高橋 団
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執筆

ライター
多田 慎介
1983年、石川県金沢市生まれ。求人広告代理店、編集プロダクションを経て2015年よりフリーランス。個人の働き方やキャリア形成、教育、企業の採用コンテンツなど、いろいろなテーマで執筆中。
撮影・イラスト

編集部
高橋団
2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。