小林 義男
(理研・岩崎先端中間子研究室)
2007年10月14~19日にわたって、インド・カンプール(Kanpur)にあるインド工科大学(Indian Institute of Technology; IIT)でメスバウアー分光の応用に関する国際会議(ICAME)が開催された。Kanpurは、首都デリーの東450 kmに位置し、ウッタル・プラデーシュ州最大の都市(インド国内でも8番目)で、市の北東には有名なガンジス川(Ganga River)が流れている。Kanpurの空港は便利が良くないため、デリーから国内線に乗り継ぎラクノウ(Lucknow)を経由するかまたはデリーから鉄道で直接入るというのが一般的なルートのようである。学会会場のIIT-Kanpurは、街の中心から15 kmほど離れた郊外(そのため多くの参加者はホテルから毎日朝晩送迎バスに1時間揺られて会場と往復するはめになるのであるが)に広大な敷地にある。
14日の日曜日の夕刻からWelcome Receptionが行なわれ、ICAMEがいよいよ始まるのであるが、最近はそれ以前に「Tutorials」という若手研究者または学生対象とした著名な先生方の講義が行われるようになったので、正確には、朝から始まったということになるのだろう。レセプションでは、白く大きなテントの中で、お酒やインド料理を食しながら久しぶりに会った友人や外国人研究者らと楽しく語り合うことが出来た。
次の朝、「Inauguration」としてインド伝統的風習にのっとった開会式で実質的な会議が始まった。以下に、今回のプログラムの概要を記すと、Invited lecture 22件、Key Note lecture 1件、Public lecture 1件、Special lecture 1件、Oral presentation 56件、Poster presentation 283件であった。日本人参加者では、Invited lectureで山田康洋氏(東京理科大)“Reaction and deposition of laser-evaporated iron”、Oral presentationでは西田哲明氏(近畿大)“Mösbauer study of new Li ion cell containing LiFeVPOx glass as a cathode active material”、久冨木志郎氏(宇部高専)“Fe Mössbauer study of electric conducting barium vanadate glass”、吉田 豊氏(静岡理工科大)“Final lattice sites and charge states of 57Fe after diffusion processes at high temperature following GeV-implantation of 57Mn into Si” をそれぞれ講演した。これらの講演は、メスバウアー分光法が威力を発揮する反応生成物あるいは物質中の局所状態分析の応用研究であり、多くの聴衆の関心をひき質問も活発に出ていた。
今回のICAMEでは若い研究者がOral発表することが多く、若手の育成と研究の活性化を図ろうとする努力と裏方にも大勢の若い人材が積極的にサポートする姿が垣間見え、好ましい印象を受けた。個人的には、不安定核イオン注入を利用したメスバウアー分光のOral発表が増え、また私がポスター発表した57Mnビームを使った研究では大勢の研究者と議論することが出来たので大変有意義であったと感じている。
なお、次回のICAME09は、オーストリア・ウィーン(ウィーン工科大学)で2009年7月19~24日に開かれる予定である。今後、公式ホームページ http://icame2009.tuwien.ac.at に情報が掲載されるであろう。
さて、今回の会議開催期間中のもう一つの重要事項に、次々回2011年の開催地を決定することがあった。日本は前回Montpellier(2005)の時に開催地として立候補ことを踏まえて、KanpurではIBAME日本委員の吉田氏と西田氏が日本招致のプレゼンテーションを行なった。IBAME委員らによる質疑と投票により、ICAME2011が日本で開催することが正式に決定した。日本でICAMEを開催するのは1978年に京都での開催以来約30年振りである。これを機に、メスバウアー分光研究会が核となって日本国内の研究者を再結集してICAME11を成功させたいと心から願うとともに、メスバウアー分光法の幅広い応用性を国内外にアピールする絶好の機会と捉えたい。
図は、10月16日付けの新聞「The Times of India」の現地版のニュース記事で、ICAMEやメスバウアー分光の簡単な説明とその応用例(Mars Project)の話題が紹介されていた。
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