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学習会の要旨

◎2月16日(土) 学習会の要旨 

2019年3月会報井上先生1

日 時:2019年2月16日(土)13:00~15:00 
会 場:東京経済大学 5号館E102教室
テーマ:「立憲民主主義と安全保障―9条論議の欺瞞
     を断つ」
講 師:井上 達夫 先生
(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
出席者:276名(会員:男性188名、女性61名、
        非会員:男性17名、女性10名)


【講演要旨】

憲法哲学者と紹介されたが分野的には法哲学者で、今日の講演は、知人の天野氏から依頼された。
憲法と言うと難しく考えがちだが、詳細なレジュメを1頁から3頁に紹介し、参考文献も4頁に記載した。自著では「憲法の涙」が判り易いので参照されたい。付属資料は、具体的な憲法改正私案を4頁から6頁に掲載した。私案1は全体像を、私案2はその段階的実現方式を示す。
                                 2019年3月会報憲法1

憲法問題は、政治家や知識人達の発言が余りにもいい加減なので、危機感を持って象牙の塔を越えてmediaにも出て発言している。NHKの「チコちゃんに叱られる」に習ってみなさんに質問したい。資料にある憲法9条の条文を見てほしい。大事なのは第2項で、日本語で「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」とある。日本政府の公式英訳でも”land, sea and air forces as well as other war potential will never be maintained”とあり、一切の戦力の保有行使を禁止した。なのに世界有数の武装組織たる自衛隊が存在する。なんで? え、分からない? ボーと生きてんじゃないよ! なんて言わないけど(笑い)。

この憲法創設の際、吉田首相は自衛のための戦力も含め一切の戦力を放棄したと明言したが、2年後に朝鮮戦争が始まり、自衛隊が創設されて、吉田は「自衛隊は軍隊ではない」と言い換えた。
今の自衛隊は、年間予算5兆2千億円で、実力は世界8位、非核保有国で第2位の強力な軍隊である。さらに、日米安保の下で日本の防衛のために世界最強の米軍と共に戦う。これが、交戦権の行使でなくて何か。政治家、知識人は憲法と自衛隊・安保の矛盾を国民を騙して容認し、国民も問題を直視しない。軍事的衝突は偶発的事故で起きる。防衛出動命令が出れば自衛隊は軍隊として行動する。自衛隊は法的統制で縛られているから使えない軍隊だというのは嘘。9条があるために、交戦法規違反を裁く国内法を持てない。法的統制がないため、危なくて使えない軍隊なのだ。
2019年3月会報自衛隊32019年3月会報自衛隊42019年3月会報自衛隊2


 
原理的問題を考察する法哲学者の私が、9条や自衛隊に関して発言するのは、本来、法の支配や立憲主義を擁護すべき「護憲派」憲法学者や自称リベラル派知識人がすべてその責任を裏切っているからで、64歳で高血圧と心房細動を抱えながら、あえて火中の栗を拾う仕事をやらざるを得ない。

1. 立憲民主主義はリベラリズムの原理だが、それを自称リベラル派知識人が裏切っている。リベラリズムを自由主義と訳すのは誤訳で、リベラリズムの根本原理は自由ではなく正義である。

正義とは日本では、独善的で他者を裁きたがるサデイスト的イメージが強いが、真の正義即ちjusticeは、ライバルや敵を含む他者に対しても公正に振る舞うことで、普遍化不可能な差別の排除、反転可能性要請を意味し、キリスト教のゴールデン・ルール(Do to others as you would be done by)や、儒教のnegative versionたる「己の欲せざるところを他者に施すことなかれ」にも通じる。自分と宗教や人生観など視点を異にする他者を、フェアーに扱うことが正義である。 

憲法とは何か?成文硬性憲法の下で、何が正しい政策であるかに種々対立のある中で、フェアーなルールで政治的競争が裁断されてこそ、その決定が尊重される、そのルールこそが憲法である。
憲法で決めるものは、公正な政治的競争のルールに限定されるべきで、何が正しい政策か、争いのある具体的政策は通常の立法過程で決めるべきだが、問題は、政治家や知識人の多くが、その主張に合致する政策を普通の立法ではなく、憲法の中で固めたがることである。

安全保障に関して憲法で何を決めるべきか、何を決めてはいけないか? 非武装中立か、スイスのような武装中立か、自衛戦力を持つにしても、個別的自衛権に限定すべきか否か、集団的枠組みでの戦力行使を認めるとしても、国連主導の「集団的安全保障」体制への参加だけを認めるのか、米国などの主導する「集団的自衛権」体制への参加も可か、これらは何れも安全保障に関して正しい政策は何かという問題なので、憲法で固めてはならない。憲法で決めるべきは、どの安全保障政策を採るかに関わりなく、戦力の乱用を防ぐために、戦力の編成、組織、その行使の手続きを統制する戦力統制規範である。

文民統制、武力行使の国会事前承認手続、軍事司法システムは最小限必要な戦力統制規範だが、日本国憲法は、9条があるために戦力がない建前なので、こんな最小限の戦力統制規範すら定められない。首相は 文民という文民条項はあるが、文民統制規定は、文民である首相が軍隊の最高指揮命令権を持つと定めねばならず、9条2項で軍隊を持たないとする日本国憲法には記載出来るはずがない。同じ理由で戦力の行使の国会承認手続も憲法で規定できない。

戦力統制規範として徴兵制も必要だと私は考えている。専制国家で徴兵制は最悪だが、民主国家は徴兵制を敷くべきである。国民は等しく兵役を覚悟して、無責任な好戦感情に駆られることが抑止される。スイスは徴兵制、ドイツも2011年に徴兵制を停止したが、憲法上はいつでも再開できる。1913年に女性の普通選挙権をいち早く認めたノルウェーは最近女性にも徴兵制を拡大した。もちろん、良心的兵役拒否権も代替役務とセットで保障する必要がある。
2019年3月会報ベトナム戦争2019年3月会報イラク戦争2


米国ではベトナム戦争が泥沼化し、徴兵制で予備役にまわされていた多くの中産階級の子弟が戦地に送られるようになって反戦運動が国民的規模で起こり、戦争にブレーキがかかった。イラク戦争になると、文民政治家のラムズフェルド国防長官やチェイニー副大統領等が戦争を煽り、元参謀のパウエル国務長官等が反対した。徴兵制は既に無く、国民多数派はイケイケゴーゴーか無関心。民主国家で徴兵制を敷かないと、無責任な戦力行使が起こりやすい。

もう一つ重要なのは沖縄問題。人口が0.6%の沖縄に74%の米軍が集中している。これは戦略的必要性ではなく、政治的理由による。占領終結後、本土で米軍基地反対闘争が広がったが、沖縄だけが米軍施政下にあったので、基地が沖縄に集中した。私は、外国軍基地受け入れは、住民投票で決める憲法改正も提唱している。
                                     2019年3月会報自衛隊5

私の徴兵制論は未だ国民の理解を得られていないが、最低限の戦力統制規範として、文民統制、国会事前承認、軍事刑法、軍事司法システムは、世界8位の軍隊を持つ日本には必要不可欠。憲法9条2項は、護憲派も蹂躙している非武装中立という憲法で規定すべきではない安全保障政策を掲げる一方で、憲法で定めることが必須の最小限の戦力統制規範すら規定不可能にしている。戦力という最も危険な国家暴力の憲法的統制を不能にしているこの日本の現状は、立憲主義を破壊するものである。この現状を固持せよいいう「護憲派」は憲法破壊勢力である。


2. 今の憲法と自衛隊安保の現実の矛盾は、戦後70年間も放置されてきた。マッカーサーは戦後日本を統治したが、帰国後、「近代文明の尺度で測れば、欧米人が45歳の熟年であるに対して日本人は12歳の少年である」と発言した。これは日本人の文化的な精神年齢に関しては無礼千万だが、政治的年齢に関しては当たっており、現在まで70年間右左を問わずその状態が続いていると考えている。憲法と現実の矛盾が60年以上放置されてきたのはその結果である。

タカ派的旧改憲派の欺瞞は、押し付け憲法批判をしながら、第2次農地改革など、自分たちに都合のいい占領期改革や、軍事的対米従属構造は受け入れた。親(米国)に依存しながら自立の振りをする反抗期の子供である。その後の保守本流は、逆らえない「親」の命令を利用しようとした。日米安保で圧倒的に多くを負担するのは日本であり米国の負担は極めて小さい。日本は米軍在留経費の大半(いまや75%以上)を負担し、日本の防衛に関係のない米軍の世界戦略に必要不可欠の軍事基地を提供しながら、万一日本に危険が迫った場合、米軍に守ってもらえるかもしれない程度の期待しか無い。米国が無理を言うなら日米安保を見直しますよと物を言える大人の交渉力は保守政権には無い。それを埋め合わせる唯一の交渉手段は米国が押し付けた憲法の9条で、9条の為に出来ないと言うだけである。これは大人の交渉力の陶冶を阻んだ保守の「悲しい知恵」である。

安倍政権に至っては、従来の解釈改憲をさらに拡大し、集団的自衛権行使も一部容認し、安保法制も通した。大人の交渉力がないまま保守の悲しい知恵である9条カードまで捨てた。「親に褒められたがるお坊ちゃん」である。その根底には米国への見捨てられ不安がある。

トランプが世界の警察官を辞めると言い出して日本は心配するが、米国は今までも世界の警察官だったことはない。米国は自分の利益を守るために国際法を犯し、しかも日本の基地を使って数多くの侵略戦争を行ってきた。米国にとって、戦略拠点である日本は非常に便利で重要な存在である。

2000年代に入ってイラク戦争などで米国のソフトパワーは相当弱まったが、トランプになって米国のソフトパワーは完全に地に落ちた。そのため逆にハードパワーへの依存は強まっているが、安倍政権は僅かに残った9条カードによる対米交渉力も捨て、従属構造を益々深めている。安倍改憲案も、9条2項を残したまま自衛隊を明記するという自己矛盾で憲法を自殺させるものである。
2019年3月会報憲法9条1

護憲派の欺瞞は、まず「9条が戦後日本を平和にした」という嘘。「9条あるために戦後日本は侵略されなかった」も、「9条あるため他国を侵略しなかった」も共に嘘である。日本は米軍のベトナム戦争、イラク戦争など明らかな侵略戦争に軍事拠点の提供で加担しているが、日本人にはその自覚がない。「9条ある為に侵略されなかった」も嘘で、自衛隊と日米安保があったから侵略されなかったのである。国連での核兵器使用禁止条約批准促進決議に唯一の被爆国日本が反対したのは、まさに恥さらしである。オバマ大統領の核先制不使用宣言に反対したのも日本だった。

原理主義的護憲派は、専守防衛の自衛隊安保は違憲だが、政治的に存続OKという欺瞞。修正主義的護憲派は、専守防衛個別自衛権の枠なら自衛隊安保OK。自衛隊は戦力ではなく警察もどきの実力組織との詭弁を弄している。護憲派が日本を守る自衛戦力として自衛隊をまともに認知しないのは、いざとなったら米国が守ってくれるという米国信仰の甘えが彼らにもあるからだ。
木村草太君は、昔、自分の講義を聴いていた学生の一人だったが、憲法学者になってからの彼の憲法観は、話にならない暴説で、9条2項が一切の戦力を禁止していることを認めながら、13条の人権規定で戦力は持てると勝手に解釈している。これは9条の尊重どころか、完全な無視である。

3. 私の9条削除論の根本趣旨としては、既説の通り安全保障政策の基本方針は憲法で規定せず、民主的立法過程での討議に委ね、戦力乱用を抑止する為の戦力統制規範は憲法で規定する。

その実現戦略として、

A. 三段階戦略
1. 第1段階:9条削除+①最小限戦力統制規範(文民統制+国会事前承認+軍法会議)
2. 第2段階:②外国基地設置自治体の住民投票規定
3. 第3段階:③徴兵制と良心的兵役拒否権(重い代替役務が条件)

B. 代替的選択肢の比較評価
1. 最善(9条削除論):9条削除+条件付制約としての最大限戦力統制憲法規定
2. 次善(護憲的改憲、山尾志桜里の立憲的改憲):専守防衛明記+戦力統制憲法規定
3. 三善(保守的改憲):集団的自衛権明認改憲+最小限戦力統制憲法規定
4. 現状固守(護憲派):解釈改憲による9条死文化+戦力統制憲法規定不在
5. 現状改悪(安倍改憲案):憲法の自殺+「可決されても地獄、否決されても地獄」の罠

4. まとめ

① 「護憲派」は憲法破壊勢力である。
② 「護憲派」は反リベラルである。
③ 「護憲派」は安倍政権の共犯者である。
④ 右も左も平和ボケである。


【質疑応答】

問1. 徴兵制は民主主義の基本で同感だが、今や国民一人一人が命をかけて国を護るのではなく、専門的なロボットが特殊技術で国を護る時代だと思う。憲法はそれをどこまでカバーできるか?
答1. 手塚漫画がお好きなようだ。徴兵制は軍事技術として必要か否かの問題ではない。軍事力の無責任な行使を国民が監視する責任感を持てるようにする政治制度の問題である。

問2. 安倍改憲案に賛成するか、反対するか二者択一だが?
答2. その二者択一は既定条件ではない。対抗的な改憲案を出して超党派で論議を進めるのが待ったなしだ。さらに、正規の憲法改正国民投票では、国会の改憲発議案に国民はYesかNoで答えるが、国民投票法の平成26年附則は、諮問型国民投票の検討導入を国に義務付けている。どのような問題が憲法改正の対象になり、どのような選択肢がありうるかについて国民に諮問できる。これを右も左も意図的に潰しており、国民がコケにされている。必要なのは有権者が目覚め、それにつれて政治家も変わることだ。自民党支持は30%だが、最大の勢力は40%の無党派で、それが動けば政治が大きく変わる。今の一強多弱ではダメだが、無力感を捨てて欲しい。
                                                       (文責:天野 肇)

               2019年3月会報井上先生風景1
             
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