英国でワクチン接種者の追跡調査 感染収束に光明

日経サイエンス

日経サイエンス

国内で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種を受けた人は3月19日時点で55万人(うち2回接種は2.5万人)となり、感染者数の45万人を上回った。行動変容だけで流行を制御することは難しく、ワクチンへの期待は一段と高まっている。英国で行われた2万3000人の接種者の追跡調査からは、ワクチンが流行を抑える可能性について前向きな結果が得られた。

国内にもワクチンが供給され、接種が始まった(ファイザー提供)

調べたのは、米ファイザーと独ビオンテックが開発したワクチン「コミナティ」。治験で90%以上の高い発症予防効果が確認されている。ワクチンを接種したグループでは、接種していないグループに比べて、新型コロナを発症した人が90%減った。

だがワクチンが感染そのものを防ぐかどうかは、治験では明らかではなかった。ワクチンが感染そのものを防いだのか、それとも感染者は両グループで同じくらい生じたがワクチンのおかげで発症しない人が増えたのかがわからないためだ。発症を防げれば、接種した本人は守られる。だが感染そのものを防げなければ、流行を収束させるのは難しい。感染したが発症せず、感染に気付かない人が出歩いて、感染を広げてしまうからだ。

そもそも、ワクチンが感染を防ぐ効果を直接人で調べることは難しい。厳密には、接種した全員に毎日絶え間なく感染の有無を調べる試験が必要になってしまうためだ。

英国の研究チームは調査方法を工夫し、ワクチンの先行接種を受けた医療関係者2万3000人について、接種前と接種後の両方の時期に、隔週でPCR検査を実施して陽性者の人数を比べた。PCR検査なら、感染したが発症していない無症候の感染者も拾い上げることができる。厳密に言えばこの調査では、検査を行っていない日に感染したケースはわからない。それでも複数回のPCR検査を行うことで、感染予防に近いワクチンの効果を見ることができる。

調査の結果、PCR検査で陽性になった人は、1回接種から21日経過した段階では70%、2回接種から7日後の段階では85%減った。治験で得られた数値に近い値で、ワクチンに感染そのものを防ぐ効果があることを示唆する数値だ。接種によって感染者が減るのであれば感染の伝播に対してもブレーキがかかると予想され、流行を抑える効果が期待できる。

ただしワクチンによる免疫が短期間で消失してしまう可能性や、ワクチンが効かない変異ウイルスが広がる可能性もあるので、必ずしも将来は見通せない。しかし感染を抑えることが変異ウイルスの発生を防ぐことは間違いない。今は速やかに接種を進めながら、今後も国内外から出てくるワクチンに関する様々な報告について、その都度冷静に対処していくことが最善の方法だ。

(詳細は3月25日発売の日経サイエンス5月号に掲載)

  • 発行: 日経サイエンス
  • 価格 : 1,466円(税込み)

この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon

春割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり