#6 投票
投票に移る。
投票後しばらくは、黒板前が開票作業で忙しい。書記がせっせと用紙に目を通し、左手のカウンターを忙しなく刻む。書記さん、用意がいいぞ!心の中で声援を。ん? 別に四十人ちょっとしかいないんだし、それ、必要か? まあいい、そんで最終的に総計が間違ってないか、右人差し指で数え始めた。人数は事前に確認しとかんかい! おい、用意が悪いぞ! 心の中で叫ぶ。
対して、学級長は目と記憶力で数えてるらしい。目が鋭い分、ちょっと怖い。書記に人数を伝え、互いの数が一致するか確認。遠目で見てると、姉妹みたいだ。もちろん、書記が妹さんね。
黒板前の収納から、赤いチョークを取り出すと、八つの案の下に数字を書き込んでいく。0、0、1、2、3、4,なるほど、少ない順でか。そして最後は偶然、隣り合った案が残る。本命の映画製作とアンケート調査だった。
緊張の瞬間。
アンケート調査 十五票
映画製作 十六票
投票の結果、僅差で映画製作が採用されたのだった。いやー、綺麗に割れたな、これ接戦。
「いやぁ、驚きだぜぇ。うちのクラスは怠惰な人間ばっかだと思ってたのによぉ」
「怠惰な人間? なんだ? お前とか、お前とか、それともお前とかか?」
「その中だと、お前だなぁ。いやぁ、ジュース奢りか。まぁ、腕一本くらい、くれてやるよ」
「二本だな、お前が無駄にダブルダウンしたから」
ドンマイ、安田。あと腕はいらない。
「じゃ、バストアウトで」
そう宣言して、賭けの結果を固定した。
ってな感じで、映画製作に決定したのだが、その時はそれもアリだな、なんて思った。立案者である監督の山崎の指示を聞きながら、休み時間に安田にジュースを奢らせ、んで演技をするであろう七咲に茶々をいれつつ、俺自身は脇で映画の小道具でも作る。
有か無しかで言えば、そんなのアリに決まってる。
だがしかし、
自分が登場人物、それも主演に抜擢されるとなれば、話は大きく違ってくる。俺が主役、その事実を事前に知っていれば、満場一致でアンケートになるような裏工作を仕掛けたに違いない。…………ん? まてよ。だが、そうすると、俺が主役であるという現時点での事実が上書きされ、修正後の未来では過去の自分に警告できなくなるな。
タイムパラドックスだ!
劇で言ってたアレだな。
だから、とにかく、あと一票、アンケートに入れなかった誰かを憎んだって話だ。まぁ、映画製作の方がましだと思ったんで、その一票を入れなかったのも俺なんだが。…………過去の自分を呪った。
ん? まてよ。
自分が呪いで投票出来なければ、主役に抜擢される未来が塗り替えられて…………、
これ以上はよしとこう。小難しい話は嫌いだ。
俺は本意じゃなかったんだよ。
じゃあ、なんで主人公に抜擢されてしまったかって? 今からその、あらましを語ろうじゃないか。役にはそれぞれ名前が付けられていたが、内容に大幅な変更があったんで、意味が無くなった。ので、ここでは省略させてもらう。
そもそも、いちいち名前とか憶えてるタイプではないし。
人の記憶なんてそんなもんさ。
こっちの話にもお幅に変更を加えようと思う。