#8、登校編終了
安田との出会いが書かれる。
[平凡な朝の終わり]
裏門から左へ続く、グラベルを進む。ほら、例のダートだ。
あと後ろから、錆び切ったチェーンが回る音が。
「お~い、紙川!」
っと、人の名前を小馬鹿にしたような強勢の付け方で、名前を呼ぶ声が聞こえる。無性に腹が立ったんで無視。俺、学校に行く羽目になった、成り行きを思い出してる内に、いつの間にか学校周辺まで来ていたのだ。駐輪場を過ぎる。
「無視すんじゃねぇぞぉ~、!紙川、おまっ、聞こえてんだろぉ!お゛~い゛!」
その声を主は異音交じりのスキール音や砂埃と共に、駐輪場へフェードアウト。そんなブレーキの踏み方してたら何時かコケるぞ。
「のわーー!!」
言わんこっちゃない。騒がしい奴め。ガラクタが崩れるような金属音がした。
砂に車輪を取られたな。
「なに!?鍵が抜けないぞ!さっきので曲がったか、この、ポンコツ!」
そんなのを尻目、殺人階段にアタックをかける。この階段、急すぎて何時か死人が出るんじゃないか。まったく、高校くらいは卒業したいものだぜ。
「ねぇ、呼んでたよ。行かなくていいのかい? 紙川君」
「大丈夫っすよ。大丈夫です。あいつ、安田なんで」
「いや、答えになってないと思うけど」
「直に分かります」
ろくでもない奴なんで。
「ふ~ん。でも友達なんでしょ? 友達は大切にしなよ。いつ何時、居なくなるか、分からないからね」
そうか、詩丘さん、転校生だからな。つまり友達を地元に置いてきたのか、………………思い出しちゃっただろうか? ならこの話題は打ち止めに。代わりに、台本の出来について聞いておくか。学級長が頼んでから一週間ちょい。果たして進捗はいかがなものか。
「詩丘さん、そういえば、映画の台本、どうなってます?」
映画は四十分の短編の予定。それでも台本や資料設定は膨大になるが。一週間なら五分の一程度かな。
「んぁあ、あれか。少ない予算や変えられないキャスティング、短い製作期間とか、いろんな制約があったけど、その分。工夫し甲斐があったよ」
「それで、進捗の方は」
「………………ん? 進捗? あ、そっか。えっと、完成!」
「早っ」
もう出来てたの!?
んん、待てよ。それさ、台本制作ってさ、一週間で終わる量なのか?だって、四十分だぞ。すげぇ、ななななんて作業効率。
「今年も読書感想文を、最後まで放置しそうな俺にとっては、筆が早いの羨ましいかぎりです」
読書感想文。
読書感想文か。時間を掛ければ、いつか最後のページにたどり着く、問題集とは違い、逆に時間を掛けるほど、沼に嵌っていく、人生な課題。苦手なんだよな。ゲームでも終わりがないのが終わり、みたいなの合わないし。それとはまた、違うか。
いっそ、代筆してもらおうか。ヘヘヘヘ。
「俺の読書感想文、書いてみませんか? もちろんコッチは弾みますんで」
駄目もとで、小物な感じで聞いてみる。
「それって、代筆かい? 駄目に決まってるだろ。大体バレたら私はどうなるんだ? 自分の利益ならず、相手の利益、果ては敵の利益まで考えないとね。そうでもないと、物語の主人公には、成れないぜ」
どうやら説教されてしまったらしい。主人公は、今のところ目指してないかな。でもさ、説教されて悪い気もしない。むしろってかんじだ。
「さーせん。確かに、反省してます」
じゃあ、どうしよう。スー――、、、そうだな。
「そういえば、映画のオチ、教えてくださいよ。ほら、今回の」
「どうせ君は主役じゃないか。自分の目で確かめなよ」
「そこをどうにか、ね、ほら」
インスタントに聞きたい。
「まぁ、ジャンルくらいなら。————————————ミステリ。私、推理小説、好きだからね」
「へー、ミステリ、言ってましたっけ。初めてあった時、そんなこと」
「うん、探偵とか、憧れるかな」
「じゃあ、夢は探偵とか」
ちょっと茶化して聞いてみる。クソガキとか思われただろうか? 説教、こい。
「いや、飽くまで ”小説 ”としての、だけどね。 ”現実 ”には何も期待してないよ。…………………… ”現実 ”には、何もね」
「詩丘さん、なんか、嫌なことでもありました?」
結局オチを聞き出すことには失敗した。まあいいさ、なら確かめに行くのみ。
階段を登り切り、さらには校舎に沿って右へグルっと回る。途中、桜の木が迎えてくれ、葉桜の緑は体感温度をマイナスしてくれた。
玄関に到着。
確かここら辺だったかね、詩丘さんとのファーストコンタクトは。
見上げると、玄関左手の壁面に填め込まれた校章がピカっと煌めく。西の文字を中心に長方形が翼の如く生えている。俺はこのデザイン、結構好きだったり。
紹介しよう。
ここは、我が校。
恵那市立恵那西高校。
通称、西高だ。
これにて登校編終了。いよいよ映画製作の準備フェーズへ。