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紙川涼は探偵じゃない〈物語の限界・不可能推理〉~罪のアントは罰である、何故なら罪とは罰されない事であるから、ならば俺が罰することは罪なのだろうか?~ 現世ッ、推理無双!! 作者:高黄 森哉
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#9、スーパーアホな会話

安田のチュートリアル、このキャラに馴染めないとこの先きついかもしれない。


 [非・劇的な日常の始まり]



 下駄箱で靴を脱ぐ。そして、忘れずに持ってきた校内用クロックスをカバンから引っ張り出して、いい加減に床へ投げ捨てた。左側の方が横向きに立ったので、今日は縁起が悪いな、と何の根拠も無く思ったりしながら、左足で倒すとなんだか無作法な感じがした。

 一方、詩丘さんは来客用スリッパを使うことにしたらしい。脱いだ靴は、来賓用の下駄箱の上で几帳面に揃え奉られている。俺とはエライ違いだ。人間性はこういうとこに出んだよな。そして、こっちへ、


「紙川君、ごめんだけど、実は今日だけ、ちょっと用事があるから。撮影見に行けないんだ。また今度、お邪魔するよ」


 別に居なくても進むし、全然かまわないが。詩丘さんは来たい時に来ればいいさ。


「そうですか、残念です。じゃ、皆に伝えておきますね」

「うん、何か不備があったら図書館に来てよ。多分だけど、午前中はそこにいるから」

「オッケーです。図書館、図書館、図書館、ん。覚えました」


 図書館に用事、といったら引っ越しに関連した手続きだろう。そういや、一年前やったな。図書カードを発行しに図書館いったっけ。何度も何度も司書さんから催促が来てね。それ以来、ご無沙汰しているが。懐かしい。


「あとこれ、台本だから配っといて。頼んだよ」

「うっす、頼まれました」

「じゃあね」


そう言い、詩丘さんは図書館へと歩き出す。俺の教室は反対方向にあるので、ここでお別れ。

 じゃあ、行くか。



「………………………………おい、待てよ」


 後ろから呼び掛けられ振り返る。振り返ると奴がいた。


「俺を忘れてるぞ、…………ハァハァ、…………ってか、なんで、さっき、無ハァー視したんだよぉ。スーッ、まったくよぉ、つれねぇなぁ。…………ハァー」

「お前が変な呼び方するから悪いんだろ」


 安田が追いついた。駐輪場からここまで走ってきたのだろう。息が上がっている。ハァハァと口から放熱していて、まるで犬みたいだ。…………いや、そこまで辛辣に評価しなくてもいいか。別に私怨は、あんまりない。


「それにさ、朝からお前の昆虫トークを聞かされたら、気が滅入るだろ。それが原因で登校拒否になったらどうするんだ」

「んなことで、登校拒否になってたまるか」


 どうだろう、コイツの虫・豆知識は嫌になるほど、現実的な質感を帯びているから、完全にないかと言われると、微妙な線だ。何時だったか、俺がシチューを食ってる時、蛾の蛹、その中身について饒舌に説明されて、盛大に吐いた事がある。その後、クラスのみんなは俺を庇ってくれ、約一週間も生暖かい精神的介抱を受けたのだ。いいか、俺は優しくされるのが嫌いなんだよ。


「シチューの前科があるからな、お前」

「あれは似てるから、しょうがないだろぉ。吐くなんて予想できねぇしよ。…………そもそも昆虫の血は白色で」

「止めろ、止めてくれ。朝ご飯が逆流しそうだ」


 トラウマスイッチ。その話はドクターストップな。


「じゃあよお、本題に入るぜ」

「あ? なんだよ」

「————————————さっきの娘、彼女?」


 まるでその確認が深刻なことかのように、三拍溜めて聞いてくる。ほら、あれだ、典型的なうざいノリだ。


「いや、ちげーよ。彼女じゃないから。あの人は詩丘さん。多分、転校生」

「うぉ、転校生くんのかよ。うひょー、スクープだぜぇ」


 む、釘を刺しとくか。


「あんま、広げんなよ。夏休み明けてから、学校に来づらくなるだろうし。それこそ登校拒否とかあり得るぜ」

「もちぃ、分かってら。んで? 結局、どうゆうカンケ?」

「前に学校案内してからの知り合いだ。だからお前の想像してるカンケーじゃねぇよ」

「なるほどなぁ。俺はてっきり知り合いだとばかり、想像してたが。そうか、お前も軟派な男だぜ」

「ん? お前。俺の話聞いてたか?」


 てかねぇよって。


「つまり転校生に最速でお近づきに!………………なかなか、やるじゃないか」


 人の話を聞け!


「おい!だから、チゲ―っつうの。お・れ・の・は・な・し・聞いてたか?」

「あぁ、聞いてたぜ。知り合いじゃなくて、それ以上なんだろ」

「知・り・合・い・っつてんだろ。それ以下だ。耳にカタツムリ詰まってんじゃねぇの。ダヴィンチで取てもらえよ」


 ついでに脳みそを全摘されちまえ。


「そうかそうか、カタツムリ。カタツムリの中身はだなぁ」

「や・め・ろ。それを止めろ」


 どうしてこう、そう言う話に持っていくのか? 胃酸の酸味が口の中にほのかに広がり、喉の神経をピリリと刺激した。


「っち、なんだよぉ。つれねぇーー。つまりこうだろ。詩丘さんとは表面の関係なんだよな、………………なあ、俺たち、ダチだよなぁ?」


 表面だけの関係ってなんだよ。スッゾ、てめえ。


「なんの確認だよ。それにだぞ、仮に詩丘さんとどんな関係を結ぼうと、究極、お前には関係ない」


 そしてのち、謎のマ、が生まれた。


「………………ということは、やっぱり」

「何がやっぱりだ。お前、今日から知り合いに格下げな!」

「ぁあ~、やっぱり、そうだったかぁ~」

「その地持ち悪いノリを今すぐにやめろ。分かった、さっきは無視して悪かった。よし、これでいいだろ」

「もう一声!」

「ジュース、ちゃら」

「わかりゃ、良いってもんよぉ。それはともかく、詩丘さんっていうのか。結構、可愛かったな~。しなやかそうな手足が、顎肢から曳航肢をなぞる線、艶やかなCラインを描いてる!ちなみにだがな、顎肢ってのは、顎って付いてるがホントは違くて」


 俺は言葉を遮ることにした。蟲の話題は注文でない。


「確かに詩丘さんはスレンダーな体形をしてるが、百足を連想したことは一度もない!一度もだ!百足はお前だよ、…………百、悪し、ってな。詩丘さんに謝れ」

「テステステス、詩丘さん。聞こえてまスかぁ。では、小生ぇ、これより謝罪しまーす」


 嫌な予感しかしない。


「ご、めんガタスズメ」


 そう言うと、安田は素早く頭の上でトサカ状に左手を立てた。

 死ね。

 無視だ、無視。


主人公は人によって口調を変えるタイプだということを先に言っておく。

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