#17、Death from above.
山崎とマネキンを運び出す。
紙川は被覆室に着くなり、ドアノブの鍵穴に鍵を差し込んで、クルッと回すという、おおよそ原始人でもない限り、叙述不要な操作をする(いや、どうだろうね)。ガチャガチャと操作して、扉を奥へ開いた。不要と言えば、ドアノブが成したオノマトペをそうじゃないか(いや、どうだろうね)。やがてこの視点も薄れていく。この世界では異物なのだから。だが心の声として、存在させてもらおう。
部屋の中は衣服を扱う教室らしく、埃っぽい。あとさ、柔軟剤とか、他にもお日様の匂いがする。懐かしいけど、口にするほどではない。
「紙川、このマネキンなんてどーだ?年季が入ってて、渋みがある。いい出汁が取れるぜ。それにこの顔を見ろ。こいつはうまいぞ」
マネキンと馴れ馴れしく肩を組むのだが、あっそう、としか思えない。唯一の感想は、コイツ一生、こういうノリで生きていくんだろうな、だった。
「なんでもいいけどさ、それ、関節付きじゃないから却下な。こっちにしようぜ」
俺もさっきの山崎みたいに、肩を組んだ。向き合った二人組、まるで社交ダンス。いやそんなメルヘンじゃなくて奇怪な呪術の下準備かね。
「おいおいおいおい、紙川さんよおー。性別が頼まれたのと違うじゃありませんか」
「服、着せれば何とかなんだろ。ほら、これ、のっぺらぼうタイプだし」
妥協もある程度は必要だ。妥協以前に間接付きはこれしかないのでね。
「運ぼうぜ。俺は足持つから、山崎、頭を頼んだ」
「そうすりゃあ、階段降りる時、パンツ見えるってか?」
「ねえよ、お前の脳みそは桃色かっ! 頭蓋骨から漏れ出してんぞ」
「桃色? 手前が言いますか、この破廉恥目」
「別に俺は桃色だが。生憎、ネクローシスは起こしてないんでな。そもそもだな、そう言うお前だって、股間に頭当たってんぞ」
なんならな。山崎の担当は頭なのだ。
「当ててるからセーフだ」
「なおさら、アウトだろ」
そんな風に危ない軽口を叩きつつ、マネキンを運び出す。————————————運び出す姿も、遠目で見れば、死体隠蔽に精を出す二人組みたいで、危ない。極めつけにこのマネキン、男性モデルである。危ない。
廊下を歩いて右に出る。意識を失った怪我人を扱うように、そして壊さないように、慎重に。………………意外に疲れるな、これ。間接付きだからか? 舞台は数学教室なので、例の階段を下りる必要があった。
「階段には気をつけろ。万が一、動かなくなっちまったら、モノ本のミステリィが始まっちまうからよお」
そんなこと言われてもな。いや、待てよ。
「もしそうなったら、保健室に速攻連れてけ。………………隠蔽しようとすな、隠蔽を」
「違うチガウ、誤解だ。仮に死んでるのが分かったら、の話だぜ」
「仮にそうだとしても、生き返るかもしれないから連れてけって。それか自首しろ。————————————そう言うお前も気をつけろな。落ちてきたら俺、潰れちまうから」
「そんなに太ってないわい」
「……………………………」
まあ、動けるデブみたいな体形だからな。それでも九十キロは、あるだろ。
「なあ、そう言えばカミィ~」
「それ、…………俺か?」
「嗚呼、そうだぜ。——————もしさ、明日死ぬとしたら、おま、どうする?」
山崎のキャラが、安田と被ってないか心配だ。被ってると感じたらコメントが欲しい。ないなら、このまま続ける。