#3 登校
世界観説明。学校の立地。そして、文化祭の存在。
場面は変わって初夏の坂道、忘れてるかもだが、さっきの続き。
「高校生なんて、大人みたいなもんですよ」
「そうだよね、大人だよね。うんうん」
うんうん頷く。なんだ、この人の年上感。もしかして、俺、子供扱いされてる?
そんな詩丘さん、結構ラフな格好をしていた。高校生の割に背が低いからか、ぶかぶかな白い私服。小脇に抱えた何とかバック。そして、バックの中からカサカサと音が聞こえる。その音、気になるんですが。ほんとになんだろ。なんかこう、硬質な、ビニール?
それにしても私服ねぇ。
春先に起きた反体制デモを思い出すぜ。『学生服は軍服の流れを汲むのでドウノコウノ』のビラを廊下や掲示板へ滅茶苦茶に貼りまくる謎集団、
と、と言うことは、新学期には詩丘さんの制服姿が拝めるの!? 俺!
うう、想像できん。…………そうじゃ無いのを見慣れてるからか、その、私服をさ。それとも制服は柄じゃないってか、そんな感じがする。それほどに、————————————それほどまでに、私服姿はキマッていた。うぬうぬ、そうだな、多分そのせいだ。だがこちらの、やはり学校指定でない黒い靴は、白い服に浮いていたので妙に気になった。ミスマッチ、当分忘れそうにない。いやはや、服でこんなにトキメクなんて、俺、変態かもしれん。
汗が顎の輪郭をくすぐり、ポツッと地面に落ち、シミを作ったことだろう。未確認だが。
にしてもこの暑さ。
「あつぃ~、あつぃいよ。紙川君、モノレール引いてよぉ」
「激熱っすね、今日。そうだ後ろ見てみてください」
二人して後ろを振り返る。すると、道に沿って割れる木々の隙間、冬になれば一枚岩のように硬質である頂上、————————————ん、今は青々としているが、山々が見えるだろう。なだらかに広がる麓を持つ山脈群、そう日本アルプスだ! 日本アルプスの麓で、さらに盆地になってる地形はフェーン現象を引き起こしやすく、この地域の夏を厳しいものにしているらしい。そんな夏の中でも、今日は一番の暑さになる予定であった。
というのも、朝、ご飯を食べながら見るお天気コーナーで着ぐるみを着たお姉さんがそう説明していたのだ。今日はペンギンだった、日に日にファンになっている自分がいた。
カッターが肌にへばり付く、のは良い、良いが、風が吹くと気化熱で不快なほど冷えるのは勘弁してくれ。あと欲を言うなら、もっと継続的に涼を取りたい。どこかに涼める場所はないか。
「涼を取れる場所、ありませんかね」
「…………それは、君の方が知ってるんじゃないかい?」
フフ、確かに。その言葉にピンときた。
「ま、自分のことっすからね」
「ん?どういうことだ?」
あれ、って、あそっか。詩丘さん、知らないんだった。
「俺の下の名前、涼なんですよ」
「へー、じゃあ紙川涼か。いい名前だね、私の下の名前は平凡だから、憧れるな」
「ちなみに、下の名前なんなんっすか」
「っあ、イトトンボだ」
蒼い爪楊枝みたいなのが、ついーっと飛んでいく。くそ単純な下等生物め。キモイから絶滅しろ。
別に涼も結構、平凡だと思うが。
ため池だ、いっそ飛び込んでしまおう。
いかん、いかん。暑さで頭が熱暴走したようだ。————————————頭の配線基板、そのハンダが溶けたのか?突拍子のないアイデアが浮かんでは蒸発・霧散する。夏は”空冷”じゃ、キツイよな。時代は”水冷”。だがこんな暑さじゃ、水もお湯。それに詩丘さんにドン引きされるくらいなら、多少のQOL・思考の低下は致し方なし。我慢すべきなり。
……………………暑さのためか耳鳴りがする。ニイニイ蝉の鳴き声と共に耳が、グワングワングワン、揺れる。それに気を取られて道の段差、コンクリートが割れたその段差、に気づかない。
「グワァ」
「危ない」
パンッ
俺の胸板を、思いっきり叩くように詩丘さんが支えてくれた。ん?今、パンツって?…………いや、擬音語かいな。それはありきたりすぎるぜ。とか意味不明な思考もやがて、モヤがかり、やはり消滅した。
「大丈夫かい?さっきから具合悪いけど。————————————今日は暑いから熱射病かもね。休んだら?蛙みたいな声出てたよ」
どうやら俺は具合が悪いらしい。断定されてしまったので、そう、間違いない。詩丘さんの発言はゼッタイ!
「大丈夫です。回復回復、ワンナップ」
う~ん。学校についたら安田にジュースでも奢らせるか。貸しがあるしな。水分補給は大切。
「いや、でも」
「大丈夫ですよ。心配してくれるのは有り難いですが、……………………今日休んだら、部活の関係で、みんな集まるの次、三日後なんで。それにこういうのちゃっちゃと終わらせたいタイプなんで、なんで」
「そうかい、なるほど。君は確か今回の件の”主人公”だったね。————————————でも無理は禁物だよ。それに夏休みは始まったばっかだ。時間ならたくさんあるしね。たかが三日だ」
「されど三日です」
別に無理してないんだがなぁ。過保護だ、過保護、…………過保護。あんたは俺の保護者か、と思わなくもない。言葉だけは受け取っておこう。
「もしかして、調子悪いのはなんかの伏線だったりするのかい?」
「伏線?……………………伏線って、あれですか。虫の知らせみたいな」
なら違うな。そんなのはオカルトだ。
「そうともいうけど、因果関係の因と言った方が正解だね。君の言い方だと、まるで根拠のない予感に聞こえるから。ここら辺、私、うるさいよ」
「そうですか」
『そうですか』とは言ったものの、何故うるさいのか、何故虫の知らせじゃダメなのか、そこまでは理解していない。よくわからない人だ。この世界は、小説でもドラマでも映画でもないから、伏線もクソもない。だからあの立ち眩みは伏線でも何でもないね。断言できる。
因果関係。それは現実でも存在するが。
————————————主人公ねぇ。なるべく前に出ない、どちらかというと後方支援型の俺からして、初の試みじゃないか。これで最後だろう。そもそも前に出ること自体、中学の時、ソーラン節を踊って以来だったりする。別に嫌いではないさ。最低限のことはこなすスタンス。ローライダーみたく地を這う最低高、略して最高のスタンスだ。
そんで、そういえばまだ説明してなかったが。主人公ってのは”秋の文化祭”関係の話な。だって、この世界は虚構じゃないから、それ以外ありえんだろ。んで、その出し物、それは俺のクラスに限れば自作映画の事を指すのである。
今日はここまでにします。ここでいったん打ち止め。明日書くか分かりません。推理小説なんで考察も聞きたいです。まだ解けませんが、解ける段階になったら宣言します。