福島原発事故、大前解説のポイント

3月11日の震災によって起きた福島の原発事故で、元原子力技術者の大前研一氏の解説が評判になっていた。実際に原子炉を設計したエンジニアとして、具体的で丁寧な説明で状況がよく分かるし、既に現場からは離れた立場で、推進側の研究者の希望的観測でも、反対派の「それみたことか」という悪意のバイアスでもない、比較的ニュートラルな視点からの見通しという点でも参考になるところが多い情報だろう。

内容は既に各所で紹介されており、大前氏自身も書いているので、ここでは自分で視聴したなかで耳にとまった箇所を書き留めておく。

  • 原発事故の対策は電源が生きていることを前提にたてられているが、今回はそれが津波ですべてダメになってしまった。バッテリーは数時間は生きているので、その間に最終手段を取ってしまえばよかったが、躊躇してそのタイミングも逃した。訓練を重ねてきた対策マニュアルにない、未知の領域に突入している。

  • 日本政府が東電という一企業の中に対策本部をつくり、自分で情報も取れずに振り回されているのは世界のもの笑いだ。監督する側の行政の組織も、経産省でまったく違う畑の仕事をしてきた官僚の横すべり、天下りが多く、機能していない。

  • 東電社内でも原子力グループは過去の問題の責任を取らされて隔離、忌避されてきた。そのため3割を原発で発電しながら取締役から上に原子力の専門家がおらず、有効な対処も説明もできない。

  • 燃料サイクルの中で中間貯蔵施設がいまだにできてないのがいちばんの問題だ。これは東電も二十年にわたって必死で取り組んだができなかった。そのため、膨大な使用済み燃料が発電設備の中に満載されたまま残っているが、貯蔵施設に移すまでの仮の宿という前提なので、間に合わせの簡易施設でしかなく、事故対策が取られていない。冷却に成功しても、危険度を下げるためには、破損して形の崩れた燃料をいずれ取り出して完成したばかりの陸奥の施設に移さなければいけないが、技術的、政治的に困難。

  • 原子炉があのように隣り合わせの危険な状態で何基も集中しているのは住民対策ができないから。どうしても受け入れてもらえた既存施設に追加で追加で建て増す形になってしまう。本来は相当の距離をおいて分散させ、周辺施設も冗長化するべきだが、それができない。

  • 原発は今後新規に建設できなくなるだけでなく、東電のような民間企業で抱えていることも難しくなり、国などが公営でやるしかなくなるだろう。

  • 今回はじめた計画停電は愚の骨頂だ。東電の体質が剥き出しに現れており、差別的。官邸もこれほど重大なことを二つ返事でそのまま了承するとは何を考えているのか。
東電社内での扱いといい、建設の集中といい、貯蔵施設の件といい、いずれもそれを必要としながらリスクを正視せず、その場に竦んでしまうことで、逆に引き受けなくてもいい危険まで招き寄せるという、きわめて日本的で異様な人災であることがよくわかる証言である。技術そのものよりもさらに、こうした組織運営の欠陥の方が何倍も危険だ、という点で、既に第二次世界大戦の敗戦に迫るほどの、途方もない失敗になっている。大前氏が淡々とした突き放した口調で話しているのも、それこそ今の本業を含め、こういう様相をいやというほど見てきているからだろう。

また、(目の前の問題をこのままなんとか抑え込めたとしても)運転中、あるいは点検中で停止している他の原発をどうするかということがこれから焦点になるが、上記の内容から、真っ先に考えなければいけないことは、津波対策や冷却機能の電源まわりの強化もさることながら、使用済み燃料がどれだけ施設内に溜まっているかの確認と、それを早急に別の専門貯蔵施設に移転する算段をたてることである。だが、それができるだろうか。リスクの多寡を冷静に天秤にかけてそれをよそに移しておかなかったから今回の事故はこれだけの大事になった。だから他の同じような施設でそれに早急に着手することは(長期の電力政策をどうするかにかかわらず)今回のような失敗を繰り返さないためには一番に理解し、修正し、手をつけなければいけない反省点のはずである。しかしそこにたどりつけるか。東電以下の電力会社が、ではない。日本国民が、である。それとも、かつて戦争を情緒的・魔術的に全否定(「一億総懺悔」)することで真の問題を隠蔽・温存して先送りし、結果、ふたたび今回のような事態に至ったように、技術の否定に逃避することで同じ過ちをまた繰り返すだろうか。かつて何百万人もの人命を失ってまで生かせなかった教訓を、今度という今度は生かせるだろうか。





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2011/04/03 | TrackBack(0) | マネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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