日本ハムファイターズの新コーチ人事

野球ネタが続いて恐縮だが、日本ハム・ファイターズの経営改革におけるコーチの役割の重要性とその必然性について書いたところ、球団が敢行した異例のコーチ人事がちょうど大きな話題を呼んでいた。新しいヘッドコーチになんと高校野球の監督を引き抜いてきてあてるのだという。先に指摘した内容のとおりの人事になっている。

プロ野球・日本ハムの来季のヘッドコーチに、川越東高(埼玉)の阿井英二郎監督が就任することが20日、わかった。阿井氏はヤクルト、ロッテで投手として活躍したあと、つくば秀英高(茨城)で2年間の教員勤務をへて1999年に高校野球の指導が認められていた。いわゆる「教諭特例」を適用された元プロの高校野球監督がプロ球界に戻るのは初めて。日本ハムとしては、指導経験のなかった栗山英樹監督の起用に続く新たな試みとなる。(略)日本ハムはこれまでも大渕隆スカウトディレクター、本村幸雄選手寮教官ら高校教員を球団スタッフに雇用するなど、独自の道を探ってきた。今季はキャスターだった栗山監督の下でリーグ優勝を果たした。

これらの経営の観点からみたファイターズの今後の経営リスクはなんだろうか。そのひとつは、この手の企業でよくあるもの、つまりそれが「うまく行き過ぎる」ことにある。具体的には、特にマネージャー層において、必要な人材を確保することが難しい、ということが出てくるかもしれない。新監督の選任が大きな驚きと無謀という評価で迎えられたのも、栗山氏のように高い知性と広い視野を持ってチームのやっていることを的確に理解し、かつ、人間性の面でも、求められていることに応えることができる人材が、野球界の既存の人材プールの中ではそれだけ見つけることが困難だったということがあるだろう。


業界関係者で裏情報に通じているというようなことはないので、これは球団改革が目指しているところを自分なりに読みとって、当てずっぽうで書いたことが、たまたまその通りに出てきたというだけである。

自分の念頭にあったのは日本球界の枠にとらわれず海外からコーチをスカウトするということだったが、高校野球から、それも現役の学校の先生を引き抜いてくるという荒技にはさすがに驚いた。

スポーツの世界ではあまり例がないかもしれないが、ビジネスの世界ではこういう「畑違い」のところから思いきった登用を行って、しかも大成功する例がときどきみられる。特に経営者のスカウトで多い。有名な例では、IBMの経営を再建したルイス・ガースナーは食品会社のナビスコの経営者からのヘッドハンティングで、「ビスケット会社の経営者にコンピュータの企業が経営がわかるのか」と陰口を叩かれながらの起用だったし、逆に日本マクドナルドの業績を飛躍的に拡大させた原田泳幸氏は、同じマックでもアップルコンピュータの日本法人の社長で、やはり最初はコンピュータ業界のキャリアしかない人物にファストフードの経営ができるのだろうかと危ぶまれていた。りそな銀行の再建に奮闘した細谷英二氏もまったく関係のないJRからの転身である。

細谷は昨年に引き続き今年も、1人の米国人経営者を銀行に招き、社員を前に講演してもらった。IBMのCEO(最高経営責任者)を務めたルイス・ガースナー。食品会社のRJRナビスコからIBMに転じた彼は、来日した折に鉄道から銀行へと挑戦する細谷を 知った。そして細谷の依頼で、「経営の危機に陥った組織は社風を変えて乗り切ろう」とりそなの社員に説いた。今年、ガースナーは細谷に言った。「改革の成果が出て黒字になった時こそ、社員が昔に戻りたがる。昔に戻らないよう、変革のスピードを上げなければならない」


人材登用や、経営改革のあり方を探るにあたって、業種の垣根を制約にする必要はまったくない、ということは、リエンジニリング革命でも書かれている。

経営者側は、工場で働く人はどのような人でなければならないかをよく理解した上で、150人を採用することにした。実際は、何千人もの応募があり、人事担当者はそのうちの3000人について詳しく調べた。最終選考に残った人々を見ると、全員に一つの共通点があった。工場で働いた経験がないということである。元教員や警察官など工場での経験はないが、適切な人格や、教育をもった人たちであった。工場勤務経験がないということが不利になるかと思われたが、たいした問題ではなかった。(第4章 新たな仕事の世界)

ベンチマーキングの問題点は、業界内で現在すでに行われていることのフレームワークの中に、リエンジニアリング・チームの思考を制限してしまう可能性が高いことである。業界のベストと同レベルをめざすということは、チームは自分たちの野望に自らフタをしてしまっているようなものである。(略)もしチームがベンチマーキングするのであれば、業界のベストではなく世界のベストからベンチマーキングすべきである。そのチームが梱包消費財の会社に属しているのであれば、問題は梱包消費財の商品開発のリーダーは誰かということではなく、すべての商品開発における最先端のリーダーは誰かということである。それこそがチームが素晴らしいアイディアを正しく入手できるかもしれない相手である。(第7章 リエンジニアリングの探究)


これはもちろん、「異業種の分野から未経験者を連れてくると成功の確率が高くなる」というような短絡的な間の抜けた話しではなく、業種や経験にかかわらず、職種に求められている能力にもっともふさわしい者は誰かを、あらかじめ狭い枠をはめずに広い視野で探すことが必要だということである。ファイターズのケースでも、コーチが求められていることは、先にみたように、職業技能そのものを教えることよりも、選手が自分で自分を育てる仕方を教えるというものなので、その能力に最も長けている者は誰か、を既存の分母にとらわれずに探したときに、必然的にそのような結果になったということなのだろう。経営者のスカウトも含めて一般のビジネスでも同じだが、頭では分かっていても、こうした原理原則を大胆に徹底させるのは、勇気もいり、有形無形の抵抗も大きいので、たいへん難しいことである。


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2012/12/01 | TrackBack(0) | マネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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