内容は、検索サービスの膨大な蓄積データを、巨大な文例集(いわゆる「コーパス」)として活用して、英文作成の表現力を上げていくというものだ。著者はプロの翻訳家である。
書かれている検索テクニックは、「ワイルドカード(アスタリスク "*")」をうまく使って、穴埋めの言葉を探す、というものが中心で、それ自体に特に目新しいところがあるわけではないが、英語の言語特性に応じた微調整の仕方という点で、翻訳家らしい細やかな心遣いが随所にあって、参考になるところが多かった。使い込んでいる人はご存じのように、似たような検索クエリーでも、ちょっとした味付けで結果がまったく違ってくることはよくある。要は、穴ぼこを作る検索サービスの機能そのものではなくてその「周り」の固め方についての話であり、眼目はそちらである。
また、外国語で表現する時とは逆に、日本語で文章を書くときの支援としても有効な方法ではないかと考えて、頭の中でいちいち置き換えながら読んだ。日本語で文章を書く時でも、表現があやしい時やもっと工夫したい時にこれらの手法を完全に使いこなしているかといえば、必ずしもそうではない。実際に本書の中で、高校生くらいから勉強をはじめて、同じ手法を駆使することで、20代半ばで日本語で本(下記)まで書けるようにようになったアメリカ人の例が出てくるが、こういう人は日本語圏のデータを使って勉強したわけである。
本文内でも指摘されているとおり、検索データを活用する方法は、辞書中心の学習ではなかなかつかみにくい言葉のコロケーション(collocation:相性)を確認するのには圧倒的に優れている。文中にも、「何とかする」「対応する」などといった、融通無碍な日本語の単語をどう表現するか、という例示があって、なかなか面白かった。
方々で話題になっているように、これまではあまり縁のなかった企業でも、仕事の中で外国語のやり取りをする機会が増え、学習熱も盛り上がっている。ありがちな失敗パターンとしては、練習そのものより練習法の研究に対してずっと夢中になってしまい、実践なき学習法の達人になってしまうというものだろうが、本当に有効なのは、むしろこういった手軽で繰り返し使える簡単な方法なのかもしれない。小さな組織で近くになかなか聞ける人もいない中で英文でメール連絡やサイト作成をしないといけない人や、独習の方法に新たな変化を加えたいと考えている人にとって、より自然で高度な表現に挑戦するうえでよい手引きになるのではないかと思う。
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Google 英文ライティング: 英語がどんどん書けるようになる本 遠田和子 講談社インターナショナル |
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カルチャーショック ハーバードvs東大 ─アメリカ奨学生のみた大学教育 ベンジャミン・トバクマン 大学教育出版 |