ヤマダ電機のFC制

家電量販店で最大手の地位をかためたヤマダ電機が、さらなる成長戦略の一環として、「町の電気屋さん」をフランチャイズとして組織化するという施策を進めている(東洋経済オンライン 2009/1/30)。これはたいへん面白い取り組みなので注目したい。

これまで町の零細電器店はメーカーによって系列化され、そこに大規模量販店が進出してきて、価格競争で苦しめられながら長い撤退戦を戦うという図式が長いこと続き、それに消費者も、また業界自身も空気のような当たり前のものとして慣れてきた。両者には奪う者に奪われる者という骨がらみの敵対関係しかなく、まるで生まれながらにかくあるべくあるかのようだった。大型店の地域への出店を法的に規制する大店法はまさにその象徴で、両者の相剋を当然の前提として既存の零細店を大規模店の脅威から保護するためのものである。

しかし両者はもともと同じ小売りなのだから、メーカーの呪縛から切り離して自陣に招き入れ、小売りは小売同士で手を組んだ方がよほど自然でいいのではないかということは、考えてみれば当たり前のことだが、今まで誰も考えたことがなかった。

電器店はヤマダの傘下に入ることで、その強大なバイイングパワーの恩恵を受けられ、メーカー系列の時よりはるかに安く、しかも特定のメーカーに偏らない商品を仕入れることができるようになる。店舗経営への介入や加盟料も低く抑えられているので、粗利も大幅に上がって喜ばれているらしい。

一方ヤマダ側としては、規模メリットを活かした自身の巨艦店の周囲に、消費者の足元にまで懐深く入り込んだ、小回りの利く御用聞き型の店舗をわずかなコストで手にした形になり、高齢化で消費者の機動性が落ちて、アフターサービスの重要性も増す中でこちらもメリットが大きい。裏返してみれば、高齢世帯が多くなる消費者側からみても、息も絶え絶えで廃業も危ぶまれるような近所の電気屋さんが、きちんと事業を継続していけるめどをつけて、元気を取り戻し、前向きに商売を再開してくれることは、電気製品を買う上で安心感が増して、歓迎できることである。

これまでメーカー系列の町の電器店の代表はもちろん松下で、この仕組みは松下幸之助が作り出したものである。他の総合電機メーカーも右にならえでおのおの自前の販売系列づくりに励んだ。メーカーからすれば、当時未発達だった小売りを自ら育てて販売のチャネルを確保すると同時に、巨大メーカー自身が多数の零細販売店を根毛として配下に従えることで、製造と販売の力関係において、万事メーカー主導でことを進めることができた。電気製品も普及期の高度成長の時代で、作れば売れるような時代だったから、それこそ「水道哲学」で、製造が主で販売が従でも問題はなかった。その意味では今回の取り組みは、幸之助が図面を引いて、以後それを所与のものとして長年続けてきた業界構造に小売りの側から根本的な転換をもたらしたものといえる。

今回やってみて特に問題もないのであれば、電機以外の業種でも同じような動きが出てくるかもしれない。





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2009/03/09 | TrackBack(0) | 小売り | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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